第54話 SpecialEpisodeユッケ 歯車が動いた日 2.
※グロシーンがあります。胸糞シーン若干あり。
苦手な方、想像力が高い方は注意してください。
後でユッケがアイリス達にやんわりと語るので、見たくない方は飛ばして貰っても結構です。
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―ユッケ視点―
◆◆◆◆◆5日目◆◆◆◆◆
俺は今、70を超えるゴブリン相手に授業をしている。
どんな授業?
まさかまさかの戦闘だ。
まあ、始まったばかりだから今は座学で戦闘の授業をしているけど。
昔は「勉強を教えてください!」だったのに、いつの間にか戦闘を教えている。
出来なくはないのだが、ちょっと物騒である。
この人たちはただ死にたくないから、対抗するための力が欲しいから多分真剣に俺の話を聞いているんだと思う。
そう言えば、この光景はある意味懐かしいな。
俺にこの道を教えた女は今、何処にいるのだろう?
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今からおよそ1050年前の出来事。
イミルミア帝国のとある田舎村で俺は生まれた。
生まれてすぐに両親は亡くなっている。
生計を養うために父親は魔物狩りに励んでいたが、出ないはずの地域に強力な魔物が出て首を持っていかれたらしい。
母は生まれた時に死んでしまった。
元々生まれた時の俺の体が大きく、この頃の医療魔法の技術は乏しいものがあった。原因は出血死。
生まれたばかりで覚えておらず、そんな事は何も思わなかったのだが、今思えば悲しいものがある。
生まれた後は、村の人達が一生懸命俺をサポートしてくれた。
補助してくれたあの優しい人達には恩がある。
俺は5歳の頃、今でいう古本屋でたまたま見つけた魔術書に興味を持ち、独学で魔法を習得した。
この頃はまだ【魔法、魔術戦争】が始まっていない時だったから魔術書を入手するのはそこまで難しくはなかった。
コストはそこそこ高い。
だが魔法より威力があり、残虐性は皆無だったことや魔法よりも面白い事から、俺はズブズブと魔術にハマっていった。
10歳になった俺は既に魔力が1500を越えていた。
魔術をし過ぎて、毎日一桁ギリギリまで使い果たしたらそうなるのは当然である。
魔術の威力を試すため、よく一人で魔物狩りをしていたものである。
それが理由でレベルは既に68だった。当然、金は魔物部位でリッチに暮らせたものである。
17歳になると俺のレベルはなんと88。
魔力は現在の俺の半分を越えていた。
※アイリスは18歳でレベル25です。ユッケ戦でレベルが上がりましたが、それでも40程です。
この時、村の人達から愛称を貰った。
両親が死んでしまったので本当の名前はない。
愛称はユッケ。
古代カルナ言語で【孤高の強者】。元々一人だったので納得どころか少し嬉しかった。
そんな楽な荒稼ぎをしていたある日、俺はどこかの冒険者のパーティーになろうと思った事があった。
一人ぼっちの討伐は寂しいものがあった。子供の頃からずっとそうだったから、何かしら共に戦いたい欲求というものが膨らんでいたのかもしれない。
そして、俺は少し大きい町に行ってパーティーを探すことにした。
弱冠17でレベル80の俺がパーティーを探しているという話を聞いたら、大多数の冒険者のパーティーが俺を欲しいと懇願してきた。
露骨な抽選の結果、決まったのは男3人女3人のパーティーだった。非常に愛想が良かったのは今でも目に焼き付いている。
「……ユッケです。得意は魔術。しばらくの間、宜しくお願いします。」
「俺はバーティー。このギルド(組合をカッコ良く言った感じ)の団長をしている。剣が得意だぜ。」
「私はラスナ。赤色と青色の魔法使いよ。」
「僕はロズエル。短剣や弓を一番使うかな? お互いに仲良くしようぜ!」
「俺はバスカー。……みての通りでっかいハンマーが唯一の自慢だな。」
「私はキュルミス。基本は回復専門だけど、たまには攻撃もするかな。シャンミーは味方のサポートだよ。」
「……私はシャンミー。皆の回復やサポートをしています。……宜しくお願いします。」
下の名前を言ってくれなかったのは少し気がかりだったが、そんな事を気にとめない俺はこの時何も気がつかなかった。
下の名前がなければ、人を探すことが至難の業になる。
そんな事は何一つ知らなかった俺は、このパーティーに希望をもった。
回復役が2人とは大分安定しているな。
これなら安心して見てられそうだ。
