第55話 ゴブリンの為に授業を! アイリスVSボス
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―【臆病者】アイリス視点―
◆◆◆◆◆6日目◆◆◆◆◆
此処は、ゴブリンの洞窟から少し離れた場所。
事前にユッケが何本か木を移動させたりなどの細工を施した人工の開けた土地である。
近くには少し汚れた池のような大きな水たまりが出来ていた。
恐らくコレが村長の言っていた水を貯めておく穴なのだろう。他の所にもあるらしいのだが、コレらが全て枯渇したらゴブリンたちは水不足になる。
この汚い水を濾過して綺麗な水になるのかと関心しながら、俺はゴブリン達の前に立った。
少し後ろでユッケがいる安心感は凄まじいも
のである。
ダークゴブリン達とモークは生徒になっている。
基本的にモークは全て強制参加である。
穴を掘るのも大事なのだが、戦闘の授業に参加するメリットは捨ておけないからである。
まだまだ発展途上(俺もそうだけど)のモークもついでに回避を教えてやる必要があると、ユッケが半強制的に生徒に加えた。
ちょっと強引に加入されたのが気にくわなかったらしく、ブーブーとユッケの悪口を影で呟いている。
そんなモークを尻目に、俺は少し緊張しながら自己紹介をする。
「俺は【臆病者】のアイリス・オーリア、アイリスと呼んでくれ。途中何かわからない事があったら何時でも聞いてくれ。」
「「「……ハイ!」」」
ゴブリン達は大きな声で返事をする。
よほど人間である俺にビビっているのだろう。
本来であれば天敵の存在なのだ。
そもそもこの授業だって人間に対抗する為のもの。
それを人間が教えるのだがら少しビビるのは当然の事である。
(ホントは滅茶苦茶ビビられて辛いんだがな。気楽にしても良いのに)
仕方がないので、勝負に出てみることにした。
俺は最初からゴブリン達と笑い合いたいのだ。
「……皆は俺の事をどう思っている? 皆は人間が嫌いか? 済まないが正直に言っても構わん。人間代表として責任はとる。」
「「「……。」」」
「コレだけは皆に言っておく。」
俺は此処で少し整える。
こんな大事な所で言葉を詰まらせたくない。
軽く深呼吸をし、ゴブリン達に向けてこういった。
「人間に対する文句は、人間の俺が全部聞いてやる。ビビらずに全部溜まったことを吐き出せ。」
「「「!!!」」」
ゴブリン達はかなりの衝撃を食らったようである。
そして、とある一人のゴブリンが俺に向かって話しかけた。
「アイリスさん。私達ゴブリンに個人的な恨みはありますか?」
「無い。元々この森で特訓をしていたのは強くなる為だった。それに、俺は敵対した相手以外は絶対殺さない。」
「……じゃあ、どうして大変な特訓を?」
「うーん。俺が【臆病者】だからだ。」
ゴブリン達は不思議な顔をする。
どうして【臆病者】というだけでそんな地獄の特訓が出来るのだろうか?と考えているに違いない。
「……皆が複雑そうな顔をしているから、一から説明するよ。」
俺はどうして特訓をしてきたのかを最初から説明する。
あまり時間をかけたくないから3分位で簡潔に言う。
最弱のモークタンを殺せなくてバカにされた。
とある人間が町の皆に噂を流して、皆が俺を【臆病者】と呼んで卑下した。
悔しかった俺は近くにあったこの森で10年間特訓した。強くなるために。
全ての説明を聞いたゴブリン達は額に冷や汗をかいていた。
「……ん? どうして冷や汗をかく? 俺はただ悔しかっただけで特訓してただけだ。」
「いや、違います。アイリスさんよりも……。」
女ゴブリンの一人が俺に対する恐怖を否定する。
皆の頭が少し垂れた気がした。
そして、俺は忘れもしない質問を聞くことになった。
「どうして、人間の心はそんなに真っ黒なんですか? どうして同族である他の人間を蹴落とすような悪行をするんですか?」
「「「………………。」」」
俺とモーク、そしてユッケは一同揃って口を閉じ、暗くなった。
人間の真っ黒な心を見てきた俺達は、どうしてそうなるのか説明が出来ないのだ。
何とか返答しようと頭を回転させ、咄嗟に出来た言葉でたどたどしく話す。
「……うーん、そうだな。人間はたまに自分を守るために他人を蹴落とす事がある。恐らくお前らが人間に何度も襲われるのは、誰かがゴブリンを恐れているんだろうな。」
