第36話 アイリス&モークVSユッケ 3. 防御力6000の壁
粘り強い俺がユッケの防御力を如何に突破出来るか。
絶大な防御力を持つユッケが俺の回避と粘り強い戦いを如何に攻略出来るか。
それはユッケも俺もわからない。
現在の状況を整理してみたが、流石に厳しい。
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ユッケの両手の武器の内、左手にあった爪武器は、俺の【毒物吸収】というもので完全に無効化する事に成功した。
しかし、ユッケの防御力が6034という膨大な数値に、俺達は非常に苦しんでいる。
この膨大な6000という防御力を如何にして突破するかが、今回の戦いで最も重要な所だろう。
モークとサングラスと一緒に作戦会議を行った結果。
攻撃を仕掛ける場所は人間の心臓辺りということが、全員一致で決まった。しかし、肝心な攻撃方法が未だ明確には定まっていない。
結局、【AI】の力を頼ることにした俺達は、サングラスの解析待ちが最優先と判断した。
サングラスの新情報がでるまでは、迂闊に大胆な攻撃は出来ないだろう。
モークは少ない情報の中で、如何にしてユッケの防御力を突破出来るかを真剣に考えていてくれている。
サングラス、モークからの攻撃方法が出るまでの間、俺はユッケの猛攻をすべて引き受けている。
攻撃の大半を様々な方法で回避して来たが、全ての攻撃を完全に回避出来た訳ではなく、少しずつジリ貧になってきている。
この勝負の分かれ目は、如何に早くサングラスまたはモークが、ユッケの防御力を越えられる新情報を俺達に通達出来るかがカギだ。
その前に、俺がユッケの猛攻を防ぎきれなければ、敗北は確実であろう。
全ては、皆の努力にかかっている。
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俺はユッケとの時間を露骨に稼ごうと、こんな話を持ちかける。
「ユッケ。気になったんだが、どうして俺があの森で特訓していたと言うことを知っている? 俺は気になって仕方がないんだが。」
「ああ。お前は俺のことを知らないとは思うが、俺はお前を知っている。まあ、偶然通りがかった身だったけどな。」
(特訓を見られていたのには気づかなかったな。相当周りを警戒していたのがまるで水の泡になったな。)
俺はそう思いながら苦い表情を露骨に出す。
そして、言われたくない言葉を言われた後によく言うようなセリフを吐く。
「……見たのか? 俺の特訓?」
「確かに影から見てたよ。ハッキリ言う、もっと自分に自信を持ったらどうだ? ずっと見当違いな愛称の【臆病者】という言葉は聞き飽きただろ? その気になればお前をいじめていた奴らなんて返り討ちに出来た。それくらい、お前の特訓は常軌を脱していた。だったら、なぜお前はやり返さなかった?」
「やり返して何になる? それで俺の嫌がらせが消えるとでも?」
「まあ、消えないだろうな。じゃあ、もしも国の法律が無かったらお前はどうしていた? 思いっきりやり返してたんじゃないか?」
俺は更に気持ちがガクンと落ちる。
時間を稼ごうと露骨に質問したものが、ある意味ダメージを与えてきた。
「……否定は出来ないな。恨みが無かったかと言われたら、首を縦には振れないな。……でも、俺が特訓を始めた頃には、味方は殆ど居なかった。」
「なる程、お前は確かに強い。けど、自分の気持ちを他人にハッキリ言うのが苦手なのかもな。」
ユッケは目を瞑って複雑な表情をする。
確かにユッケの言っていることは理解できた。
何故やり返さない?何故ジッと耐えている?
俺は子供の頃に酷いイジメを受けていた。理由は勿論わかっている。
やり返さなかった理由も今ならハッキリと言える。
ただ、俺と相手の立場がもしも逆であったならば、相手と同じようにイジメていたのだろうか?
