第53話 ゴブリンの為に授業を! 飯抜きの奇跡
◆◆◆◆◆4日目◆◆◆◆◆
早朝の5時に起きた俺は、早速穴掘りの場所に向かうことにした。
日が出始めたばかりなので少し暗く、普段よりもキツイ朝の底冷えがする。
すると、ダークゴブリン達とアイリスがせっせと周りの穴を掘っていた。
俺が掘っていた穴が余りにも小さいので、それを拡大しているのだろう。直径10メートル規模になっている。
ちなみにユッケは明日の授業の準備があるため、そっちを優先にしている。
授業初日の最初の担当はユッケ先生なのだ。
俺に気づいたアイリスは、俺に向かって手を振りながらこう言った。右手に銀色のスコップを持って、左手で額の汗を拭く。
「……ふぅ。おはようモーク。昨日の夜中にユッケが掘っていたから、一番深いところでは400メートル位かな?」
「おお! それは凄いね。それに、今始まったばかり?」
「ああ。ダークゴブリン達にも協力してもらって穴の大きさを広げているよ。」
「どうして穴の広さを広げるの?」
「俺達がこの穴の中に入ると死んでしまうんだ……何せ400メートル真っ逆様だからな。だから、今後もメンテナンスとかしやすいように階段状に土を掘っているんだ。何かと管理が楽になるだろ?」
「もしかしてそこに立ててある看板の紙がそれ?」
「ああ、今の所はコレを元に頑張っている感じかな。」
俺はその看板に近づいて張り付いた紙を見る。
ボロボロになりかけている看板に、数枚の紙が貼られていた。
俺が掘るであろう中心の穴は頑丈そうな銀色のパイプが通っている。
ダークゴブリン達が掘っている所は、階段状になっていて上り下りが出来るようになっている。
それ以外は詳しい銀色のパイプの構造を示したものがほとんどだった。
多分これは、人間が作る前の段階で完成予想図を皆に見せるための「設計図」とかいう奴なのだろう。
右端にはユッケ、アイリス・オーリア、サングラス、ゴブリン村長と書かれてあった。
いや!ついでに俺の名前も書いておけよ!とツッコミたくなったのは事実である。
よく見るとこの看板どこかで見たことがある。
【試練の森】に入る直前に見た奴とよく似ている看板だと気がついた。多分他の所にあった看板を勝手に貰ったのだろう。
それより、手を動かさないことには何も始まらない。
アイリスに言っておくことにした。
「じゃあ、真ん中掘ってくるね。」
「ああ、そうだ。お前ににコレを渡しておく。土を回収するためのバケツだ。一杯になったらこの紐を引っ張ってくれ。」
アイリスは俺にそう言うと、直径50センチほどの大きなバケツを渡す。
そのバケツには1000メートル以上の長さがある位長い紐がくくりつけられていた。
少し後ろにそれと同じものがもう一つあった。
既に400メートルを越えているので、掘った土を外に出す作業がしんどくなる。
その土を地上に運び込むためのバケツなのだろう。
「オッケー。」
俺はそう言うと中心の穴にひゅうと落ちる。
ものすごい急降下の後、「ボフッ!」という衝撃が全身に響く。
だが、モフモフのこの体自体がクッションの為、死なない。ちょっと痛いけど。
そんな事は無視して、早速作業に取りかかる。
幸いこの辺りの土は柔らかすぎず、硬すぎずといった感じだ。
数秒もしない内に10メートルを掘る。そして、土をバケツにギュウギュウに詰め込み、自分の体を工夫して紐を引っ張る。
すると、バケツは高速で上に上がり、20秒程後には空のバケツが落ちてきた。
そして再び穴を掘り、バケツに入れてヒモを引っ張る……。
難易度はそこまで難しくないように見える。
だが、400メートルを越えるとどうなるか?
(……チッ。全然見えない……今自分がキッチリ真下に掘っているのかすらあやふやだし)
そう、俺の掘っている世界は光も何もない闇の中である。
ガマン出来ずにサングラスに聞いてみる事にした。
すまないサングラスさん。黄色の魔法を教えてくれない?
《畏まりました。では、口頭で魔法陣を書きますのでそれに従ってください。》
俺はサングラスから黄色の魔法の基礎を教えてもらった。
早速、掘った穴の側面に魔法陣を書き込む。
だが、失敗。別に難易度は難しい訳ではない。
俺は失敗した魔法陣を消す。
3日前に書いた【驚愕する魔力球】よりは全然どころか甘過ぎて欠伸が出るような勢いなのだ。
じゃあ何故出来ないのか?
