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野蛮学校物語  作者: yukke
第2章 運命の魔物たち編
43/116

第42話 アイリス&モークVSユッケ 9.  コンビの大作戦



―――――――――――――――――――――――

―【臆病者】アイリス視点―



 俺はサングラスを駆使して辺りを見回す。


 砂煙のお陰で、ユッケの視界から殆ど消えているはず。



 探知系魔法には多少の時間がかかる稀な条件があるとサングラスは言う。

 急激な気候や環境の変化はその中の一つらしい。


 恐らくユッケは、俺達が此処だとはまだ気付いていない。


 (作戦会議(話し合い)出来るのは今しか無いな)



 サングラス、俺とモークの解析は終わったか?



 《はい。双方解析率100%、抜かりありませんアイリス様。》



 ……アイリス様って言われるのは少し恥ずかしいから、せめて仲間内での範囲にしてくれ。


 俺は公の場では、一人前の異端児冒険者扱いなんだ。



 《畏まりました。アイリス様》



 ……うん。

 それより攻撃を当てる場所は心臓辺りとして、どうやって攻撃するかだが……。



 《それより、あなた達の共通点を教えないと行けませんね。参考までにステータスを開示します。》



 そう言うと、俺の緑の世界から俺とモークのステータスが同時に表示された。

 比較はしやすいだろう。




【ステータス】名前無し(現愛称 アイリス・オーリア)


  レベル 26 ランク D


  体力 245/436

  魔力 132/211

  攻撃 68/80

  防御 54/69

  早さ 180/279

  速度 6/7.75

 当会心 7.375/9.125

  回避 54/55

 当回避 54/55.5

 総回避 78.84/79.975

 残血液 3309/4000(200)


 経験値 1862/5000000003

   次 1862/2200(338)




【ステータス】名前なし (現愛称 モーク)



  レベル 11 ランク E


  体力 99/115

  魔力 10/10

  攻撃 52/55

  防御 87/101

  早さ 162/205

  速度 3/3.125

 当会心 8.125/8.75

  回避 30/33

 当回避 21/26

 総回避 44.7/50.42

 残血液 7992/8000(500)


 経験値 1952/500000000

   次 1952/2600(648)


 


 モークにステータスを比較されるために、ステータスの確認をサッと終わらせた後、モークにサングラスを渡す。



 「なんか俺、地味に強くなってる?」



 サングラスを掛けたモークは、しばらくそれを凝視した後、外して俺に渡した。



 その時、俺とモークは互いを見つめる。「俺とお前の共通点がどこにあるんだよ」という困惑した顔をモークがする。



 モークは現在、俺が与えた下位の干し肉を頬張っている。

 1時間少し前位に上を与えたのだが、流石に干し肉1枚は少なすぎたようだ。

 オマケに、戦闘したのも相まったのは仕方がない。


 「コイツ固くない?」や「ペッペッ、これしょっぱ過ぎるよ!」と()()()()()()()()()()()()()()()()()事は最早言うまでもない。


 あの戦闘はモークとサングラスのコンビでないと間違いなく無理だった。


 正直、特級の干し肉を分けてあげたい位だったが「今はコレで我慢してくれ。」と言ってとりあえず満足してもらっている(グチグチ文句は言っているけど)。


 モークはクチャクチャと音をたてながら干し肉を食べている。


 ……若干、クチャクチャ音が小さくなった気がする。

 癖はそう簡単に直らないものというのは俺も知っている。



 干し肉をすべて飲み込んだモークは、俺に向かって疑問を唱える。



 「俺達の共通点? わかるか、アイリス?」



 回避能力が高いかな、と答えようとした。


 だが、モークの回避能力が高かったのはサングラスのサポートによるもの。


 モーク自体の回避能力はほかと比べたら確かに高い類だが、まだまだ強力だとは言えない。



 「こういうのはテキトーに答えたら良いんだよ。えーっと……早さじゃない? 早さ全般。」



 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()モークは、考えるのを諦めてカンで答える。



 《……合っています。》



 ええ……。

 合ってんのか。


 『おい! その言うまでの間はなんなんだよ!』とモークがサングラスの会話に紛れ込んだ。


 割り込みは出来るとサングラスは言っていたそうだが、そんな感じで割り込んで来るのかとある意味感動する。


 (恐らく、複数人でテレパシーのような事が出来る魔法は今の所無いぞ?)