早速、俺達は冒険に出かけた。
道中の敵の連携プレーはなかなかのものだった。
剣とハンマーで相手を圧倒し、こぼれた敵は短剣と弓で応戦。途中攻撃を食らったものがいれば即回復。さらにサポート魔法で攻撃と守備がアップ……などで20匹の群れを余裕で全滅をして見せた。
……あんな露骨な抽選で当てられるだけの事はある。
俺達はそんな連携を絶え間なく行い、とあるダンジョンへ着いた。
俺が今まで行ったこともないようなかなりの長距離だった。
ちなみに入る直前に行わなければならないレベル推奨というものがあったのだが、それがなんと不明。
魔術で他の4人のステータスを見てみたが、皆俺よりも下の平均61だった。
シャンミーという女の子だけは他よりも10ぐらい下の52だった。
本来ならばこの地点で危険性は高いので引き返し、ここにくるまでの地図を書いて他の冒険者達に任せてとっとと撤退するのが最も安全な作戦だった。
だが、町に来たばかりの俺はそんな事など何一つ知らない。
少しだけだが何となく危機感は感じていたのだが。
「どうやら此処にレッドドラゴンが潜んでいるらしい。勝てば報酬金貨3枚と武器を強化できるレッドドラゴンの素材が手に入る。」
団長のバーティーは行きたそうにしている。
だが、当時の俺は何か嫌は予感はしていたので安全策を提案する。
「待ってくれませんか? 一応念の為魔術で調べたんですけど、ここの推奨レベルが何故か不明なんですよ。此処はもう少し慎重になるべきでは?」
「いや、折角目の前まで来たんだ。何か一つや二つの収穫は必要じゃないか?」
「そうね。とりあえず中に入らないとなにもわからないじゃない。」
「私も賛成。7人で連携プレーをすれば行けるでしょ。」
「俺はただレッドドラゴンがどれ位強えか見てみたいぜ。」
ロズエルが俺の意見に反対する。シャンミー以外がロズエルを支持したことにより、俺の意見はほとんど薄れてしまった。
何故かシャンミーは黙ったまま何も言わなかった。
結局、俺達は一旦体力を全回復させてからダンジョンに入った。
道中の魔物はそこそこ強かったが、それよりも面倒くさかったのはトラップである。
即死系クラスのトラップがうじゃうじゃあった。
床のボタンを押したら上から弓矢が降ってくる。
歩いてただけなのに何かに引っ掛かって突然赤色魔法を放ってくる。
上からハンマーが降ってくる。
しかし、そんなトラップなんてまだまだ序の口。
俺を非常に苦しめたのは魔術のトラップだった。
どんなトラップだったかを説明しよう。
まず、奥に魔術を知らないと無理なパズルみたいなものがある(そもそもドラゴンが住むダンジョンにトラップがあること自体おかしかったのだが)。
しかし、その道中には無数の魔術のトラップがあった。
魔術を打ち壊せるのは強力な魔法か魔術だけなので実質俺しか防ぐ手段はない。
つまり、他の6人全員を俺一人が守らないといけないことになる。
流石にそれはキツイ。
ただ、一人で行かせるのはマズイと言うことでシャンミーを連れて行くことにした。
他の皆が万丈一致だったのに多少違和感を覚えたのだが。
ともかく、俺はシャンミーを連れて正面からトラップを迎えることにした。
アッサリ道中のトラップを通り抜ける事ができた。
フゥ~~。
大した魔術じゃなかっただけマシ……。
「今だ! レバーを下ろせ!」
突然、団長のバーティーがラスナとロズエルに命令し、隠されていたレバーを手前に倒す。
すると俺達がいた所まで突然陥没し、奈落の底が突然開く。
浮遊系の魔術を持っていなかった俺は油断をしてしまい。少し落ちる。
ここままではヤバイと思い、すんでのところで崖にある石に右手を必死に引っ掛け、シャンミーを手を左手で掴む。
血が流れているがそんな事は後回しだ。
(クッ……シャンミーを抱えてコレはキツイ。)
俺は助けを呼ぼうとして上を見る。
無駄なのはわかっていた。
すると、バーティー達が俺を見てニヤニヤと憎たらしい満面の笑みを浮かべてこう叫ぶ。
「ハッハッハ! まんまと引っ掛かってやがんよ!」
「悪の化身は此処で朽ち果てるがいい!」
「……まさかコレを狙ってワザと俺達を先に行かせた?」
「ああ! そうさ! シャンミーちゃんも何時もパーティーの邪魔者だからついでにな!」
「狙った理由は何ですか?」
「アァ!? テメー、自分の立場がわかってんのか? 魔術をする人間は全員悪魔だ。俺達は正しい事をやっただけだぜ? 生贄でもたてたら恨まないしな!」
俺は苛立ちというより呆れの感情の方が強くなる。
どうして勝手に決めつけるのだろうか?
