第41話 アイリス&モークVSユッケ 8. 縛られたユッケ 後編
3……。
2……。
1……。
0!
俺は行動を開始する。
直進で凡そ3メートル。
それを堂々とピョンピョンと跳ねながら歩く。
ユッケの剣の攻撃範囲内にモークは既に入っている。
俺に向かって剣を降った。
そして俺は縦20センチ程のジャンプをした。
一瞬だが、ブオンという風の音が下から聞こえる。
俺の下を、剣がくぐったのだ!
緊張でわなわな震えそうになったが、必死に堪える。
次にサングラスの言われた通り、その場に出来るだけ滞空する。
もともとモフモフしているせいか、ジタバタするだけである程度滞空出来るのに気づいた。
ユッケは次々と俺に向かって数度剣を振ったが、滞空のお陰で何とか生き延びる。
限界を迎えて地面に着地したあと、そこから7メートルを全力でピョンピョンと跳ねる。
その途中、次の回避を思い出させる。
(たしか、右左左右左左右だったっけ?)
《右左左右右左右です。》
走っている途中、サングラスの修正が入る。
このまま確認していなかったら5回目で一撃を必ず撃たれていただろう。
直前に確認しておいて良かった。
ユッケはすぐさま方向転換し、俺に襲いかかってきた。
そして、連続で剣を振り下ろす。
右20センチ。
左20センチ。
左20センチ。
右20センチ。
右20センチ。
左20センチ。
右20センチ。
ギリギリながらも危なげなく回避する。
だんだん汗がとまらなくなってきた。
死と隣り合わせの回避ばかりしているから当然なのだが、それよりもユッケとのレベル差の方が怖い。
なにせ250のレベル差は離れすぎている。
ユッケが【魔力暴走】のせいで手加減してくれなくなった今、全力で回避しないといけなくなった。
緊張、動揺、畏怖などという様々な感情が俺の頭をぐるぐると回る。
落ち着け、落ち着け。
大丈夫、大丈夫。
自分で自分を必死に抑えつける。
……ふう、まだ途中だな。全力でいくぞ!
最後の右回避をしてから凡そ1秒後、俺は後方に全力で6メートル移動する。
勿論、ユッケを警戒している。
敵に背を向けて戦うなんてことはまずない。
すると、ユッケは持っていた剣をわざと空振りする。
間違い無く【斬撃】か。
《一端地面の中に潜ってください。潜っている途中もそのまま後退を続けてください。》
わかった。
【斬撃】がくる前に俺は高速で地面を掘り、地中に潜る。
(ハァ~。アイリスがこんなヤバイ特訓を10年間やってたって聞いたけど、正直尊敬しそうだよ……。一応仲間扱いだけど)
俺は潜っている最中も後退を続けた。
ちょうど、【斬撃】が地面にドーンとぶつかる。
音と震動が遅れて俺に襲いかかる。
だが、こんな事で躊躇ってはいけない。
懸命に地面を掘り起こし、遂に6メートルを移動仕切った。
《そろそろ地面から這い上がってください。6メートルです。》
サングラスの合図と共に、俺は地面から地上へ出る。
移動開始から6メートル後方に下がるまで、凡そ2秒少し。要求された時間より掛かったが、上等と言うべきか。
今度はユッケの方向に全力ダッシュで向かい、ナイフを刺そうとする。
「チッ……モーク! 俺は今、【魔力暴走】のせいで魔力を制御出来ない。だから、頑張ってくれよ…… 【重力操作】!」
ユッケが何かしらの魔法を詠唱した後、右手に持っていた剣を左手に持ち替え、右手を前に突き出す。
右手からは黒色の渦が時計回りに回っている。
すると突然、俺の体がその黒色の渦に吸い取られるかのようにジワジワと引きつけられていく!
直感でヤバイという魔物の感覚がピリリとヒリ付く。
サングラス、これどうにかならない?
《踏ん張ってください。それしか方法はありません。》
……え?
もしかして、この魔法はヤバイ?
《はい。ヤバイです。》
(えええええ!!)