 まあ一旦閑話休題(それはおいておこう)


 俺とモークの共通点は早さ全般として、それの何のメリットがあるんだ?



 《早さというものは、早いほど威力が増加するものです。例えば全速力で20メートル先にいる()()()()()()()()()()場合、至近距離で殴りかかるよりもダメージが大きくなるのと同じ原理です。》



 例えは凄くわかりやすいけどちょっと怖いのは何故だろう?


 まあ、今はわかりやすい説明でいいのだ。



 『僕が音速レベルのスピードを手に入れたら、人間をぶっ飛ばせるのと一緒だ!』

 ……ほうほう、それで?



 《しかし早さを駆使しながらの攻撃方法には、それなりのデメリットがあります。》



 俺がパッと思いつくことは、


 途中で止めづらい。

 加速するために魔力、または体力をある程度消費する。

 ある特定の攻撃場所に当てづらい。

 防御がしづらい。

 回避がしづらい。


 ぐらいだな。

 実際加速系の攻撃を特訓してた人からすると。

 『デメリット多くない?』という言葉がまず先に浮かぶ。



 《はい。アイリス様の予想は合っています。加速しているので、当然攻撃を中止することは難しいです。加速するためには魔法や体力を消費しなければ行けません。速度がとても早いため、狙いたい場所に攻撃を当てるのは至難の業です。加速していますので回避は当然の事、防御も難しいのは想像がつくでしょう。》



 『待って、どうして加速すると回避や防御がしづらいの?』



 すると、サングラスの解説が終わったと同時にモークが質問する。


 サングラス内での会話だと面倒なので、俺がわかりやすいように回答する。

 俺の独り言をブツブツと聞きたくは無いだろう。



 「モーク。お前とユッケでの戦闘を思い返してみて欲しいんだが……お前とユッケが一定の距離から離れていて、そこから二人とも近づく為に加速した時、何となく何時もよりユッケの足が早いなんてことはあったか?」



 元々特定以外の他人と余り話さなかったので、()()()()()()()()()()と自負している。


 伝わっただろうか?



 「ああ! 俺もずっとそれ気になったんだよね。ユッケのスピードが急激に上がった気がしたんだ。まあ、前にもそんな事があったからビビらなかったけどな。」



 モークは「どうだ! 凄いだろ?」と言いたいようなドヤ顔で俺に向かってエッヘン!と威張る。

 目を閉じ、体は前のめり。

 無理矢理背伸び?をして高さを延ばしている。たかが数センチ高くなっただけじゃないか……。


 威張るとは言っても、モフモフの茶色い毛を付けたスライムのような生き物なのだ。


 威張っていても、可愛いというものは拭い去れない生き物。それがモークタンのモーク。

 ()()()()()()()()()()()()は、の話だが。



 だがそんな言葉をモークに直接言ったら後で面倒な騒ぎになるので、我慢する。

 まだ砂埃は空中で猛威を振るっていた。早く終わらせないとユッケが俺達を見つけてしまうだろう。



 「だったら、防御と回避はある程度説明がつくだろ?」



 ここはモークに答えさせた方がモークの身の為だ。

 何時か俺の元を離れたときに後々役にたつだろう。



 「えーっと、まず回避はこうだな。相手の普段の戦闘よりも素早くなるから、何時もの感覚を意識しちゃって失敗するから難しい。防御も大体同じ事が言える……かな?」 

 「……態度は悪いが合ってる。」


 「一言多くない? 泣いちゃうよ?」



 「え? 俺の答え合ってるよね?」みたいな口調で俺に言った。

 当たっていたので、そう答える。


 「態度が悪い」と言う言葉に引っかかったモークは目をウルウルさせながら(可愛いが間違いなくワザとだ)反撃してきた。



 「勝手に泣いとけ。俺はウソ泣きだと露骨にわかっている涙には冷たいぞ?」



 俺はモークの反撃に対して、重ねるように反撃する。


 「チッ……もう1枚干し肉くれると思ったんだけどなぁ」というモークの負け惜しみが聞こえた気がするが、今はそれどころではないので無視しておこう。



 サングラス、話を止めて悪かったな。

 それで、加速系のデメリット全てを克服して攻撃出来る方法はあるのか?