証拠があってそんな事を言っているのだろうか?
ホントにお前らがやった事は正しいことなのか?
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この年、魔術の悪い風潮が更に激しくなった。
瞬く間に広がり、魔術を使用する人間【魔術師】を【悪魔】と言い張るようになった。
それにより、魔術師の一斉弾圧が始まっていた。
【第二次魔術弾圧】である。
実際、この年の50年後には【魔術、魔法戦争】が起こっている。
この年の魔術師の死亡者数はおよそ15万人。
過去最大の弾圧数である。
しかし、そんな事など当時の俺は何一つ知らなかった。
故郷の人達はとても優しかった。
俺が魔術を極めていることなど当に知っていた。それでも俺には何も咎めず、罰せずにしてくれた。
誰も俺を悪魔なんて思っていなかったからである。
しかし、故郷を出た俺は現実を知ってしまった。
だから今回の一件など全く知らなかったのである。
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「わかったか! いい加減落ちやがれ! ロズエル! ユッケを穴に落とせ!」
「了解、団長! とりゃあ!」
バーティーはロズエルに命令する。
受けたロズエルは右足で何度も俺の手を踏みつける。
激痛が走るがそれでも必死に耐える。
本来なら諦めて此処辺りで自ら落ちていたが、シャンミーが入るためそうもいかない。
だから俺は提案する事にした。
「待って! 一つだけ頼みがあります。」
「おお? どうした? 命乞いか?」
「どうせ俺を悪魔だと言って落とすでしょ? ……そうじゃありません。シャンミーだけは助けてあげてください。」
「……えっ?」
「……は? なにいってるんだお前? 自分の命乞いはしないつもりか?」
「そうですね。俺を悪魔と端っから思っている人達には、何を言ってもしょうがないです。だがど、生贄をたてたら悪魔は朽ち果てるなんて考え方は止めた方がいいですよ?」
「クッ……。」
バーティーのメンバーは苦しそうな表情をする。
何だか俺に言われたから苦しんでいるというワケの表情では無さそうだ。
やりたくないけど、無理矢理何かをさせられている感じがした。
特にシャンミーのことを気にかけている感じだった。
俺は後ろにいるキュルミスとバスカーに目をやる。
バスカーの両腕には力がこもり、キュルミスは必死に涙を止めようとしている。
(もしかして……コイツらは自分達でやったんじゃなく、誰かに命令されている?……だとしたら余計、魔術の弾圧が酷い事になっている証拠だな)
そう考えていると、バーティーは俺に告げる。
「……わかった。シャンミーは助けよう。」
「じゃあ、今からシャンミーを上へ投げます。上手くキャッチしてください。」
「……。」
「シャンミーさんごめんなさい。ホントはもうちょっと優しくしたいんですけど、ちょっとだけ手荒になりそうです。」
「……はい。わかりました。」
シャンミーは俯きながら小さな声で俺の返答に答える。
そして俺はシャンミーを上へめがけて力一杯投げた。
シャンミーは上へと飛ばされ、バーティーのいる所へと戻る。
「じゃあ、取引成立ですね。約束通り落ちます。」
「……! オイ! ちょっと待……。」
俺は支えていた手を放す。
猛烈な風を受けながら段々と落ちていく。
バーティーは直後に止めようとしたが、放してしまった後ではもう遅い。
すでにバーティー達の姿は消えて、辺り一面闇の中。
(地面だったら死ぬな。……まあ、それもそれで仕方がない。運が悪かっただけだ。)
俺は目を閉じて地面が柔らかいのを祈る。
「バッシャーーン!」
幸い一番下は液体であった。
だが落ちる直前、水自体に異常な腐敗臭が鼻にツンと来たため、急いで水面から上がる。
何かドロドロしたものがあったがそんな事はまだ気にしない。