俺は心の中で悲鳴を漏らす。
勿論、どんどんユッケの右手に近づいていっている。
完全に吸い込まれたらどうなるのかは想像もしたくない。
逃げなければいけない!という当然の判断が真っ先に脳に浮かんだため、吸い込まれる方向の逆に向かって全力で走る。
ジャンプなんて論外。
飛んだらユッケの右手へ直行だ。
その場で踏ん張ると言うのはアリのように思える。
しかし、いつかは右手に吸い取られるのだ。
※逃げるという選択、本当は間違っています。
逃げる。
全力で逃げる。
少しずつだがユッケの右手との距離が段々離れていく。
体を懸命に動かし、吸い取られる魔法が消え去るのを祈る。
1分経過、ユッケの右手はまだ俺を吸い取ろうとしている。
ちょっと息がしんどくなってきた。
2分経過、まだ吸い取ろうとしている。
段々と顔色が悪くなってきた。
2分もガチで走っていたらそうなる。
でも、まだ頑張れそうだ。
3分経過、すると、ユッケの右手の吸引力は更に力を増して来た!
ヘトヘトになった時には、いつの間にかジワジワと引きつけられていた。
ハッとなった俺は地面に這い蹲る。
モフモフしている体を生かし、踏ん張る。
(ん?ちょっと待てよ、もしかしてコレはアリなんじゃないか?)
俺は周りを見渡す。
疑問が確信に変わり、俺は特技をユッケに見せる。
【穴を掘る】だ。
俺は踏ん張る事を完全に捨て、全力で穴を掘る。
掘った土は後ろに投げ捨てる。
6メートル程掘ると、予想した通りの結果になった。
確かに吸い取ろうとしている力はある。しかし、それが起こっているのは俺だけなのだ。
つまり、吸い取ろうとしている力を感じるのは俺だけなのだ。
(ヤッパリそうか!通りで地面に転がっている小石が吸い取られないのか!しかも直線しか吸い取ることが出来ない。)
俺は穴を掘る時に少し一手間加えた。
ぐるぐる巻きに近い穴だ(とは言え、少し曲げただけだけど)。
本来なら掘った穴に沿って吸い込まれるが、今回は一定方向にしか吸引されなかった。
これでとりあえず引き込まれる可能性は減った。
うーん、穴の中だからユッケを直接見れない……。もしユッケが俺の穴の中へ入ったらマズイな……。
《モーク、ユッケは穴に入りました。》
吸引が無くなったから何となく予想してたけど早いな。
捕まると厄介だ。
続けて穴を掘る事にした。
穴掘りなら負けない自信がある。
※サングラスがモークに言った作戦。《まず、これから10秒後に直進を3メートル程を歩いて進んでください。そして、20センチの高さほどを縦にジャンプしたあと、出来るだけ対空出来るように意地し続けてください。さらにそこから7メートル程を全力で走った後、右左左右右左右の順にそれぞれ20センチ移動してください。それから1秒後、今度は6メートル後方にユッケを警戒しながら最低2秒未満で移動出来るようにし……。》此処までほぼ作戦通り。
第40話、後半参照。
―――――――――――――――――――――――
ユッケは非常に複雑な心境でいた。
なにせ【魔力暴走】のせいで手加減が全く出来なかったのである。
久しぶりに戦おうと思った矢先、この有様である。
愕然と言うよりも、呆れと言うよりも、不快であった。
―――――――――――――――――――――――
~ユッケ視点~
不快!
