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野蛮学校物語  作者: yukke
第2章 運命の魔物たち編
44/116

第43話 アイリス&モークVSユッケ 10.  尽きるか死ぬかの提案



 サングラス、そろそろ行動してもいいか?



 《何時でも大丈夫です。》



 モーク、そろそろいぐぞ。


 『りょーかい、コッチは任せろって!』



 俺達は最後の行動を開始した。



―――――――――――――――――――――――



 【臆病者】は突然、ユッケとの戦闘を中断し、モークの元へ駆け寄る。

 その時モークに向かって()()を投げ渡しする。


 虚を突かれたユッケは一瞬思考が止まった後、全力で彼を追う。

 しかし、全力とは言ってもたかが6メートル程度。


 余りにも短すぎる競走にユッケは【臆病者】を追い越す事が出来なかった。



 その時、落とし穴のトラップが作動する。

 余りにも突然の事にユッケは驚いた。



 が、ユッケにとってはそんな小手技など通用しない。

 1000年間も戦ってきたユッケにとって罠程度なら体たらくの冒険者でもやってきた。


 (S-ランクの俺がこんな落とし穴程度で動けないことなど……えっ?)

 

 ユッケの足は動きを止めた。いや、動かせなかったという方が正しい。


 動かそうとしても何故か動かせないのだ。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()が装備からピリピリと伝わってくる。

 ユッケは罠をかがみながらジッと覗く。


 (……装備の弱点を付いたか。モークも相当頭が回るらしい)



 ユッケの現在の装備はこうだ。


 武器装備はある。

 両手には80センチほどの太刀。

 腰には剣を携えている。

 後は己の拳と足、それと多彩過ぎる魔法。

 

 防具装備は、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()鋼鉄の防具。


 頭には異世界人の【にほん】が昔付けていた【戦国時代】の兜の用なもの。



 なんと鋭い針が数本付いている鋼鉄の防具が、中途半端に刺された木の棒に引っかかってしまい脱出が出来ないのだ。


 一応、防具を外せば脱出は可能だ。

 しかしこの穴の深さと大きさが少し小さいため、抜け出すのに少なくとも30秒はかかるであろう。



 その隙に、アイリスとモークはユッケを中心にして互いに逆の方向へ一直線に走り出す。

 モークの方が少しユッケとの距離は短い。



 ユッケはその隙に防具を全力で外そうとする。

 しかし、もがけばもがくほど防具は穴の奥底へ段々と沈んでゆく。穴の底に細かな砂があり、自然と奥に吸い込まれているのだ。



 数十メートル程ユッケから離れた【臆病者】は、突然切り返して右手にナイフを構える。

 そして、全力の走りでユッケまで走る。


 同時にモークも、14メートル程で切り返してユッケに襲いかかる。

 勿論、ナイフを構えて全力全速で。



 (これは……一発やられるかな。でも、防具力6000をそれで乗り越えるのか? それに、コッチはまだ手を動かせる。)

 

 ユッケは【臆病者】とモークに向かって両手を構える。


 (すまないが食らえ、【火球演(ファイヤーダン)】……)



 「させるか!」



 するとモークが突然自分のモフモフした体を生かし、あるものをユッケの近くまで飛ばす。


 コロンコロンと転がり、ユッケの近くまで止まったその赤い物体には火が付いていた。



 「ババババババン!」



 突如、その赤い物体は大きな破裂音を慣らしながら四方八方に弾け飛ぶ。

 その大きな破裂音に耐えかねたユッケは思わず耳を塞ぐ。


 モークが投げたものは異世界人の発明【バクチク(爆竹)】。


 紐で数百ほどの赤い筒に火をつけるとこうなる。

 ムカデのような形から吊したものまであるが、【臆病者】はムカデ状に繋げた100程の量を予めモークに渡していた。


 ※異世界にある中国という国の音響花火の一種。竹筒や紙筒に火薬をつめて並べ,その端に点火して,次々に爆発させる。元来は青竹をたいて爆音をたてることをいう。魔除けになるとされている。


 事前に渡して途中で破裂してしまっては元も子もなかった。当然モークは収納魔法を習得していないのである。

 だから【臆病者】は直前に渡したのだ。


 如何に強者と言えども、音に対する耐性をわざわざ所得しようとする者はそうそういない。

 また、想定外での大きな音ほど戦闘を一時的に妨害できるものはない。


 耳がない、音が聞こえない、音に対する耐性があるなど以外の敵全てに有効なのだ。



 ユッケは【バクチク】を知っていたのにも関わらず、防御出来なかったのはそのためである。

 

