第52話 ゴブリンの為に授業を! 初日~3日目
◆◆◆◆◆宴初日◆◆◆◆◆
宴が終わった俺とユッケは、死にそうなモークを抱えてゴブリン村長に案内された寝床に着いた。
村長の知恵と工夫は此処まで行き届いていた。
4~5人は余裕で入る事が出来る洞穴のスペース。
入り口には頑丈に設置された木製の両扉。
床一面に敷き詰められた木の板。
そして中心にあるテーブルには、そこそこ大きな火鉢(焚き火できそうなくらいの大きさ)のような物が置かれていた。
端には、
本などが数十冊置けそうな小物入れ。
武器や装備品が置けそうなスペース。
補給するための薪。
などが設置されていた。
肝心のベッドはというと、なにかしらの羽毛を麻製の生地で包んだ掛け布団。
そして、ゴブリンでは絶対に見かけないハズの畳が敷かれていた。
(これは……凄いな。一般家庭のレベルと余り変わらないな)
普通、ゴブリンの住んでいる巣穴の皆のイメージは最悪の評価が多い筈なのだが……何とも恐ろしい村長である。
「やっぱり村長はとんでもない奴だな。俺はゴブリンが此処まで人間とそこまで変わらない生活をしてたなんて聞いたこともないぞ?」
「そ……ソンチョウスゴイナー。」
ユッケは生活様式の高さに感激し、毒草のダメージが回復しきれていないモークはカタコトで村長を誉める。
だが、贅沢を言うと少し足りないものがある。
俺は独り言のように呟いた。
「シャワーすら無いのは少し残念だな。着替えは何とかなりそうなんだが。」
事前に村長からは幾つか注意点を言われていた。
1.風呂はない。シャワーもない。
2.服はゴブリン達が用意。麻製の服らしい。
3.部屋は暗いので時々、壁にある装置?みたいな奴に黄色魔法を入れる必要がある。
4.7時、19時になったら村長の部屋に集合。ご飯を用意する。
まあ、仕方がない。
むしろ服や干し肉を買うためにイケザキ村に戻らなければならない負担がゼロになるのは凄く嬉しい事である。
……さて、来たのはいいが部屋全体が暗い。
確かどこかに装置があるはずだ。
「えーっと、これかな? 装置とかいう奴は?」
ユッケは壁に張り付いている装置を見つけ出した。
よく見ると、人間が使っていた簡易発電装置を改良したものだ。
四角形の装置の左端にON、OFFと書かれた謎のレバー、右端に0~100までのメーターのようなものが表示されていた。
「これ、多分壊れて捨てられた奴を改良したと思う。真ん中の奴に黄色魔法を唱えれば何とかなる。魔力は100で充分だと思う。」
俺はユッケにそう説明する。
「アイリス、モークを持ってくれ。【電導波】!」
ユッケはモークを俺に持たせると、装置に向かって【電導波】を放つ。右手から放たれた電流は装置の真ん中にある何かしらのローラーに吸い込まれていった。
するとメーターの数値が0からゆっくりと上がっていき、10という目盛りを少しだけ下回って止まった。
……あれ?
100で満タンになる筈なんだが?
