第39話 アイリス&モークVSユッケ 6. ナークプルとユッケ
そのころ、ナークプル・カルナは事の終始を全て見ていた。
そして、すぐさま気づく。
脅威的な【臆病者】の回避能力を近くで見ていたからだ。
【臆病者】とは思えない勇気と強さに、ナークプルは段々と疑い始める。
そして、ユッケの【魔力暴走】も刻一刻と近づいていた。
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~ナークプル視点~
~【臆病者】とユッケのタイマン勝負 1.~
私は目の前の光景が信じられなかった。
ユッケと【臆病者】が互角に戦っている!
戦闘開始から十分後に、いつの間にか探知系魔法の一部が使えるようになっていた。
遠すぎて(600メートル)事の一部が聞こえなかった私にとってはありがたい誤算だ。
(意図的にユッケが解除した可能性もあるわね)
早速探知魔法を唱えて、600メートル先の戦いを見届ける。
思いっきり殴られたダメージは治っていないため、実は苦しい。
お腹のダメージが激しいのか、口から胃液を吐く。
ハッキリ言って血よりも喉が痛くて辛い。
さて、肝心の戦いを直接見てる私からすると。
ユッケは間違いなく手加減をしている。
しかし、40%程度の手加減と80%程度の手加減というものは訳が違う。
これは80%程度の方だろう。
一部の魔法や技を使用していないのと、本気の速度で動いていない。それと、攻撃力。
でも、制限はそれだけ。
それ以外は本気で【臆病者】と戦っている。
それにしても、臆病者の回避能力は凄い。
私が見た感じ、80%の攻撃を回避できている。
何て驚異的な回避能力。
私は回避専門ではないのでおよそ40%だ。
80%なんて、帝国の池崎様と同レベルの存在。
(まさか、前に池崎様と同じ【プレイヤースキル】を!?)
いや、そんな地獄の鍛錬を積まないとできない話。
最低でも6年以上は格上の魔物と戦闘を続けなければならない。自分に圧倒的不利な条件付きで。
それを【臆病者】がやったというの?
私はユッケがかつて【臆病者】の事について言っていたことを思い出す。
確か、私がユッケと戦闘をする直前だった気がする。
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「なぜあなたはその様な【臆病者】を庇う? 彼はイケザキ村で仮指名手配扱いされています!」
「じゃあさ、何で君達は彼を【臆病者】と言って嘲けまくっているんだ? あの特訓を間近で見た俺には全く理解出来ん。」
「質問に質問を返さないでください。もう一度聞きます。なぜあなたはその様な【臆病者】を庇う?」
「うーん、運命的なものかな? それ以上は余り答えない。それより、君に【臆病者】の捕獲はハッキリ言って無理だ。そんなに【臆病者】の所に行きたかったら、俺を倒してからにしなよ。」
※31話参照。
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「あの特訓を間近で見た俺には全く理解出来ない?」
ユッケは【臆病者】の何を見たというの?
レベル差が離れすぎているユッケでさえ恐れおののく【特訓】という何かを。
《気付くのが遅過ぎじゃないですかお嬢さん?》
すると、私の頭の中から声が聞こえてきた。
頭の中が少し回っているかのような不気味な感覚が襲う。
お腹を殴られた衝撃が残っているときのこの状態で、頭の中をかき回された気持ちにもなってほしい。
《おっと、心の中で話してくれないと俺が【臆病者】のアイリスの説明に困る。それより、俺が【臆病者】の何を見たのか一から説明しようか?》
大声で聞こえるように言ってやろうかと考え込んだ。
しかし、そんな事をしたら逆にユッケの攻撃を食らう気がしてならない。
渋々「ええ、お願い。」と心の中でそう呟く。
今更ながら、【臆病者】がアイリスと言うことは初めて知った。
《よし。じゃあまず【臆病者】の特訓の内容を話そう。【試練の森】は知っているか?》
ええ、池崎様が若い頃に修行なされた場所。
池崎様が修行をなされていたときは誰でも立ち入ることが出来たが、現在は何かしらの理由で立ち入り禁止区域に認定されている。
その証拠に、現在その地域にいる魔物の平均ランクはC相当の強さだ。
《……へぇ~、それは初耳だな。ちょっと良いことを聞いた。まあ、取り敢えず結論から言おう。【臆病者】のアイリスは……。》
私は冷や汗をかく。
もし私の予想が的中しているなら、彼は【臆病者】ではない。
それをやっていたら、の話になるが。
もしも3年以内にその特訓を止めたのなら
【プレイヤースキル】が身につく事はない。
ただの頑張り屋なだけだ。
もしも3年から6年以内にその特訓を止めたのなら
【プレイヤースキル】は身に付く。
この地点でステータスはほとんど最大まで強化されるので、此処で止めるのが当たり前なのだ。
池崎様は6年間修行をなさっていた。
だが、7年以上特訓したのなら……。
【プレイヤースキル】はとっくに身についている。
しかし、【野蛮道】という修羅の道を貫く狂人になるという噂だ。
圧倒的不利な状況。それにもかかわらず、自分より格上の相手を殺し続ける存在。
かつて、それを実際に実行した人物がいる。
【イミルミア近郊地域連続殺人事件】の犯人がそれだという。
詳しい名前と動機は全くわかっていない。
【プレイヤースキル】を【臆病者】が持っているのは確かなのだろう。
問題はどれくらい特訓したのか……。
そんな事を思いながら、ユッケの言葉をハッキリと聞くために耳を傾ける。
《特訓期間およそ10年、【プレイヤースキル】持ちだ! コレがどういうことか、人間のお前ならわかるだろ?》
私はゾッとした。
10年!?正気の沙汰ではない。
(いっ……一体どんな精神を持ったら、死と隣り合わせの戦いを自ら挑んでする必要があるの?)
