第44話 アイリス&モークVSユッケ 11. 虹色の2000球
それから1分後。
遂に約束の時間が訪れた。
「さあ、そろそろ時間だ。アイリス。【罠破壊】!」
ユッケはそう言うとモークが作った罠をいとも簡単に破壊する。
「せっかく作ったのになんてことするんだ!」とモークが怒ったのは仕方のないことである。
頑張って作った物を他人に壊されたら大半の人がそうなる。
罠が壊れたことによりようやく罠から這い上がったユッケは堂々とした威圧を放ちながら両手に全ての魔力を込める。
あまりの魔力の量に「グォォォン」というおぞましい振動音が辺り一面に響いた。
その隙にモークは思いっきり深呼吸し、俺の収納魔法の中に入った。
サングラスを手渡しで返してもらい、俺はそれを掛ける。
ユッケは魔法を詠唱しながら少し驚いた様子で収納魔法を見つめると、すぐに小さな笑みを浮かべた。
「【火球乱舞】【氷球乱舞】【風球乱舞】【毒球乱舞】【光球乱舞】【黒球乱舞】【元球乱舞】!」
ユッケは7つの乱射系魔法全てを詠唱する。
ユッケの数十メートル上方には、色とりどりの魔法の球が浮かんでいた。
赤、橙、黄、緑、青、黒、紫
黒を藍色を見立てて考えると、まるで虹色のように見えた。
見る人の心を一瞬で鷲掴みするような輝く色に、俺はつい見とれてしまう。
(此処から見ると凄く綺麗だな。流石はランクSクラスのユッケ。一発でも当たるとかなり不利な状況になるのは間違いないな)
俺は目の前の凄まじい光景に、冷や汗が頭の皮膚から一滴垂れる。
ユッケの方をチラリと見てみると、かなりしんどそうな表情である。
多分今ので殆どの魔力を費やしたのだろう。
おそらく、40程しか残っていないのでは?
《ユッケの残り魔力は後37です。何かしらの隠し技を使うような気がします。》
そうか。
……ああ、そうだ。
モークの様子はどうだ?
《はい。……残念ながら、収納魔法の中に酸素。それどころか空気もありません。》
……そうか。何となくそんな予感はしてたんだが、これは面倒事が増えたな。
40秒間隔で一旦モークを取り出して、その間に息を吸うという作戦。
ホントはかなり面倒なんだが。
まあ、自分が考えたことにグチグチ文句を言うのは大人げないからやるけど。
俺は自分のステータスを確認する。ある一つのステータスを見て、自分に自信を持たせるためである。
……大丈夫。
俺なら頑張れる。
こんなものは特訓と一緒。
特訓で損したことなんてない。
戦闘スキルをトコトンあの森で学んできた。
【ステータス】名前無し(現愛称 アイリス・オーリア)
レベル 28 ランク D
体力 402/485
魔力 161/236
攻撃 84/101
防御 71/88
早さ 180/311
速度 5.875/7.875
当会心 7.375/9.125
回避 54/55
当回避 54/55.5
総回避 78.84/79.975
残血液 2942/4000(200)
経験値 2805/500000000
次 2805/3100(295)
また左側の数字が何カ所か増えている。
レベルがさっきの攻撃だけで2上がっている。
一回攻撃しただけでこんなに増えるのか?
《恐らく、レベルの差が非常に大きいためだと思います。レベルの差が大きいほど、何かしらの特別な経験値を貰えるという恩恵が付いたのでは?と推測しています。》
つまり俺より格下、または同レベルの魔物と戦った場合はあまり貰えないということか。
と言うことは、この勝負に勝ったら凄まじい程の経験値が貰えるという解釈でいいんだな?
《はい。下手をすればかなりのレベルが上がります。》
お?
そうしたら、運が良ければ総回避が80を超えるかもな。
《仮に敗北しても、ユッケはアイリス様やモークを殺そうとは思ってないようです。更に、レベル差が余りにもありすぎるため、ユッケに負けても経験値の消費は無いと思われます。》
俺は少し心が楽になった。
それでも最後まで自力で回避して生き残りたい。
全力で戦うことに意味があるのだ。
すると、詠唱を終わったユッケが合図を出す。
指で「パチン!」と音を鳴らしていたが、どうやったらあんな音がなるのだろう?
