番外話 ナークプルとユッケ2
※注意
これは番外話です。
【臆病者】アイリスのストーリーにはあまり響きません。
後ろにユッケ戦の解説(一部)をしておきます。
後半辺りで胸糞シーンあり。
苦手な方はスキップしてもストーリーは繋がります。
「不快だ!」という感想が多ければ、差し替えいたします。
ユッケが【魔力暴走】で体の制御が出来ていなかった時、彼はナークプルとある約束をしていた。
―――――――――――――――――――――――
~ナークプル視点~
~ユッケ、モークと戦闘~
《……ナークプル、ちょっとした約束をしないか?》
ユッケとモークタンの戦闘を見ていた途端、突然ユッケが話かけてきた。
少し前にも同様の事があったが、急に耳元から声がしてきたら誰でも驚く。
……で、何?
どんな約束を私とするの?
《もし、俺が負けたら【臆病者】のアイリスを捕まえないでほしい。》
……と言うことは、もしあなたが勝ったら私は【臆病者】を捕まえる。
それは不都合すぎないかしら?
あなたがズルをする可能性もあるけど。
《こっちは【魔力暴走】で体が勝手に操られてんだ。だから、相手が誰だろうと殺す気で動かされる。》
【魔力暴走】!?
あなたの魔力5000ぐらいあったよね?
それは不味いのでは?
《ああ、本気で不味い。ホントに暴走したらごめん。【幻想世界】の範囲全部が俺の魔力で木っ端微塵に吹っ飛ぶ。》
私は冷や汗を額から垂らす。
一般の魔法使いでさえ、【魔力暴走】が完全に暴走してしまったら家数件が吹っ飛んでしまう。
大体魔力は400~500程だ。
もし魔力1000程の一流魔力使いが【魔力暴走】で暴走したら、一つの村が塵になる。
では、魔力が5000ならどうなる?
おそらく都市が消えてなくなるだろう。
だか、ここはユッケが作った【幻想世界】。
外にいる人は問題無いが、私を含む【臆病者】やモークタンは、ユッケの言ったとおり木っ端微塵になる。
……ユッケ、出来るだけ魔法は使ってはいけないで。
《わかっているけど……誰かが俺の体を遠隔で動かしている。つまり、体が言うこと聞かないから俺にはどうしようもない。》
現状まだ体力が回復していない私も、参戦したところで無駄死にするのがオチ。
おとなしく、戦闘を観察するほかない。
(あれから既に1時間少し、そろそろ【臆病者】のスタミナも下がってきているのに……特訓のせいだと言うの?)
そもそも1時間ずっと戦闘というのは、1時間全力疾走していると置き換える事が出来る。
そんな特訓を10年間やってきたから、そこまで出来るの?
《【臆病者】をずっと観察してきた俺が言うと……アイツは興味が沸いたから頑張れたんだ。総回避95を18歳までに突破しよう!とかな。》
興味? 頑張れる?
そんな事の為に10年間という特訓をしてきたというわけ?
《お前……根本的な事から誤解していないか? お前にとっては確かに『そんな事』かもしれないけどな、彼奴にとっては一種の大きな『夢』だったんだよ。》
夢?
冗談じゃない!
大体、【野蛮道】とかいう狂人は皆に悪影響をもたらす存在なのよ!
強い魔物を殺し続けた人間は、その事に快感と優越感に浸って人間を殺し続けるのよ!
※【野蛮道】については、第39話参照。
《ハァ~。なるほど、お前もそんな考えするとはな……呆れた。》
ユッケは溜め息を尽きながら大きく私の価値を下げている。
……何がおかしいの?
私はただ、事実を述べただけ!
実際【野蛮道】を歩いた人達は、殺すことに快感を覚えて人を殺しているの!
全員狂人と言ってもおかしくないじゃない!
《だからな、お前は先入観に浸りすぎなんだよ。俺は一応1000年程生きてきて、【野蛮道】とかいうやつを手に入れた人間の後をずーっと見てきた。どんな結果が待っていたと思う?》
殺人鬼になる運命でしょ?