 (まさか異世界人の余り物の【バクチク】という代物を、この切迫した状況で投げてくるとは思いもよらないだろうな。しかもこれ、()()()()()()()()()()()()()()()だし)


 【臆病者】は思わず少しだけ悪い笑みを浮かべる。

 実際聞いたことがあるため動揺もほとんどなかった。

 ……正直なところうるさいけれど。



 モークはというと、意外にも音に対する耐性は少々あった。


 モフモフしている体が音の衝撃を少しばかり軽減してくれているような気がする。


 実際モークは【バクチク】を知らなかったが、想定してたものより音が小さいと思ったため、爆音に気にせず加速する。



 【バクチク】が破裂してから数秒後、ユッケは何とか耳を慣らすことに成功した。

 だが、時既に遅し。


 【臆病者】とモークが数メートルまで迫って来ていた。




 ((コレが俺達の全力だ!))




 【臆病者】はユッケの右から、モークはユッケの左から。


 ユッケの心臓付近である左胸を左右からナイフでほぼ同時に、全力でぶつける。



 「ガッ!!」

 (チッ……小童共めが)



 両方のナイフから確かな手応えを感じる。

 その反動で、【臆病者】とモークは数メートル程後ろに飛ばされた。


 同時に、()()()()()()()()()()()()()がユッケの中から微かに聞こえた。


 ((……!? 今の声、誰だったんだ?))


 アイリスとモークは若干の疑問を抱いたが、それは後に考える事にした。


 【バクチク】の音はこの時既に消えていた。



 すぐに立ち上がった両者は、ユッケから更に数メートル離れて様子を窺う。


 【カルッツイロ草原地帯】での戦闘は、終わりを迎えつつあった。



―――――――――――――――――――――――

~ユッケ視点~



 ん~。

 体が、少し動かせる。



 何だろう?


 ほんの少し、ほんの少しだけど……。



 痛い。

 左胸が痛い。


 いや。左胸が痛いと言うよりも、心臓が痛いといった方が良いのか?


 ステータス見たいけど文字化けで見えない……。




 ……あれ?見えてる。



 【ステータス】!




【ステータス】名前 ユッケ


  レベル 276  ランク S-


  体力 708/1345

  魔力 1435/5492(【魔力暴走】)

  攻撃 264/2540(!DANGER!)

  防御 5959/6034

  早さ 785/2838(!DANGER!)

  速度 20/29.25  

 当会心 17.25/35.25(!DANGER!)

  回避 42/44

 当回避 41.5/43

 総回避 66.07/68.08

 残血液 3792/4000(1800)


 経験値 21670308/500000000

   次 21670308/23085600(1415292)


 【注意】

 現在、原因不明の【魔力暴走】が起こっています。

 魔法の使用は極力控えてください!


―【魔力暴走】詳細――――――――――――


 1.一部の魔法が使えなくなる。

 2.極端に魔力を消費するか(ユッケの場合、推定500~1000)、ほとんど魔力を消費しないか(推定1~10)のどちらかになる。

 3.全く予期しない場所に魔法の軌道が行く。

 4.魔力を2000以上連続で使用すると、暴発して死亡する場合がある。

 5.稀に意図していなくても、魔法が放たれる可能性がある。

 6.例え自分の魔力でも、関係なしにダメージを受ける。

 7.治療する方法は、感覚を開けて魔力を消費し続け、持っている魔力を0にする。

 8.数時間何も魔力を使用せずに安静にする。


―――――――――――――――――――――――




 まるでさっきまでの文字化けが無かったかのようにステータスが俺の前に表示される。


 精神的ダメージから回復したのか、少しだけ一部のステータスが上昇しているのがわかる。


 (それより、アイリスとモークがダメージを与えたのかが知りたいんだ。確か……。)


 俺は右手に持っている太刀を落とし穴の底の地面に刺し、表示されているステータスの一番下を上にスライドさせる。


 これでダメージの詳細が何となくわかる。


 するとそこには、目を疑うものがハッキリと表示されていた!




【ステータス】名前 ユッケ


  レベル 276  ランク S-


  体力 708/1345

  魔力 1435/5492(【魔力暴走】)

  攻撃 264/2540(!DANGER!)

  防御 5959/6034

  早さ 785/2838(!DANGER!)

  速度 20/29.25  

 当会心 17.25/35.25(!DANGER!)