「さあ、そろそろ魔法の宴を始めようかな? 【我が下僕である魔力達よ。よくも我の許可なく好きに暴れてくれたではないか! もしその過ちを償おうという心があるのなら、我の目の前にいる敵に向かって砕け散ってこい! 行け! 敵の肉片を跡形もなく食いちぎってこい!】」
ユッケはそう魔力にいった後、俺に右手の太刀を向ける。
すると、ユッケの上方にいた魔力達が一気に押し寄せてきた!
一瞬だがその素晴らしく恐ろしい光景に圧倒される。
「勝負だ!」
俺は気合いの声を高々と掲げる。
【臆病者】と蔑まれた俺の全力をユッケに見せてやる!
―――――――――――――――――――――――
収納魔法の中に入れられたモークは、とても不思議な光景を目にしていた。
様々なものがプカプカと浮いているのだ!
全く底の見えない黒紫色の暗い空間。
初めての体験である。
―――――――――――――――――――――――
~モーク視点~
ジタバタジタバタ。
ナニコレ?
体が思うように動かない。
いや、プカプカと浮いている。
全く下が見えない。見えない奈落の底で宙吊りにされている気分である。
近くに何枚かの緑草がプカプカと浮いているのがハッキリと確認できた。
と言うか殆どアイリスの回復薬は緑草である。
そもそも黒紫色の世界の筈なのに周りが見えるのだ。
色々理解できない所が多すぎて頭がこんがらがってきたよ。
(……あれ?息が出来る。でも、有害ガスならマズイ。)
サングラス、この空気中の成分調べてくれない?
《……計測完了。酸素95.99%、窒素2%、二酸化炭素1.45%、残りは極小量で身体に影響の無い成分です。》
酸素があるということは、此処は大丈夫。
俺は我慢していた息を吐き出し、ゼェゼェと荒い息をする。
確かに大丈夫そうだ。
体の影響は無い。
無風だが確かに空気はある。
さて、アレがないかなと周りを見渡す。
数秒も経たない内、数メートル先にナイフを見つけた。
2本あるからある意味ラッキーである。
俺はプカプカと浮かばされているこの空間を、必死にあらがうように全力で体を動かし、ようやく2本のナイフに体が届いた。
ナイフを持った俺は全力で考える。
何かしらに使えないかな?
《では、アイリス様にモークの報告を……。》
ああ!
ちょっと待って!
……申し訳ないけど、「収納魔法の世界に空気は無かった」と嘘をついてくれない?
《……? メリットどころかアイリス様を余計に追い込ませるのでは?》
コレは魔物のカンだけど、多分ユッケは乱射系魔法以外に何かしら仕掛けてきそうじゃない?
ただ乱射系一筋というのはちょっと何か足りない気がするんだ。
ユッケはそんな単純な事は絶対にしない。
絶対アイリスを負かせる為に何かしらの魔法を使うために少量は残しているハズ。
《確かに、ユッケは魔力を40弱程残しています。使える魔法はかなり限られていますが、それでもあなたのカンではアイリス様を窮地に陥るものがあると?》
ある。
用はアイリスの回避するのを抑えればいいんでしょ?
ユッケの立場から考えると。
だったら、行動を制限する魔法を使わない?
多分ユッケが使う技は……。
―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――
―【臆病者】アイリス視点―
「……球の色によってどうやって回避するか違う事もあるから、そこんとこ気をつけろよ。」
ユッケはわざと俺にヒントを言っている。
やっぱりしんどそうだ。
(殆ど魔力残っていないから大変だよな。俺も魔法覚えてすぐに使いすぎてヘトヘトになったっけ?)