《違う! 殺人鬼にされて殆どが自殺している。これが末路なんだ! おまえ等の先入観とかいうくだらない理論のせいでな。》
私は何も言い返せなかった。
冷静に考えたらそう。
【野蛮道】になったからと言って全員が殺人鬼になるとは限らない。
殺人鬼になる確率が非常に高いというだけで、中には頑張っている人もいるかも知れないのだ。
ただ、皆7年以上も格上の魔物と戦い続けたら殺人鬼になるんだ!という考えを持ってしまい、「殺人鬼だ! 殺人鬼だ!」といって誰でも責め立てていた。
じゃあもしその中に、ただ【野蛮道】に興味を持っていただけで、ホントは殺人鬼じゃない人物がいたとしたら?
つまり、私達はその先入観に踊らされていただけ?
《……まあ、ちょっと言い過ぎたかな? 別に、おまえ等の考えが完全に間違っているという訳ではない。実際、【野蛮道】になった4割程の人間は、同族を殺すことに快感を感じていたのは事実だ。非常に殺人鬼の割合が高いのも当然。でも、それを一括りにしてしまったせいで、殺人鬼じゃない一般人も追い詰められているという事実は知るべきだ。》
このユッケという人物は、まるで他の人とは違った考え方をしている。
世界のありとあらゆる常識に疑問を抱き、気になった事は徹底して調べる。そんな人物。
ねぇ、どうしてあなたはそこまで調べたくなったの?
仮に私達が1000年も生きれたとしても、私利私欲の為にその時間を費やす筈なのに。
どうしてそんな事に時間を費やしたの?
《そうだな、うーん。……単純な興味かな? 確かに最初の数年間は人間に紛れ込んで遊んでたな。カネは魔法次第では幾らでも手に入るし。ただ、人間と過ごしている間に、人間の常識や価値観を見た俺はその事に興味を持ったんだ。どんなくだらない疑問でもな。》
そしてユッケは、私にほんの一部の疑問を教えてくれた。
……確かにくだらない物も多い。
例えばこんな疑問。6枚のお金がある。
小石版
石貨
銅貨
銀貨
金貨
白銀貨
それぞれ100万回して裏が出る割合が多いのはどれか?
裏の割合
小石版 64.1459%
石貨 64.532%
銅貨 29.5413%
銀貨 29.4295%
金貨 29.473%
白銀貨 58.6532%
【結論】小石版の方が裏が出る確率が多い。
また銅貨・銀貨・金貨と小石版・石貨は同じ形状なので殆ど均等になったのでは?
白銀貨は知らんけど。
一般人の子供達の殆どが遊びに使っている小石版では理不尽。白銀貨で代用しよう!
あと、だるい。つかれた。
※お金の価値を忘れてしまったそこのアナタ。第2話へ直行!
などかなり大雑把な結論で終わらせているが、こんな事をやろうとする人間がいるはずがない。
何せ100万を6回、600万回コインを回すなど正気の沙汰ではないから。
実際、これを一人でやったユッケは、「だるい」と結論結果にまで愚痴を出している。
でも、そういう事ではない。
自分の疑問がどれだけくだらなくても、私利私欲にまみれる事が出来たハズの1000年という期間を作って様々な疑問に解決してきた姿勢が大事なのだ。
私は今日、新たな疑問が一つ湧いた。
(【臆病者】は、何故殺人鬼の手を染めなかったの?あれだけ高確率で心が壊れる所業で、快感の為に殺人鬼に手を染めた人が殆どなのに、どうしてそうならなかった?)
私は遠くにいる【臆病者】を眺めながら真剣に考える。
よく見たら、【臆病者】は魔剣を回避している。
2本だった筈の魔剣が4本になっていた。
多分ユッケの【魔力暴走】で間違いない。
魔剣と言うものはあまり一般的には知られていない。
魔剣契約の方法と素材がかなりグロくてキツイだけで、さほど害悪ではないと思う。
私的にはあまり好んで作りたくはない。
むしろピンチの時に守ってくれたり、意外な攻撃をしてくれることで大いに貢献してくれる事がただあるため、メリットの方が多い。
剣に触れることもなく勝手に動くのは、少し不気味なものだけど。
魔剣2本を回避するの自体、容易ではない。
5分ならまだしも、数十分という長時間になると集中力がきれてジリ貧になる。
しかし、それが4本になったのならば、常人では無理な領域。
まず10秒と持たない。
一方、モークタンは【臆病者】と交代してユッケに挑んでいる。
……え?