真っ暗闇の中、必死に水から上がる場所を探したのだが、なかなか見つからなかったため仕方なく作ることにする。
水から土台を作るのならこれしかない。
「【氷生成】!」
取り敢えず水から這い上がって氷の上についた俺は明かりを付けようとしたが、酷い腐敗臭の正体を見たくなくて非常に躊躇う。
(いや、明かりをつけないと出口があるのかすらわからん……よし! 覚悟して見てみるか。)
俺は覚悟をして光をともす魔法を使うことにした。
「【光生成】!」
俺のいる辺り一面が、闇から光へと変わる。
肝心の腐敗臭の原因は……。
(……ゲッ!!! コレ全部人間かよ……。)
「オェェェェェッ!!!」
知りたくなかった結果を知ってしまった結果がこうだ。
俺は現実を見てしまい、我慢できないその衝撃で嘔吐する。
一度吐いただけでは満足出来ず、もう一度吐く。バーティー達と共に食べた昨日の晩飯の分まで全部吐いた。
やっと落ち着いた(気分は最悪だが)俺は息を荒くする。
服の上に数十匹の蛆が沸いていたが、冷静になって魔術を駆使し、全て取り除く。
腐敗しまくった人間の水死体の山は散々たる有り様だった。
死んでいる人数は100人以上。
皆が人間という原型を既に失っており、水は赤黒い色と腐った人間の皮脂がドロドロになって浮いている。
…………ああ、なる程。
さっきこの地獄を泳いでいたときに当たったドロドロした奴はコレだったのか。
更に酷いことに、木偶の坊になった人間の周りにはご馳走とも言わんばかりに、
ネズミ
蛆
ゴキブリ
ハエ
の大群がワサワサと群がる。
雑な扱いをされた人間の臓器は中途半端に原型を残したままプカプカと地獄の海に漂う。
まだ完璧にガイコツになって、水の底に沈んでくれた方が遥かにマシだというのに。
(いっそのこと強力な火でも飛ばして燃やそうかな? この漂う奴)
俺は更に【氷生成】をして落ちないように、頑丈にしたあと、臭いを我慢できなかった俺は暴挙に出る。
「【地獄の業火】!」
俺は近くにあった綺麗な骨で氷を動かし、落ちた所から遠ざけた後、強力な炎魔術を落ちた所に向けて唱える。
「ゴォォォォォ!」
業火は一瞬のうちに辺りを焼き尽くす。
人間の皮脂と水に溶けた脂によって炎の威力は止まることを知らず、ただただ燃える。
更に火は人間の皮脂をつたって、劣ることもなく俺の氷まで燃え広がる。
徐々に氷は確実に溶けてはいくものの、事前に分厚く張った氷を全て溶かすのは無理だったらしく、次第に力を失っていく。
楽園を気づいていた虫や動物は逃げ切れたものと気づかずに燃やされたものとでハッキリと別れた。
……3分後。
燃えカスになった人間の皮脂と木偶の坊は殆ど焼き切り、真っ赤な水はブクブクと沸騰していた。
血の臭いは濃くなったが、腐敗臭は焦げ臭くなった。
……コッチの方がまだ全然耐えられる。
さっきの嘔吐を返してほしい(ホントに返されても困るけど)。
水の中にいた蛆や肉を食い漁っていた虫や動物達は既に天に召されているか、這々の体で逃げたかのどちらかだろう。
俺はさっきと同じような手を使って奥へと進んでいった。
【氷生成】で足場を確保し、【地獄の業火】で腐った皮脂を焼き尽くす。
途中【収納魔法】から魔力回復薬を取り出し、魔力を回復させる。
魔力が尽きたら気絶確定+死亡濃厚である。
コイツらの仲間には意地でもなりたくない。
そんな地獄を赤い海をさまようこと実になんと20時間。
奥に行けそうなどこかの穴にたどり着いた。
流石に20時間も血の臭いと腐敗臭を嗅げば流石に慣れてくる。
それよりも、しばらくの間何も食べていない。
腐った人間を食べるなど以ての外。
食糧を望んで、俺は穴の中に入る。
道中は電気をつけでも人間の死体はどこにもなかった。
そして俺は、あの死体の正体を冷静に考えてみると、説明がついた。
(なる程。つまりアイツらは魔術師か、魔術師と誤解された人間かな?それにしても何たる死に様と数……殺しすぎにも程があるぞ!)