昔体験した恥ずかしい思い出をふと思い出す。
そんなことを考えていると、最初の魔力球が飛んで来る。
飛んできたのは橙色の魔法。
(さてどうする?……とりあえず一旦回避するか。余裕でかわせるし)
直線攻撃ほど楽なものはない。
当然の如くアッサリと回避する。
すると後方に飛んでいったハズの球は後ろから俺を狙っていた。
それどころか最初に突っ込んできたよりも球が大きくなり、かなり球の速度が上がっている。
俺はユッケからのヒントを心の中で復唱する。
そういえば色ごとにちゃんとした意味があったっけ?
(橙色魔法って確か勇者とかになりやすい人が覚える魔法だったよな?勇者、ゆうしゃ、ゆう、ゆうき、勇気、勇気!?)
勇気ということは……。
俺は飛んでくる橙色の球に自ら当たりに行く。
こんな無茶な行動は本来殆どやらないのだが。
何か柔らかい感触がした直後に球は破裂し、そして消えた。
ユッケが賞賛を送る。
「やるな! 橙色の魔法は勇気の魔法。逃げても回避してもダメ、恐れずに立ち向かう勇気を持つ人間にはこの魔法全般は殆ど通じなくなる。まさか1回見ただけでその選択をとるとは思わなかったぞ!」
つまり、橙色の魔法は消極的に動いてはいけないのだ。
俺は飛んでくる橙色の魔法に全力で当たりにいく。
次々と当たりにいく光景は何とも奇妙な光景であろう。
すると、今度は黒色の球が飛んでくる。
(そろそろモークを収納魔法から出さないといけない。……チッ、面倒だな。黒色だけじゃないな。)
よく見てみると、黒色の球の後ろから黄色の球が飛んできた。
ともかく、まずは黒色の突破口がわからないといけない。
(黒色は絶望と悪夢、暗黒などを意味してたな。ん?もしかしてこうか?)
俺は攻略できた橙色の球に向かって進み、それを持つ。
モチモチとした柔らかい感触がした。
……嫌いじゃないな。
そして、次に飛んでくる黒色の魔法に向かって右手に持った橙色の球を投げつける。
衝突した2つの球は、互いに小さな爆発を数発出した後、フッと消えていった。
そして、収納魔法からモークを取り出す。
「もうちょっと優しく掴めよ!」とモークがグチグチ文句を言っているが、「今はそれどころじゃない!」と一言で反論し、またモークを収納魔法の中に入れる。
何故かナイフ持っていた気がするが、そんな事はさておき、同じ作業を繰り返す。
橙色の球に立ち向かって鷲掴みし、黒色の球にぶつける。
それの繰り返し。
そんな中、ユッケは考えている素振りを見せていた。
多分黒色の球はこれで合っていると俺は思うのだが。
「……なるほど、そういうやり方も正解だな。魔力を消費しない最も正しいやり方だ。黒色魔法は元々悪に手を染めた人間達が好んで使う魔法。この魔法は橙色と特殊以外を全て飲み込んでしまう厄介な魔法でな。その後に黒色魔法に対抗するために橙色の魔法が生み出された。橙色魔法は覚えておくとかなり便利だぞ?」
恐らく魔力を使ったのなら面倒な手間が掛かっているハズ。
(多分、最も魔力消費が低い魔力球というものを黒色の球に食わせまくればいいんだと思うが、明らかこっちの方がまだ効率がいい。)
俺がそんなことを考えながら単純作業を繰り返していると、いつの間にか殆ど黒色も攻略していた。
次は青の球。
(青は確か冷静とか、冷酷とか余り冷たい印象の意味しか無かったよな?冷たい戦闘……まさかそういう回避か?じゃあ反対に赤は動く戦闘……何となくわかってきたぞ)
俺は橙色と黒色を潰しながら、青色の近くに立つ。
立つ。ただそれだけ。
立つだけで何もしない。
すると明らかに俺を狙っていた青色が突然急激に小さく、そしてヨロヨロと漂うようになり、数秒後には突然消えた。
「青色は冷静、つまり冷たい戦闘を意味する。音が無い戦闘をするだけで十分。まあ立つだけという選択をしたものは今まで一人もいなかったけどな……。」
ユッケは「よく魔法球の目の前で、平然と何も行動せずに立っていられるな。正直怖くなってきたぞ……。」と俺を茶化す。
俺を少しでも怒らせて冷静な判断力を失わせる作戦なのだろうが、生憎俺の沸点は低くない。
そんな事は無視して、次は赤色の球だ。
同時に青色の球も向かって来ている。
僅かだが橙と黒も飛んできた。
俺はモークを取り出して、モークに息をすわせた後にまた収納魔法に入れる。
気のせいなのか?俺の目が疲れたかな?