 そうしないと、防御力6000のユッケにはダメージすら入らないぞ?

 折角の必殺?のコンビ技が半減するからな。



 《はい。最も効率的な技を発案しました。しかしアイリス様。その時は私のサポートを余り受けられませんが宜しいでしょうか? どうしてもモークにサポートをするためには、サングラスをモークに掛ける必要があります。》



 『俺はサポート欲しいな。流石にあのユッケの速さで、生身での戦闘は無理だ。』


 モークが正直に自分の考えを述べている。

 たまに出てくる、こういう真面目な所が良いのだけれど。



 で、まあしょうがないな。

 左手の魔剣が金属だったら、黄色魔法は流石に勘弁だな。


 (どれだけ回避能力が高くても、魔剣に少しでも近付いたら電気を通すんだよな……)



 《畏まりました。では、作戦の全容を説明します。特にモーク、アナタの行動でアイリス様とのコンビ技のダメージが大幅に変動します。》



 『ゲッ……。わかったわかった。いつも真剣に考えて行動すればいいんだろ?』


 モークは責任感に弱いのだろう。

 特訓してやらないと後々大変だ。



 《では、今回のコンビ技を説明します。………………。》




 俺とモークは、サングラスが説明する作戦を一言一句丁寧に聞き逃さないように集中して聞いた。



 ……なる程。それで、俺はこの後どうしたらいい?



 《……。》



 わかった。

 『僕はどうするの?』



 《……。》



 『えええええっ! それは難過ぎだよ!』



 《……。》



 『ハイハイ。やればいいんでしょ! やれば!』


 じゃあ、その後はねらい通りの場所にグサッと……だな?


 

 《……。》



 ……え?

 それって、……ということ?



 《はい。その通りです。……。》



 なる程。この技、タイミングが難しいぞ。

 『おっしゃる通りです。』



 でも、やるしかないか。

 『作戦成功したら特級の干し肉ちょうだい。』



―――――――――――――――――――――――



 ユッケは現在、探知系魔法の使用に若干手こずっていた。


 あまり使わなかった魔法であったことと、使用する環境が砂埃まみれと最悪のコンディション。

 それらのせいで【臆病者】達を見つけられずにいた。



―――――――――――――――――――――――

~ユッケ視点~



 【始祖(ショソ)雷帝光王(ライテイコウオウ)】が落ちた範囲は把握しているため、俺は砂埃が目に入らないようにバリアに近い魔法をかける。

 【魔力暴走】の間、この魔法も暴走する可能性もあったが、セーフだったようだ。



 ……。





 ……。





 血がついていない。

 焦げた臭いも感じられない。

 そもそもそれっぽい黒こげなんてどこにもない。


 モークは死んではいないな。

 多分アイリスがギリギリでモークを助けたんだろう。


 (相変わらずステータスは文字化け状態だし、【魔力暴走】のせいで勝手に操られているし)


 モークが死ななくて良かった。

 アイリスの助けが遅れていたら間違いなく死んでいた。


 (いい加減、俺の方から降参して死人が出るのを回避した方が良いな。)


 ……と、そんな事を思っていても無駄なのである。

 【魔力暴走】で体の自由がきかない今、「俺、絶対お前達に危害を加えないから安心しろ!」と言っても誰が信じるのだろう?



 恐らくこの砂埃が舞っているスキに、何かしらの必殺技を使うつもりなのだろう。


 (防御力6000をどうやって乗り越えるのか、しっかりと目に焼き付けておこうか)