どうしてそんなに【臆病者】と同レベルの回避が出来るの?
私はすぐにモークタンのステータスを覗こうとする。
……が、肝心の回避能力がわからず断念する。
何かトリックがあるのでは?と懸命に彼らの身だしなみを探っていると、アイリスの付けているサングラスに目線が集中した。
(あのサングラス、付けるとなにかメリットがあるの?)
私はそのサングラスをじーっと見つめる。
……どこかで見たような気がする。
どこだったかな?
確かイミルミアの隣国だったあの国の村に行った時に、サン・グラースというどこぞの変態が法外金額で販売してた目玉商品にかなり似てる気がするけど……気のせいね。
~ユッケ【初祖・雷帝光王】発動~
「【初祖・雷帝光王】!」
ユッケが聞いたこともないような魔法を唱えた。
直後、巨大な魔法陣から直径100メートル程の雷が4発同時に放たれる。
ドーンというより、バーンという耳を塞ぐほどの轟音が【幻想世界】を襲う。
更にそこから1秒程に、今度は魔法陣の中心から直径300メートルの雷が地面に大激突する。
余りの爆音と風圧により、モークタンを抱えた【臆病者】が数十メートル程飛ばされた。
「アアアアアアアアアァァ!!!」
我慢出来なくなったモークタンは断末魔の叫び声を上げている。
よほど怖かったのだろう。
確かに私でも当分は夜眠れないぐらいの恐怖が襲うことだろう。
《コイツ……黄色魔法レベル7を唱えやがった!》
直後、ユッケが耳元で怒鳴る。
爆音と風圧の方が凄まじく、あまり五月蝿くないように思える。
同時に、戦闘している場所では砂埃が舞い上がり、視界が遮られる。
今の技は何?
今まで見たことも聞いたこともないけど?
《黄色魔法レベル7【初祖・雷帝光王】という魔法、威力と攻撃方法は見たとおりだ。さっきの魔法で1000強も魔力を持って行かれた! クソッ……本気でモークを殺す気かよ!》
黄色魔法レベル7。
黄色魔法の中でも最高クラスの魔法。
私が所得している魔法もレベル6が少し。
懸命に習得しようとしているが、大規模過ぎるためミスが目立ち、結局はすべて未完成のままだ。
(池崎様も黄色魔法レベル7の使い手。複数の魔法を持っていると聞いたけど、もしかしたら【初祖・雷帝光王】を持っているの?)
それよりも、ある程度手加減していたユッケが突然レベル7という大魔法を使用してきたのだ。
【魔力暴走】の混乱に生じて、ユッケを誰かが操っているという彼の発言は本当かもしれない。
もし彼が容易く人間を殺す性格ならば、かなり昔から指名手配で追われていてもおかしくないはず。
ねぇ、ユッケ。
誰に操られているか見当がつく?
砂埃の影響でしばらくの間は話せるでしょ?
《確かにそうだけどうーん、俺の予想だと操っているのは人間じゃない。多分と言うか、アイツしか居ない……あっ。》
?
詳しく「アイツ」というものを教えてくれない?
《そうだな、【虹スライム】というのを詳しく知っているか? でないと何も話せない。》
虹スライムって確か……。
1000年程前に今ある様々な国を作ってくださった方と言う話を少し聞いたことがある。
【救世主】と呼ばれていた存在が何者かの呪いによって、ありとあらゆる危険な生物を生む存在になった。
その危険な生物が後の《魔物》になったのだそう。
人々は虹スライムから受けてもらっていた恩恵をひっくり返すように虹スライムを責め立てた。
耐えられなくなった虹スライムは、責任をとって自らの意志でとある無人島へ離れた。
500年程だったある日、虹スライムは何らかの理由で異世界に繋がる扉をこの世界のあちこちに開いた。
現在、虹スライムがいるという報告はどこにも届いて無い。
けれど、帝国は血眼になって探しているわ。恐らく、人気のない所に住んでいるのでしょうね。
《……かなり博識だな。此処まで知っている奴は今の所数人だ。じゃあ、呪いというのはどんなものかを詳しく知っているか?》
ええ。
確か……瘴気だったかしら?