そんな事を考察していると、突然奥から「グォォォォォ!」という猛獣が喚くような声が大きく聞こえる。
余程機嫌でも悪いのだろう。
魔力は最大より少し減った位でそこまで対した事はない。
後数本だが、1000程回復する魔力回復薬も残っている。
※魔力回復薬については第2話参照。
流石に大苦戦する事はないだろう。
……とその時までは余裕だと考えていた。
だが、突然大きく開けた所に出た途端、その理論は全て崩された。
(……ヤバイ。本気でヤバイ。……コイツがここのダンジョンのボスか!)
そこにいたのは、レッドドラゴンだった。
いや、正確に言うとレッドドラゴンではない。
ソイツは……レッドドラゴンよりも上位種、単独でしか行動できない。
赤龍だった。
俺は魔術で赤龍のステータスを見る。
当時、魔法も今よりもそこまで発達はしていないので、今のステータスよりは随分と大まかになっている。
そして俺は、赤龍と自分のステータスを見比べる事にした。
後で調べてわかった事なのだが、この赤龍はかなり弱い方だった。
名称・赤龍
レベル 116
体力 残り95%以上
魔力 残り95%以上
攻撃 1023
防御 1142
素早さ 652
名称・ユッケ
レベル 90
体力 残り90%以上
魔力 2428
攻撃 345
防御 652
素早さ 259
ステータスは相手の方が余裕で勝っていた。
当時の俺は魔法は大抵使いこなせてはいたものの、最初から6000を超える防御力を持っていたわけではなかった。
しかし、コレだけでは相手の詳細は全くわからなかった。
当時のステータスには大きな穴がある。
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今のように回避能力、会心率などがサッパリわからない。
更に速さと速度を統一してしまっている。
速さとは、単純に足のスピードの速さである。
だが、速度は違う。
速度は攻撃する速度を数値で表しているのだ。
武器によって加減算されるが、基本はその数値と速度を基準に考えるのだ。
つまり、このステータスでは相手の全貌がわからないのである。
一体どれくらい強烈な一撃をどの位の確率で飛ばしてくるのか。
アイリスのように恐ろしい回避能力の持ち主なのか。
攻撃する速さがどれくらいなのか。
どれくらい体力と敵の魔力があるのか。
そんな不安要素を残してでも、ステータスを使って相手の特徴を探っていたのだ(普通無理。多分今の俺でも魔法と魔術ないと無理だし)。
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それを踏まえた上で、今回の戦いを見ていこう。
相手は俺より圧倒的に格上の赤龍。
話し合いでは解決出来なさそうだ。
赤龍の大きさ(というよりも長さ)は凡そ40メートル。
異世界でいう東洋の龍にそっくりである。
リバイアサンのような硬い鱗のついた長くて赤い胴体と勇ましい赤面顔。
数メートルはありそうな口辺についている細い長髭。喉下には一尺四方の逆鱗があり、そして頭の後ろには鹿よりも立派な角が二本は、持って帰りたい程綺麗だ。
場所は開けた洞窟内である。
障害物は大きな岩と小さな石があちこちに点在していた。
赤龍は烈火の如く怒り、俺を焼き尽くさんと躍起になっていた。
一撃を食らうと厄介なため、俺は一旦大きな岩の後ろに隠れる。
すると赤龍は口から灼熱の炎を俺がいる岩にゴォォ!と吐く。
炎は岩に激しく衝突し、四散する。
強烈な熱波が俺を襲うが、死ななかった。
その隙に俺は軽く魔法を放つ。
「【氷球】!」
氷のつぶては赤龍の所へ一直線に飛ぶ。
炎を吐いたばかりの赤龍は押し返す事が出来ず、氷球の攻撃を許してしまった。
激しく激突し、巨大な叫び声を上げる。
(やはり青色が弱点か。そうなると赤は絶対効かないな。)
そんな事を思っていると、誰かが別の所から青色魔法を赤龍にぶつける。
誰だろう?
俺と同じくハメられてギリギリ助かった魔術師かな?