モーク、息吸って無いぞ?
考えている時間は無い。
そして、俺は飛んでくる球に向かって静かに走り出す。
橙色の球を両手でつかみ、それを黒色に向かって投げる。
すると数秒前に走っていた所に赤色の魔法が衝突した。ゴォォという轟々とした音を出しながら上に火炎放射を放つ。
そして幻想的な草原は、一定の区間が完全に黒こげになってしまった。
静かに走っていたため、当然青色の魔法は勝手に自滅している。
「赤色は青色の反対。つまり動かないとダメな魔法なんだ。静かに動かないと青か赤にやられる。そこんとこは注意しておけ。」
(まるで師匠に教えられているような錯覚を覚える。だが、この乱射系魔法を俺に教える理由がわからない。)
俺は妙な感覚をユッケから感じ取る。
全色の乱射系魔法を使う奴なんて今まで見かけた事が無いぞ?
まあ、レベル276のSクラスの人が言うんだからデメリットはないだろうと俺は真剣にユッケの話を一言一句聞き取る。
サングラスがついでとばかりに全ての音声を録音していたと言ってきたのは少し複雑な気持ちになった。
残りの魔力球があと800を切った頃、収納魔法からモークを取り出そうとしたその時、ユッケは動き出した。
「まさかそんな単調なものでおわる勝負だとは思っていたのか……甘い! 【重力操作】!」
ユッケは聞いたことがある魔法を俺に向かって使用しだした!
モークを取り出そうと右手を収納魔法の渦の中に突っ込んだ直後の事だった。
ジリジリと体がユッケの右手に吸い寄せられていく。
そんな感触がし始めた。
(ヤバイ。このまま吸われたら赤や青の魔力球をくらいながらユッケの一撃を受ける羽目になる。それだけは避けないと。)
俺は吸われないように両足で踏ん張るが、吸い取られる力の方が少し強いらしい。
ジリジリと体が吸い寄せられていった。
(此処までか!?)
だが、ジリジリと体がユッケに吸い寄せられていくのはほんの最初だけだった。
突然止まった事に、「ん?どうして止まった?」という強烈な違和感に俺は戸惑いを隠せない。
俺は赤や青などを回避しながらチラッとユッケの方を見る。
ユッケは非常に苦しそうな表情をしていた。
必死に我慢しているらしい。
「……チッ。や、やるな。……まさかお前がこの魔法の弱点を突いて、こんな攻撃をして来るとは思いもよらなかった……。」
ユッケの右手には、ナイフが深々と刺さっていた。
かなりの速度でナイフが飛んできたのだろう。ピクピクと震えだし、赤黒いドロドロした液体が傷口から溢れ出している。
赤黒い液体に混じって、青色の液体も流れていた。
魔力を含んだ血液に間違い無さそうだ。
では、ナイフを投げたのは誰か?
俺ではない。
考えられるのは一人。いや、一匹しかいない。
俺は収納魔法を見る。
モークが収納魔法の渦からひょっこりと顔を出しながら、もう一本のナイフを持って構えていた。
「やっぱその魔法を使ったか。【重力操作】されるときにナイフを投げたのは正解だったな。」
「何時から【重力操作】の弱点を知った?」
「俺が実際吸い込まれそうになったとき、おかしいと思ったんだよ。自分だけしか吸い込まれない状況に不思議を持ったんだ。何かしら吸い込む対象を特定する方法があるんじゃないかってな。だから俺はタイミングを狙ってナイフを投げたんだ。【重力操作】がアイリスに対象を特定する前に、先にナイフを対象にしてしまえばナイフだけが吸い込まれる。」
イマイチ俺には難しい内容だ。
要は吸い込まれる対象を先に変えただけと言うことか?