まあいっか。電気が付いたら問題無い。
「えーっと、これで一応明るくなる筈なんだが……あれ?」
「このレバーで操作するんじゃないか?」
電気を入れた筈なのに付かないという事実に俺が困っていると、ユッケがすかさずサポートする。
俺は言われた通りレバーを下げる。
すると、部屋の電気がパチッと点いた。
レベル1クラスの黄色魔法と同じ魔法を、最も効率良く自動的に発動させることが出来る装置なのだ。
点いた事にホッとした俺達は、端に置いてある幾つかの薪を火鉢に入れ、赤色魔法で火を付ける。
火のついた薪は、この部屋全体をゆっくりと暖かい空気に変えていく。
俺はたまらず腰を下ろして手を火鉢に近づける。ついでにモークを地べたに置いた。
暖冬末期のこの時期、特に夜はハッキリ言ってどこでも底冷えが激しい。
「……ふぅ。なんだか今日も色々ありすぎたな。」
昨日のイケザキ村から始まり、今日までずっと色んな事が起こりすぎてマトモに頭を休められなかった。
「……ホントだね。僕はもうそろそろ寝るよ。……ファーア。」
「ベッドは3人分ある。どれか自由に使え。」
「りょーかい。」
モークはさっきの一件で疲労困憊のようで、大きなあくびをする。あくびをする瞬間だけを切り取ると、妙に愛着が湧く。
流石に寝かせてやらないといけない。
しかも時間は21時をとっくに過ぎている。
「俺は別に寝る必要なない。ついでだから外で見張り番して過ごすことにするよ。」
「一回村長に話は通しておけ。説明がややこしくなる。」
「わかった。」
ユッケは俺とモークを残して部屋から出る。
ユッケは殆ど寝る必要がない。
だから他で暇を潰す必要がある。
村長ならユッケの話に納得してくれるだろう。
さてと、そろそろ俺も寝るか。
俺は収納魔法から寝間着用の着替えを取り出し、今日着た服を脱いでそれを入れる。
寝間着用の服はちょっとブカブカした青色を主とした服だ。
そして俺はベッドの中に入る。
数分後には意識を失っていた。
◆◆◆◆◆2日目◆◆◆◆◆
朝8時前。
朝食を食べるためにやってきた俺達3人は、村長の部屋にいた。
やはり俺達が日常に食べる料理が殆どだった。
スクランブルエッグ
ゾンビ牛のソーセージ
ハム
ゆで卵
毒草ゼリー
デザートには昨日と同じ毒草ゼリーが用意されていた。
案の定モークはそれを恐れず口にし……。どうなったかは大方想像が出来るだろう。
ついでに俺の分のデザートだけは、甘味なしの純粋毒草ゼリーになっていた。これでもかなり甘く感じるのは仕方のないことである。
そして村長と色々話し合った結果、ゴブリン達に教えるのは3日後の5日目からという結論に至った。
数時間にも及ぶ授業の計画をしていた。
以外にもユッケが村長に幾つか計画をしたり、問題点の改善などを進言していた事だ。
素人が出来そうな範囲を余裕で越えていた。
授業の計画がある程度終わった俺達は、村長に「どうして洗濯は出来るのに風呂は入れないのだろうか?」とぶつけてみることにした。
「正確に言いますと、どちらも可能です。しかし、両方となると出来ないのです。」
俺とユッケはあまりその言葉に理解が出来ず、首を傾げる。
ただ、モークは冴えていたようだ。
「つまり、両方出来る程の水の量が無いってこと?」
「御名答。我々は恥ずかしい事に、常に供給出来る水道を持ちません。あるのは水を溜める為に作られた大きな穴です。」
「雨水頼みって事?」
「そうです。この地域は雨が定期的に降ってくる為、我々はそれを利用しています。当然水は汚れますが、濾過装置があれば特に問題はありません。ですが、それは無限ではありません。洗濯と風呂が同時に賄える量にはならないのです。」
なる程。なんとなく意味はわかった。
水は様々な用途に使われる。ただし裏を言い返せば、それだけ水が必要なのだ。
幾ら知識や技術があっても、人間よりも比較的貧弱なゴブリンが土木工事という大規模な事は出来ない。
水道や井戸が作れなかったら、後は雨水集めに頼るほかない。
そうなると、どうしても水の量に限りがあるのだ。
「しかし、本音は我々もお風呂に使って色々語り合いたいものです。8月の雨期の期間だけはようやく風呂に入れますがね。」
俺達は皆深刻な顔をする。
ゴブリン達ならまだしも、バクテリア(病原菌)に耐性の無い俺とモークにはキツイ。
10日たったら病気にかかる可能性がある。
そうなっては旅どころでは無くなるのでイケザキ村に即刻帰還である。
それだけは絶対に避けたい。