 それから数分後、


 砂埃が半分程地面に大人しく座っている。

 すると、体が勝手に探知系魔法を使用しだした。


 しばらくして、アイリス達を見つけることに成功する。

 もう少し遅くても良かったと思うのだが。


 キッチリとアイリスの姿を確認できた。


 気がつくと体は、勝手にアイリス達に向かって歩いていた。



―――――――――――――――――――――――



 枯草色の風と枯れ草の大地がユッケとアイリス達を包み込んでいる。

 ピンクという世界の空とバリアの外浮かぶダイヤモンド数千が、ずっとそこに漂っていた。


 今、ここ【カルッツイロ草原地帯】で最大と言われる戦闘が終盤に差し掛かっている。



 アイリス&モークVSユッケ


 それぞれのレベル差250、その圧倒的理不尽と思われた戦闘は意外な展開を迎えている。



 強力な毒草を耐えるどころか、回復までしてしまった【臆病者】アイリス。

 80%という驚異の回避能力と、Dランクとは思えない戦闘力に遊び感覚で戦闘をしていたユッケは翻弄される。



 己の口先でユッケの精神を内部から破壊し、【魔力暴走】を引き起こしたモークタンのモーク。

 数百度の液体に耐え、モークタンの速さでは到底不可能な速度で穴を掘り、ユッケに決定打を打たれるのを全力で防ぎきった。



 対してユッケも負けてはいない。

 防御力6000という剛金を遥かに越えた硬さは、アイリスとモークから直接ダメージを受ける事は無かった。

 また膨大な魔力でアイリス達を圧倒し、泥沼戦に持ち込んだ。ユッケが放った魔力は既に2500程である。




 『相手にとって不足なし!』

 という強い気持ちが、ユッケとアイリス達に熱く心に焼き付いた。




 互いに相手の目をしっかりと見つめている。

 気を抜くと一瞬で差を詰められるからだ。



 まだ左腕の悲鳴は収まらないアイリスは、少し顔が引きつっている。

 いくら特訓で痛みに慣れてきたとは言え、左腕に4本も剣が串刺しになっていたら誰でも発狂沙汰だ。

 我慢できる方が無理である。

 痛みを必死にこらえて佇む。


 (……迂闊に手を出せないな。ユッケから攻撃して来る可能性だって全然あるし……そうだ!確かイグナル村長からのアドバイスが活かせるんじゃないか?)


 アイリスはユッケの姿と言うよりは足を見ているといった方が正しい。

 足というものは、体がどう動いてくれるか素直だからだ。


 するとモークが視線をそらすことなく、アイリスに言葉をつぶやく。



 「アイリス、これは何の時間なんだ? 俺達が動いても良いんじゃないか?」

 「ダメだ。ちょっとした強い小細工をユッケに植え付けている。ユッケがコッチにくるまでは、絶対動くなよ。」



 モークは理解したのだろう。

 じっとユッケをただただ見つめる。



 対するユッケはワケがわからなかった。


 アイリス達は砂埃が舞い上がっている間、何かしらの作戦を立てていたはず……。

 どうして行動しない?

 

 ユッケはずっと見られていることに多少の不快感が滲み出る。



 そして、互いに見つめ合ってからおよそ10分。いてもたってもいられなくなったユッケは、遂にアイリスに駆け込んだ。



―――――――――――――――――――――――

―【臆病者】アイリス―



 来た!

 ユッケがかなりの速さで俺にめがけて走ってくる。



 《では、挟心作戦を開始します。双方の全力をユッケにぶつけてください!》



 サングラスから号令が出された。


 『任せておけ!』とサングラスの会話からモークが飛び出す。

 同時にモークは、右に数十メートル移動する。


 俺は収納魔法からもう一本のナイフを取り出す。

 モークに一本渡したからだ。


 ユッケがアイリスの目の前にまで詰め寄り、右手に持っていた剣で俺を突こうとした。



 こんな程度で当たってしまったらサングラスとモークに合わせる顔が無い。


 上半身を沿ってギリギリ回避する。

 昔の異世界人はそれを【いなばうあー】と言っていたらしいのだが、正しくは【れいばっく】だ。


 確か今でもこの世界で有名なスポーツ【フィギュアスケート】だったな。


 ※繰り返しになりますが、上半身を反らすことをイナバウアーではありません、正しくはレイバックです。

 詳しく知りたい人は、本や最新機器を使って調べてみてください。



 実はこの回避方法はダメなのである。


 次にくる攻撃が回避しづらいからだ。

 状況に合わせて右か左を70センチほど移動するだけで何とかなるのだ。


 では、なぜ敢えて危険な回避方法を選んだのか?