俺は非常に不快だ。
【魔力暴走】のせいで手加減出来なくなったのはマズイ。
アイリスとモークを死なせてしまってはコレからの楽しみが全部潰れる。
最悪俺も死ぬ可能性だってある。
必死で魔力を押さえているが、まさか黒色魔法レベル6の【重力操作】まで使ってしまうとは……。
オマケに【剣舞】まで……。
【大剣舞】よりはマシだろうけど、モークタンにそれは余りにも非道すぎる。
頼むから【死の一本線】だけはマジで止めてくれないかな……。
いつの間にか、俺は穴の中に入っていた。
足が、勝手に動く。
必死で止めようとすると、激しい痺れが俺を襲う。
余りの痺れに意識が飛びそうになった。
【魔力暴走】に抵抗するとこうなるのか。
(モークを追っているのはわかるが、何する気だ?そもそも、誰が俺を動かしている?魔力のせいなのはわかるが、それにしては好戦的すぎる……。)
様々な疑問が浮かんでいくが、ハッキリとした答えが出ることはなかった。
―――――――――――――――――――――――
一方その頃、【臆病者】はというと……。
ジリ貧状態である。
―――――――――――――――――――――――
―【臆病者】アイリス視点―
魔剣を開始し始めてから凡そ1時間……。
回避に慣れてきたが、所々かすり傷を被っている。
時々緑草で回復をしているが、あと15枚ほどというところか。
【ステータス】!
《ステータスを表示します。》
緑色の世界の右端にステータスが表示された。
低くなっているのは間違い無い。
【ステータス】名前無し(現愛称 アイリス・オーリア)
レベル 26 ランク D
体力 274/436
魔力 154/211
攻撃 71/80
防御 60/69
早さ 189/279
速度 6.125/7.75
当会心 7.375/9.125
回避 54/55
当回避 55.5/55.5
総回避 79.73/79.975
残血液 3914/4000(200)
経験値 1802/500000000
次 1802/2200(398)
なんか右のステータスとレベルが増えてない?
《はい。レベルアップにより、身体的能力が向上しました。》
(異世界でいうところの【げーむ】みたいな奴だな。まあステータスの上下がある分、こっちの方が現実だが。)
総回避増えたのは久し振りだぞ?
ここ最近、総回避が増えなかったしなぁ。
何で大台の80をギリギリ突破できないんだよ……。
《私は80を見たことはありません。サブマスター(サン・グラース)との旅先で色々な冒険者を見てきましたが、80を超えた者など居ません。》
多分大抵の人は60もいかないと思う。
ユッケはレベルが高いから60を越えているけど、276でも70を切っている。
50以上でも超一流レベルだ。
俺は総回避が高いだけだけどな。
でも、総回避95を超えたら滅茶苦茶ヤバイと思わないか?
飛んでくる攻撃のうち、20回に1回当たるかどうかだぞ?
しかも、コイツはあくまで数値だから生半可な攻撃は全部回避されるだろ?
特訓から7年位経った時にふと思ったことがあるんだ。
「もっと上手に回避出来ないのだろうか?」
だから、せめて旅立ちの前くらいまでは特訓を続けようと思ったんだ。
結局、ステータスの上昇(この時の俺はステータスという言葉を知らないのだが)は微々たるものだった。
多分総回避も大したものではなかったハズだ。
何が変わったかな?
……まあこの3年間は夢を持ってたんだ。
もっと回避出来たら、もっと上手くなれたら。
そしたら、いつの間にか最初の特訓から10年経っていたんだ。
俺がこんな特訓をどうして10年もできたと思う?
《私には理解出来ない領域です。》
夢だよ。
全員、何かしらの夢を持たないと努力出来ないんだよ。
最初の頃の夢、「強くなりたい」。
中盤辺りの夢、「もっと強くなりたい」。
終盤辺りの夢、「18歳ぐらいまでに総回避95突破」。
俺はこんな感じで夢を追い続けたんだ。
《アイリス様が特訓をどうして続けられたのかが、今になって理解出来ました。》
でも、終盤の夢は儚く終わったけどな。
《しかし、その夢を追い続けた分成長した所もあるのでは?》
わからない。
でも何も起きませんでした。ということは流石にないと思うぞ?
それが何かしらの形で「良かった」と思う時があるんじゃないか?
例えば、
「僕は強くなるために山に籠もって修行をしていましたが、あまり対した成果は得られませんでした。ある日、修行に行こうと山へ向かっていたところ、泣いている子供の近くにリンゴの木がありました。どうやら子供はリンゴが欲しいそうです。でも子供は木に登れないためリンゴが取れません。だから、登れる私はリンゴを幾つか取って子供にあげました。」
だったら、子供から何かしら恩恵を貰えるんじゃないか?