「つまり、人間が私達を襲うのは、人間が私達を恐れているからってこと?」
「俺の考えだから間違っているかもしれんが……そう言うことだ。」
ゴブリン達は皆が体を震わせる。
仮に自分達が襲われている理由が本当にそれなら、居場所なんてどこにもないからである。
例え、幾ら人里離れた場所に移り住もうが、「今の所ゴブリン達はこの村から遠い山の中にいるが、近い将来は復讐するために山から降りて俺達を襲うかもしれん。今のうちに殺せ!」と文句を付けて殺しに来ても可笑しくないのだ。
「だがらお前らには、今のうちに戦闘に慣れておかなければならない。俺がお前たちに教えるのは【回避】だ。まあ、どんなものかわからないから実際に手本を見せてやる。ゴブリン達はもう少し後ろに下がってくれ。」
俺がそう言った瞬間、ダークゴブリンのボスが歩み寄り、ゴブリン達が10メートル程後ろにさがる。
流石に今回ばかりはボスにあのデカイ斧を持たせる訳にもいかず、今は3メートル程ある太い棒を持たせている。
万が一こんな所で回避をミスしてしまったら、ゴブリン達のトラウマになりかねない。
「ジャア、ホンキデイクゾ!」
「ああ、ボス。木の棒だが殺すつもりでこい。」
俺は収納魔法から事前に渡された50センチ程の木の棒を取り出し、構える。
するとユッケが俺とダークゴブリンの前に立ってこう宣言する。
「これより、【アイリス対ボスの耐久戦】を行います。アイリスがボスの攻撃を7分耐えきれば勝利、ボスがアイリスを倒せばボスの勝利です。尚、アイリスはダークゴブリンに攻撃してはいけません。じゃあ、それでは……。」
ユッケは少し息を吸い込み、整える。
落ち着いた隙を狙って高々と言葉を放つ。
「始め!!!」
その直後、ボスは巨体な体をもろともせずに俺に急接近し、長くて太い木の棒を力一杯振るう。
俺はそれを足をほとんど動かさずに数回綺麗に回避する。
「「「おお~!」」」というゴブリン達の歓声が聞こえた。
だが、こんな所で終わるボスではない。
続けて木の棒を俺に振る。
何回か移動しながら回避した後、木の棒でその攻撃を受けることにした。
「コーン!!」と「カーン!!」を混ぜたような音が鳴った。
他の素材では真似出来ないような木の独特の音が辺りに響く。
俺は鍔迫り合いを続けようとする。
しかし、単純なパワーではボスの方が遥かに上であった。
ジワジワと力のみで押し込まれ、仕方なく俺は後ろに後退する。
ユッケが右手の指で3という数字を示す。
後半分少しか。
すると此処で、ボスは笑いながらこう言う。
「【オクビョウモノ】ヨ。ムカシヨリモイクブンカパワーガマシタナ!」
「馬鹿言え。それでも『オレノホウガツヨイ』とか言い出すんだろ? 数年来の付き合いで細かい所もチラホラ見てるぞ。」
「ハハハ! ゴメイトウ!」
ボスが俺の質問に答えた直後、右手と左手を駆使して自分より僅かに長い棒を回転させる。
最初遅かったスピードが段々と早くなり、数十秒経つ頃には凄まじい高速回転になっていた。
あまりの速さに「ブーン」という旋風音が轟き、右手で顔を覆わないといけなくなるほどにまで強くなった。
「ミロ! オレモオマエトナカヨクナッテカラ、ナマクラナセイカツヲオクッテイタワケデハナイ。オレニハツカエナカッタマホウヲ、ヒッシニナッテオボエテイタ。」
すると、ボスは折角回ている両手を突然放す。
普通なら木の棒は地面にボトリと落ちるハズである。
だが、ボスの手から離れたハズの木の棒は未だ自力で回転し続けていた。
「ブーン」という旋風音を放ったまま浮いている木の棒を俺はただただ見つめる。
(ボスの野郎……俺が居ない所でこんな事やっていたのか。……なかなかやるじゃないか!)
ボスもなかなかの苦労人なのだ。
すると、ボスは自転する棒の後ろで何かをゴソゴソと集めている。
幅広い大きさの枝や小石を集めているようだ。
(どうして枝や石を?……まさか!)
ハッとなった俺は木の棒を構えて神経を集中させる。
風で飛ばされそうになるがそれでも気合で踏ん張る。
「【オクビョウモノ】! コノヤノアメヲクラウガイイ!」
ボスは木の棒に向かって拾った物を次々と投げ込む。
投げ込まれた木の枝や石の幾つかは木の棒をすり抜け……。
(周りの小物を武器に変える奴か)
なんと、俺に向かってそれらが剛速球となって飛んできたのだ!