《そうだ。虹スライムは何かしらの瘴気によって魔物を生み出す存在になった。じゃあお前に聞こうか。瘴気って撒き散らされるものだよな? だったら、虹スライムの近くにいた奴は影響がないと思うか?》
……思わない。
直接その瘴気にかかったら、多分肉体そのものが耐えきれなくて普通は死ぬ。
間接的なら、まだ助かる可能性は高いと思うけど。
……まさか、あなたは……そういうことなの?
《大正解。俺は元人間だったんだ。瘴気を直接全身に浴びせられるまではな。》
私に恐怖という槍が心臓に突き刺さるような感触を受けた。
(何者かの瘴気を直接受けた人がいるということ?ユッケはその内の一人?)
ねぇ、ユッケ。
あなた以外にも瘴気を受けた人はいるの?
《確かにいたな。俺を含む5人……2人は即死。もう一人は意識不明の重体のち死亡。俺と誰かが直接瘴気を受けて、ギリギリ助かった。まだ20過ぎたばかりの青年だったぞ?》
1000年以上生きている帝王様ではないの?
《あのイミルミアちゃんか? ……んーっと……違うな。でも、俺みたいに強くなったという訳じゃないんだ。》
「……実際【魔法、魔術戦争】が勃発したのは、虹スライムが人間から去って約1年後だったからな。」とユッケは付け加える。
イミルミア様は前にいた旧帝国の王を恨んでいたという。
「僕がもっと早く強くなってたら、戦争が起こる前に旧帝国をぶっ潰してたよ」とみんなの前で公言するほどである。
(イミルミアちゃん……まるで年上が親しい子供にそうやって名前を呼ぶ感じがしたけど、イミルミア様はそんな強敵と会ったことがないと仰っている。第一イミルミア様は男の子……可愛い子供を呼ぶときはたまに男の子でもちゃんって言われるわよね。気にしすぎかしら?)
《とにかく、多分俺を操作していたのは虹スライムに瘴気を浴びせた奴なんだ。アイツなら瘴気を浴びた俺を操作するのは容易なハズなんだけどな。あの残酷極まりないクソッタレ! 今度姿を見せたらマジでぶっ殺す!》
怒りの様子が耳元の音からひしひしと伝わってくる。
近くにいたら恐怖で動けない位だ。
……とても悪いけど。怒るのは後にしてくれない?
それよりも、まだモークタンや【臆病者】が死んじゃった訳じゃない。
私の見た限りでは、直撃はなかったはずよ。
《……スマン、本気で怒りすぎた。しばらくの間、頭を冷やしてこよう。》
ユッケがそう言った瞬間、プツリと耳元から声が途絶えた。
それと同時に、ドッと疲れが来る。
怪我は殆ど治りかけていて、やろうと思えば剣を触れる。
しかし、ユッケに対する戦意はもうなくなっていた。
(私、色々勘違いしてた。今日は十分なくらい疲れたわね。殴られた分のお釣りが大き過ぎたわね。約束は守ってあげるわ。)
砂埃はまだ激しく舞い上がっていた。
~アイリスとモーク、ユッケを挟撃~
……当たった!
間違いなく心臓付近。
【ステータス】!
私はユッケのステータスを見てみる事にした。
そして、ダメージの詳細を確認する。
【ステータス】名前 ユッケ
レベル 276 ランク S-
体力 708/1345
魔力 1435/5492(【魔力暴走】)
攻撃 264/2540(!DANGER!)
防御 5959/6034
早さ 785/2838(!DANGER!)
速度 20/29.25
当会心 17.25/35.25(!DANGER!)
回避 42/44
当回避 42/43
総回避 66.36/68.08
残血液 3792/4000(1800)
経験値 21670308/500000000
次 21670308/23085600(1415292)
【注意】
現在、原因不明の【魔力暴走】が起こっています。
魔法の使用は極力控えてください!