 もう少ししたら、効果が如実に現れてくる。

 それまでの辛抱だ。



 「【大剣舞(ダイケンブ)】!」


 

 此処で、聞き捨てならない技名が俺の耳に響く。

 ……これは本気を出さないといけないな。



 ユッケが数十メートル後方に戻ったあと、収納魔法からもう一本の剣を取り出し、左手に持つ。

 これで、ユッケは両手に2本持っている状態になった。



 《アイリス様、回避出来ますか?》



 回避するしかないだろ。



 《左手に魔剣が刺さっています。それを動かせば傷が広がり、最悪の場合は魔剣が動き出します。御武運を。》



 忠告ありがとう。



 直後、ユッケがアイリスに向かって全力で走ってくる。

 両手の剣を縦横無尽に豪速で振り回す。

 ブーーーンという音と風が、砂埃を舞い上がらせる。


 あまりの風の強さに、体が後ろに持って行かれそうだ。



 【魔力暴走】で攻撃力が下がったとはいえ、一発でも当たったらヤバイ。

 赤色の液体が滴り落ちているミンチ状態になるだろう。

 作戦どころでは済まない。


 (モークがサングラスに言った言葉を聞いてはいたが……本当そうだよな。確率信じてたらそれに流されるしな。)


 今、俺は死線の真っ只中にいる。

 此処を越えれば、生き延びられる可能性が出てくる。


 俺の全力を、今までやってきた特訓の成果の全てが無駄たったかどうか、試されるときがきたのだ!


 そんな事を思いながら、俺は口にあるものを含ませる。

 飲み込むまではあまり効果が出ない。


 ユッケが来るまであと5メートルという所で、俺は行動を開始する。




 まず右肩に飛んでくるユッケの右手の剣を、ナイフを使って食い止める。


 ユッケの左手の剣からは左足の肘辺りに来そうだ。

 ジャンプだと次の攻撃をそのまま受けてしまう。


 そこで食い止めているナイフを力業で押し返し、その隙に2メートル後方へ移動する。

 【魔力暴走】の影響で攻撃力が大幅に低下していたのは幸いである。



 次にユッケは俺をハサミ(銀製)で切るように右と左を挟みうちする。


 後方に戻るのは危険だ。


 しゃがんで回避する。



 しゃがむのを予想していたのだろう。

 ユッケが両手の剣を下に複数回突きつける。


 右、左、左、右、左と寝転んで凌ぐ。



 すると今度は地面スレスレで右手の剣を右から左に振る。


 両手に力を込めて体を数十センチ浮かせる。

 剣が俺の真下を通過したのが風と音でわかる。



 その勢いで立ち上がった隙を狙ったユッケは、それぞれ高さが違う攻撃をしてきた。


 首筋と足首辺り。

 飛んでくる時間は0.5秒もない。


 両方回避は難しい。

 後ろに移動はダメだ。

 ジャンプとしゃがむのは言うまでもない。


 普通なら此処で諦めるのだろう。

 常人の考えなら。


 (予め口にしておいて正解だったな。)


 俺はナイフで首筋の攻撃を食い止めた。


 え?

 足首は?



 「ガッ! ガッ!」



 太い骨が切られる音なのだろう。

 あっさりと両足を斬られる。


 (イッ……痛い。だが、これで終わりだと思うなよ!)


 俺は下の剣が両足の足首を完全に斬るまで待った後、口に含んでいたものを飲み込む。



 すると、完全に斬られたハズの両足が繋がったのだ。


 (事前に回復薬を飲み込んでおくという技だ。飲みやすいように液体の回復薬まで使わないといけないけど。殴られたら吐くけど)



 あまりの衝撃にユッケは二度見する。

 その隙に俺は後方に下がり、回避の体制をとった。



 その後、ユッケは数十回攻撃をして来た。


 しかし両足の即効回復に衝撃を受けたのか、どうも攻撃に粗がでた。

 あっさりと回避し続ける。


 粗が出た攻撃なんて相手が誰であっても、回避はそこまで難しくはない。



 俺は【大剣舞】の回避に成功した。


 (もう二度とユッケとの戦闘は御免だぞ!)


 ()()()()()()()()のは流石に痛かった。

 無茶をしずぎたと反省する。



―――――――――――――――――――――――



 モークは現在、サングラスの作戦通りにある罠を設置していた。



―――――――――――――――――――――――

~モーク視点~



 えーっと、



 此処をこうして、ああして、クルクルして……。



 「バチン!」



 痛っ!


 ああああああああ!

 何で俺がこんな痛い雑用をしなければいけないんだよ!!!