俺が吸い込まれるハズがモークが投げたナイフにいつの間にかかわっていたと言うことになる。
《大体合ってます。》
まあ、合ってるのか。
ユッケは諦めたような表情をする。
いや、諦めと言うよりもうっすらと笑みを浮かべている。
「やられた……フフッ。これはレベル差が300あろうが400あろうが変わらないな。優秀なペットのモークタンと、【臆病者】だけど優秀な飼い主じゃないか。」
ユッケは独り言のようにそうつぶやく。
けなしているようには一切見えない。
外見からはモークタンを飼った【臆病者】にしか見えない。
だが、それに「優秀な」がつくと少し違ったものになる。
もやもやしている部分が抑えられなかった俺は、少し疑問に思った点を此処で言っておこうと思った。
「……なぁユッケ、お前はどうして俺にそこまでする? 最後の勝負まで俺に試練のような事をするんだ? 下手したらお前、レベル差がありすぎでお前のレベルが下がる可能性だってある。だからもう一度聞く。お前はどうしてそこまでする?」
とりあえず、念を押しで二度聞いてみることにした。
3回聞いているような気もするがもう遅いのである。
(って言うか、いつの間にか俺を襲ってた七色の魔力球が止まってる。ユッケがわざと止めたのか……)
ユッケは少し俯いていた。
恐らく言うか言わないか悩んでいるのだろう。
俺は黙って返答が来るまで待つ。
モークも空気を呼んだらしく、ナイフを体でブンブンと弄りながら彼の返答を待つ。
俺の返答が返ってきたのは、それから40秒を経過した頃だった。
「別にお前を特別扱いしている訳ではない。まあ普段女をはべらして有頂天になっているレベル100程度の奴らと比べたら、お前が立派なのは間違い無いけどな。レベル差のある相手と10年戦闘するのは正気じゃないからな。」
まずレベル100になった所で俺はそこまで嬉しくは無い。
強いて言うなら、国からそこそこ重い18金のネックレス付きメダルを貰えるくらいだ。
記念程度にはなるだろうがそこまでの価値だ。
俺が一番見たいのは、レベルはどこまであがるのか?
300? 400? 500? 999? 9999?
一度でいいから限界を見てみたいのだ。
これは夢ではなく単純な好奇心。
10年もあれをやったのは「総回避95以上」の他に、「レベルの限界」を見たかったからだ。
(結局あんだけ戦闘して25止まり。俺だけレベルアップが遅いのかな?他の奴らは授業の稽古のみで既にレベル35だぞ?)
俺はユッケの言葉に様々な思考を巡らせていた。
更にユッケは言葉を続ける。
「俺が1000年も強い冒険者求めて戦ってたって話は聞いたな。だったら普通は指定手配とかに普通出てくるだろ。でも過去俺が指定手配に載った事は無い。どうしてでないと思う?」
「確か……命をとらなければ冒険者と冒険者が戦っても大丈夫という奴があった。と言うことは、命はとってないと言うこと?」
「ああ、絶対命は取らない。まあ、おまえ等の場合はイレギュラーな事態が起こったから、一時は殺す気満々だったかもな。だがどんな愚か者でも、どんなクズでも命は絶対とらなかった。」
「何故取らなかった? もし俺だったら、酷い奴は多分葬ってたぞ? 俺は平和は血を流して取るものだと思っているからな。」
正直言うと争いは好きでは無い。
出来ることなら大抵は話し合いで終わらせたい、
ただ相手が殺る気なら受けて立つ。
あっちが滅ぼす気ならこっちも滅ぼす気持ちでいこう。
俺なら鏡のような対応をするといった方が正しい。
多分、今のモークは人間の心次第では殺そうと考えているだろう。
「俺を皮肉る為の言葉で本心では無さそうだが……過激な発言だな。言っておくが、俺はある仕事をしてたんだぞ? 1000年前のある出来事以前は。」
「それってもしかして……ごめん、なんでもない。」
まるで教えられているような戦い方と個人個人の能力を伸ばすような戦闘方法。