―【魔力暴走】詳細――――――――――――
1.一部の魔法が使えなくなる。
2.極端に魔力を消費するか(ユッケの場合、推定500~1000)、ほとんど魔力を消費しないか(推定1~10)のどちらかになる。
3.全く予期しない場所に魔法の軌道が行く。
4.魔力を2000以上連続で使用すると、暴発して死亡する場合がある。
5.稀に意図していなくても、魔法が放たれる可能性がある。
6.例え自分の魔力でも、関係なしにダメージを受ける。
7.治療する方法は、感覚を開けて魔力を消費し続け、持っている魔力を0にする。
8.数時間何も魔力を使用せずに安静にする。
―――――――――――――――――――――――
ダメージ詳細
ENEMY1 人間 D 5
ENEMY2 モークタン E 5
【魔力暴走】 627
【魔力暴走】のせいで滅茶苦茶になっていたステータス表示が、いつの間にか元通りになっている。
そして、ダメージ詳細は確かにそう表示していた。
(【臆病者】とモークタン合わせて10!?防御力6000を一体どうやって突破したの?)
考えられるのは攻撃の際、かなり難しいと言われている同時攻撃を行っていた。
それだけである。
あの同時挟撃、それだけが唯一のヒントだ。
(この世界中の図書館を探せば、何かしらの手掛かりがある古い本が見つかるはず……)
ハッキリ言えば面倒な話。
しかし、このコンビ技のおかげでユッケの防御力を越えたという事実は大きい。
【黒十字団】の皆が考えたコンビ技で、今まで勝ったことがない強敵に勝てるかも知れない。
そう考えると、デメリットはかなり少ない。
《あの技を探す気か? 言っていることは素晴らしくていいけど、心が折れるほど大変だぞ?》
心の声をハッキリ読まれていることや、突然耳元からくる驚きに突っ込む気はしない。
大変なのはわかっているけど、やらないよりは全然メリットはあるでしょ?
《まあ、そうだな。》
それにあなた、彼等に防御力を破られたのよ。
どうしてそこまで動揺していないの?
《ビックリしてるさ。でもあいつ等ならやれる気がしてた、それだけ。おかげで操られて動けなくなった体が動かせるようになったしな。》
なるほど。
で、まだ決着が着いてないけどどうするつもり?
《本当はこんなに長時間戦うのは億劫だから、短期決戦でいく。》
確かに此処まで長期戦になると両者共に集中力が切れていく。
戦闘でも重要や要素である集中力が切れてくると、戦闘どころの話ではなくなるのだ。
ユッケの判断は正しい。
ええ、私もそれに賛成。
もしかして魔力をすべて使う気?
【魔力暴走】がかかっているんじゃないの?
《ギリギリセーフだな。残り魔力からして、暴走して死ぬことはないだろう。下手したら【臆病者】が死ぬ確率がある。そこでお願いなんだが……【臆病者】に魔法を唱えてくれないか?》
魔法?
どんなもの?
《体力が残り一桁以外になった際(一撃死亡の攻撃の場合必ず体力が1残り、強制的に発動する)、一定時間の間だけ無敵になれる橙色魔法【最後のあがき】だ。》
もしも所得していないといったら?
《嘘つけ。確かに橙色魔法という地点で珍しいが、お前の使える魔法の詳細は探知魔法で全部調べ上げた。》
このユッケの返答により、嘘はつけないと確信する。
私が地道に頑張って所得した橙色魔法レベル5【最後のあがき】。
ステータスは基本嘘をつかない。
逆に探知されると全ての情報が相手に丸見えである。
恐らく私と戦闘した後すぐに調べ上げだのだろう。
大人しくユッケの命令に従うことにする。
……ごめんなさい。嘘をついてました。
それで、その魔法を【臆病者】にかける理由は?
《……もしかしてお前は、人を見殺しにする人間か?》
違う!
そうじゃない。
あなたでもその魔法は使えるのでは?
