第29話 SpecialEpisodeモーク ニンゲン、ゼッタイユルサナイ! 後編 2.
※非常に過激な内容が含まれています。苦手な方は飛ばしても大丈夫です。後の話でアイリスに、比較的やんわりと語るシーンがあります。
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【17月13日】【モークタン、連行】
翌日、何やらガタガタする音が聞こえるので、ふと外を軽く見てみた。
え?
音の正体は、大きな檻が設置された馬車数台が、荒れた道を通るものだった。
数百人はいるであろう兵士や冒険者共が、1匹も逃がさないように警備している。
その大きな檻の中には、ぎゅうぎゅうに詰められたモークタン達が凄く苦しそうな表情をしている。
何もしてあげられない自分が段々悔しく思ってきた。
自分は弱いから、助ける事が出来ない。
その悔しさから思わず涙を流す。
俺がもっと強くなれば、俺が一生懸命頑張ったら、こんな事にならずに済むのかな?
(でも、俺はモークタン達がどうなるのかが検討もつかない。かなり危険な行為だが、後ろをつけてみるか。)
俺は妹に此処にいるように告げた後、僅かな食料を持って馬車の後を付けてみることにした。
あれから6時間程経った。
馬車が目指す数キロ先には、大きな街があった。
明らかにそこへ向かっている。
(こんな街にモークタンを連れて行くのか?)
すぐに考えられる選択肢はおよそ5つ。
1.食べられる。
正直言ってそうなると恨みが少ない。
弱肉強食の世界だ。
弱いものは食われる運命。
美味しく丁寧に食べてくれるなら、それはそれで本望。
俺は全力で逃げるけどな。
2.ペット扱い。
一番酷い扱いされない可能性だ。
まあ飼い主によっては最悪の可能性もあるが、大半はマシな対応だろう。
これなら今までの恨みは消してしまおう。
3.皮の剥ぎ取り(服作りの素材)。
モークタンの毛皮に魅力を惹かれたのか?
確かにモークタンは刃物の防御には確かにかなり強い。
人間には余り知られていないと思うが。
若干恨みは残る。
だが、これも弱肉強食と同じ原理だな。
悔しいけど仕方がない。
4.何らかの薬の素材。
俺達の体の何らかの成分が、何かの薬の材料になったのか?
これも致し方がない。
俺たちも一応人間の役には立っている。
これもギリギリ許そう。
残る1つは……。
いや、信じたくない。
それが本当なら、俺達はただ闇雲に殺戮されるだけ。
俺は完全に人間を恨んでしまうだろう。
俺達モークタンが捕まったらどうなるのか、目に焼き付けておこう。
生き残っている残りのモークタン達にも、しっかり伝えねばならない。
今、予想通り馬車が街の中に入った。
此処で、俺の目の前に立ちはだかったのは城壁だった。
およそ20メートルの城壁。
普通の人間共なら此処で諦めていただろう。
俺は城壁の近くで比較的強度が弱い土を見つけ、穴を掘る。
上がダメなら下から攻める。
どこかのモークタンがそう言ってたっけ?
そして、あっさりと街の侵入に成功した。
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【ル・レンタン】
俺は今、土の中に潜んでいる。
大体1メートル程の深さだ。
馬車の通っている音を必死に聞き分けたどり着いた先は、闘技場のような場所だった。
「キィィィン!!」
さらに進もうと土を掘ろうとした瞬間、大きな音と同時にいきなり掘ることが出来なくなった。
「誰だ? 今キーンという金属音がしたぞ? まさか、土の中にモークタンがいるのではないか?」
「気のせいだろ。俺達の包囲作戦は完璧だったぜ。モークタンは雑魚の癖に、頭だけは妙にずる賢いからな。」
「まあ、そうだな。それにしても大収穫だな。コイツらのお陰で、今月と来月の分はなんとか賄えそうだな。」
「そうだな。よくよく考えたら、1匹辺り銀貨1枚は破格の値段だよな。お陰で貧しい人間は助かってるぜ。まあモークタンは新米に殺されるから、すげー最悪な結末だけどな。」
「それじゃあ、この銅のプレートを敷き詰める理由はなんなんだ? わざわざこんなもの敷き詰める必要は無いだろ?」
「それが、モークタンはどうやら土を掘るのが得意らしい。掘るのが上手い奴は、10秒も経たない内に4メートル掘るらしい。」
「それはかなり凄い話ではないか?」
「そう思うだろ? でも、他にも土を掘れる魔物がいるだろう? 大人しくて、足で蹴っても俺達に意地でも付いてくる、あのオオモグラとかいう奴が。」
「確かに。アイツなら10秒で7~8メートル。しかも銅や鉄とかいう硬い物質も平然と破る。完全にモークタンの上位互換だな。」
「逆に雑魚のモークタンは、鉄や銅は貫通出来ないんだ。この銅のプレートは穴を掘られないための完全防御対策だ。初心者の経験値になるための死に場所だな。ハッハッハ!」
※モークはこの時、人間の言葉を全く理解していません。
ギリギリ俺には気づかなかったようだな(多分だけど)。
なんて言ってたかは、イマイチわからないな。
取り敢えず、一言一句さっきの発言は全て記憶はしておいた。一刻も早く、人間共の言語を覚えた方が良いかも知れない。
多分この硬い奴は、恐らく何かしらの金属だろう。キーンと鳴る代表的な物体は金属ぐらいだろうしな。
(そろそろ地上に出たいな。でも、どこか見つからない所に隠れたい。)
しばらくすると近くに人が住んでいないボロ家をあっさりと発見し、地上に這い出る。
現在、俺は家の中にいる。
此処から金属の所までは近い。
かなりの距離を見通せそうだ。
小さい方のゴキブリやらムカデ、シロアリがうじゃうじゃいたが、俺にとっては食料(凄くネトネトしてマズイけど)だ。
魔物は基本的に何でも食べる。
どんなものでも食べないと弱い魔物は生きていけない。
それが弱い魔物の宿命なのだ。
汚い窓ガラスの一部を土や自分の体を使って綺麗にし(どうせまた土の中に潜るときに、体が綺麗になるし)、窓の外を覗き込む。
馬車から大量のモークタンがぞろぞろと降りている。
(何かしらの術みたいなので動きづらくなっている?)