「子供が私に何かくれました。」
「子供が私にいい景色が見れる場所を特別に教えてくれました。」
「子供と友達になりました。」
とか色々考えられるだろ?
(サッとテキトーに考えた奴だから色々変な所はあるが……まあいいか)
《確かにそうですね。サブマスターが私を開発したのも、何かしらの夢があるかもしれませんね。》
間違い無くそう思うよ。
……おっと、しまった。
話を飛躍し過ぎた。
魔剣の回避に慣れたから、話相手程度の事がないと油断するからな。
《かえって油断を招くのでは?》
人それぞれなんだと思う。
俺がそう思うだけだけど。
《なる程、ある意味大きな勉強になりました。所で、現在モークはユッケにナイフを当ててすら居ません。ピンチです。》
確かにマズイな。
でも、あの状況でナイフを当てるのは俺でも遠慮する。
【重力操作】は始めて見た。多分普通の人間が所得出来る魔法じゃない。
《人間では禁止されている黒色魔法のレベル6です。非常に危険な魔法です。》
ちなみに、どうして黒色魔法は人間では禁止になっているんだ?
《一度黒色魔法を覚えてしまうと、何かしらの力に犯されるという説があるためです。そもそもどうやって黒色魔法を覚えるのかは謎に包まれているそうです。》
ユッケがそんな感じには見えないのだが?
今は【魔力暴走】のせいでモークを殺そうとしているけど。
《それは私にもわかりません。何かしらの理由で制御出来ているのでは?》
コレはユッケに直接聞かないといけないとダメな奴だな。
今は却下だ。
それにしても、モーク相手に地中での戦いはユッケにとっては不利じゃないか?
《否。地中では攻撃、攻撃方法が大幅に制限されるため、そうという訳にはいきません。実際のところ対して有利不利の差はあまりないでしょう。》
……そうか。
残念ながらモークとユッケが何をやっているかは此処から見えないが、引き続きモークをサポートしてやってくれ。
《勿論です。》
俺は飛んでくる魔剣を回避した。
今までで何回、回避したのだろうか?
計算したら俺の苦労もわかるハズなのに。
―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――
~モーク視点~
俺はユッケから少しでも離れるためにひたすら穴を掘っている。
穴はグニャグニャ曲がっているのはワザとだ。
少しだけ時間を稼ぐだけの方法でしかないが。
《モーク! 今すぐジャンプしてください!》
突然、サングラスが俺に警告する。
当然俺はサングラスを信じているのでジャンプする。
ガガガガガガッッ!!!
すると、横から突然剣が現れる。
石などの硬いものを巻き込んでいるからガガガガと響く。
剣は俺の数センチ下をすり抜けた。
(危な……ユッケの声は聞こえないハズなのにどうして?)
《ユッケが使用した魔法【長剣化】でしょう。使用者が所持している剣を、自由自在に長く出来る紫色魔法レベル6です。剣を長くするほど、魔力を使用すると聞きます。》
そんな魔法があるのかよ!
魔法がかなり使えると言うことだけで一躍有名になれそうだ。
【魔力暴走】という恐怖に一生付きまとわれるデメリットもあるが。
それより、此処からでた方がよい気がしてきた。
地中という動きが制限された所よりも、逃げ場が広い地上の方が良いのではないのか?
そんな事を考えていると、後ろから小さく声が響いてきた。
聞いたことのある魔法だ。
ユッケが間違い無く何かをしてきそうである。
《モーク、ユッケが【沸騰する大地】を使用しようとしています。至急上昇してください。》
「【沸騰する大地】!」
やはり仕掛けてきた。
ドロドロと地面が溶けていく。
後少しで息が出来なくなりそうだ。
このまま俺が此処にいれば溺れ死ぬ。
かといって地上から這い上がれば、メッタ討ちにされるだろう。
何かしらの対策をしている予感しかない。
と、此処で俺の頭が閃く。
少々危険な賭けだが、早くコレをしないとサングラスの解析が遅れるだけだ。
このままではジリ貧状態になって俺が持たない。
サングラス。俺の行動の分析は済んだか?