旋風音が辺りに響く程の風が追い風となり、飛んでくるあらゆるものを凶器に変えたのである。
俺は飛んでくる物を木の棒ではじく、回避する。
今まで培ってきた特訓の経験を生かし、一つ一つの物を冷静に見極め、確実に回避していく。
まるで、飛んでくる物が自らの意志で俺をすり抜けるかのように回避していく。
確かにこの攻撃方法は画期的である。
実際飛んでくる物は矢が飛ぶ速さよりも幾分か速い。
……だが、俺にとってはこんなのは今までやってきたことを組み合わせただけ。
あくまでこれは他の人間用である。
俺専用ホイホイではない。
「まだまだ甘いなボス。こんな小手先の魔法攻撃だけでは、俺が膝をお前につけるのはまだまだ先だ。」
「ハハハ! タシカニソウダナ。ジャア、ヤハリセイコウホウガイチバンダナ!」
ボスは木の棒の回転を止めると、とある魔法を唱える。
「【オイル・プラス】【炎を纏う武器】!」
ダークゴブリンの持っていた木の棒が突然真っ赤に燃える。
詠唱者本人は、火による火傷を追わないのでボスはそれを平然と持って構える。
正直コレはキツイ。
ギリギリで回避しようとすると熱で体に火がついてしまう。
「この森が火事になることだけはやめておけよ。」
「ハハハ! ソウナラナイヨウニ、ユッケガタイサクヲシテイル。コノキノボウハスコシトクシュデナ、タタカッテイルモノヤニンゲンイガイニハイッサイツウヨウシナクナッテイル。」
「なるほど。それなら構わん。」
「タダ、オヌシハヤケドスルカラキヲツケルンダナ!」
炎を纏った木の棒が俺に襲いかかる。
俺はそれを回避する。
余裕をもって回避したため熱波が俺の顔に襲われることはあっても、焼けることはなかった。
(だけど、何時もギリギリで回避する習慣がついたからテンポというかなんか違和感がある)
すると、此処でユッケが言葉を放つ。
ゴブリンとダークゴブリン達の歓声が最高潮になっていた時であった。
「残り1分!」
あと少しか。
でもコレでは味気ない。
今まで回避してきたが、俺はボスにイヤミを言うことにした。
実は今までのボスの攻撃はこんな程度ではない。本来なら俺は回避するだけで精一杯の攻撃を仕掛けてくるのだ。
「オイ、ボス。手加減し過ぎじゃないか? 初めて出会って戦闘したときはこんなものじゃなかったぞ?」
「サスガニキヅイテイタカ……デハヒサシブリニホンキヲダストシヨウ!」
すると、今までは猶予のあった攻撃が徐々に速くなり、何時しか目にも留まらぬ速さで木の棒を振って俺を攻撃する。
(ユッケの放った【大剣舞】よりかは若干遅いが……それでも速い!)
俺はボスの猛攻撃を回避する。
上に、下に、左に、右に。炎が服に燃え移らないギリギリの間隔で回避し続ける。
嘗ては、俺が特訓で倒す最終目標だったハズのボスである。
そう思えるほど強かった。
今は倒すのではなく、越えなければいけない最初の目標。
そんな奴との本気の戦闘が、楽しくないわけがない。
さっきより攻撃のスピードとキレが増し、読めなくなっていた。
途中、炎の影響により数回か体をかすってしまった。
火が付かなかったのは幸いである。
(回避だけをやっているから難易度は下がっているハズなんだが……あの頃のボスとは大違いだな。やっぱり今の俺にはコイツを倒せない)
そして、そう思いながら回避し続ける。
すると、ユッケが突然間に入ってボスの攻撃を素手で受け止めながら制止する。
流石は防御力6000である。
「そこまで! 勝者アイリス!」
すると、ゴブリン達から大きな歓声が上がる。
大きな拍手も同時に聞こえてきた。
そして、俺がこの戦闘で言いたかったことを口にする。
「今から話す言葉はよく聞いてくれ。まず、俺が身に付けたこの回避能力は自分には出来ないと思う奴は頷いてくれ。」
ゴブリン達は俺の真剣な表情に感化し、皆は首を縦に数度振る。
「それは違う。俺はさっき言ったように、元々回避能力や戦闘能力があった訳じゃない。過酷な特訓を長いこと続けて得たものなんだ。……つまり、おまえ等も頑張れば何時かはこの回避能力が身に付く。」
ゴブリン達は素直な表情をする。「えっ? 俺(私)にもこんな回避能力が身に付くのか?」と言いたげである。
俺は言葉を続ける。