  回避 42/44

 当回避 42/43

 総回避 66.36/68.08

 残血液 3792/4000(1800)


 経験値 21670308/500000000

   次 21670308/23085600(1415292)


 【注意】

 現在、原因不明の【魔力暴走】が起こっています。

 魔法の使用は極力控えてください!


―【魔力暴走】詳細――――――――――――


 1.一部の魔法が使えなくなる。

 2.極端に魔力を消費するか(ユッケの場合、推定500~1000)、ほとんど魔力を消費しないか(推定1~10)のどちらかになる。

 3.全く予期しない場所に魔法の軌道が行く。

 4.魔力を2000以上連続で使用すると、暴発して死亡する場合がある。

 5.稀に意図していなくても、魔法が放たれる可能性がある。

 6.例え自分の魔力でも、関係なしにダメージを受ける。

 7.治療する方法は、感覚を開けて魔力を消費し続け、持っている魔力を0にする。

 8.数時間何も魔力を使用せずに安静にする。


―――――――――――――――――――――――


 ダメージ詳細


 ENEMY1 人間 D 5

 ENEMY2 モークタン E 5

 【魔力暴走】 627




 ………………えっ?


 う、嘘だろ?



 アイツら、防御力6000の壁を……。




 破りやがった!!!




 マジかよ……。


 これじゃあ、あいつ等の攻撃は推定500以上。

 そう言うことになる。


 (有り得ない。第一、探知系魔法で調べた結果だと、あいつ等の攻撃は500は絶対に届いていないハズ。だったらどうして5というダメージを出せる?……。)


 俺は必死になって理由を考える。



 数十秒程時間を費やして考えたが、結局どうでもよくなってきた。


 だが、一つわかったことがある。



 ()()()()()()()()()()()()()()



―――――――――――――――――――――――



 1000年もの間、退屈しない猛者を世界中飛び回って探してきた。


 負けた相手から少しだけ金を奪うだけで、命を奪う行為をしなかったのも理由がある。


 ()()()()()()()()()()()()()()寿()()()()()()()()()あのクソみたいな化け物をコテンパンにするためには、人間の力を借りる他なかった。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()


 だから殺さなかった。

 もっと強い奴がいるぞと怠けているレベル100程度のそいつ等に忠告して、初心に戻って鍛え直してレベルアップしてくれればそれで良かった。


 でも、誰もそんな事に気付いてくれる奴なんぞ誰も居なかった。


 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()なんて事実を毎回そいつ等が命乞いしてくる時に聞かされるんだ。

 それでも殺さないけどな。



 でも、コイツ―【臆病者】―は違った。

 俺は山鬼(サンキ)の様子(腕試し目的だけど)を見に行こうと森を通り過ぎかけた時、たまたま奴を見かけた。


 当時のアイツのランクは探知系魔法いわくE。

 冒険者になってすらいなかった。


 他の奴らに見つかったら追放沙汰だというのに、それでもアイツはほぼ毎日格上の魔法と戦ってたんだ。


 レベルはどれほど低かろうと、倍位離れた格上の相手数十体を相手するその姿を見て感動を覚えたくらいだ。


 仮に彼がもしクズ共と一緒のレベル100だったら、レベル140相当40体を一人であっさり撃破出来るレベル。

 普通は110一体だけでも危ない可能性があるのにな。


 その後、【臆病者】は10年間という長い特訓をやりきったんだ。

 俺はもうアイツは【臆病者】じゃないと思っている。

 確か人は【野蛮道(ヤーバンロード)】と痛烈に皮肉ってたかな?


 まあ、それはそれとして。

 ふと(もしアイツと一勝負したら、一体どうなるのか?)って考えたら面白くなってな。


 ずーっと彼が旅立つタイミングを監視して、ようやく戦える時がきたんだ。

 なのに、たかが悪口で()()()()()()()ハメになった。


 これから面白い旅が始まるかも知れないって期待したのに、殺したらどうするんだよ?

 

 でも、こんなにも面白くてマトモな戦闘をしたのは随分久しぶりだったな。

 やっとアイリス・オーリアというマトモな愛称になったな。


 確かモークタン言語で【()()()()()()】だったっけ?

 暇つぶしにモークタン言語とやらに興味を持って、学習し始めたものはいいものの、習得に60年は無いぜ……。


 ※第27話参照。


 なかなかモークタンという奴も面白い。

 アイリスと仲が良さそうだしな。


 さて、そろそろこの勝負も終盤かな?