《【臆病者】だからだ。》
ユッケは私の疑問に答えるかのようにそう答える。
【臆病者】だから何?
それが彼のやる気に繋がったとか言うの?
それ程死にたかったの?
《アイツは死ぬために特訓したわけじゃない。【臆病者】といつも呼んでバカにしている他のぐうたらを見返したかっただけだ。だからアイツは8歳から10年間、開いている時間があれば町を抜け出して、ずーっと【試練の森】で圧倒的格上の魔物を複数相手してたんだぜ?》
私は茫然としながらユッケの話を淡々と聞いていた。
数年前にたまたま通りがかったイケザキ村の冒険者商店町で、【臆病者】の噂を鵜呑みにさてしまった私を殴りたくなった。
段々、後味が悪くなってきた。
(冒険者に【臆病者】の捕獲を依頼されたけど、止めようかしら……。)
《だからお前に言ったんだよ。「じゃあさ、何で君達は彼を【臆病者】と言って嘲けまくっているんだ? あの特訓を間近で見た俺には全く理解出来ん。」ってな。正直、あの特訓を見た俺は鬱になりそうだったぜ。こんなにも苦労して強くなってる奴がいるのに、どうして俺は数分で強くなったんだ?って一晩中考え込んだんだ。ちなみに俺が最初目にした時、【臆病者】が通り過ぎた後の現場は今も目に焼き付いている。後で死んだ奴はいないと気がついたが、それでも赤と緑の血が大量にこびり付いていたぞ?》
私は何も反論出来なくなった。
それと同時に、ユッケが彼を監視(というかストーカー)するのも多少はわかる気がした。
どうしてそこまで戦い続けなければいけなかったのか?
どうしてそこまでやろうとするのか?
アイリスに直接聞きたくなったのはわかる。
(でも、何で今更?もっと早く直接会って真相を聞けたのでは?)
《そっ……それは……。うん、予定というものがあってな……。あ、予定ってのは……まあ、いろんな魔物を駆除するために……だ!》
悪者そうな格好をしているのに嘘が下手だ。
……第一、あなた魔物でしょ?
ハッキリ言って人間のステータスじゃない。
怪物よ。
《まあ今更隠し通してもムダだから言うよ。俺はユッケ、人間のステータスじゃないと言われて少しだけ傷ついたユッケ。ステータスは現在姿が見られた魔物の中では最高峰の頂にあり! そして、どんな時もクール。という「自分カッコイイ!」と言っているかのような言葉は置いておくとして、私の絶大なステータスに勝利をした英傑達には賞賛の言葉を投げかけようではないか! これらの背中を追い続ける若葉たちよ! 今こそ努力の時! ……ハアハア。……えーと、……そのー。……。》
……。
「くだらない説明の前にさっさとランクを教えて!」と言いたかったが、ユッケにキレられると笑い話では済まない。
此処は渋々ジッと耐える。
《いや、そこは「くだらない説明の前にさっさとランクを教えて!」とか言うべきじゃないの? お陰で言葉がそれ程並べられないから変な言葉になったし、最後詰まっちゃったし……。》
ユッケは「そこは突っ込めよ!」という表情が見えてきそうだ。
どうも人間臭い感情をお持ちのようね。
相手に【剣舞】を使っているというのにまだ余裕の態度である。
その【剣舞】を軽々と回避するアイリスもアイリスだ。
回避出来る、と言うのが私の頭の中に染み付いてしまった。
《余裕だって? まあ、まだ余裕だな。例えどんなに特訓しても、相手の経験値がそれほどなかったらしょーがないよな。》
アイリスのレベルは幾つ?
私が一番気になったレベルだ。
《驚けよ? レベル25だ。》
私はそれを聞いて唖然とする。
私の4分の1未満!?
我慢できずに自分のステータスを確認することにした。
【ステータス】!
【ステータス】ナークプル・カルナ(現愛称 黒十字団 団長)
レベル 104 ランク A-
体力 289/1477(!DANGER!)