「だが、流石に1ヶ月で此処まで回避出来る奴は早々居ない。だが、お前ら全員には少なくとも回避能力(総回避)70%以上を最終目標として目指して貰いたい。回避能力はどんなものかは後でわかるだろう。チャレンジしたいやつは俺の回避能力である80以上を狙っても結構。わかったか?」
「「「はい!!!」」」
「よーし、じゃあ基本からいくぞ。まず、二人一組を組んで……。」
ゴブリン達は威勢の良い大きな返事をする。
そして俺は残りの時間、ゴブリン達に回避の方法を身振り手振りで一生懸命教えた。
初めてやる事だからわからないことも多い。
だが、やってみないとわからないこともある。
今後の冒険で必要になってくる可能性もあるのだ。
わからない時は近くの人間から教わり、それでもわからなければ先生の俺に聞くように徹底させた。
後回しが恐ろしいことになることが何となく想像出来たからである。
そして夕方。
初めての授業を終えた俺達は、村長の夕食へ向かった。
すると、ボスもついでとばかりにいた。
「ボス。今日の戦いはありがとう。面白い勝負だったよ。」
「アア、ソチラモタノシンデクレタヨウデ。ナニヨリモ、オヌシ。マタツヨクナッタナ。」
「お前も強くなっただろ? お陰で最後の最後ヒヤヒヤしたぞ。」
「アイリスって人に誉められるのに慣れてないんだね。」
「ハハハ! 【オクビョウモノ】は【ハズカシヤガリヤ】カ!」
「「「ハハハ!」」」
「オイ! それは違うぞ! 大体俺は【恥ずかしがり屋】なんてあだ名一言も言われなかったんだ。」
「じゃあ、なんて言われてたんだ? 【臆病者】以外に?」
「そうだな……【ろくでなし】、【弱虫人間】、【小心者】、【恥ずかしがり……】あ。」
「うわ~アイリスが自爆した~!」
「「「ハハハハハ!」」」
「ちっ……違うぞ! 誤解しないでくれ! コレは単なる事故だから、な!」
モークの意外な発言により、俺以外のここにいる全員が一斉に笑い出す。
俺はそれを何とかとりくつろうとするが、自爆してしまい余計にネタにされた。
何故かしばらくの間、俺の顔が真っ赤になり、変な冷や汗を出してしまった……。
数分後、ようやく落ち着いて食事を初め、食べ終わった直後に村長が話題を切り出す。
「……さて、お食事の終わり時に申し訳ありませんが本題を申し上げます。今回は私ではなくダークゴブリンの長に来てもらいました。」
「? ボス、何かあったか?」
道理でボスが此処に来たのかが大抵わかった。
しかし違う可能性もあるかもと思い、念の為に聞き出す。
「センジツ、モリノイリグチニアラタナカンバンガカカゲテアッタ。コレガソノハラレテイタカミダ。」
ボスはそう言うと俺に数枚の紙を差し出す。
どれも同じ内容の手紙で、森の入り口数ヶ所に張られていたものだと何となく推測出来た。
それと、何やら地図のようなものが後ろに張られていた。
辞書単語を取り付けまくったような、カタコトの魔物言語で書かれていた。
だが、ダークゴブリンによるカルナ言語の教育をかつてしていた俺は、問題なくスラスラと読めた。
カタコト過ぎてモークが理解出来なかったため、俺は声に出して読むことにする。
そこには、こう書かれていた。
~条件付割譲願~
森の主であるダークゴブリンの頭に告げる。
我が冒険者組合【朱の騎士団】は部員数500を超え、その名は轟くばかりである。
レベルは平均50を超え、数々の国賊や異端者を皆の力を合わせて排除してきた。
先日、我が組合はお主の住む土地付近に広大なギルド本拠地(組合の人達が活動する拠点)建設を計画する事にした。
そこで、お主の住む土地を我々に無血で明け渡してほしい。さすれば我が組合が指定した地域に住むことを未来永劫許可する。
私達も余り手荒な真似はしたくない。
2週間後に地図に示された赤点の場所に、我々の使者を遣わす。
我が組合が指定する場所は黄色い丸で示す。
【朱の騎士団】団長 ワゼリス・ダート
……。
「うさんくさっ! コレ滅茶苦茶、相手である僕達を舐めくさってるよ。」
モークは一言でそう言った。
間違っているどころか合っているのだから何も反論出来ない。
寧ろ、言う言葉が見つからなくなった俺達を救ってくれた気がする。
すると、ユッケは黄色い丸を見て突然大笑いする。
「ハハハハハハ! 何とも愉快で汚いな、人間という奴は!」
