第28話 SpecialEpisodeモーク ニンゲン、ゼッタイユルサナイ! 前編 1.
※この話と次の話はモークの過去の話です。
非常に過激な内容が含まれています。苦手な方は飛ばしても大丈夫です。後の話でアイリスに、比較的やんわりと語るシーンがあります。
※レイアウト設定を変更しました。
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~モーク視点【回想】~
15年も前の事だったかな。
日が経つにつれて、段々悲しくなってくる。弱々しい僕に、何でそんな事を託したのだろう?
達成出来るハズも無いのに。
だって僕、モークタンだよ?
モークタンに何が出来るのさ?
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20年ほど前、僕は家族6匹の長男として生まれた。
祖父、祖母、父、母。それと数年後に生まれてくる妹がいた。
俺達は人間から差別されているとはいえ、この時代はモークタンにとって一番平和な時だったのかも知れない。
俺は裕福な暮らしをしていた。
掃除(モークタンの習性)
ゴミ処理
買い物(独自の通貨があった)
寝具の調達
食材探し(これがメイン)
家庭用品の製作(木で出来ている)
母が作ってくれた、あのドングリとサナカ草(回復薬の一種)の和え物。
祖母の大の得意であったハタス(魚。モークタン達が好んで食べる)のスープ。
祖父がたまたま持ってきたリンゴとミカン(俺が毒味をさせられたけど、ずごく甘くておいしかった)。
今でも忘れることはない。
俺が生まれた2年後には、俺の妹も生まれた。
俺達モークタンには名前を持っていないため、妹と俺は呼んでいる。
時たま愛称が使われることがあるのだが、それはそれで全くの別だ。
そんな妹が、あの出来事の数ヶ月前に突然不可解な言葉を口にした。
「ニンゲン怖い、タスケテ! タスケテ!」
人間が俺達に何か酷いことをすると言うのはわかった。
でも、僕達は人間に食べられても決して美味しくない(と思う。食べたことないし)。人間がモークタンに酷いことをする根拠が見つからなかった。
生まれつき妹には、少し先の事を見ることが出来る能力を持っている気がした。
これまで何度も妹のお陰で助かった事がある。
人間が設置した猪用の落とし穴を察知。
嵐の予言。
猛毒かどうかの仕分け。
未来の予言。
しかし、他のモークタン達からは煙たがられている。
完全に異端児扱いだ。
親はそうは思っていない。本当だと信じているからだ。
「おにーちゃんは、ニンゲンが怖くないの? 私は怖い。」
「正直怖くない、と言うか怖がる理由がない。そもそもさ、人間が俺達をひどい目に合わせるメリットはあるのか?」
「あるよ。人間、誰かが1匹殺してみたらそれが初心者にとって大きな経験になるからって。それで……やだ! コワイコワイコワイ。」
「そんなにビビるなって。万が一お前に何かあったら、俺が全力でお前の前に立って守ってやるから心配すんなって。」
俺は腕がない体で威張る。
一瞬だけ、数センチ背が伸びただけだ。
後でこのポーズが求婚のアピールだった事に気づいて、親にこっぴどく叱られたのだが。
それから数ヶ月後、その嫌な予感は的中した。
あの出来事は忘れもしない。
17月12日(モークタンは一年を24ヶ月としていた。)
人間が突然打ち出した法律。
【初心者経験値専用モークタン永久捕獲法】
この日から、俺達の生活は激変した。
幸せに、平和に暮らしていた僕達が、一気に地獄へと叩き落とされた!
悪夢の始まりだった。
この時の俺はまだ5歳。
知恵は少し足りないが、モークタンの5歳は、人間でいえばおよそ10歳前後。
とは言え、実際は数百年も生きるのだが。
そんな年齢で、この惨劇を目の当たりにした。
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【17月12日】【モークタン大量捕獲】
人間を一応監視していたモークタンが大急ぎで俺達の住んでいる中心辺りに報告板を掲げる。
何事かと俺達だけでなく、他のモークタン達も中心に集まる。
【只今、「初心者経験値専用モークタン永久捕獲法」と言う法律が、人間達で発表された!総勢2000000人の人間が、全世界の全てのモークタンを捜索している。彼等の目的は、俺達を捕獲する事。決して捕獲されないようにする事を最前線に考えよ!】
200万人!?
正気か人間!
俺達全員を捕獲?
俺達は人間に何をしたのだ!