《使えるけど、そうしたらお前の約束にかなり影響するぞ? 【最後のあがき】は結構魔力を使うからな。》
なるほど。
約束と人助けを両立するために私の魔力で【臆病者】を守れということね。
拒否してもメリットが無いため、私は【臆病者】に【最後のあがき】を唱える。
【臆病者】の体がうっすら橙色に光っていたのを見たため、おそらくこれで大丈夫。
《よし、後は結果だな。しっかり観察しておくといいさ。【臆病者】と呼ばれた奴の全力のあがきをな。》
ユッケはそう言うと私との会話を切り、【臆病者】と話をし始める。
4分すぎた頃、ユッケは数千発にも及ぶ魔力球を上方に浮かべていた。
まるで虹色に見えるその光景に、つい見とれてしまう。
最後の短期戦である。
~モークがユッケに一矢報いる~
収納魔法から出たモークタンは、ちょうど【重力操作】を使っていたユッケに一矢報いた。
私も【重力操作】を所得している。
危険な黒色魔法レベル3という低レベルの魔法の為、ギリギリ心を奪われずに済んだ。
(【重力操作】は便利な魔法だと思ったけど、まさかこんな弱点があるなんて聞いたことがない。便利な魔法だから帝王の冒険者特別許可で所得したのに!)
少し悔しくなった。
ユッケの手にナイフが深く刺さり、深紅の液体が流れていく。
同時に、青色の液体も流れ出て行く。
数千発の魔力球で魔力が大幅に減ったのに、此処で魔力入りの血を流してしまうと、魔法が尽きる可能性がある。
もしユッケが【臆病者】に【最後のあがき】を唱えていたら、魔力切れになっていただろう。
私に頼んでいなかったら、ユッケは魔力が足りなくては【最後のあがき】を発動できない。
(これが起こるのをもしかして予期していた?)
私はそう考えるしかなかった。
しかし、まだまだ魔力球は残っている。
【臆病者】の集中力は切れかけていた。顔がつらそうな表情をしている。
(このまま集中力が切れて私の勝ちね。)
私はそう思っていた。
いくら回避能力が高くても、あれだけの数では只では済まないからだった。
~ユッケ、魔力切れ~
《……ナークプル、約束通りに……【臆病者】を捕縛すんなよ……。》
ユッケは気絶する寸前にそう言っていた。
その直後、ユッケの体から湯気のような白い煙がうっすらと沸き立つ。
魔力が空になりかけている、もしくは既になくなったかのどちらかである。
本当に魔力がなくなったかも知れない。
まさか……そんな……。
あっ……有り得ない。
【臆病者】が勝った?
私は目の前にいる光景に衝撃を受け、ただただ数百メートル先にいる2人の姿をじっと見つめていた。
フッと時計を見つめると、あれからなんと2時間48分も経っていた。
【ステータス】!
ユッケのステータスを確認してみることにした。
【ステータス】名前 ユッケ
レベル 275 ランク S-
体力 621/1342
魔力 0/5488
攻撃 0/2515
防御 5933/5976
早さ 0/2811
速度 0/29.125
当会心 0/35.25
回避 0/44
当回避 0/43
総回避 0/68.08
残血液 3416/4000(1800)
経験値 21594553/500000000
次 21594553/21600300(5747)
【戦闘不能】
現在、魔力枯渇による戦闘不能。
回復まで数時間休息してください。
レベル差によるペナルティ発生。
レベルの消失発生。
愛称アイリス・オーリア、【臆病者】
愛称モーク
により戦闘不能。
一部の経験値を譲渡。
そこにハッキリと書かれていた。
戦闘不能。
250というレベル差のペナルティにより、レベルが消失している。
間違いなく【臆病者】が勝った。
そういう結果になった。
(私の負けねユッケ。【臆病者】を捕まえるのは、もう少し先の話になりそうだわ。)
してしまった約束は守らなければならない。
幼い頃にそう両親と約束したから。
すると幻想的なピンク色の世界【幻想世界】が砕け散り、元の【カルッツイロ草原地帯】に戻った。
(彼に出会ったら、少々厄介事になりそう……早く此処から去ってギルドの仲間たちに知らせないとね。)
私は【臆病者】捕縛を諦め、イケザキ村へと帰還した。
イケザキ村に帰還した私は、【臆病者】捕縛隊のリーダーに報告する。