 本当は此処で終わっても良いけどな……。


 

―――――――――――――――――――――――



 ……でも、最後の勝負はしないとな。


 残り魔力は1435。

 無理矢理この罠から抜け出すのを加味すると、残り魔力1425。


 ()()()使()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 多分魔力切れに慣れてない俺は倒れる。


 死ぬ事はない。



 アイリスの全力を最後まで見たくなった。

 多分モークは何かしらの方法で隠れるだろう。


 本気で相手してやる。


 アイリス達はもう他の奴等とは違う。

 手加減なんてしない。


 殺す気とまでは行かないが、俺の一つ下のランクA+レベルの相手を半殺しする魔法。


 (流石に【死の一本線】は無理だな。幾ら何でもやりすぎる。だったら、アイリスの回避能力が最も試される魔法は……アレしかないか。数発当たったら死ぬけど。その時は俺が全力で庇うとするか。)



 最後の最後まで()()()らしく、()()らしく。



―――――――――――――――――――――――



 【臆病者】とモークがユッケに一撃を加えてから数十秒の間、【幻想世界(ファントムワールド)】に沈黙が訪れる。



 (俺が先に話さないと駄目なのか?)と少し困惑する【臆病者】。


 (まあどうせユッケかアイリスのどっちかが先に話してくるだろ)とユッケと【臆病者】に押し付けるモーク。


 (しまった……俺が考えすぎたせいで場が静かになったぞ)と焦るユッケ。


 

 偶然が生んだ沈黙が出来たのである。


 それから荒い呼吸が数度聞こえたある時、この沈黙を破ったのはユッケだった。



―――――――――――――――――――――――

―【臆病者】アイリス視点―



 そろそろ俺が先に話そうかなと思った矢先、口を開いたのはユッケだった。



 「……ゴホン。……なあ、おまえ等のダメージ。確かに効いたぜ? 数値からみたら10というものは小さく感じるが、俺は初めて一般冒険者からマトモにダメージを食らった。つまり、おまえ等は俺の防御力6000の壁を破ったのさ。これは素直に賞賛しないといけない。」



 ユッケの口からさっきの攻撃の説明が飛んできたのだ。

 「これはやられた」といいたげな様子でこちらを見つめてくる。


 正直、10という数値は嬉しい。


 せいぜい俺とモークあわせて、4が精一杯だと思っていたからだ。



 《アイリス様。先程の作戦の結果を報告します。アイリス様5、モーク5のダメージ。計10のダメージをユッケに与えました。》



 サングラスからもダメージの報告がきた。

 これが実際凄いのかどうかサッパリわからない。



 《本来であれば、アイリス様とモークの力を合わせても3~4程度です。原因は不明ですが、()()()()()()()()()()()()()のではと推測しています。》



 まあ、奇跡だったと言うことだろう。



 だが、まだ終わっていない口振りである。


 恐らくさっきのでユッケの体が、ある程度自由に動けるようになったのだろう。

 また【大剣舞(ダイケンブ)】や【初祖(ショソ)雷帝光王(ライテイコウオウ)】とやらを発動してきたらただでは済まない。



 「だが、敵味方誰も倒れていない。せめて決着と言うものは戦闘ではつけないといけない。そうだな?」

 「別に付けなくても良くない? 俺達せっかくお前の【魔力暴走】を抑えたってのに。こんなに長々と戦って、まだ戦うの?」


 「モーク。すまんが戦闘には常に決着というものが存在する。そうしないと戦闘した意味自体が全て無になるからな。」



 俺が返答しようとした瞬間、モークが横槍を入れてくる。


 モークの言っていることは間違いではない。


 ()()()()()()()()()()()2()()()()

 此処まで俺が戦って来れたのは特訓のお陰なのだ。

 あの特訓で時たま3時間以上も格上の魔物と戦い続けた。


 戦いを長く続けられるようにわざと頑張って戦い続けていたのだ。

 お陰で4時間までの戦闘までなら慣れている。


 だが、流石にユッケとの戦闘は流石に別格に疲れる。

 恐らく後15分が精々だろう。


 (モークは最近休憩していたからな。ほとんど動かない罠の設置とかをしていたからマシだとは思う。だが、それでも長い時間戦っているハズ。そろそろへこたれても可笑しくは無い。)



 俺はモークに聞こえないようにサングラスからモークのスタミナ(戦闘継続力)を聞く。


 ……やっぱりそうか。


 モーク、話すのさえ辛いんじゃないか?