 《マスター以外に頼れるのはアナタだけです。》



 (お前……今の所メンバーは俺とアイリスだけたからな!)


 俺は心の中でサングラスに愚痴を言う。

 後で筒抜けだったと気付いた。



 それにしてもこの作業。

 かなりムズい。


 何故かアイリスが持っていたどっかのクモの糸を、ユッケに上手く掛かるように糸を絡めているんだが……。



 別に糸の量が足りないとか、糸自体が絡んでとかではない。

 ざっと500メートル強はある。

 クモの糸とはいえ、俺の毛より硬い。


 人間がよく用いる毛糸と同レベルと言ったらわかるだろうか?



 ともかく、難しいのだ。


 まず、直径数メートルの円をアイリス御用達の木の棒でカリカリと描く。


 描いた範囲を掘る。

 1メートルだ。


 一番底に適当にクモの糸を絡める。


 此処までは簡単。問題は此処からである。


 まず掘った穴の側面かつ地面より若干低い高さで、均等よく木の棒(4本~8本)を刺す。

 この時、軽めに刺しても深く刺しても駄目なのだ。


 次に刺した棒を支点にして、クモの糸をまんべんなく絡めていく。


 最後に土を被せて完成だ。



 何を作っているかって?

 落とし穴だよ。


 土を被せたとき、木の棒と糸だけで土の重さに耐えられるようにしないといけない。


 木の棒は16本しかない。



 既に木の棒を6本折ってしまっている。

 折れてしまったものは使い物にならない。


 ならない……?


 (……ん?待てよ。いっそのこと、この22本全部を使ってしまおうか)


 あることに閃いた俺は急いで取りかかる。


 ()()()()()()()()では多分思いつかないであろう、一工夫された罠に。



―――――――――――――――――――――――



―――――――――――――――――――――――

―【臆病者】アイリス視点―



 『アイリス! コッチは済んだ。後はユッケを罠に引きつけるだけだ。』



 モークがサングラス会話から俺に向かって報告する。

 「すまないモーク、ありがとう。」とモークを誉めた後、サングラスと会話する。


 罠の場所をサングラスによって把握した。


 (大体此処から200メートルか。これは地道に罠に近付けるしか方法は無いか)



 そういう事を考えた矢先、ユッケは【剣舞】を仕掛けてくる。


 【大剣舞】をギリギリ回避できた俺にとって、【剣舞】が見劣りし始めるようになった。


 アッサリと回避する。

 余裕があったのでわざとギリギリで回避した。



―――――――――――――――――――――――



 ユッケはアイリスとモークの奇妙な作戦に疑問を持ち始めていた。


 特にわざとギリギリで回避するアイリスの謎行為が、どうも腑に落ちないのである。



―――――――――――――――――――――――

~ユッケ視点~



 ん?


 とりあえず、【大剣舞】を回避できたアイリスにとっては余裕であろう【剣舞】を自らの意志ではやってはみたものの……。



 何なんだ?


 余裕で回避出来るであろうものを、わざと1ミリ程度にまで近づけている。



 この土壇場で何を考えているんだ?


 俺は必死になって試行錯誤する。

 今まで俺は無数の凄腕冒険者を地に屈させた。


 その中で、今回のような難しい作戦を実行して来た冒険者も少なくない。


 その時不可解な行動をして俺を羽目ようとした者は数多くいる。


 ある者は他人の魔法の詠唱の時間稼ぎ。

 ある者は必殺技の効果を高くするためのステータス弱体化。

 ある者はただの悪足掻(わるあが)き。


 ろくでなしの者達ばかりであった。



 だが、コイツは違う。


 地獄の特訓を子供の頃からやってきた努力の鬼。

 常人ではありえない驚異的な回避能力。

 そんな奴が愚か者と同じ末路を辿るのか?


 俺にはそう見えないのである。


 だとしたら、何をしている?


 モークは落とし穴を作っているのと、アイリスのギリギリ回避の関連性が正直わからない。




 ん?


 アイリス達は、俺の急所を知っていたとするとどうだ?


 いや、俺の防御探知魔法は何一つ機能していない。



 そう言えば、アイリスとモークが同じメガネを度々交換しあっていたよな。



 ……。



 ……。



 あ!