ある一つの職業が思い浮かぶが、多分言ってしまえばユッケの心を抉ることになりそうだ。
言いかけたがすんでのところで止めることにした。
「さて、本当は収納魔法の中に虹色の魔力回復薬があるのだが……それだったらこの勝負を長く響かせるだけ、お前が不利になるだけだ。だから使用しないことにする。」
虹色の回復薬あったのかという事実に俺は一瞬驚く。
見てみたい気持ちが少しだけ膨らんだ。
「ちなみに最後に言っておく。黄色と紫色、それに緑色の魔法の球。実はコレはある一つの方法でしか突破できない。」
ある一つの方法なんて決まってる。
俺が10年かけて必死に培ってきた努力の賜物。
「回避だろ? これを回避し、生き残ったら俺達の勝ちだな。」
「……大正解。じゃあホントに最後の試練だ!」
ユッケが右手の人差し指を俺に向ける。
すると、さっきまで止まっていた七色の球が俺に向かって遅いかかってくる。
黄色と紫色が大半を閉めているが、残りはさっきのやり方で突破出来る。
するとモークが俺に向かって言った。
体の半分が収納魔法の渦からはみ出している光景はあまりにも奇妙なものである。
「アイリス、流石にもう限界だ。実は収納魔法の中は酸素がある。だからもう一々出さなくていいよ。」
「お前、これのことを予測してサングラスにウソをつかせたのか?」
「コレが魔物のカンって言うもんだぜ!」
モークは「俺は凄いんだ」と言わんばかりに威張っている。
俺との初陣にしては大活躍だ。
正直誉めまくりたいほどだ。
口と態度以外は。
「すごいなモーク。今度からお前のウソも信じてみるよ。でも、程々にしとけよ。」
「わかってるって!」という言葉を最後に、モークは収納魔法の中に入っていった。
万が一俺が死んだら収納魔法の中にいるモークはどうなるのかとうっすらと考え込んだが、今はそれどころではないのでバッサリと切り捨てる。
死ぬことはないとはわかっていても、死ぬ可能性が0になった訳ではない。
生きるか死ぬかと言うときに、「死んだらどうなる?」なんて事は考えてはいけないのだ。
俺は「死んだらどうする?どうなる?」という考えをバッサリと切り捨て、サングラスに聞いた。
サングラス、魔力球はあとどれくらい残っているんだ?
《残り852 黒色11 橙色23 赤色35 青色41 緑色248 黄色247 紫色247です。》
わかった。
俺は両手で橙色を掴み、それぞれ黒色にぶつける。
出来るだけ音をたてないように慎重に走りながら着々と、確実にこなしていく。
数十秒後には、遂に残すは緑、黄、紫の3色になった。
残り742球。
此処からは完全なる己自身の回避能力のみ。
まず扇形に緑色の球が飛んでくる。
数十メートル先。
何とかなる。
数十メートル後ろに下がる。
すると飛んできた緑色の扇は、次第に俺に近付くにつれて球と球との間が開いていった。
俺はその隙間を通り抜ける。
そして、ほとんど同時に黄色と紫色の200球が襲いかかってくる。
立て続けに回避していた俺だが、この回避の終盤辺りで異変が起き初めた。
(チッ……一発掠ったか。まあ、それぐらいなら許容範囲内だからいいのだが……)
この200球を回避したあと、今度は残りの緑色全てが襲いかかる。
緑色はまだ行動が読みやすい挙動をする。
しかし、此処でも掠り傷を一発食らってしまった。
(しまった!俺としたことが……そこまで複雑な攻撃じゃ無いんだがな……)
俺は収納魔法から緑草を取り出そうとしたが、何故か収納魔法が出てこない。
サングラスの話だと、ユッケは今極限状態にも関わらず、俺が魔法を使わせないように僅かな魔力で妨害魔法をつかっているらしい。
100秒後には使えるのだとか。
その時はもうすでに戦闘は終わっている。
俺はサングラスを経由してユッケのステータスを軽く見てみることにした。
(魔力残り一桁!?この状態でも耐えられんのかよ!)