《はい。充分です。後は攻撃の分析の為にユッケに数発攻撃すれば完了です。》
……だろうな。
そこで、危険な行為は承知の上だが……【沸騰する大地】で土が溶けている隙にユッケに攻撃してもいいか?
《かなり危険です! 第一、ユッケとの距離は凡そ10メートル。当然反撃して来る可能性だってあります。成功率は50%以下です。》
地上から出るよりも安全では?
【沸騰する大地】を使用したら俺達が上に上がるのは相手はわかっているハズだよね?
だからユッケは、俺を嵌める為に【沸騰する大地】を使ったのでは?
魔物のカンだけどな。
《それでも危険です。此処は一旦ユッケから離れて、そこから地上へ出るのが得策……。》
サングラス。
お前は賭けを信じないタイプなんだな。
だったらお前を無視するぞ。
《……アイリス様申し訳ありません。―閃光―!》
おっと、その手に乗るかよ!
俺はアイリスという言葉がでた途端、ふさふさの毛の中にあった小さなチップを取り出し、口の中に入れる。(流石に壊れないよな……)。
すると、来るはずの閃光がなにもこない。
俺の予想通りだ!
(だよな。どおりで目を閉じても閃光が見えたんだな。)
俺はサングラスに少しだけ威張る素振りを見せた後、息を大きく吸う。
体の体積が大きくなった気がする。
その頃には、沸騰された土が俺の体を覆う。
息継ぎが出来なくなった。
今まで俺が息を長く止めることが出来たのは2分少し。当然ユッケは反撃して来るので、それを考慮すると1分30秒が限界。
恐らくユッケの地上に罠を仕掛けては居ない。
だったらこの機会を逃さない。
俺は体をくねくねと動かし、ユッケへ近づく。
《モーク。わかりました、閃光はしませんからチップを元に戻してください。》
マジでやめてくれよ。
ユッケの戦いが終わるまでに閃光掛けたらお前を恨むからな。
《了解。後で閃光をします。できる限りのサポートをいたします。》
……まあいっか。
俺は口の中からチップだけを取り出し、それを掛ける。
吸い込んだ空気が少しだけ抜け出したのは仕方がない。
極僅かというほどのレベルの量なら、許容範囲内だ。
さて、とりあえず目は閉じている。
実際は何も見えていない。
では、何故ユッケに近づいていると思うのか?
答えは魔物のカンである。
強い魔物の気配と殺気、それと俺の直感。
それだけで俺は相手の位置や大きさ、更には強さまでわかる。
(コイツは間違い無く魔物。でも、此処まで姿が人間に近い魔物なんてゴブリン位しか……でもアイツは緑色で人間より体系が小さいしな。じゃあ何だ?)
俺がユッケの事で考え込んでいた時、目の前が急に見えるようになった。
《簡易版ですが、脳内マップを即興で作りました。確実にユッケに近づいています。》
俺はサングラスを付けていないのにも関わらず、頭の中にマップが突然出現した。
おお!
見える。
4メートル程先にユッケが見える。
よし、不意打ち作戦開始だ!
―――――――――――――――――――――――
【沸騰する大地】を使用したユッケは、もう一つの魔法を詠唱していた。
レベル7という大技を!
―――――――――――――――――――――――
~ユッケ視点~
おいおい、何をする気だ?
まさかモークタン相手に最高レベルの7を放つんじゃねーよな?
マズイ。
モークタンが地上へ上がって、レベル7が直撃すれば間違い無く死ぬ。
クソ!
体が言うことを聞いてくれない。
俺としたことが……。
心の中で大いに苛立ち、後悔する。
体を動かそうにも【魔力暴走】のビリビリをまともに受けてしまい、諦める。
(それにしても、モークは今どこだ?地上に出たなら真っ先に【魔力暴走】の俺が検知するハズ。)
そんな事を考えていると、詠唱が終わる。
モークが地上に出た瞬間に発動するという、俺でもよくわからない仕掛けだ。
縛られたユッケは地上を目指そうと上に向かおうとする。
(モークは何処にいる?まだ出てきていない……えっ?)
直後、喉仏に強い衝撃が走る!
