第37話 アイリス&モークVSユッケ 4. 選手交代、煽りまくりの化け合戦
「ハァ……ハァッ……此処まで回避し続けるのは流石にしんどい……。」
「【呪いの魔剣】を放ってから既に20分。本当なら此処で殆どの冒険者がギブアップするんたが……ヤッパリお前はそうじゃ無いんだな。」
ユッケはわかっていたような顔をする。
ホントだったらこれ、敵に回してはいけないのだろう。
(ユッケ本人が戦いたいって言ったからどうしようも無いけどな)
俺は今、魔剣を回避し続けている。
異世界で流行っていた【じどうしゃ】の高速スピード(時速100キロ位)とほぼ同じ速さで、しかも回避しても別の角度から魔剣が再び襲いかかってくる。
最初はそこまで対した事は無かったのだが、時間がたつにつれて段々疲れてくる。
【ステータス】!
俺は心の中でそう唱える。
そうするとサングラスがステータスを表示してくれる。
《ステータスを表示します。》
緑色の世界の右端にステータスが表示された。
【ステータス】名前無し(現愛称 アイリス・オーリア)
レベル 25 ランク D
体力 358/400
魔力 182/199
攻撃 75/78
防御 63/68
早さ ?
速度 ?
当会心 7.625/9
回避 54/55
当回避 55.5/55
総回避 79.975/79.75
残血液 3992/4000(200)
経験値 1465/500000000
次 1465/1800(335)
……なんか総回避の数値上がってる?
いろいろ変わった気がするけど……。
《はい。あくまで回避率は統計情報です。つまり、実際のステータスではなくあくまで今までの回避能力を数値化下ものに過ぎません。》
じゃあ、会心もそうなのか?
《はい。合っています。》
そこらへんは参考程度ということで収めた方が良いのだろう。
(でも、攻撃と防御は少しずつだが確実に落ちてきている。【呪いの魔剣】がずっと邪魔しまくるからロクな休憩が出来ない。早くいいアイデアを思い浮かべないと魔剣かユッケの攻撃の餌食だぞ……)
そんな事を考えていると、ユッケは収納魔法からまた一本の短剣を左手に持つ。
刃渡り50センチ。
さっきの脇差とほぼ同じ長さ。
この地点で一番嫌な可能性を感じる。
そして、それは的中した。
思った通りの答えがユッケから告げられた。
「一本だとつまんないからもう一本いくぞ。【呪いの魔剣】!」
さっきと同じように短剣に漆黒のオーラを纏い、ユッケはアイリスに向かって再び投げ出した。
漆黒になった短剣はアイリスめがけて一直線に飛んでくる。
これも直線距離だろうとずっと思っていた。
《警告。よけない方が身のためです。》
突然サングラスが小さな警告音を鳴らす。
ハッとした俺はサングラスの言葉を信用して動かずにいた。
するとその短剣は、数メートル手前で突如として右にカーブする。
サングラスの言葉通りに動かずにいて良かった……。
無視していれば右に移動するつもりだった。
顔に直撃して真っ赤に変形していただろう。ついでにドロンと滴り落ちる目玉と脳ミソもオマケして。
「高い短剣なのに二本連続、一直線で投げる訳ないじゃないか。それにしても、よくギリギリで見切ったね。」
見切った訳ではない、サングラスが教えてくれた。と言いたいところだが、黙っておく。
敵にヒントを教える必要は無い。むしろ教えてはいけない。
(そう考えてると変なんだよなぁコイツ。なんで自分が不利になるような事をわざわざ俺に教えているのだろう?理由があるんだったら、俺は試されているんじゃないかと考えるけどな)
試されていると考えつつも、攻撃してくる内容はまるで容赦がない。
ユッケが仕掛けてきた魔法の中で、最も有名なものは間違いなく【剣舞】だろう。
Aランク以上かつ才能に恵まれた一部の凄腕剣士が持っている必殺技で使用される桁違いの魔法(というか技に近い)だ。
B以下の魔物なら微塵切りにしてしまう威力なので油断が出来ない。
それなのにユッケは、それ程重要視していない様子だ。
技の内の一つとしか見ていない。
そこで俺は、気になった事を一つ質問する。