普通一桁(魔力を沢山持っている魔法使いや冒険者が対象)になると立つことすら出来ない。
ましてや魔法を使うなど以ての外。
ユッケは現在、今まで体験したことのない極限状態にいる。
必死に2本の足で体を支え、右手刺さったナイフを抜くこともなく小指にかすかな魔力を灯し続けている。
俯いていて顔は確認出来ないが、いつ倒れるかわからない状態だ(死ぬことはない)。
そして俺も危ない。
集中力がガクッと落ちてきている。
普段ならアッサリと回避出来た緑色の球ですら、掠り傷を食らってしまった。
残り300少し。
すると、極限状態のユッケから言葉が出て来た。
「……なぁアイリス。……残り300。これが最後だ……、だっ……だから、これで俺とお前の勝負が決まる。……でも、今のこの状態じゃ……助けられないのが事実……。だから……連発くらって死ぬなよ。」
ユッケは必死の形相で俺を見る。
顔は青ざめ、足がガタガタと震えている。
俺もユッケもギリギリなのだ。
(まさか俺が連発くらったら助けるつもりでいたのか。だとすると、モークのナイフで血と一緒にかなりの魔力が流れたからな。ホントに予想外の攻撃だったんだな)
俺がユッケの事を考え終わった直後、残った300余りの球が一斉に襲いかかってきた。
回避。
回避。
回避。
だが、悲劇が起こった。
集中力が落ちてきている今、ここで思いもよらないアクシデントが起きた。
運悪く、地面にあったそこそこの石で足を挫いてしまったのである。
(……ナッ!)
集中力が落ちかけていた俺は、我慢できずに前のめりに倒れこんでしまった。
それを望んで居たかのように、緑色の球数発が俺の腹にガツンと激しく衝突する。
「ガバッ!」
余りの衝撃に俺は勢いよく吐血し、5メートルほど後方に殴りとばされた。
とばされた先には更に別の球が待ち伏せしていたのだ!
まさに偶然の出来事。
(終わった……)
俺は一瞬だけだが間違いなくそう思った。
ホントに死んだと!!!
(……なる程此処で死ぬのか……そう思えば楽な人生じゃな……ん?なんで少し回復している?……あ、ラッキーじゃん!)
何と待ち伏せていたのは紫色の球だった!
毒で回復する俺には、毒のダメージをもつ紫色の球はラッキーなのだ!
幸運にも死ななかった。
天が俺に勝てといっているのだ!
とばされた俺はすぐに立て直し、全神経を集中させる。
すぐに球は俺を狙って飛んできているが、ここは集中するために目を閉じる。
大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫、大丈夫!
心に気合いを注入した俺はカッ!と目をあけ、全力で魔力球に立ち向った。
―――――――――――――――――――――――
最後の300発が消えた後、数十秒の間は静寂に包まれていた。
今回のアイリス&モークVSユッケの戦闘は、従来の戦闘とは全く異なっていた点が数ヶ所見受けられた。
まず、非常に長期戦であったこと。
【幻想世界】が出来、ユッケとアイリス達が戦闘を始めてから此処まで、
2時間47分という時間が経っていた。
平均的な戦闘時間は冒険者のレベルと魔物の強さで上下するが、短くて3分長くても15分というところだ。
また、冒険者が戦える時間は30分が限度という一般常識まである。
つまり、この2時間47分という時間は余りにも異常な長期戦だった。
次に大事なのは膨大なレベル差。
この世界の一般常識は、
レベル差が10以上で勝率20%未満。
レベル差が20以上で勝率5%未満。
レベル差が30以上で勝率0.01%未満。
という研究結果が出ている。
しかし、アイリス達とユッケのレベル差は250。
たった一つのこの戦闘で、複数の一般常識がことごとく崩れ去っていった。
そして、結果をみていたナークプルはこの結果に衝撃を覚えた。
―――――――――――――――――――――――
~ナークプル視点~
まさか……そんな……。
あっ……有り得ない。
【臆病者】が勝った?