ダメージはなかったが、防御力は幾ら高くても衝撃をカバー出来ない。
土が溶けているこの状況。水中と似た条件下(石がある、全く透明でない、ドロドロ)にも関わらず、俺は体制を崩しそうになる。
ドロドロになった土が見えるハズがない。
透明のハズがない。
それなのにモークは、俺の喉仏を確実に突いた。
偶然では無い気がする。
すると、次の攻撃で偶然では無いと確信する。
喉仏の下、右胸、腰と次々に衝撃が走る。
(モーク、もしかして地上にトラップがあることを読んだ?それを逆手にとって、わざわざ俺の所に向かうという危険な行為をしたのか?)
……アイリスのペットであろうモーク。
なかなか面白い。
体の自由は効かないが、拝見するとしよう。
どうやってこの状況を乗り越える?
―――――――――――――――――――――――
一方その頃、アイリスはというと……。
サングラスから何かしらの指示を受けていた。
―――――――――――――――――――――――
―【臆病者】アイリス視点―
…………。
おお、サングラス。
どうした?
急に来るのは珍しい(一日しか使用してないけど)な。
…………。
……なる程。
威力は?モークは耐えられるか?
…………。
それは確実にヤバイ。
モークが死んでしまう。それどころか当たったら俺も死ぬな。
…………。
うん、それで?
俺はどうしたらいい?
…………。
……わかった。
かなり難しいが、やってみる。
俺はサングラスの説明を受けた後、モークの真上まで向かおうとした。
(さあ、この付きまとう魔剣をどうしようかな?……奥の手だけど、この際しょうがないか)
俺は飛んでくる魔剣を……。
―――――――――――――――――――――――
―――――――――――――――――――――――
~モーク視点~
よし!
4回も当てたぞ!
《おめでとうございます。このままの勢いで、あと数発攻撃してください。解析が完了次第、上昇してください。次の音が合図です。》
サングラスの言葉が終わると同時に、ポーンと言う高い音が響く。
コレが出たら、上に上昇の合図だな。
《はい……モーク、ユッケの攻撃が来ます。水中と似た状況で動きづらいですが、頑張って回避してください。私がサポート致します。》
頼んだ。
《まず、左に40センチ回避してください。》
サングラスのサポートを受けて移動する。
右辺りで剣が振り下ろされたようだ。
液体の圧力はある。
でもダメージは少ないとは言っても、用心したことに越したことはない。
そして、ユッケに向かって襲いかかる。
左脇腹に当たった。
コツッという硬い音が証明する。
当然ダメージは0。
そんな事は当にわかっている。
ユッケは俺の場所が当てた所でわかったのだろう。
剣を振る。
《モーク、ユッケが剣を振ります。安全の為にユッケから2メートル離れてください。》
当然サングラスはその事を読んでいた。
サポートを聞いて一時後退する。
(息はせいぜい40秒という所か。幾ら体が大丈夫だとは言え、数百度の液体を直で飲み込んだら流石に死ぬしな)
「ポーン。」
すると、高い音が響いてきた。
間違いない。
上昇の合図だ。
俺はうねうねと体を動かしながら上昇する。
すると、それに感ずいたのだろう。
4メートル程下からユッケが追いかけてきた。
サングラス、どうしたらいい?
《頑張って上に上昇してください。》
それ「気合で頑張ってください。」って言っているのと殆ど一緒じゃん!
とは言え、此処はどんなに足掻いても頑張って上に行けという選択肢しかない。
仕方なく気合いで行くしかなかった。
《左に50センチ移動。回避しながら上昇してください。》
サポートがあるのが唯一の救いだろう。
コレが無かったら恐らく、今頃死骸を鳥が食べ始めているのだろう。
そう考えながら左に50センチ移動する。
この後も数回ほど移動があったが、サポートのお陰で回避した。
上昇し始めてから20秒程経っていた。
全体的にピンク色の世界と、周りにはピンク色のダイヤの形をした物。
上に黄色の魔法陣が見えた。
(やったー!!!この勝負勝った……ん?)