ソイツと連結か何かをとるため、俺は魔法が打たれた場所へと向かう。
ついでに敵の注意を俺に向けさせるため、もう一発【氷球】を放って赤龍を怯ませる。
急いで俺は岩の影を駆使しながら赤龍の視線から離れる。
そして、ソイツのすぐ近くまで来た時、誰なのかは一目でわかった。
(アイツは……シャンミー!?どうしてこんな所に?)
そこにいたのは、20時間少し前に俺と一緒にハメられかけたシャンミーだった。
白と青を基調としたプリースト専用服と柔らかそうな帽子。
青い宝石か何かがはめ込まれた銀製の杖。
年は俺より若干下の17の用な気がする。
そして、ロングヘアーのピンク色の髪を二つに束ねている。
おっとりとしたその優しい目は男を好意に引き寄せそうであった。
どうやらケガをしているらしい。魔力はさっきの奴で殆ど使い果たしたようだ。
動けないというレベルでは無さそうだが、此処から走って逃げるというのは少し無理である。
(さっきの攻撃で多分赤龍に場所を知られた。多分赤龍が攻撃すれば間違いなくコイツは死ぬ。)
「オイ、シャンミー。コレで回復しろ。」
「!!! ……はい。わかりました。」
俺は収納魔法から魔力回復薬を取り出し、シャンミーにバレないように手渡す。
焦った俺は敬語を捨ててしまった。
突然俺が現れたことに驚いたシャンミーは一瞬だけ戸惑うが、そんな事は後と言わんばかりに魔力回復薬を受け取って飲む。
体に薄くて青いオーラのようがでた後、彼女は回復魔法で傷を癒やす。
「……ありがとうございます。」
シャンミーは頭をコクリと傾けながら礼を言う。
仕草は綺麗だが今はそれどころではない。
赤龍が俺が放った囮技に引っかかり、全く見当違いな場所を攻撃している。
今がチャンスなのだ。
「礼はいい。黒コゲになる前に此処から離れて安全な所に一刻も早く移動してくれ。コイツ(赤龍)は俺が対処する。」
「しかし、あれほどのドラゴンを相手にお一人で……。」
「そんな人の心配をしている暇があったら、頼むから今はとっとと逃げてくれ。」
「……はい。すみません。……ですが、一つお聞かせください。あの時どうして私をお助けに?」
「そんな事を話している暇はない」と言いそうになったが、とりあえず軽く理由を言うことにした。
しかし、素直に思ったが故の行動だったのかもしれない。
「……女を道連れにするクソダサイ男がいると思うか? そんなくだらない事で魔術師になる奴がいるかよ。」
「!!! ありがとうございます!」
彼女は何度も頭を下げると、岩の影を利用しながら安全な所まで避難をする。
そして、俺はワザと赤龍の前に出る。
シャンミーを狙わないようにするためだ。
「オイコラ赤龍! 俺は魔術師のユッケ。お前の赤と俺の青、どっちが強いか勝負だ!」
赤龍は俺を見つめるとすぐさま巨大な赤い球を吐き出す。
多分素直に聞いてくれたのだろう。
「【凍える白氷】! 【ナバリア=ダザルラ 我は今、氷の化身とならん・凍身炎殺】!」
巨大な赤い球に白い氷を激しくぶつける。辺り一面に白い煙が充満した。
その間俺の体を極寒状態にし、飛び上がって赤龍の顔面を素手で殴る。
食らった赤龍は再び大きな叫び声をあげる。
それもそうだ。
物理攻撃と魔法攻撃の両方を食らう事になったのと同じ事だからだ。
コレで相手の残り体力はあと半分以下。
しかし殴られたハズの赤龍は、俺の場所をすぐさま特定すると、自慢の長い尻尾を上手く使って俺にぶつける。
白い煙で見えなかった俺はその攻撃をマトモに食らって地面に叩きつけられる。
起き上がった俺は血が流れているのを完全に無視して再び戦闘態勢に入る。
一気に残り体力40%以下まで持って行かれた。
レベル差が20以上離れていると戦闘力の差は此処まで違う。
白い煙が殆ど消えた頃、赤龍は俺を休ませまいと俺に火を吐こうと構えてきた。
俺も応戦しようと魔力をこめる。
(かなり魔力を使うが……アレはやりたくないな。滅茶苦茶疲れるし……)
非常に躊躇っているが、短期決着しないと後々此方が不利になってくる。
どうしようか悩んでいたその時だった。
「グォォ! ……グォォ?」
突然赤龍の様子が変わった。
おかしくなる予兆は今までなかったハズ。
目線が少し俺からずれている。……まさか。
俺は慌てて赤龍の目線を急いで辿る。
なんとそこには逃げているシャンミーだった。
だが、俺には痛烈な違和感を感じる。
どうしてシャンミーに向けて炎を吐かない?