私は目の前にいる光景に衝撃を受け、ただただ数百メートル先にいる2人の姿をじっと見つめていた。
フッと時計を見つめると、あれからなんと2時間48分も経っていた。
【ステータス】!
ユッケのステータスを確認してみることにした。
【ステータス】名前 ユッケ
レベル 275 ランク S-
体力 621/1342
魔力 0/5488
攻撃 0/2515
防御 5933/5976
早さ 0/2811
速度 0/29.125
当会心 0/35.25
回避 0/44
当回避 0/43
総回避 0/68.08
残血液 3416/4000(1800)
経験値 21594553/500000000
次 21594553/21600300(5747)
【戦闘不能】
現在、魔力枯渇により戦闘不能。
回復まで約数時間かかります。
レベル差によるペナルティ発生。
レベルの消失発生。
愛称アイリス・オーリア、【臆病者】
愛称モーク
により戦闘不能。
一部の経験値を譲渡。
そこにハッキリと書かれていた。
戦闘不能。
250というレベル差のペナルティにより、レベルが消失している。
間違いなく【臆病者】が勝った。
そういう結果になった。
(私の負けねユッケ。【臆病者】を捕まえるのは、もう少し先の話になりそうだわ。)
してしまった約束は守らなければならない。
幼い頃にそう両親と約束したから。
すると幻想的なピンク色の世界【幻想世界】が砕け散り、元の【カルッツイロ草原地帯】に戻った。
(彼に出会ったら、少々厄介事になりそう……早く此処から去ってギルドの仲間たちに知らせないとね。)
私は【臆病者】捕縛を諦め、イケザキ村へと帰還した。
―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――
―【臆病者】アイリス視点―
《通達、ユッケの魔力が枯渇しました。数十秒後に戦闘不能になります。》
終わった……のか?
俺はゼェゼェと息を荒くしながら、ユッケを見る。
我慢できずに地べたに腰を付いた。
俺は緑草で回復するために収納魔法を発動する。
どうやら使えるようになったようだ。
(今回の戦闘は反省点が多い。逆にモークは大活躍だったな。……あっ、そうだ。収納魔法にモーク入れてたんだった)
収納魔法からモークを取り出す。
「おっ? 勝ったのか? ユッケは……大変だったな。」
モークが軽い調子で俺に聞いてくる。
だか俺とユッケが非常に疲れていると知った途端、申し訳無さそうに肩をトントン叩いてくれた。
モークには手が無いため、外から見れば攻撃しているように見える。
実際はモフモフと柔らかい触感が肩に当たるため、小さい子供に肩をトントンされている気分がする。
もちろん嫌いじゃない。
一方ユッケはトントンされている俺を見つめて満面の笑みでこう語った。
「……アイリス、良い相棒を持ったな。試験は……合格だ。」
そういうと、ユッケはふらりと正面から倒れた。
「ドサッ!」
大きく倒れる音がした。
勝負の決着がつく音。
あまりの勢いに被っていた兜が勢いで取れていた。
《戦闘結果、アイリス&モークVSユッケ。アイリス&モークの勝利。ユッケのレベルが消失しました。アイリスとモークのレベルが大幅に上昇しました。》
直後、ピンクの世界を作った【幻想世界】が消滅し、元の【カルッツイロ草原地帯】に戻った。
金色の枯れ草が、風によってたなびいている。
倒れたユッケと俺達は、確かにその中で戦っていた。
「勝った! 勝ったぞ!」
モークは高々と大声でそう叫んだ。
間違いない。
俺達の勝利だ!
いつの間にか俺は拳を上に突き上げていた。
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これにて長編だったアイリス&モークVSユッケ編は終了です。
この戦いに10万字は少しやり過ぎた気がします。
長過ぎと感じた方はいると思います。
もう当分(40話程先?の予定)の間は、此処まで長い戦闘(10話以上の戦闘)は無いです。
しばらく安心してください?
此処まで読んでくれた皆様方ありがとうございます。
※タイトル修正
42話→44話
※不備(詳細は省略)修正 加筆あり
かなり修正した部分がおおいです。
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