俺達は訳がわからず地図に示された黄色い丸を見つめる。
すると、ユッケが必死に笑いを堪えながら一個ずつ説明する。
1000年以上冒険してきたユッケは、地理に非常に詳しい。
「ここ、実はアルカルという湖のド真ん中。地図には湖は見えないけど、多分勝手に消したな。」
「ここは、最近ペストが大流行して酷い有り様だよ。農産物どころか草すら育たん。」
「ここは確か……村同士の争いの真っ只中。争いになるのは間違いなく確定。」
「ここは……まだマシかな。此処から歩いて100キロと一番遠いけど、一般的な森かな。気持ち悪い虫が多くて有名だっただけかな? 特に害は無いんだけどな。」
「一番ヤバイのはここ、地面が普通だと思ったら大間違いだ。地面には無数の蛆虫がびっくりするくらい沸いてる。此処に足を踏んだら……どんなに体が大きくても一時間後には身体の中まで蛆虫パラダイスだ。」
怒りを通り越して哀れに感じる暇もなく、次にモークが文章の面であれこれ説明する。
「【朱の騎士団】の情報をわざわざこの手紙に入れてくるってことは、『俺達これだけ力持ってますけど?』みたいな感じで脅してるよね?」
「『 先日、我が組合はお主の住む土地付近に広大なギルド本拠地(組合の人達が活動する拠点)建設を計画する事にした。』とかそんな事言っているけど、コッチからしたら『そんなの知ったことかよ!』だしね。」
と、次から次へと舐め腐った説明が飛び交った。
それらすべてを終えたダークゴブリンのボスは一言で結論づけた。
「ワレワレハ、テッテイコウセンノカマエヲトル。」
「ああ、そうだな。賢くて真っ当な決断だ。」
ユッケばボスに納得している。俺も賛成だ。
寧ろ此処にいる中で、「俺は納得出来ないな」などと言われたら凄く困るのだが。
「私も他人事とは思えません。ダークゴブリンの長に協力する姿勢てす。ですが……人間であるアイリスさんはどうするんですか?」
ゴブリン村長はボスの話に賛同するも、同じ人間である俺に気を使ってくれた。
俺は思ったことを素直に話す。
「俺は別に何とも思わないが……他の人間に俺の顔がバレたらそれは面倒だ。だから俺はお留守番役かな?」
「それでも構いません。……ですが、どうして人間というものは他の人間との繋がりが弱いのでしょうか?」
「人間は特定の人間に対しての繋がりは魔物よりも遥かに強い。恐らく、その人間達と過ごす時間の方が長いから、他人に与える時間が少ないと俺は思う。」
「ちなみにだけど僕達モークタンも人間と同じ感じだね。人間ってほどじゃないけど。」
「なる程。それはとても特殊なタイプですね。理解しました。」
ゴブリン村長は納得した様子で【香味草】に手をつける。
※【香味草】については、第49話参照。
すると、ユッケがこの紙を見て俺達に問いかける。
「幸い、このなめ腐った野郎の使者が2週間後にやってくる事がわかっている。この間に俺達は戦闘の準備は既に整えておなければいけない。」
「でも戦闘の準備ってどうやってやるの? 相手は500人規模でしょ?」
「そこは俺が何とかする。欲しいものがあったら俺に頼んでくれ。」
「お待ちください。私が出来るだけ最低限で敵を追い返します。」
声の放った場所を辿ると、ゴブリン村長だった。
今ある物資は予め先日に見たのだが、余り多くはない。
弓が100本。矢が450本。石槍が50本。木製の槍が100本である。
ちなみにダークゴブリン達の武器は俺との戦いを止めて以降は殆ど作っておらず、無いと仮定しても良いくらいである。
「私に策があります。戦術は私、非常に得意でして……。良ければ宜しいでしょうか?」
「大丈夫です、構いません。寧ろこっちから頼んでます。他はそれでもいいか?」
ゴブリン村長の提案に、俺達は非も言わずに賛成する事にした。
「じゃあゴブリン村長さん。策を皆に教えてください。」
「畏まりました。では、皆さん。私の字が見えるようにお集まり下さい。」
ゴブリン村長は此処にいる俺達全員に策を披露する。
そして途中、俺が使えるであろう地形を図に示し、それが見事採用された。
だが、そんなものはタダのオマケである。
このゴブリン村長の知能の恐ろしさが、その策略にみっちりとめり込まれていたのは言うまでもない。
※魔法詠唱の一部を修正