……間違いなくやっていただろう。
勿論、相手はモークタンを殺している。
いたぶり殺したのか、楽に死ねるように一撃で殺したのかはひとまず置いておこう。
どちらも倫理的な問題だ。
恐らく「殺して当然、何が悪い?」と感じていることだろう。
寧ろこの世界では常識的な考え方、悩むこともない問題なのだ。
その反対の考え方をしているのは俺。
俺の気持ちがわかるのは、モークタンを殺さなかった人達にしかわからない。
言葉や理由が無かったらさらに理解不能である。
当然、反対勢力が現れると人間はその対象を攻撃的な行動や精神的な発言によって根絶しようとする。
自分の考え方に「肯定」する人達だけと行動したいがためにそんな事をするパターンが多い。
人の心理というものはそんなものである。
だから俺が相手の立場になったらソイツを虐めるのだろうと思ったのだ。
それが常識的な考え方なら、なおさらソイツの考え方が理解不能だろう。
だが、いじめられる側には一本のナイフを持っている。
やり返せばいいのだ。
攻撃的な行動をしてきたらやり返せば使い方次第では一件落着する場合もあった。やり返しのし過ぎは非常にいけないことだが。
でも、俺はやり返さなかった。
人を傷つけてしまう事が、生まれつき嫌いだからである。
けれど、自分の気持ちを他人にハッキリ言えば良かったのでは?と言われたら反論できないのだ。
(幼い頃(4~7歳)の俺は、近所に住んでいた同じ年の子供と遊んだことは何一つ無かった。何時も絵本や木製のおもちゃなどで時間を潰したり、たまに父さんと料理を作ったりしていた。)
友達というのにイマイチ意味がわからず、もともと幼い頃から比較的引っ込み思案な性格だったため、俺はいじめっ子達に何も反論出来なかった。
じゃあもしあの時、いじめっ子にモークタンを殺さなかった理由を一生懸命告げたらどうなっていただろうか?
真剣に考えているが、どうなったかはサッパリ予測出来ない。
思いっきり笑われて見過ごされた?
「そんな事関係無い! お前は【臆病者】だ!」とか押し付けで俺を虐めていた?
俺には予測できない結末になった?
…………それよりも、今はユッケに集中しないといけなかった。
今は置いておくとしよう。
《アイリス様、念の為ご自身のステータスも確認できますがどうしますか?ただ、一部のステータスはユッケの魔法で必死に妨害しているため出来ません。》
ステータスを詳しく見れるなら歓迎だ。
《では、表示したいときは心の中で【ステータス】という言葉を強く思い浮かべてください。数秒間、または一瞬だけサングラスに表示されます。》
なる程、早速【ステータス】!
すると、緑色の世界から突然様々な数値が見られる。
【ステータス】名前無し(現愛称 アイリス・オーリア)
レベル 25
体力 372/400
魔力 182/199
攻撃 76/78
防御 67/68
早さ ?
速度 ?
当会心 9/9
回避 54/55
当回避 54/55
総回避 78.84/79.75
残血液 3992/4000(200)
経験値 12530/500000000
次 12530/18000(5470)
……うん。
わからん。
何が何で、どれがどれなのかがサッパリわからない。
(なんとなく数値の前に書かれているカルナ言語の単語でわかるんだけど、数値の基準がイマイチ分からないんだよな……)
《体力 372/400と言うのが確認できますか?今はそれだけを気にしてください。左側の数値が0になれば、命を落とす可能性があります。》
えっ?
じゃあユッケの攻撃を食らえば、この数値はガクガク減るの?
反対に、緑草かなんかで回復すれば数値は増える感じ?
《はい、合っています。体力が減ったら回復薬で回復するようにしてください。一定の数値以下になれば数値を表示していなくても警告音を鳴らします。》
なる程。
出来るだけ警告音を鳴らす音はデカくしないでくれ。
ビックリしたら元も子もない。
《了解。私は引き続き、ユッケのステータス分析を行います。それと、無事を祈っています。》
ありがとう、引き続き解析をしてくれ。
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~ユッケ視点~
【能力可視化】!
【ステータス】名前無し(現愛称 アイリス・オーリア)
レベル 25
体力 372/400
魔力 182/199
攻撃 ?
防御 67/68
早さ ?
速度 ?
当会心 ?
回避 54/55
当回避 54/55
総回避 78.84/79.75
残血液 3992/4000(200)
経験値 12534/500000000
次 12534/18000(5466)
全然総回避減っていないな。
総回避率79%は余りにも高すぎる。異常クラスの回避確率だ。
この総回避、簡単に言えば相手の攻撃を回避出来る確率を統計で表したものだ。
総回避は回避(飛んできた攻撃を回避出来る確率)と当回避(当たった時にギリギリで回避出来る確率。)で求めることが出来る。
回避と当回避の数値は、%で表示されている。
その数値から100を割った数値を出し、1から出した数値に、100を掛けた数値が当たる確率だ。
例えばアイリスの最大回避が55だから、当たる数値は45。
当回避も55だから、ギリギリで当たる確率も45。
45を100で割ると0.45。
それから0.45と0.45をかけると0.2025。
更に1から割り出した0.2025をひくと、総回避である0.7975。
それを100倍に戻し、%をつけると求められる。
(……説明めんどくさ。)
……つまりアイリスは全攻撃の80%を、完全自力で回避したことになる。
レベル25程度の一般的な冒険者なら、総回避率は20%もいかない。
いや、レベル100でも60%がやっとだ。
比較的回避率が低いレベル276の俺でも、回避確率は68%ほど。
とりあえず俺のステータスを見てみよう。
【ステータス】名前 ユッケ
レベル 276
体力 1345/1345
魔力 4968/5492
攻撃 2346/2540
防御 6030/6034
早さ 2645/2838
速度 28.125/29.25
当会心 34/35.25
回避 42/44
当回避 42/43
総回避 66.36/68.08
残血液 4000/4000(1800)
経験値 21685308/500000000
次 21685308/23085600(1400292)
(それにしてもずっと気になってたけど、経験値の上限が5億なのは気になるんだよなぁ。5億になったレベルは幾らなのかついでに気になるし……。)
さっきアイリスとモークに見せた魔術と、【幻想世界】でそこそこ使ったから魔力は減っている。
でも、特に今のところ異常はないな。
アイリスとモークは、俺の防御力をどうやって貫くか悩んでるみたいだな。
ムダな攻撃が一切無いのは置いておくとして。
とりあえず俺は、アイリスとモークがこの防御力の突破口をどう破るか見てみたい。
俺は少し攻撃の手を緩めることにするか。
(とは言っても、アイリス達にとってはこれが精一杯じゃないか?)