「現在、今から此処に1000人ほでの人間がやってくる! 俺達はこれから西数キロ先にある別のモークタンの集落に早急に避難しろ! 荷物は食料品以外は決して持つな!」
「人間達に俺達の集落はバレていないハズでは?」
「モークタンの中に裏切り者が居たようだ……。」
「裏切り者? 誰だそりゃ? まさかあのお嬢ちゃんじゃねーだろーな?」
「違う。ロボットとかいう奴がスパイだったらしい。」
「だったらお嬢ちゃんはそれを見通せっつんてんだ!」
モークタンの1匹が、俺の妹に飛び蹴りと同じ威力を仕掛けた。
すぐさま俺がかばう。
衝撃を受け止めることが出来なかった俺は、後方4メートルを転がる。
軽傷で済んだのが幸いだ。
これが重傷だったら俺は終わってたかもな。隣の集落まで走ることが出来ず、人間に捕まるのがオチだな。
(それにしても、よくも俺の妹に手を出しやがったな!)
俺の両親は妹にすぐさま駆け寄り、蹴ったモークタンを激しく睨む。
殺意を持ったような目つきだ。
「妹! 大丈夫か?」
「大丈夫、それよりおにーちゃんは?」
「大丈夫。かすり傷で良かったよ。……それより、女の子に飛び蹴りを食らわせるなんて酷い魔物ですね。でも、こんな所で争っているわけにもいきません。一刻も早く集落へ向かいましょう。」
俺は痛烈に皮肉を言った後、避難の催促をする。
これで余計な争いは済む。
「アァ!! テメェ誰に向かって人の口聞いてんだ? ぶっ殺すぞ!」
「ハイハイ。逃げ切ったらちゃんとお相手するよ。」
「……チッ。今度あったら覚悟しておけ。」
ふぅー。
面倒くさいけど、ひとまずお預けになった。
早く人間から逃げないとヤバイ。
俺達は家族一家で家を捨てて逃げた。
先祖代々、引き継いできた家を手放したのだ。
俺達が持っているのは、食料品と一部の仕事用のノコギリ(銀・木製)だけだった。
俺達モークタンは、一斉に避難する集落へ向かう。
総勢およそ600匹。
それは、初めての集団移動だった。
ぞれぞろと体を動かせて移動する様子は少しうずく。
ナメクジという動物に似ていたからだろう。
避難してからおよそ15分、人間が俺達の集落に着いたという知らせが入った。
これらは意志伝達で伝えられている。
他の人からも発信出来るため、余り信憑性が少ない。
だから信憑性が高い報告板というものがある。
家々は全て火の海と化していたらしい。
俺達が築き上げてきた物が全部。
いくらテレパシーの信憑性が薄くても、こんな状況だから無視出来なくなった。
此処で俺の父さんから1つの提案が飛ぶ。
それは、大きな分岐点だった。
「息子よ。このままでは多分、挟み撃ちだろうな。」
「挟み撃ち?」
「恐らく、人間は俺達が避難する所にも手が回っている可能性がある。」
「うん。確かにそれはあるかもしれない。でも、それなら俺達は既にマズイよ!」
「そこでお前に頼みがある。妹を連れて近くの森でかくまっていれくれないか?」
「父さん達はどうするの?」
「……俺達はとりあえずそのまま隣の集落に向かう。そして、もしも集落が安全であったなら【タカヤサカタ(モークタン言語で晴れ)】という意志伝達をお前に送ろう。反対に、集落が人間の手に落ちていたら【クロモラヌヤ(モークタン言語で曇り)】という意思伝達を送る。」
「何で安全か怪しい所に父さん達がわざわざ向かうの?」
「俺達はハッキリ言って、そこまで食料品を余り持っていない。一旦、隣集落で食料品を確保する。それから逃げる方法を考える。」
「……。」
「おとうさん。ダメ。絶対駄目!」
俺がどんな言葉をかければ良いのか考えていた時、妹が突然割り込んだ。
予知能力を持っている可能性が高い妹が止めるほど、駄目なのだろう。
「このままだと、このままだと……。だから、おとうさん達も一緒に行こうよ!」
「妹。……済まない。残念ながら父さん達は無理だ。ただの足手まといになるだけ。家族一家、一網打尽で仕舞いだろう。」
「……。」
妹は口を閉ざす。
もしも、家族で逃げたとしてもいい結末では無いのであろう。
多分俺達一家揃って死亡なのだろう。
すると突然、父は俺達2匹を担いだ。
俺はビックリして少し暴れる。
父は泣きながら俺達にこう告げた。