5秒経っているのに吐く気すらしない。
すると赤龍は「グォォ!」という叫び声を上げた後、自分の体から3枚鱗を剥がし、俺の近くにソッと置いた。
1メートルもする大きな鱗が一枚と、10センチ程の小さな鱗が2枚である。
鮮血のような赤くて綺麗なその色は見るものを圧倒するような輝きだ。
「……まさか、コレをオレにくれるのか?」
赤龍は再び叫び声をあげる。
……恐らくだが、人間の言葉がわからなくても通じるものがあったのだろう。
「……ありがとう。お陰で助かった。」
俺は赤龍に礼を言うと、3枚の鱗をもって立ち去った。
赤龍は俺が立ち去る様子を、黙ってただただ見つめるばかりであった。
既に俺の戦闘意志も殆どない。
まさかまさかの戦闘終了である。
赤龍のボスがいる場所からしばらく歩いていると、最初に入った場所とは異なる出口を見つけ、俺はそこから出た。
辺りに生い茂る緑色の新鮮な空気と暖かい朝日は何とも心地良い。
思わず俺は深呼吸をする。
もう二度とあの空間は御免だ。
深呼吸を数度していると、先に出ていたシャンミーが俺を待っていれくれていた。
「だ……大丈夫ですか! 今治療しますね!」
そう言えば地面に叩きつけられた時に溢れてきた血を拭くのを忘れていた。
「自分の魔術で何とかなる」と言ったものの、彼女に強く押し切られ、仕方なくお言葉に甘えることにした。
「さっきの一件はありがとうございます。お陰で命拾いしました。……それで失礼ですが、勝利しましたか?」
「……いや、和解だった。」
「……えっ? つまり、どういうことでしょうか?」
「えっと……最初から話すと……。」
ケガ人である俺は事のいきさつを医者兼看護士であるシャンミーに語った。
「えっ! そうなんですか。赤龍さんはユッケさんを見逃した?」
「まあ大体そんな解釈でいいぞ。多分赤龍も何か気にかけたんだろう。……それより、お前バーティ達は今どこだ?」
シャンミーは悲しい顔をする。
途中で死んだという訳でもないようだ。
「ユッケさんが落ちた後、皆で話し合いました。私とキュルミスはパーティーを離脱することにしました。恐らくですが、後少しすればバーティさん達は冒険者組合へ報告すると思います。」
「内容は聞いているか?」
「恐らく『ユッケは死んだ』と報告を…‥。」
「……ハァ。コレで俺は放浪の身だな。」
「……ごめんなさい。」
シャンミーは落ち込んで俺に頭を下げる。
もしも俺がひょっこりと町に現れたら、バーティ達も罪に問われるだろう。
幾ら酷いことをしたとは言え、あちらはただ実行しただけのこと。
実際に魔術師の悪い噂を広めた人間と、俺を殺そうとした上の奴らはちょっと許し難いが。
でも、シャンミーが代わりに謝罪(ホントはシャンミーが謝る必要は毛頭無いのだが)したことによって俺の静かな怒りは鎮静化された。
「……謝る必要は無い。それじゃあ、キュルミスは一体何処へ?」
「キュルミスさんは冒険をするための準備をしています。」
「そうか。」
体力が完全に回復した俺は収納魔法から青色(男性魔法使いが好んで着る)のフード付きローブを取り出し、【衣装変換】という魔術を使って一瞬で着替える。
そんな日常的な魔術をシャンミーに見せていると、数十分後にキュルミスがやってきた。
そこそこ大きなバッグ2つを抱えて此処までやってきたので、ヘトヘトそうである。
「……生きてたのね、アナタ。」
「這々の体で生きながらえたよ。幸い地面が水だったから助かった。まあ、それからはあんまり言えないけど。」
キュルミスは俺に圧倒されそうな目で俺を見つめる。
昨日まで敬語だった人が突然タメ口になったからかな?