魔力 1543/1942
攻撃 652/851
防御 755/1099
早さ 157/584
速度 5.375/6.25
当会心 7.625/9
回避 20/22
当回避 22/24
総回避 37.6/40.72
残血液 2713/3800(2050)
経験値 1169825/500000000
次 1169825/1300000(130175)
ユッケにやられて体力や残血液が少ないのは想定済み。
私は魔剣士(魔法と剣を習得する冒険者や兵士の事)だ。
かなりステータスのバランスが良い。
欠点が少ないのが魅力だったからそうした。
まあ、総回避40%はまずまずだ。
《じゃあ、一部だがアイリスのステータスの一部を特別に公開するよ。》
ユッケはそう言うと私に向かって極小の光の球を私に向けて放つ。
どんな効果がわかっているので、回避せずに受け止める。
すると、彼の名前とステータスが私の【ステータス】の後ろに表示された。
【ステータス】ナークプル・カルナ(現愛称 黒十字団 団長)
レベル 104 ランク A-
体力 289/1477(!DANGER!)
魔力 1543/1942
攻撃 652/851
防御 755/1099
早さ 157/584
速度 5.375/6.25
当会心 7.625/9
回避 20/22
当回避 22/24
総回避 37.6/40.72
残血液 2713/3800(2050)
経験値 1169825/500000000
次 1169825/1300000(130175)
追加 ユッケ→ナークプル・カルナに向けて【魔法情報】の送信を確認。
【ステータス】名前無し(現愛称 アイリス・オーリア)
レベル 25 ランク D
体力 372/400
魔力 182/199
攻撃 ?
防御 67/68
早さ ?
速度 ?
当会心 ?
回避 54/55
当回避 54/55
総回避 78.84/79.75
残血液 3992/4000(200)
経験値 12534/500000000
次 12534/18000(5466)
総回避、およそ80%。
間違いなく高い。
……が、それ以外はまずまずなステータス。
強いていうなら他のレベル25の冒険者に比べて、体力と魔力が高めな位。
残血液の()内が200なのは凄く気になるけど。
分からない所のステータスも多いが、恐らく総回避以外は一般的な冒険者と余り変わらない。
(でも気味が悪い。どうしてレベル25なのに全てのステータスを覗けないの? 私ならまだしも、レベル276のユッケですら覗けないとは……。)
【ステータスの非公開】を使っているようには見えない。
その魔法を使っているなら一瞬で相手にもわかる。
《まあ確かに数値だけを見れば、ただ総回避がバカ高いフツー冒険者だろうな。だか、コイツは10年も特訓してきたんだ。何かしらあるとは考えられんか?》
確かに考えられる。
数値では図れない何か。
知っているの?
私はユッケに問いかける。
《ああ。一応教えるが、常人の出来る所業じゃない。》
何となくそんな気はしている。
だか、強さの秘訣が隠れているかも知れない。
そう思いながら、ユッケの返答を待つ。
《例えばお前の体力が100未満、勿論回復なしの状況下で、強化魔法バリバリ付け足したAクラスの魔物数十匹とドンパチ出来るか?》
出来る訳がない。
第一、私の体力が100未満の地点で地面を這い蹲るしかないのだ。
しかも、強化魔法を掛けたAクラスなんて全快の状態でも厄介なのだ。
大人しく死を選ぶしかないのだろう。
《じゃあ、それを踏まえた上で【臆病者】の本気を語るぞ。……ズバリ、どんなに体力が少なかろうが、アイツは全快の時の機動力とほぼ同等なんだ。つまり、ダメージによるステータスの損傷が少なすぎるんだ。むしろ、アイリスの体力が10以外になったらどんな事が起こると思う? 全快よりも早い速度で駆け巡って、狂喜乱舞だ。あの時の目は冷や汗がダラダラだったぜ……ハハ。》
ユッケが苦笑いを浮かべている。
冗談じゃない。
立つことすら出来ない体力なのに、全快に近い機動力を持てるなんて事は無理だ。
出来るハズがない!
《アイリスは今までの特訓で散々魔物の攻撃をもろに食らってたんだぜ? ロクな装備もなしで殴られて殴られまくって……。慣れちまったんだろうなその環境に。そういう考え方なら、大筋は納得いくだろう?》
体が慣れてしまったと言うことか。
その地獄の環境とやらに。
アイリスは【臆病者】じゃなかった。
結局、その結論にたどり着いた。
イケザキ村の大半の住人は勘違いしている。
彼の強さや性格を。
《まあ、そう言うことだ。これでおおよそアイリスの強さがわかっただろう? それより、これからの戦いはもっと激しくなると思うから、観戦しろよ!》
突然、脳内に響いていたユッケの事がぷつりと途切れた。
まだ私に体力を回復させないつもりね。
兎に角、私は黙って見ていることしか出来ない。
(なんだか、ユッケを恨めなくなってきた。上空の嘘を信じた私がバカだったから)
ピンク色に輝く【幻想世界】。
一部使えるようになった魔法【写真】。
私はその光景を一枚撮る。
これは、【黒十字団】への土産品としておこう。
復讐を忘れない目的ではなく、思い出の場所を記憶するために。
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※遅れてしまい申し訳ありません。しばらくこのような状況が続きます。
予めご了承ください。
不備(詳細は省略)修正 加筆あり
ステータスに残血液追加