「……今日はアイデアが出そうにありません。一端俺達だけで考えてみることにします。」
俺達は大きな悩みを抱えたまま、ゴブリン村長の部屋を出た。
「うーん、まさかごくフツーの当たり前の事にこんなに苦労するハメになるとは……。」
「確かにそうだね。水道の源を探すのはまだしも、そこから水道管を繋げでゴブリン達の所まで……と言うのは流石に無理だし。」
俺とモークは今、緑草と毒草の収集を行っている。
特訓の経験がある俺には毒草と緑草の分別など朝飯前だ。一応モークに分別の仕方を軽く教えたが、多分失敗するだろう。
相当の経験がないと無理なレベルだ。
それを続けながら、昼前に言われたあの風呂問題を真剣に考えている。
ユッケは人に紛れてイケザキ村で材料調達をしている。
「生徒に教えるのに少なくとも必要なものを買ってくる。」と言って向かっていった。
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―モーク視点―
しばらくだるい作業をしていると、アイリスが独り言を呟いた。
「この森の近くにあるイピル山って今でも一応火山活動してるんだっけ? でも、あまり外では見かけないしなぁ。行っても噴火は見られないか。」
その事を聞いた瞬間、俺はハッとする。
(随分と前、熱に耐えられるように修行してた最中、誰か忘れたけど聞いたことがある。)
※第40話参照。
「ちょっと待って! アイリス! 今なんて言ったの?」
俺は念のためにアイリスに聞いておくことにした。
単に俺の聞き間違いだったら恥ずかしいからだ。
「ああ、えーっと……この森の近くにあるイピル山って今でも一応火山活動してるけど、あまり外では見かけないとは言ったけど……これが何に繋がるんだ?」
「ユッケと戦ってたとき、【沸騰する大地】という高温攻撃に僕耐えてたじゃん? 実はそれ修行によって得たんだけど……。」
「だけど、何だ?」
アイリスは緑草の採集を止め、俺に詳しく聞かせるように催促する。
「修行途中にちょっとだけ聞いたことがあって……確か、火山活動している山の近くにある地底には、温泉が出来やすいって噂を……。」
「何! それはマジか?」
「他の魔物の噂だから、イマイチ信頼性は高くないけど……あったら凄くない?」
「確かに……本当にここらへんの地底に温泉とやらがあったら、それこそ快適になる。」
アイリスの言うとおり確かに夢がある話だ。
もしも地底の温泉が大量に見つかれば、風呂問題は一発で解決である。
アイリスは当然のこと。一年に一回しか風呂に入らないゴブリン達も大歓迎だ。
しかし、温泉がどこにあるのかもわからないまま掘るのは些か不安が残る。
ない可能性も否定出来ない。
仮にあったとして、どこまで地底を掘り進まないといけないのか。
温泉自体に猛毒や麻痺の成分は入っていないかなどと様々な問題点がある。
すると、ある結論に至った。
すかさずアイリスに教えることにした。
「ねぇ、アイリス。サングラスならなんかわかるんじゃない?」
「そうだな。じゃあ取りあえず聞いてみるよ。」
アイリスはそう言うと収納魔法を取り出し、サングラスを掛けた。
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【臆病者】は、サングラスにことのいきさつを説明した。
ゴブリン達の風呂問題を解決する為に。
また、自分も風呂に入りたいが為に。
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―【臆病者】アイリス視点―
……という感じ何だが、どうだサングラス?
まず、温泉自体はあるか?
《ゴブリン洞窟から東に14メートル先にあります。恐らく、ゴブリンやアイリス様に害はない成分かと……ですが。》
おお!
よくやった!
これはビンゴである。
後は掘ればいいのだ。
しかし、サングラスの会話は此処で終わっていない。
ですが……の後は基本的には悪い話なのだ。
《2800メートル程掘る必要があります。一体、そんな長さを掘る人がどこにいるのでしょうか? 深くになるにつれ、硬い鉱石などに妨げられる可能性だって否定出来ませんよ?》
深すぎる……。
2800メートルは流石に無理な領域。
恐らくユッケですらやりたくないだろう。
幾らレベルが200を越えているとは言え、2000メートル以上を掘るのはかなり大変なのだ。
更にユッケはゴブリン達を教えないといけない。
そのついでに2800メートルの穴を掘ってくださいと誰が言うのだろうか?