イケザキ村の出入り口の門のすぐそばにある警備所のような所にリーダーは在籍している。
情熱を意味する赤色の鎧を着ていた。
銀製品なのは仕方がない。
男は木製の肘掛け椅子に座り、帝国製の葉巻を吸いながら傲然とした態度を貫く。
雇われた冒険者は如何なる地位でも下に見られるのだ。
昨日騒いでいたチンピラとはまた違うが、チンピラとさほど変わらない。
寧ろ昨日のチンピラよりタチが悪い。
金を使ってそこそこの地位にすがりついている【金上がり者】だ。
※【金上がり者】=この世界では、ロクな仕事もせずに金を使って高い地位についた者の事を言う。自分より位の低い者を嘲て楽しんでいるタイプが多い。
(これから【臆病者】じゃなくてアイリスと呼んだ方がスッキリするわね。アイリスの方がよっぽど【努力家】ね。)
私はアイリスの評価をぐぐっと上げ、【金上がり者】のリーダーの評価をガクンと下げる。
この人たちの考えに賛同した過去の私を殴りたい。
そして、本当というものを嘘で包み込んだ事のいきさつを語る。
すると男は木製のテーブルを勢いよく叩き、火を吹くが如く怒り狂った。
「バン!」という衝撃音が辺りに広がる。
「なんだと! 【臆病者】を取り逃がしたと言うのか! お前はどう責任とるつもりだ! アア!?」
「……はい。申し訳ありません。」
「だったらもういい! ああ、めんどくせー! なんであのクズ帝国があんな【臆病者】如きにこだわる? 士官なら俺の方にこいっつーの!」
色々言いたいことはある。
時と場合によっては剣を向けて喉元を刺していた。
しかしこちらは依頼されている上、失敗(見過ごし)した身。
下手に言えば【黒十字団】といての威厳は完全に地に落ちる。
ただでさえ、このミスで威厳は落ちているというのに。
そして、私は男にある提案をする。
「冒険者組合本部に彼の捕縛願いを提出しませんか?」
「ハァ!? テメー正気か? 金貨3枚かかるぞ! それに手続きが長くて嫌いなんだよ!」
「私がしましょうか?」
「金もついでに払ってくれるよなぁ! 失敗したんならそんくらいの責任はとってもらわねぇと困るなぁ、お嬢さん?」
「……ツッ!」
男は立ち上がると私の背後に、左手の人差し指で私の左頬を数度つついてそう言った。
それだけならまだしも、私よりも大きな右手で右胸を鷲掴みにする。感触を味わうかのように私の胸を弄るから余計にゾッとする。
私の心のなかでは憎しみと怒りがこみあげていた。
雇われた冒険者は依頼人に危害を加えると最悪、罪に問われてしまうのが、私の怒りを無理矢理抑えているだけだ。
私は触られた奇妙な感触が左頬と右胸からたなびき、それに畏怖する。
クズは私の体の感触を喜んでいるようだ。
体から黒紫色のオーラのようなものが見えた気がする。
金貨3枚は高額だが、払えない金額ではない。
しかし男の態度が非常に人の心に殺意を覚えさせる。
(ッチ……クズが。極小さな一つのミスで調子に乗りやがって……人がずっと大人しくしてるとは思うなよ!)
私は心の中で本音を吐く。
右手に拳を作り、力を込めて我慢する。こうでもしないと剣でコイツを斬りそうだ。
「……わかりました。捕獲したらあなたに手柄を渡します。」
「おお! なかなか物わかりが早えじゃねーかお嬢ちゃん。それじゃあ俺は巡回だから後はよろしくなー。ハハハハハ!」
男はそう言うとイケザキ村の商店町に向かっていった。
巡回というのは口実で、おそらく女と遊ぶつもりなのだろう。
その辺は無視だ。
「……後少しでクズの頭をへし折る所だったわ……女遊びのお陰で命拾いしたと思いなさい。」
男が過ぎ去ったあと、我慢出来ずに部屋の中で独り言をつぶやく。
皮肉と怒りが自然と混じった言葉になった。
(それより疲れた……確か此処に冒険者用の宿屋があったわね。)
警備所を出た私は【商業エリア】へ向かった。
今日はぐっすり休もう……。
色々な事が起こり過ぎた。
道中、「おお! 【黒十字団】のナークプルさんじゃないですか!」という声が数度かかるが、そんな事がどうでもよくなってきた。
愛想笑いと右手を上げて取りあえず対応をする。
(これが転機とかいう奴なのかしら?それともただの通過点?)