 もしかして、あのサングラスのオッサンの()()!?


 持ち主が決まったのか?



 俺は縛られた体でアイリスに質問してみることにした。



―――――――――――――――――――――――



―――――――――――――――――――――――

―【臆病者】アイリス視点―



 「……なぁアイリス? 作戦中の所悪いんだが……()()()()()()()というオッサン知ってるか?」



 突然のユッケからの質問に思わずビクッとする。

 

 (そうだったな。今のユッケって話せるけど、体が言うこと聞かない状態だったな。)


 それよりも、あのサン・グラースという人物がユッケの口から出てきたことの方が大きい。



 動揺するのも仕方がないだろう。

 それによってごまかしができなくなった。


 俺達は互いに攻撃をしながらにらみ合っている最中、こんな話題が唯一の休憩時間なのだ。



 「聞いたことはある。実際イケザキ村でサングラスを販売してた。ワケあって、このサングラスを貰った。もし『欲しい』のなら断る。本人と約束したからな。」



 とりあえず、あげないという意思表示はした。


 (もし全力で奪いに来たら困るんだがな)


 

 「そうか、どおりでモークの回避能力が飛び抜けてたかと思えばそれだったか。実はな、俺も一回あのオッサンに出会ったんだよ。商売終わったあとのようだった。んでまぁ……。」



 ユッケは複雑そうな表情をしている。


 今コレを話しても良いのか?とでも言っているような雰囲気を出している。



 「で、何? ちょっと興味がある。」

 「あのオッサン、『人を傷つけたくない。』とかそんな事を言ってたよな? でも強いぞアイツ。」


 「それで、どこが強いんだ? 確かに強い気配は何となく感じたけどな。」

 「アイツ、タフなクセに色んな種類の魔法を組み合わせて()()()()()()()()()()()()()()()放ってくるから厄介なんだよ。何とか全力出して勝ったんだ。で、そのサングラスを持ち帰ろうとしたら『お前にとっては不必要なガラクタ同然だが、私にとっては大切な宝物だ!』とか色々言い出して……。()()()()()()()()()()()()()んだがな、ハハッ。」



 ユッケは思い出し笑いをする。


 サングラスにかける本物の熱意に敬意を抱いたのだろう。


 今度何処かであったら、軽く手合わせしてみようかな(負ける気がするけど)?


 魔法を組み合わせる?

 そんな技、本でも無かったぞ?



 「組み合わせる? そんな事は本にもかかれてなかったぞ?」

 「人間の間ではそうだろうな。レベル200ぐらいになるとギリギリ出来る感じかな? だが、ある種族だけはどれほどレベルが低くてもそれが可能なんだ。」


 「ある種族?」

 「ダウ族とガウ族、後は妖精と一部の獣族ぐらいかな。」



 ダウ族とガウ族はサングラスの魔法と魔術の歴史で聞いた。


 ※第32話参照。


 獣族もどこかに居ると父さんから聞いたことはある。

 度々住む場所を変えるからわからないのだとか。


 妖精?

 どっかのおとぎ話しか出ないのだろうとつくづく思っていたが、居るのか。


 嘘を付いている可能性もあったが、こんな所で騙す必要はない。


 1000年もの間世界中を飛び回っているのならこんな情報もあるはずだ。

 信憑性は非常に高い。



 「まあ、あのオッサンは元々妖精だったんだ。耳に入れておくと()()()()()()()()()()()ぞ!」



 ユッケは腹をこらえて大声で笑う。


 

 非常にキツイ冗談である。


 (俺がほとんど友達が居ないと言うのを監視かなんかで知ってるだろ!)


 マトモに体を動かせないのを必死にかくそうと、からかっているのだろう。


 (大体、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()がいるかよ!)



 ともあれ、ユッケが話している隙に大きく動く事ができた。

 モークとの距離まで後6メートル程にまで縮んだのである。



 ユッケを振り切る事が容易になった。



 サングラス、そろそろ行動してもいいか?



 《何時でも大丈夫です。》



 モーク、そろそろいぐぞ。


 『りょーかい、コッチは任せろって!』



 俺は最後の行動を開始した。



―――――――――――――――――――――――


遅れてしまい申し訳ありません。

※不備(詳細は省略)修正 加筆あり

ステータスに残血液追加

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