すると、モークが名乗り出る。
「穴掘り、僕がやってもいい? 穴掘るの得意だし。」
「いいのか? 2800メートルは流石にどれだけ大変かなんとなくわかるだろ?」
「消去法で考えたら僕が一番適任者じゃない?」
そう。
よく考えれば適任者は今の所モークしか居ない。
更にモークは穴掘りのプロであることはユッケとの戦いで証明された。
だが、ひとつだけ気になることがある。
もしも非常事態が起きたらどうするのだろうか?
最悪深い深い穴の中でしばらく滞在しなければならないという可能性だってある。
サングラスの解析だと、100メートル掘る毎に温度は凡そ2℃~3℃上昇するらしい。
2800メートルともなると、地表の温度が10℃の場合、なんと66℃~94℃にもなる。
その状況下で、助けが来るまで待つということは絶対にあってはならない。
幾ら熱に耐えられるモークでもそのような事には慣れていない筈だ。
「確かにそうだが……もし深く彫りすぎてでられなくなったら、非常事態になったらどうするんだ?」
「うーん。ユッケに手伝って貰おうかな? 時間の都合で無理だったら、ロープか何か垂らしてくれればなんとかなるし。ホントにピンチだったらサングラスで教えるよ。」
「なるほど。……わかった。じゃあ今からサングラスの話を聞いて掘ってくれ。」
「りょーかい! いい情報持ってくるまで待ってて。」
モークはそう言うと、今まで集めた毒草と緑草を俺に渡す。
……仕分けがぐちゃぐちゃになっているのは仕方が無いことである。
(そんなに経験していない人は普通こうなるんだよな。……しょうがないか)
俺はモークの仕分けた物を、また仕分ける羽目になった。
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―モーク視点―
……ここ?
念の為サングラスで確認する。
《はい。間違いありません。此処の真下を掘っていけば温泉にたどり着きます。》
よし!
つべこべ言ってもどうせやらないといけなかったし、とっとと始めよう。
俺は真下に向かって土を掘る。
「ゴッゴッゴッゴッゴッゴッ!」
30秒程で40メートル程進んだ。
……ズタズタな結果である。
調子が良いときは一秒で10メートルなど余裕だ。
でも、この土は非常に厄介。
何せ水分を多く含みすぎてしんどい。
掘っても掘っても掘った穴から勝手にドロドロと入り込んでくる。
これで雨期でも何でもないのだから恐ろしい。
本当にこの底に温泉があるのか心配になるくらいだ。
だが、こんな序盤の序盤で音をあげる俺じゃない。
構わず掘り続ける。
「ゴッゴッゴッゴッゴッゴッ!」
それから30分ほどたった。
進んだ距離はあれから僅か60メートル。
やってみようと意気込んでやっては見たものの、思った通り大変な作業である。
まだ100メートルそこそこなのだ。
すると、恐らくアイリスが穴を覗き込みながらこう叫ぶ。
「おーーーい! モーク! ユッケが戻ったからそろそろ帰るぞーーー!」
帰るって言ってもゴブリンの穴から十メートル程なんだか。
そう思った途端、ユッケが穴の中に入って俺を抱えて再び飛び立つ。
「温泉堀りご苦労様。」
「ホントは手伝ってホシインダケドナー。」
「暇があったらやるよ。」
ユッケは登る途中にそう俺に話した。
(もしユッケが居なかったらこの作業は絶対無理だったよな)
不思議なものだよなと思ったのは間違いない。
◆◆◆◆◆3日目◆◆◆◆◆
この日は朝食の後に大きなイベントがあった。
生徒(若い男女なので大人もいる)のゴブリン達に顔を合わせるとても重要な日である。
ちなみに誰が何を教えるかはすでに決まっていた。
俺
モークタン言語(村長ですら他のゴブリンに教えるのは至難の業らしいのでその助手)。
アイリス
回避などの防御系専門。
ユッケ
攻撃や魔法やどのアイリスとは違った戦闘系統全般。
後は3人でゴブリンの村をさらに発展させる為、生活で便利そうなアイデアを色々発案したりしようという方針で決定した。
村長の案内で、俺達は普通のゴブリン達が暮らすエリアの最も広い所に来た。
既にゴブリン村長が皆に伝えていたらしく、数百体(村長曰わく、人間のゴブリンの数え方は一体、二体と数えるらしい)のゴブリンが綺麗に整列して座っていた。
しかし、皆綺麗な容姿という訳ではなかった。殆ど風呂に入っていないのだから仕方がない。
(これは、一刻も早く温泉見つけないと、授業すら出来ないやつだね……)
僕は此処で、さらに強く決心した。
絶対温泉を掘り起こしてやる!