私は商業エリアを歩きながら、しばらくの間考えにふけっていた。
―――――――――――――――――――――――
※不備(詳細は省略)修正 加筆あり
ステータスに残血液追加
【金上がり者】の男がウザイと思った奴、素直に挙手!
……すいません、やってみたかっただけです。
――解説・補足――
Q.もし【金上がり者】の男とナークプルが戦ったらどうなる?
当然ですがナークプルの方が圧倒的に強いです。
ユッケには負けましたけど、何せレベル100をこえた超有名ギルドの団長ですから。
Q.アイリスが死にそうになった前話、もしも紫色以外だったら?
紫色の球の性質が理由で運良く助かったあのシーンがありましたが、仮に違った色の球でも【最後のあがき】でギリギリ助かってました。
Q.どうしてユッケは【風球】でナークプルを飛ばした?
ユッケがナークプルを跳ね飛ばした(31話)あの魔法、【風球】は、緑色魔法レベル1です。
もしあの時ユッケが【風球】を使用せずにナークプルを直接殴っていたら、確実にナークプルは一撃死でした。
ユッケの攻撃は本気でしたが、【風球】を使用する事で本来受けるハズだった衝撃を和らげていました。間接攻撃みたいなものです。
Q.ユッケの目的は?
ユッケはアイリスやモークを殺す気は端っからありませんでした。
単にアイリスと軽く勝負したかっただけでした。
元々ユッケはたまたまアイリスの特訓(詳細はネタバレになるので省略)をある日にみたことがキッカケで、その日からストーカーの如くアイリス(【臆病者】)を監視していました。
~監視した理由~
1.人間と話したことが少なすぎでどう声をかければいいのかわからなかった。
2.突然出会ったら【臆病者】に敵扱いされると思っていた。
3.どれくらいの期間まで特訓するのか見てみたかった。
4.どうして子供(当時【臆病者】推定10~13歳)がこんな命知らずな事をしていたのか気になった。
私利私欲にかられていたレベル100の冒険者がいるのに、子供が格上の魔物と戦っている様子を見たユッケは、【臆病者】に感心していました。
ちょうど【臆病者】がこのイケザキ村から出るようになったタイミングで現れたのは、声を掛けるのに都合が良かったからでした。
しかし此処まで長期戦になり、誰かの手によってアイリスとモークを一時的に殺そうという体になったのは皮肉なものである。
Q.一番ユッケ戦で活躍したのはアイリスやサングラスよりもモーク!?
勿論アイリスも活躍していましたが……それよりもモークの方が活躍しています。
アイリスがモークに「上級の干し肉、戦いが終わったら2枚あげよう」と言った程です。
~アイリスの活躍~
武器一つ無効(毒草の成分塗られた爪武器)
作戦会議の為の時間稼ぎ(ユッケを引きつける)
魔剣回避
爆竹の提案
モーク救出
モークによる罠作成の為の時間稼ぎ
コンビの大作戦
虹色の2000球回避
~モークの活躍~
戦闘データをサングラスに最速で所得させる
ユッケの物理攻撃無効化(罵倒による)
ユッケに【魔力暴走】(良くも悪くも)
大幅な作戦会議の時間稼ぎ
【初祖・雷帝光王】による魔物のカン
一手間加えた厄介な罠作成
コンビの大作戦
爆竹の実行
ユッケの手にナイフ刺す(魔物のカン)
~サングラスの活躍~
アイリスのデータ所得
モークのデータ所得
モークのサポート回避
ステータス分析・外からの探知魔法妨害
データ所得によるコンビ大作戦立案
ヤッパリモークが一番活躍していますが、この3人?がいなければユッケ戦は不可能だったのでは?
皆さんはどう思いますか?
ここらあたりでユッケ戦の解説を終わりにしたいと思います。
長文すみませんでした。