流石に血と皮脂と腐敗にまみれたこの世の地獄だったと、キュルミスとシャンミーには言えなかった。
俺はおおよそのいきさつをシャンミーに話した内容とほぼ同じように話す。
「なるほどね。それで……アナタはこれからどうするつもり?」
「どうするって……放浪かな。」
「私達に付いていく気はない?」
「無い。魔術師である俺がお前について行ったらどうなるかはわかるだろ?」
キュルミスは複雑そうな顔をする。
勿論見つかったらキュルミス達も同罪である。即効首が飛ぶだろう。
「だが……ちょっとシャンミーからケガを直して貰ってな。荷物も空きがありそうだし……コレをやろう。」
俺は1メートルもする赤龍の鱗を収納魔法から取り出す。
後で調べたら超強力武器のメイン素材らしく、買取金額はなんと白銀貨2枚という大金であった。
※お金の単位を忘れてしまった方は第2話参照。
「そ……それは赤龍の大鱗。こんな高い物を貰う訳には行かない。」
「正確には貰う、じゃない。取引だ。」
「取引?」
「俺が生きていることはずっと黙っておいてくれ。」
「……わかった。短い間だったがお前が居なくなっても私達の仲間の一員だ。」
「此方こそありがとう。サヨナラだ。」
俺は大きな鱗を地面に置いて、北へと向かう。
途中、俺は一つだけわかったことがあった。
「魔物を倒す倒さない以前に、人間の悪い部分を取り除かなければならない。」
この日の出来事は二度と忘れることは無かった。
だがそれと同時に、俺の中にある歯車がゆっくりと動き始めた日であった。
―――――――――――――――――――――――
「……! ……生! ……先生! ……ユッケ先生!」
「……ワッ! ……えっと、あれ?」
どうやら俺は考えすぎたようだ。現実に戻った俺は返事に驚く。
「ユッケ先生、大丈夫ですか?」
「あ……ああ! 大丈夫だ。それより、今どんな話をしてたっけ?」
「基本攻撃と、それから発展出来る習得しやすい技や特技を座学で教えています。」
「ああ! そうだ、そうだ。 スマン。考え事をしていた。」
「どんな考え事をしていたんですか?」
「いや、昔出会った女の子が今どんな事しているかちょっとな。」
「ユッケ先生も思春期ですか!」
「「「アハハハハハハ!」」」
ゴブリン達は俺の必死の言い訳に笑いに包まれる。
俺は慌てて誤解をとこうと更に必死になった。
「……いや! 違う! 誤解しないでくれ! 先生は決して破廉恥なことは何も……強いて言うなら、あんまり一部の大人や子供には言えない話なんだ。」
ウソは何一つ言っていない。
冒険者のパーティーに入ったら騙されて、血と皮脂と腐敗にまみれたこの世の地獄に20時間も居させられた。
そして、這々の体で抜け出した先にはなんとダンジョンのボス。
異世界で言う、泣きっ面に蜂のようなスタイルである。
正直にそんなブラックな話をしたら、ゴブリン達はドン引き所か最悪のムードに入ってしまう。
「いや、人間も魔物も思春期はあるんですよ。だから、気にしないでください。行動は流石にアレですが……口で言う程度ならまだ……まあ……。」
「だっ……だから違うって~!」
数分後、必死のトークで何とかゴブリン達を落ち着かせた俺は授業を再開する。
ここのゴブリン達の授業をするのは正直楽しい。
適度な茶番が入りつつ、皆の目には静かな熱意がある。
まるで、教えている俺を監視するかのようなその目線。「下手な授業したらわかっとるやろな、アア!?」と言われているような熱さと鋭さに、俺はミスを教えてはいけないという決心を覚える。
(アイリス、やっぱお前の冒険は比較的遅いけど飽きないわ。あのシャンミーという女と冒険した時みたいにな)
今日の俺のスケジュールはとてもハードだ。
自らが自分で組んだスケジュールだが。
だが、俺の予想していたよりも疲れた。
多分、常に必死にやったからだろうな。
だが、悪い思い出を思い出してしまった俺は、アイリスとの夕食で殆ど食べる事が出来なかった。
特に、肉の脂身が気持ち悪過ぎて食べれなかった。
夕食時にグロい話がダメという理由が、この日は痛いほどわかった。
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