 流石に長期戦闘を続けるのは無理だ。

 俺は素直に。



 「なあ、ユッケ。ハッキリ言おう。俺達はもうヘトヘト状態だ。お前は余裕でもモークは話すだけで精一杯、俺は()()()()()()。長期戦闘はもう御免だ。」

 「じゃあどうしてほしい? 『もう戦いたくないから俺たちの負けでいい?』とか言うのか?」


 「お前はそれを全く望んでないんだろ?」

 「当然。」


 「ユッケ。お前の魔力はあとどれくらいだ?」



 するとユッケは一瞬ピクッと動揺する。

 多分ユッケも俺と同じ事を考えていたのだろう。



 「1435。この罠を抜け出すのを加味すると残り1425。」

 「その魔力を一気に全部使い切って、魔力切れになるまで魔法ぶっ放せば短期決戦になるだろ?」


 「ああ、魔力が尽きたらおれは問答無用で倒れる。死にはしないが、体が動かせなくなる。つまり俺の敗北だ。」

 「俺の考えはこう。ユッケがどんな魔法でもいいから全ての魔力を全力で放つ。その魔法で俺達が倒れたら俺達の負け。反対に俺がユッケの魔法全部回避して魔力が底を尽きたらお前の負け。どうだ?」



 俺は右手でユッケにわかりやすいように必死にジェスチャーする。



 「短期決戦。俺の魔力全部使ってお前倒せたら勝ち、倒せなかったら魔力切れになって俺の自爆負け。そう言うことか……面白い。乗った!」



 ユッケがわかりやすいように内容を復唱すると、右手を示す。

 歯を見せる笑みが若干の恐怖を煽られるのは強者の所以なのだろうか?


 承諾であるGOODサインだ。

 親指が立派に立っている。



 「よし、そうと決まればお前にピッタリな攻撃魔法がある。乱射系魔法、要は連発で同じ魔法が打てるんだ。俺は全ての乱射系魔法を習得している。」

 「それ、事前に俺に言っていいのか? 結構大事な情報だぞそれ?」


 「この乱射系魔法、知っていても無効系の耐性がない限りは何も出来ない。単純な攻略法としては、回避。ただそれだけだ。」



 つまり、知っていても回避能力がないと一切対応できないのだ。


 全ての乱射系魔法は恐らく、特殊魔法以外全部の属性魔法。


 赤、青、緑、紫、黄、黒、橙の7色全て飛んでくるのだろう。


 黒は危険魔法と言われた存在。危険過ぎる。

 橙は多分強い。


 黄色は魔剣が刺さっている今、雷をまとった魔法が飛んでくる可能性がある。

 これが今の所一番ヤバイ。即死もあり得る。


 赤は魔剣に当たっても右腕が焼ききれるだけ。

 かなり痛いけど少しマシ。


 マシなのは紫と青。


 紫が毒ならラッキーだが、警戒はしておくべきだろう。



 そして俺は気になった質問を一つだけする。



 「お前の計算でいくと、何発魔法が飛んでくる?」

 「うーん、魔力消費は一回辺り5。一回につき7発飛ばせるから……。1425から5を割ってそれの7倍……1995発。()2()0()0()0()()だな。」



 俺は一瞬凍りつく。



 軌道が俺と全く違うのも含めているとは言え、2000発は多すぎる。


 (これは全力出さないとマジで死ぬな。せっかく一人前の冒険者になって、この町を出たんだ。こんなスライムさんだけしか出てこない最初の草原地帯でのうのうと死ぬ訳にはいかない……)


 どっちにしても先に提案した者は俺だ。

 断ってもユッケが見逃すハズは無い。



 「よし、何時でも魔法を飛ばしてくれ。」

 「わかった。3分後にこの罠を破壊して魔法を放つ。あと、そのまま魔剣が刺さっていると回避もクソも無いから抜かせてや……。」



 ユッケが俺の左手に刺さっている4本の魔剣を抜いてあげるというユッケの返答は予想外だった。

 つい割り込んでユッケに聞く。

 この魔剣はユッケに取ってはかなり有利なものなのだが……。



 「いいのか? ハンデには十分な材料だぞ?」

 「Dランクのお前がそんな言葉を吐くのか。なかなか強気だな。だが、黄色の魔法が魔剣に近付いただけで感電。間違い無くお前は即死だ。相手を本気で抹殺したいのなら話は別だが、俺はそんな事を微塵も望んではいない。【()()()()()()()()()()()()()】を俺は望んでいる。」