「では、対面式を執り行う。左から順に新しい先生を紹介する。皆さんの目で右側からモークタンのモーク先生。アイリス・オーリア先生。ユッケ先生です。それでは先生方、軽く自己紹介をお願いします。」
ゴブリン村長はそう言うと俺に最初の自己紹介を求めてきた。
適当に考えた言葉で自己紹介をする。
「モークタン言語の助手をさせていただく、モークタンのモークです。1ヶ月間という短い間ですがよろしくお願いします。」
俺はそう言うと少しだけ頭を下げた。
身体の体系上、ほんの少ししか頭を下げられないのだが。
頭を下げた後、ゴブリン達から拍手が送られた。
確か人間でも、こういう文化というか風習があったっけ?
そんな事を考えていた矢先、今度はアイリス先生が自己紹介をする。
「人間のアイリス・オーリアだ。他の人間には【臆病者】と呼ばれている。短い間ですがよろしくお願いします。」
アイリス先生が深々と頭を下げる。
ゴブリン達はというと……
皆がシーンとなった。辺り一面が静寂に包まれる。
……え?なんで?
俺は一瞬だけ頭がこんがらがったが、それを直そうとするかのようにサングラスが返答する。
《この森でアイリス様は10年間魔物相手に特訓をしてきました。その驚異的な回避能力と戦闘能力の恐ろしさはゴブリン達も知られており、皆が恐怖のあまり恐れているのです。後、人間だからという意味も含まれているかと。》
確かにゴブリン達をよく観察していると、身体がカタカタと震え、蛇に睨まれた蛙のように恐れていた。
「コイツのどこが【臆病者】なんだ???」という恐怖の感情が湧いてきそうな表情である。
「新任の先生方に失礼ですぞ! 拍手して暖かく迎えなさい!」
俺達は初めてゴブリン村長が怒った所を見た直後、ゴブリン達が盛大に拍手し始めた。
俺より拍手がより一段と大きいのは、皆アイリスの機嫌を損なわないようと気遣った為であろう。
(多分アイリス先生はゴブリン達の反応で傷ついて、心の中でちょっと泣いてそうだな)
本当の性格を知る俺は、アイリスの心の中が読めた気がした。
最後はユッケ先生である。
何故か角の付いた黒色の帽子を被っているのは何故だろうか?
帽子からなんかヘンな紐みたいなものがひょろひょろと出てるし。
※アカデミックキャップという帽子です。
「新任のユッケだ。1ヶ月という短い間だがお世話になるぜ。そんなお前たちの為に、俺が自腹で教育セットを買ってきたから、安心しろよ! よろしくな!」
「「「アハハハ!」」」
妙に慣れているようにそう言うと、ユッケも頭を下げる。
ゴブリン達はユッケのジョークに笑っていた。
ちなみにユッケの教育セットとは、昨日ユッケがイケザキ村で買ってきたものだ。
流石に教育セット一式をイケザキ村だけで買えた訳ではなく、あちこち飛び回ってかき集めたと昨日の夜に語っていた。
「白金貨1枚と金貨8枚もしたぜ!」とユッケが自慢気に語っていたのを聞いたアイリスが、驚くほどドン引きしていたあの表情は忘れられない。
※お金の単位については第2話参照。
俺達3人(二人と一匹)の自己紹介が終わった程は20分程の交流タイムのような時間があった。
その途中、ゴブリン村長が慌てて俺達を呼び寄せる。
村長は一旦交流タイムを中止し、ゴブリン達にはそれぞれの部屋に戻るように告げた。
「皆様、交流途中に申し訳ありません。実は来客がお見えです。」
「人間は非常に困るんだが……誰だ?」
「ダークゴブリン達です。」
「「「えっ?」」」
意外な来客に俺達は度肝を抜かれる。
でも、冷静になって考えてみるとまだマシな方だった。