そう、暗すぎて自分の書いた魔法陣自体が見えないのだ。
書き方は合っているのに書く場所がどこかで数ミリだけ狂ったのだ。ちょっとのミスでやり直しになるのが【設置詠唱魔法】の最大の弱点なのは間違いない。
諦めたくないので何度も同じ魔法陣を書こうとするが、全く間隔を掴めない闇の中ではまだまだ俺は未熟過ぎた。
数十回とやってはみたものの、必ずどこかでズレが出来てしまい、結局の所は時間を潰すだけだった。
「アアアアーーー!!! 面倒くさいからいっそのことそのまま掘っちゃえ!」
イラついた俺は暗闇であるにも関わらず、真下を信じて掘り進める。
穴を掘り、バケツに入れてヒモを引っ張る……。
そして再び穴を掘り、落ちてきた空のバケツに土をギュウギュウに……。
途中アイリスからご飯の時間だからバケツに乗るように言われたが、飯の時間は後回しにしてただただ掘り進める。
誰かは知らないが、バケツを回してくれた人がいた。
バケツの回るスピードが遅かった気がするが、無いよりは全然マシだと言うことで気にしないでおくことにした。
それから何時間がだった頃だろうか?
突然、サングラスから奇妙な通達と共に奇妙な光景を目にする。
《通達。スキル【暗視V】を習得しました。さらに、スキル【カゲヲアヤツルモノ】を習得しました。それに伴い【創造魔法・影】を習得しました。》
………………ん?
なにこれ?
なんか急に周りがハッキリ見えるようになった気がするけど何故だろう……?
すると、サングラスの会話からアイリスが入ってきた。
《モーク! 今すぐそこから出てこい!》
凄まじい声で音声が脳内に響いてきたので驚く。
え?
どうやって出ればいいの?
自分だけじゃ無理だからユッケを読んで……。
《じゃあ……さっき習得した【カゲヲアヤツルモノ】を使って頭の中で俺を想像しろ。》
ああ、そう言えば確かに出てきた。
折角だから使ってみることにする。
「スキル【カゲヲアヤツルモノ】!」
取り敢えず唱えた(と言うより喋った)直後、アイリスを想像した。
不器用なアイリス。
【臆病者】のアイリス。
俺の悪口を影で言ってそうなアイリス。
すると、凄まじい速度でどこかに飛ばされたと思ったその瞬間、いつの間にかアイリスの後ろに自分が佇んでいた。
「隙あり!」
「うおっ! マジかよ!」
ついでに体当たりしてアイリスを驚かそうと画策するが、長年の特訓の経験で背後も死角無しのアイリスには無謀だったようだ。
余裕で回避したが、少し驚いている様子だ。
いつの間にか日はとっくの前に頂上に辿り着いており、今は下山をし始めて少し経つ頃になる。
どうやらアイリスは飯好きの俺が食べないという事に驚いたらしく、俺のために朝食べた分を俺のために少し残してくれたのだ。
(さっきの悪口を訂正しようかな……)と心に思ったのは流石にある。俺はバクバクとその昼食を食べ、既にカラになった腹に食べ物を入れてそれを満たす。
「……で、このスキルと魔法の詳細は何?」
「サングラスを渡すから詳しく聞いてくれ。」
アイリスはサングラスに丸投げをするため、俺に渡す。
仕方なく俺はサングラスを掛け、詳細を聞くことにした。
要約するとこんな感じである。
■■■■■■■■■■■■
属性 スキル
ランク A-
★名称★
【暗視V】
★詳細★
暗闇でも見える(本人の意志でONOFF可能)。
効果時間一回で10分or無限
★使用回数★
レベル1 1日5回
レベル2 1日10回
レベル3 10分間隔
レベル4 5分間隔
レベル5 常に発動
★概要★
隠密系の人気スキル。コレを使っている間は暗闇でもハッキリと見えるようになる。尚、レベル変化すると効果は増えないが使用回数が多くなる。レベルVはどんな時でも既に発動している。
★所得条件★
暗闇の中で一定時間作業(時間によって習得レベル変化。感情の起伏においてもかなり上下する)。
■■■■■■■■■■■■
要は暗い所が明るく見えるようになる。
……かなり使えるんじゃない?
夜の戦闘や今やってる穴掘りなどで大活躍しそうだ。
■■■■■■■■■■■■
属性 スキル
ランク S
★名称★
【カゲヲアヤツルモノ】
★詳細★
どこかの影にいる時、一度所得者が見たもの(人間や建物など何でも良い。ただし、自分の目で直接見ること)の影に一瞬で移動できる。
1000メートル以内の影であれば見えていなくても移動可能。
距離の制限は無し。
★使用回数★
無限だが詠唱時のみ発動。
1000回以上使用で詠唱無しでも発動可能。
★概要★
理不尽スキル、魔物専用スキル。【影を操る者】の上位互換。
影に隠れるも、影を使って相手を攻撃するもよし。夜になると無敵クラスの効果が期待できる。
★所得条件★
【暗視V】の所得した者の中で、幾度も影に絶望した一部の魔物。
■■■■■■■■■■■■
つまり影の中に入って別の所から出たり、倒したい奴の背後に回って暗殺とか下手したら出来るわけ?
……え?
なにその暗殺者?