直後、猛烈な違和感を感じる。
見えた光景に違和感があったのだ。
ピンク色の世界はわかる。
ピンク色のダイヤもわかる。
となると、残り一つ……。
(ヤバイ!ユッケの奴、俺を確実にしとめる為に、一部じゃなくて全体魔法を仕掛けたのか!)
しかし背に腹は代えられない。
呼吸も厳しくなり、ユッケが後ろから追ってくる今はどうしようもなかった。
そして俺は地上へ姿を現す。
すると、上にある巨大な黄色の魔法陣は輝き出す。
(アイリスゴメン。俺、終わった……)
俺はついに覚悟を決めた。
すると何者かが突然俺を抱きかかえ、全力で魔法陣から逃げていく。
1秒後、ユッケが地面から姿を現しこう唱えた。
「【初祖・雷帝光王】!」
直後、巨大な魔法陣から直径100メートル程の雷が4発同時に放たれる。
ドーンというより、バーンという耳を塞ぐほどの轟音が【幻想世界】を襲った。
更にそこから1秒程に、今度は魔法陣の中心から直径300メートルの雷が地面に大激突する。
余りの爆音と風圧により、俺を抱えている者が数十メートル程飛ばされた。
「アアアアアアアアアァァ!!!」
我慢出来なくなった俺は断末魔レベルの叫び声を上げた。
巨大な雷と激突した地面は、余りの衝撃により、見えないほどの砂煙を巻き上げている。
数十秒経った後だろうか。
(う、うう……。たっ……たすかったのか?)
《やはり、そうでしたか。救援を読んでおいて大正解でした。》
救援?
《あなたに閃光を浴びせることが出来なかった直後、私はあるお方に救援を要請しました。【初祖・雷帝光王】という大技をユッケが使用する可能性があると推察しました。》
それは置いておくとして、救援が誰なんだよ?
《顔を見てみた方が早いですよ。》
俺は助けてくれた人の顔を見る。
彼は確か魔剣と戯れていたハズだ!
「オイ、モーク。折角ワザとケガをしてまで助けてやったのに、『助けてくださってありがとうございます!』という有り難い御言葉も無いのか?」
彼―アイリス―は何かヘンな言葉を言いながら、わざとらしいようなニッコリ顔で俺を見つめる。
助けてくれた事はとても有り難いのだが、ニヤニヤした顔で「『ありがとうございます』と言え!」と軽く言い寄られると凄く気持ち悪く見えてくるのは何故だろうか?
《……本当に後でシメます。》
確定事項かよ!と突っ込む。
面倒だったのでアイリスの返答と同時に
「ああ、そうですか! 大体サングラスもアイリス野郎も、どっちかが俺に教えてくれたらあんな断末魔を叫ぶ必要がなかったんだよね! そんな事がとうにわかっていたハズなのに、サングラスは上に大技があるという情報を俺に一切教えないし、お前は俺に『ありがとう』と言えとか言うし。」
俺はぴょんぴょんと跳ねて怒りを露わにする。
本当はさほど怒ってはいない。
結局俺は助かったのだ。
もし死んでいたらその時は死者の世界で愚痴大会を開催すればいい。
結果がよければ、経過はどうでもよいのだ。
アイリスは少し複雑な表情をしている。
折角俺が此処までやったのにという顔である。
間違いなく魔剣の事だろう。
魔剣はどうしたのかという質問は余りしたくない。
身体の一部分を見ただけで何をしたのかがよくわかる。
だが、念の為に質問してみることにした。
「魔剣をそうやって食い止めるのか……。正直それは、生き物のやる事じゃ無いな。」
「確かにそうだな……。どうやって魔剣を止めるかという事を考えて、パッと出たアイデアがこれだった。こんな事をした……いや、されたのは恐らく7年振りぐらいだな。」
俺は再びその狂気の光景を見る。
アイリス左腕に4本の魔剣が刺さっているのだ。
いや、貫いているという言い方の方が正しいのだろうか?