まあ、次の攻撃はアイリスに怪我をしてもらおう。
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一方その頃、モークタンのモークは非常に悩んでいた。
6034というユッケの防御力を突破出来る方法が、なかなか見つからない為である。
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~モーク視点~
うーーーん。
うーーーん。
うーーーん。
わからん。
干し肉食べたい。
(……そもそも6034という防御力自体聞いたことが無いんだけど……)
一生懸命考えているけどさ~。
俺達のレベルを足しても、ユッケのレベルが200を超えている事の方がおかしいんだよ!
幾らレベル25で攻撃力を極めても、せいぜい300程度。
仮に運良く会心(相手に与えるダメージが凄く増えるとサングラスに聞いた。アイリスの場合、9%でそれが起こるらしい)が当たったとしても、6034の防御力の突破は無理だ。
サングラスについでとばかりに俺のステータスを見せてくれたけど……。
【ステータス】名前なし (現愛称 モーク)
レベル 7 ランク E
体力 59/60
魔力 2/2
攻撃 39/39
防御 79/81
早さ 104/108
速度 4/4.125
当会心 8.75/8.75
回避 34 /35
当回避 35 /35
総回避 57.1 /57.75
残血液 8000/8000(500)
経験値 1246/500000000
次 1246/1530(284)
このステータスでアイリスのサポート出来るか?とツッコミたくなるような酷すぎる数値だ。
待てよ、アイリスと俺で一緒に攻撃し続けたら、ワンチャンユッケに3ぐらいダメージあたえられるんじゃないか?
とりあえず、アイリスにこの作戦を持ち掛けることにした。
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―【臆病者】アイリス視点―
ユッケが待ってたとばかりに突然襲いかかって来た。
右手に持っていた剣を俺に向けて振り下ろす。
何となくユッケが左(ユッケ目線では右)よりの振り下ろし方をしているのが鼻につき、敢えて回避しずらい左に移動する。
すると、左手に持っていた50センチの脇差も同時に振り下ろしてきた!
(危なっ! 右に移動していればタダでは済まなかった……。)
「よく今の攻撃を見抜けたな! じゃあ今度はどうかな? 【呪いの魔剣】!」
ユッケは漆黒のオーラを纏った後、俺に向かって左手に持っていた脇差を投げつける。
投げつけられた脇差は漆黒に纏われた影響か、銀色だったその剣を真っ黒に変えた。
「只の魔法だと侮るなよ! 本来、人間界では完全に禁止されている魔法【黒の魔法】を使った強力魔法だ。」
只の魔法とか何か言っているが、見ただけでいやな予感しかしない。
一直線に飛んできただけだったため、アッサリと回避できた。
(いや、魔剣だからな。俺の予想が正しかったら多分……)
予感はすぐに的中した。
最初に回避した【火球】と同じように、過ぎ去った7メートル程で一瞬だけ停止し、自立的に方向を変えて俺に襲いかかってきた!
これもそこまで対したスピードでは無かったので容易に回避する。
「あ。ちなみにだけど、俺が解除するまでその剣ずっとアイリスとベタベタだよ。」
「……ハァ!?」
余りにもキツ過ぎる宣告に、俺は少しユッケにキレそうになった。
その証拠に、1分ほど回避し続けでも止まらない魔剣が、事実の信憑性を余計に演出させる。
(マジかよ……このまま回避し続けでも、ジリ貧まっしぐらだな。)
ヤッパリ思った。
戦況は厳しくなる一方だと。
ただ、少しだけ感じたことがあった。
俺らは、試されているんじゃないかと。
どうやって防御力6000の壁を越えられるのかと!
※不備(詳細)修正 加筆あり
ステータスに残血液追加