コレが兵士や冒険者なら最悪の可能性だって想像出来た。
「ひとまず案内させてくれ」と村長に頼み、洞窟の入り口へ向かった。
洞窟の入り口に向かうと、数十体のダークゴブリンと見覚えのある顔、そして子供達がいた。
アイリスが腕を組んで見覚えのある顔に話し掛ける。よく見たら一昨日切られていた筈の左腕はすっかり元通りになっていた。
見覚えのある顔というのは、アイリスの左腕を切り落としたダークゴブリンのボスである。
「お前ら……自分等の縄張りはどうした? 金持ちの商人の件で色々準備しないとマズイだろ?」
「アンシンシロ。ナワバリハホカノダークゴブリンニマカセテアル。ソレニ、【意思伝達】デソウキュウニカケルツルコトモデキルカラシンパイナイ。」
「……なるほど。じゃあ、どうしてここに来た?」
「オヌシラガゴブリンタチニセントウノキョウイクヲスルトキイテナ、セントウノウリョクコウジョウノタメニ、ツイデニワレラモソノジュギョウトヤラニクワワリタイ。」
「……手加減はしないがいいか? しかもおまえ等はゴブリンよりも強いから多分最初から厳しいぞ? まあ、子供達は優しくするが。」
「ハハハ! モトモトワレラハホンキデタタカッテイタ。イマサラキビシイトイワレテモオドロクコトハナイ。ソレヨリ……。」
「それより? なんだ?」
「コドモタチニハ、マンガイチノトキハココデカクマッテモラオウトオモッテナ。」
よくよく考えたらダークゴブリンの考えは合っていた。
昨日の夜、サングラスについでとばかりにここの森の全体地図を見せてもらった。
すると、ダークゴブリンのいた場所よりもゴブリンの洞窟にいたほうがマシだとわかった。
いざとなれば反対側に逃げることも可能な上手い立地に囲まれていた。
ゴブリン村長はこれも考えての事だったのだろう。
アイリスはしばらく頭を下に向けて考えた後、俺とユッケにこう話し掛ける。
「ユッケ、モーク、村長。賛成か?」
「別に構わないな。」
「多ければ多いほど楽しそうだし……さんせい!」
「きっと鮮やかな授業になりそうですな!」
デメリットは無さそうなので俺はそう答える。
すると、アイリスがダークゴブリン達にこう答えた。
「よし! お前らも特別に許可する。だが、3つほど絶対守ってほしい条件がある。」
「……ナンダ? ジョウケントハメズラシイナ。」
「今俺達は温泉を作る計画をしている。そのためには穴を掘らなければならない。これが一つ目。」
「ベツニカマワン。ニクタイロウドウテイドデネハハカン。」
「二つ目。当然だがゴブリン達の危害、暴言、その他の侮辱行為などなどは厳禁だ。これは後でゴブリン達にも言っておく。破った場合はお前らの場合は即刻破門だ。それと、上下関係は一切なし。お前らとゴブリン達は対等の関係になるがそれでもいいか?」
「ワカッタ。」
「三つ目は商人が来た場合。その場合は日によるが、ゴブリン達も後方支援だが戦闘に参加する可能性がある。それでもいいな? ゴブリン村長が戦闘の指示を出す。」
「カマワン。ムシロメリットデハナイカ!」
「よし! ようこそ俺達の訓練へ! ひとまず、ゴブリン達に顔合わせに行くか!」
アイリスはそう言うと、ダークゴブリン達を連れてゴブリン達の暮らす場所へ向かった。
後ろでダークゴブリン達が非常に喜んでいたのは言うまでもない。
それからと言うもの、ダークゴブリンとゴブリンと先生の間で、大規模な交流が行われた。
僕はこの皆が笑って話し合う光景を見てこう思った。
他種族の魔物同士がこんなに分かち合えるのなら、僕達もひょっとしたら人間と共存出来るんじゃないか?
そう思えるような交流会だった。