(例えば、殺したい王様の演説とかを見た瞬間に、何時でも後ろから暗殺できるって事だよね?)
控え目に言うとチートクラスである。
■■■■■■■■■■■■
属性 特殊魔法
レベル 創造魔法
★名称★
【創造魔法・影】
★ダメージ詳細★
影を作ることができる。
これ自体にダメージはない。
★使用魔力★
1~1000
★概要★
日光を嫌う隠密や吸血鬼やゾンビにとっては大好物の影を作ることができる。大きさによって使用魔力は異なる。
他のスキルや魔法と併合して全く違った攻撃方法を作ることも可能。
★攻略法★
1.【創造魔法・光】を使用して対処
2.【創造魔法・勇気】を使用して対処
3.【創造魔法・闇】で無効化
4.【創造魔法・影】の使用魔力で相手より上回る。
■■■■■■■■■■■■
影をどこでも好きな大きさで作れる魔法だ。
【カゲヲアヤツルモノ】との併合能力は言うまでもない。
それにしても、【創造魔法】ってなんだか凄そうな名前だな。
攻略法に色んな創造魔法があるってことは、まだ他にあるということである。
(中には大金持ちになりそうな魔法もあったりして……)
俺は心が金色に塗られる気持ちになった。
「……あっ、モーク。そろそろまた作業に戻るぞ。とにかく……おめでとう。」
「うん。また作業してくるねー。」
俺はそう言うと再び中心の穴に入る。
一方で、ダークゴブリン達はせっせとまわりの穴を掘っていた。
250メートル程に達していたのは流石である。
―――――――――――――――――――――――
―【臆病者】アイリス視点―
俺はモークが穴に入った後、ダークゴブリンと共に作業しながらサングラスにモークの得たスキルなどの詳細を聞いていた。
穴掘り自体はそこそこの重労働の為、数時間してくると流石に息遣いが荒くなる。
《……という魔法です。これらを組み合わせれば、恐ろしいほどの化け攻撃に変化します。》
……うん。
確かに隠密系の究極的な姿だな。
まさか飯を抜いて暗闇で穴を掘る作業をした結果、強力な隠密系(暗殺系)のスキルとそのスキルをサポートするための【創造魔法】を習得するなんてな。
正直、俺もそんな才能が欲しいし羨ましい。
《私も目を疑いました。これほど強力なスキルを複数所得できる方法がそこまで難しくなかったという事実には動揺しましたね。》
ああ。お陰で今の所、モークは俺よりも強いんじゃないか?
コイツは天才的な所がボチボチででくるから、俺の予想出来ない戦闘をしてくる可能性もあるぞ?
《ただ、アイリス様の回避能力は非常に高いものがあります。もしかしたら目を離せないほど互角の戦いを見られるかもしれません。》
それは確かにそうだ。
だが、もしモークが敵の背後に音もなく回り込んで【驚愕する魔力球】を無詠唱魔法で打ったら……どうなるかは容易に想像が出来る。
初見で理不尽魔法を至近距離で打たれて、対応出来る人がいるのだろうか?
《九割九分九厘に該当する人間には無理でしょうね。残りの一厘に該当する人間は人間ではありません。》
俺はサングラスの言葉に苦笑いを浮かべる。
だが、本当にそうなりそうな気がして仕方ないのだ。
俺はダークゴブリンのボスに聞いてみることにした。
【腕切り】の際、ボスのステータスを調べようとしたモークを比較的舐めていたからである。
まあ、人間よりは舐めてはいなかったが。
「おい、ボス。さっきの一件でモークタンを笑えなくなったんじゃないか?」
「……アア。ドウシテモークガ、モークタントイウシュゾクデツヨクナッタカスコシワカッタ。」
ボスは俺より倍以上大きい銀製のスコップを一旦止め、若干の疲れ顔で俺の話に答える。
「ちなみにアイツと出会ったのは偶然だ。初めて出会った時は俺もアイツもスライム以下だった。」
「ハハハ! イマハオレトゴカクニタタカエルヨウニナッタトイウワケカ!」
「他の人間は『ダークゴブリン如きで』とかいって大笑いだと思うが、間違いなくソイツの思っているダークゴブリンじゃないと思うな。」
「コノモリガトクベツナダケダ。」
俺とボスは笑いながら色々語った。
今此処で、共同作業で穴を掘っているなんて昔の俺はそんな事思いもしなかった。
未来は非常に読めないものである。
そして、夜18時。
今日の作業は終了した。
ちなみに、この日の最深は1684メートルだと言う。
周囲の穴は387メートル。
一体誰のお陰なのかは穴掘りの作業をした誰もが知っていた。
……ちなみに俺も朝食を食べていない。
モークだけが作業しているのは、ちょっと気味が悪かったからな。
ただ、モークの奴。
土を隙間なくギュウギュウに詰めるからバケツが重すぎで重労働だった。
もっと人の事を考えてくれよ、と思ったのは本当である。
※タイトル修正 技レベル修正