勿論、魔剣とベタベタな状況でだ。
回避しながらの質問は少々辛い。
「ユッケ。お前はさっきの【剣舞】は隠し技なのか、それとも必殺技なのか?」
「どっちでもないな。って言うか、その状態じゃ喋りづらいだろ? 一旦止めておくよ。」
そう言うとユッケは剣を持ちながら右手で魔法を一時解除する。
すると、さっきまでベタベタだった魔剣は少し距離を置いて空中で停止した。
正直助かる。
本来なら敵を助けなくても良かったハズだ。
これで試されている可能性がさらに濃くなった。
「さあ、3分間だけ一時停止した。……で、さっきも言ったように【剣舞】は俺の必殺技でもなく、隠し技でもない。俺が冒険者相手に使う遊び感覚の技だ。まあ、それの上位互換の【大剣舞】ならよく使う技だな。」
遊び感覚の技、上位互換の【大剣舞】ならよく使う。
間違いなく強敵の証拠だ。しかも本物の化け物クラスだと再認識する。
【大剣舞】なんて技は聞いたことが無い。
【剣舞】だけでも習得できた人間なんて100よりも下だ。
それなのに、完全上位互換の【大剣舞】を習得できたなんで情報は恐らくどこにもない。
ユッケはその【大剣舞】すら必殺技では無いのだ。
前代未聞である。
(俺の必殺技【銅球落下】が恥ずかしくなってきた……。)
それなら、次に聞きたい言葉は一つしかない。
「お前の必殺技は何だ? 【大剣舞】とかいう魔法ですら必殺技どころか何時も使用する技。お前の最強技を見せてくれないか?」
「嫌だね。魔力の消費が半端じゃない。だが、耳には入れてあげよう。」
ユッケが魔力消費の理由で拒否をするなどよっぽどだ。
最初に見せた超強力な魔術でさえも躊躇いなどなく見せたユッケですらも。
「極位魔法【死の一本線】。勿論特殊魔法、この世界で最強の魔法の一つだ。」
「【死の一本線】!?」
勿論聞いた事も見たこともない。
それよりも極位魔法という言葉に強く引っかかる。
特殊魔法。
人間界ではまだ完全に解明されていない究極の魔法。
あらゆる他色の魔法をすべて押し潰し、種類によっては次元を越えることができる魔法も放つことが出来るという伝説上の魔法。
誰が最初に習得したのか、どうやって習得するのかが全くわからない。
その中でも特に最上位に区分される魔法、極位魔法がそれだ。
※特殊魔法については第30、31話参照。特に31話に多く書かれています。
「この世界。いや、あらゆる次元で生命を持つ生き物に対して絶大な攻撃力を誇る魔法だ。一度使用したら特殊魔法以外の全ての魔法をコスト、制限無しで幾らでも使用できる。」
「コストと制限が無し!? いくら何でもやり過ぎだろ!」
「ただし、俺がこの魔法を覚えた代償は凄まじいぞ? そのおかげで俺は1000年もの間、独りで苦しまないといけなかった。1000年もずっと独りだぞ?」
「1000年も独りぼっちだったのか?」
ユッケは首を縦に振る。
実際、10年間独りぼっちだった俺でも死ぬほど辛かった。
それが1000年。
100倍と考えると思わずゾッとした。
(超強力な極位魔法の代償がコレか……流石の俺でもそこまではしないな)
「現在、これが俺の正真正銘の必殺技だ。万が一コレもダメだったら負け確定だな。まあ、そうなったら相手は間違いなく生き物じゃないな。」
ユッケは独りで笑っている。
その笑顔の裏で何を思っているかは、本人しか知らないのだ。
ただ、ユッケは無理やり笑っているようにしか見えなかったのはこの目でハッキリと見た。
(俺以上に苦労しているなユッケていう奴は。そう考えると、数少ない仲間がいた俺はまだ恵まれていた方だったんだな)
そんな事を思いながら、昔の思い出を振り返る。
……苦い思い出が多すぎるな。
でも、楽しかった思い出はある。
アンナおばさんの励まし。
出前店長の【温そば】。
イグナル村長のアドバイス。
いま長く考えてみればそうなのだ。あっという間の10年だった気がした。
魔剣が止まり始めてから凡そ2分30秒。魔剣が勝手にグラグラ動き始めてきた。
カタカタと音が鳴りそうな震えだ。
ガタガタと大きくなったら多分また魔剣地獄だろう。
すると、モークがサングラスを経由して俺にある提案を出してきた。