魔剣の先が身から少しはみ出し、そこから少量の黒っぽい血が流れて滴り落ちている。
「まあ、刺さった後に勢いを右手で止めて、予め右手に持っていた緑草で左腕を治療したんだ。そしたら、固まって魔剣を止められるっていうシンプルかつ痛いやり方だ。コレを4回やれば良いだけだ。」
想像しただけで汗が止まらなくなってきた。
この人間ならざる所業を4回もやらなければいけないのだ……。
これは、此処までして救援に駆けつけてくれたアイリスになんだか申し訳がたたなくなってきた。
流石に感謝の言葉くらいはかけてあげないといけない。
「アイリス、此処までして俺を助けてくれてありがとう。」
「ハハ……ちょっとはモークも素直になったな。」
本音で言っているのは理解できたが、同時に左腕の痛みを我慢している感情もある。
「後であれよりも良い干し肉をやろう。最大の功績はお前だからな。」
「あ、そう? 頂きまーす。」
俺はわざとらしくそう答える。
……正直嬉しい。
「……さて、ここから最終局面かな。俺とモークが考えたコンビ技が通用すれば、何とかなるかな。」
「失敗したらどうするの?」
「おいおい、失敗の事を考えるのは後の話だ。失敗の事を考えて行動したら本当に失敗するかもしれんからな。まあ、生き物次第だけど。」
アイリスはあとづけで「まあ、本気で頑張ればいいんだ」と言う。
「じゃあ、これで準備完了と言うことだよね?」
「そうだな。その前に、最後の作戦会議だな!」
アイリスは希望に満ちた様子でそう言った。
コイツ、前向きだな。
どうしてそこまで前を向いてられるのだろう?
でも、何だかアイリスの回避を見ていると清々しいんだよな。
最も、相手からしたらイライラの嵐だが。
俺はそう感じた。
―――――――――――――――――――――――
これは少し前の出来事である。
モークがサングラスの閃光を回避した直後、アイリスはサングラスから突然の知らせが入った。
―――――――――――――――――――――――
―【臆病者】アイリス視点 少し前―
《アイリス様、少しお願いがあります。》
おお、サングラス。
どうした?
急に来るのは珍しい(一日しか使用してないけど)な。
《先ほどユッケがモークを仕留める為に、上空に大技【初祖・雷帝光王】を発動している事が確認出来ました。ユッケはモークを誘い出し、地上へ這い上がらせた直後をハメようとしています。》
……なる程。
威力は?モークは耐えられるか?
《使用する魔力によって威力は異なりますが、魔法陣の大きさを考慮すると、通常のモークタンなら数万のダメージを受けるでしょう。》
それは確実にヤバイ。
モークが死んでしまう。それどころか当たったら俺も死ぬな。
《そこで危険を承知の上ですが、アイリス様に救援を要請したいのです。》
うん、それで?
俺はどうしたらいい?
《地上から這い出るモークタンを魔法範囲内から救ってあげてください。場所は脳内に直接送ります。》
……わかった。
かなり難しいが、やってみる。
俺はサングラスの説明を受けた後、モークの真上まで向かおうとした。
(さあ、この付きまとう魔剣をどうしようかな?……奥の手だけど、この際しょうがないか)
俺は飛んでくる魔剣を……。
ガッ!
ドバッ!
ジャッ!
ゴッ!
……痛い。
この光景はかなり久し振りだな。
結局これしか浮かばなかった。
……さてと、モークはあそこらへんかな?
俺は頭に出て来るモークの居場所を見つけ、そこへ向かった。
10秒程経った時、上空に黄色の巨大な魔法陣が現れた時には、余りの大きさに驚いたものだった。
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※多忙という理由により、しばらくの間連載を停止していましたが、本日をもって連載を再開いたします。
申し訳ありませんでした。
アイリス「何でそう言わなかったんだよ」
モーク「どうせだるかっただけじゃないの?」
ユッケ「どうして俺がモークの作戦が始まるまでの間待たなければいけなかったんだよ! お前俺と同じ名前なんだからそこらへんしっかりしろよ!」
ナークプル「正直待たせ過ぎです。」
今度とも【野蛮学校物語】をよろしくお願いいたします。
※ステータスにミス、一部修正。
不備(詳細は省略)修正 加筆あり
ステータスに残血液追加