 「なる程、じゃあお言葉に甘えようかな。」 

 「……よし。かなり痛いとは思うが、今からその魔剣を……。」


 「要らん。()()()()()。」



 (正気か?コイツ?)とでもいいたげな表情でユッケは俺を見つめる。



 俺は気にもとめずに左手の付け根から近い方から魔剣を一本ずつ一気に抜く。


 ゆっくりやるとかえって痛いのだ。



 「ジャッ!」



 「ズボァッ!」



 「ガッ……ガッガッ!」



 「ジョッ!」



 魔剣が抜けていく気味の悪い音が響く。



 ユッケはダラダラ冷や汗を垂らす。

 人の痛そうな光景を真近で見せられては大抵の人はいい顔をしないだろう。


 モークは、「やっぱりお前は常人の神経してないな」と()()()()()()()()を言っている。


 痛いのは痛い。

 だが、初期の特訓では何時もこんなレベルなんて軽い方だったしな。


 (あの時はマジでキツかったけど、今となっては擦り傷程度のレベルにまでなったな。慣れって凄いものだよ)


 抜き終わった魔剣はユッケの魔法によって回収された。

 魔剣に俺の血が全く付かなかったのは不思議である。


 左手はというと……どうなっているのかは想像しない方がよいのかもしれない。


 俺は収納魔法から緑草を取り出し、刺さった魔剣の穴に一枚ずつ。

 計4枚を埋め込む。


 念の為もう一枚を取り出し、それを直接口に含んだ。



 ハッキリ言えば慣れている俺でも少々苦くて、独特の臭みが口の中でツーンとくる。


 やっぱり店で売られている液体の回復薬の方が味が良い。

 甘味もじんわりときて口の中がスーッと爽やかな気分になるしな。



 数秒後、左手の周りに緑色の暖かい光がまとわりつく。

 すると段々と傷が埋まり、元の綺麗な左手に戻った。


 (最近思うけど、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()んだよな。普通一番下の低級緑草5枚で、壊滅的の左手を完全回復なんざ無理だ。初期の頃はそうでもなかったんだけどな。)


 まあ後で考えればいいかとそこで考えを止めた。



 あと、モークに怪我はさせられない。


 多分モークは一発でもあたれば即死は免れない。



 「モーク。流石にお前も頑張るとかいう変な意地っ張りはしないよな?」

 「……本当は『この程度回避してやるぜ!』とか言いたかったけど、流石に俺のスタミナは限界……回避できないから僕はやらない。」


 「多分、この辺り全域を乱発で打ってくるからお前を庇えない。お前を抱えてとも少し無理がある。そこでお前に頼みがある。」

 「? 別に頼まれる必要性は感じは無いんだけど?」


 「質問を聞いてから考えてくれ。で、俺の収納魔法に入る気は無いか?」

 「……え?」



 「コイツ、何バカな事言ってんの?」という目を俺に向けてくる。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()が、この短い間に考えられる唯一のアイデアはこれしかない。


 ユッケが魔法を放つまでは後1分30秒なのだ。



 「アイリス、収納魔法って俺みたいな生き物とかが入って良い場所なのか? もし空気(酸素)がなかったらどうする?」

 「とりあえず息を出来るだけ吸ってくれ。そして、サングラスとの会話が出来るかどうか試す。もし空気が無いかサングラスとの会話で出来なかったら4()0()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。もし最後まで耐えきったらお前には特級の干し肉をもう一枚サービスだ。」


 「ってことは特級2枚! やるやる!」



 さっきの軽蔑の目線が嘘のように、歓喜の喜びを表現したいのか、ぴょんぴょんと跳ねる。


 (話すだけでもしんどいんじゃなかったのか?()()()()()()()()()()()()()()()


 頭の中で微かな疑いをモークに向ける。


 しかし、今回の戦闘で多分サングラスと同様と言える程の活躍をしてくれた。

 これくらいならいっかと納得しよう。



 残り1分の間、俺とモークは色々準備をする。


 モークは俺から借りたナイフを返す。


 (どっかで使えないかな?)


 一瞬、思案したがイマイチ使い所が無いので2本共収納魔法に入れる。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()のは多分気のせいだろう。



 モークは珍しく深呼吸をする。


 苦しい思いをしなければならなければいけないのは少し申し訳ない。




 それから1分後。

 遂に約束の時間が訪れた。



次でアイリス&モークVSユッケ編ラストになります。


※ステータスに残血液追加

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