簡潔に言うと、内容は「お前と俺の共通点見つけたいから、俺と交代していい?」というもの。
「おい、モーク。気持ちは凄く嬉しいのだが、みての通りユッケは俺でも危険な勝負だ。お前が死んでしまうのは余りにも後味が悪過ぎる。」
「でも、俺の戦いを見たわけじゃ無いんだろ? だったら聞くよりみた方が何かしらの情報がサングラスも取りやすいじゃん? とにかく、そのベタベタ女みたいにくっついてるウザイ魔剣の相手していなって。その間に俺がアイツを牽制しておく。ランクEの俺なら、ユッケは手加減してくれるんじゃないかな?」
「ちゃんと律儀な女性もいるんだぞ!」とモークに突っ込みたかったが、今はそんな事を言っている暇は無い。
悪くない提案だ。
サングラスはユッケの解析をしている。
しかし、ユッケは勿論のこと、モークの情報ですら不足している。
だったらモーク自らが動けばいい。
そうすれば、実際戦闘している間にモークの情報をサングラスが入手しやすくなる。
そこから、俺とモークの共通点を探し出し、ユッケの弱点を何かしらで突く事が出来る。
と言うのがモークの案だ。
しかし、これはモークにとってかなりのギャンブルだ。
現状、回避能力が高い俺ですらこういった厳しすぎる条件で戦っていた。
最初は優位にたった戦いだと思ったのだが、次第にジリ貧の戦いに追い込まれていった。
戦闘途中、俺はモークのステータスをついでとばかりに軽く見てみたが、ハッキリ言って低い。
そんなモークが、もしユッケの攻撃力をまともに受けたらどうなるか?
無論、待っているのは【死】。
それだけだ。
しかし、モークがこれだけ大口を叩いているのだ。
いくら俺が嫌でも、モークが言ったことに口出しする権利はどこにもない。
自分の道は自分で決める。
そう言っているような気がした。だから……
「わかった。選手交代だな。ただし、ユッケは強い。油断は絶対するなよ。生きて帰ってこい!」
俺はモークにそう告げた後、ユッケから離れる。
直後、魔剣は俺に向かって襲いかかってきた。
流石に予想できたので回避する。
去り際、モークとすれ違う時にナイフを手渡した。
モークは俺を少しだけ見つめた後、ボソボソ口を動かす。
「ありがとう。アイリス。」
確かにそう聞こえた。
―――――――――――――――――――――――
ユッケとモークはバトンタッチをする。
口では大きく言ったモークだったが、内心は非常に緊張していた。
モークが言ったのはあくまでも仮説。
確かにランクEのモークタン、本来なら有り得ないのだ。
しかし、一般の冒険者にとっては「何が?」というほどイマイチ価値がわからないのだ。
実際ユッケが手加減してくれる保障など、どこにもなかった。
アイリスが見守る中、モークはモークタン生最大の賭けに出ていたのであった。
―――――――――――――――――――――――
~モーク視点~
(口ではデッカく言ったけど、ユッケが俺に手加減してくれる。とは言い切れないな。回避能力はアイリス程ではないし、仮にナイフがあっても攻撃力が低すぎる。何とかしないと、間違いなく俺が死んでしまうな。)
俺は心の中でネガティブになる。
ユッケは俺を見かけるとすぐに近づき、3メートルの距離でこう言い出した。
「あれ? そこにいるのは可愛いペットのモークタンじゃないですか? 」
ユッケは如何にもわざとらしい声で俺を煽りまくっている。
アイリスを馬鹿にした俺だが、煽り耐性はかつての人間共で凄く耐性がついた。
今更そんな事を言われても、腹が立つ訳が……。
「オイ! 何馬鹿にしとんのや! ぶっ殺すぞ(多分無理)!」
「いや、俺は馬鹿にしてませんけど? ただ、事実関係言っただけですが?」
「クッ……クソガァァァァァ!」
俺はわざと煽りに引っかかったフリをしてみることにした。
人間がキレた時の様子を観察して正解だった。
そうじゃなきゃ、キレる演技がわからなかったのだろう。
怒りに任せて戦闘を行うのはあまりよろしくない。
ユッケはそれを狙っているのだ。
(それにしてもコイツ、怒らせるやり方が上手だなぁ。絶対性格悪いだろ?)