「本当に済まない。俺は父親失格だろうが、お前たちの命を無駄にはしたくないからだ。最後の瞬間まで抗って生きなさい。それと、俺達の仇はとらなくても良い。」
「父さん!」
俺は暴れるのを止めた。
後で考えてみたら、あれは父さんの覚悟だったのではないかと思う。
予知能力を持っているかもしれない妹を信じていてくれている。
それでも父さんは、一家全員が死ぬより、俺達2匹に生きる選択肢を選んだ。
相当辛い選択だろう。
それに俺は自然と圧倒されたのだ。
「孫よ。ワシも父には賛成じゃ。今の若い世代は、生きねばならんのじゃ。それに、人間全員が悪いという訳じゃないとワシは信じとる。」
「おじいちゃん……。」
残りの3匹は、俺達2匹に食料品と銀製のノコギリを渡した。
食料は凡そ4匹分。
俺はだんだん辛くなってきた。
このままでは泣いてしまうのではないか?それくらい辛かった。
「済まない! 俺を恨むなら恨んでくれ。それでも、頑張って2匹で生きてくれ!」
父さんは俺達を近くの森の方向に20メートル程投げた。
投げる直前、4匹が涙を流していたあの瞬間は忘れもしない。
飛ばされた俺達は地面に激突……ではなく、草むらにぶつかった。
父さんが敢えて草むらの方向に飛ばしたのだろう。
若干のクッションの役割になったのだろう。幸いケガは1つもなかった。が、同時に1つの不幸を手にした。
「おとうさん! おかあさん! おじいちゃん! おばあちゃん!」
妹は家族を探しながら懸命に探す。
俺達の家族だった4匹のモークタンの姿は、どこにもいなかった。
ぞろぞろと動く大勢のモークタン達が目に映るばかりである。
俺は涙を数滴流したが必死に堪える。妹は泣きじゃくった。
今までずっと共に暮らしてきて、俺達を育ててくれた家族と別れだのだ。
(なんで、なんで俺達モークタンがこんな目に……。)
どうして俺達は差別される?
人間のせい。
どうして俺達は捕まえられる?
人間のせい。
どうして避難しないといけない?
人間のせい。
どうして俺達の家が燃えた?
人間のせい。
どうして俺達家族は別れないといけない?
人間のせい。
どうして俺達は今泣いている?
人間のせい。
じゃあ、人間はどうして俺達を差別する?
モークタンのせい?
魔物だからか?
この頃から俺は人間に対する憎しみを抱き始めた。
小さな芽が新しく出始めたのだ。
「妹……森の奥へ行こう。」
「おにーちゃんは人間を憎んでいるの?」
「ああ、無いと言ったら嘘になるかな。」
「私は、人間を恨んでいると思う? お兄さん見て。」
俺は妹の顔を見る。
泣きじゃくった直後なのだ。
目は、赤い液体を出すのではないかというほど赤い。
そして両目から出た涙は、頬を伝って後がくっきりと残っている。
……。
それらを除けば、一見表情は確かに何時も家事や掃除をしている妹のような見た目だ。
だが、俺が何時も見ている妹とはまるで別のモークタンだった。
余りにも強烈な目つき。
背後に悪魔が潜んでいそうな雰囲気。
「おにーちゃん」から「お兄さん」。
俺が人間だったらと思うと怖くて仕方がない。
「ああ、他のモークタンからはパッと見普通に見えるが、俺には誤魔化せない。妹、確かに人間は憎いが程々にしておいた方がいい。」
「うん。わかった。でも、わたしは後少しが我慢の限界……。」
「俺が必死に守ってやるよ。」
「……うん。約束だよ、お兄さん。」
俺は少しガタガタ震わせながら森の奥へと向かう。
そして、丁度良い土地が見つかったので、そこに穴を掘る。
穴はそこそこ小さいが、2匹が生活するには充分な広さだ。
俺は妹を残し、食材確保に向かった。
幸い食べられる果物や木の実が多く、かなりの量を確保できた。
そして、俺達は取り敢えず餓死の可能性はほぼ抹消された。
俺達が2人で静かな食事をしていると、テレパシーが入った。
それを聞いた俺達は更に愕然とする。
「【クロモラヌヤ】。済まない……子ども達よ。」
確かにハッキリとそう聞こえた。
人間共が一枚上手だったか……。
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※不備(詳細は省略)修正 加筆あり