まあ俺も性格は間違いなく極悪だけど、と心の中で言葉を付け足す。
しかし、俺はユッケの情報を持っている。
そこで俺は一発別の方向でユッケを煽る事にした。
「おい、遠くからユッケとアイリスの会話を聞いていたが、1000年も友達居なかったって?」
「ああ。そうだ! お前には無理な話だろ!!! 俺は友達がいなくても楽に暮らしてたからな!」
「それじゃあ、俺の友達を1人ずつ言葉で紹介するけどいい?」
ユッケは少しだけギクリとし、表情を暗くする。
俺は更にわざと面白がるような振りをしてユッケに拍車をかける。
「えーっと、モークタン言語でマナハ・ヤカサラ。コイツは俺の親友だったな。毎日俺の所に来て、『よおネピア(俺の旧愛称)! 魚捕り行こうぜ!』とかよく言ってたね。それほど魚が好きらしい……。でも、マナハ何時も言っとったわ。『お前が一番の親友だ!』ってみんなの前で。今思えばかけがえのない一番の親友やったな!」
「それから、ヘユチ・オルビル。俺より少し年下。動物を捕まえて世話をするのが好きで近所では少し変人扱い。でも、そいつの捕まえてくる動物は小さいけれどとても可愛い。何故か知らないけれど癒やされるんだよなー。後、たまに俺の所へわざわざ持ってきて『飼ってみて!』だってよ。俺が可愛い動物集めにハマった事があるのは、コイツが勧めたからだぜ!」
「ええっと、後50匹か。大変だけどユッケの為に頑張らないとな! 次は……」
「止めろ! 俺が独りなのが余計に悲しくなってきた!」
俺はわざとユッケ聞こえるように友達絡みの思い出話を語る。3人目を言いかけた途端、直ちに制止してきた。
流石に50匹以上は動揺したのだろう(そっちがその気だったなら50匹全員語ってたな)。
ユッケは名前をいう事に顔色が悪くなって来ていた。
恐らく演技ではなくガチなのだろう。
(1000年も独りぼっちだったユッケにとっては苦痛だと思うな。俺も逆の立場やったら正直吐きたくなるよ。)
しかし俺は容赦は一切しない。
アッチが圧倒的に格上だから。
弱い奴は強い奴を如何にして出し抜くか、それが大事なのだ。
「あれれ? 『俺は1000年も友達が居ないんだぜ! どうだ! 凄いだろ?』とか言ってたクセに、俺の友達との思い出話でキレるのは流石にどうかと思うけどね~、嫉妬しちゃった?」
「クッ……。」
ユッケは歯軋りをしている。
俺の言葉がグサグサ刺さっているのだろう。
確実にユッケの心臓を、精神的にグサグサ刺しているのは間違いない。
「確かに、あなたはとても強い。そこは僕だって認めましょう。でもね、友達が何人いるかって勝負は僕の方が強いんですよ!」
今度はユッケに別角度から攻めてみる。
全く違った意味での宣戦布告だ。
ユッケはある意味勝てないだろう。
「おい、モーク。これ何の勝負だ?」
アイリスはこの光景を見ていたのか、遠くで首を傾げているのが一瞬確認できた。
サングラスをつけていた時に何かしら仕掛けたのだろう。
音声がハッキリと聞こえる。
「今、ユッケの心を内面からグサグサ刺してる。これでワンチャン俺が助かるかもしれない。」
「?」
俺は頭の中でそう言った。
どうやって伝わったのかはわからないが、サングラスの機能なら薄々納得できる。
アイリスは俺の言葉を聞き、余計訳がわからなくなって来たようだ。
俺は単にユッケを侮辱しているわけではない。
一番俺が狙っていたのは……
精神的なダメージによるステータスの低下!
これを試してみたいが為に今、ユッケを侮辱しまくっている。
「そう言えばあなた言ってませんでした? 『アイリスが名付けた【試練の森】で直接戦いを見た』とか何とか。多分そんな事言ってましたよね?」
「……ああ、そうだ。」
「あれ~~~? じゃあ何であなたはアイリスに近付かなかったんですか? あなたの強さなら、あの【試練の森】の魔物ですらなんとかなりながらアイリスにたどり着けたんじゃ無いですか?」
「そっ……それとこれとは訳が違うだろう!」
ユッケは隠しきれない動揺をしながら反論した。
ここから更に、ユッケに精神的ダメージを与えていかないとステータスの低下は起こらないな。
もう少しで押せそうだ。
※タイトル一部修正 見やすくしました。
不備(詳細は省略)修正 加筆あり
ステータスに残血液追加