多分逃げたら死ぬんだろうな。
複数の役人らしき人物と冒険者共が真剣に見張っている。
逃げる手段は恐らく無いのだろう。
近くにあったとある大きな建物の中に捕まったモークタン達は入っていった。
それからしばらく、「誰が出てくるかも知れない!」と待ってはみたが、この日は何も起こらなかった。
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【17月14日】【モークタン公開侮辱】
翌朝、俺は大量の虫に絡まれてはいたが、それを容易く虫を払う。
何ヶ所か噛まれていたが、モフモフし過ぎているモークタンの体は、小さな虫が噛む程度では傷一つ付かない。
何やら外がガヤガヤと騒いでいた為、たまらず起きてしまったのだ。
眠い目を必死にこらえて、俺は外を覗き込む。
すると、そこには大勢の子どもと冒険者共、役人の姿があった。
闘技場のようなもので取り囲んでいる。
そう言えば入れられたモークタン達の近くに闘技場があったな。
何か透明の物体か何かで、闘技場は一回り囲まれている。
(逃げられないようにする為だな)
その闘技場の中に、3人の子どもと4匹のモークタンがいた。
子ども達の手には綺麗で茶色い剣を持っている。
(まさか、俺達を捕まえようとした目的って……)
俺は5つ目に考えた可能性を思い返す。
頼む。
あれであって欲しくない。
そんな最悪な結末を信じたくなかった。
すると一際高い壇上に、黄色い紳士の服(後で何でそんな服着ているかわかった)と帽子を被った人間が、大きな声で叫ぶ!
「サア! 記念すべき祝福の日がやってきました! 数百年前に定められた【モークタン保護法】という屈辱的な法律があって以来、我々は長い間苦汁を飲まされ続けてきました。シカーシ! 異国の王であらせられるイミルミア・アルト・リーア=ローゼル様の偉大なる御方により、我々に復讐の時を永遠に与えてくれました! さあ、このエンタテイメントな時を永遠にする為に、我々に煮え湯を飲ませたモークタン愚族を、亡き者にしようではないか!!!」
何を言っているかはわからないが、雰囲気でなんとなくわかる。
これは開会式みたいなものだ。
周りにいた客、およそ数千人はこの出来事に歓喜している。
報告版のようなものを掲げながら喜ぶ青年。
※報告版に書かれている文字。
裏切り者のモークタンを許すな!
長い苦痛の果てに死ね!
我らに快楽と喜びを与えてくださったイミルミア様に深き感謝を!
右手に鋭利な武器を持って、突き上げる中年の男。
何かしらの黒くて赤い液体を口に運ぶ若者。
声援か何かを闘技場の中にいる子どもに掛ける少年。
拍手する若い女。
歓喜の涙を流す老人。
何故だろう?
この人たち全員が、狂気に満ちている気がした。
「では、闘技場内の勇者達の応援をお願いします。応援時間は60秒、スタート!」
司会者らしき黄色い紳士の服の人は、何らかの言葉を放った後、オーバーに身振り手振りをする。
すると、あちこちから凄まじい声が響きわたった。
「ヤッホー! この時をずっと待っていたぜ!」
「俺達人間の恐ろしさをモークタンとかいう黒族に知らしめてやろうぜ!」
※黒族と言うのは国賊や、真っ黒な心を持つ人や魔物を纏めて言う言葉。
この世界では、れっきとした差別用語です。
「「「殺せ! 殺せ! 頑張れ勇者! 頑張れ勇者!」」」
「やっと俺達は恨みを晴らすことが出来るぞ! モークタンなんかに負けるな!」
「「「モークタン殺せ! 頑張れ勇者! モークタン殺せ! 頑張れ勇者!」」」
「頑張れー、クヤター! モークタンに負けるなー!」
「「「お前なら殺れる! お前なら殺れる! モークタン、モークタンぶっ潰せ! モークタン、モークタンぶっ潰せ!」」」
「人間は最強だ! そんな俺たちに革命を仕掛ける方が悪いんだ!」
「「「お前は勇者! お前は勇者! 勝てる! 勝てる! モークタンに!」」」
個人個人が何らかの言葉を叫んだ後、一部の応援団体らしき一帯から掛け声が一斉にこだまする。
(もしかして、これは応援の時間なのか?)
闘技場の中にいる子ども達は少し緊張している。
逆に4匹のモークタン達は、これから何がおこるのか。
いや、この人たちは「一体俺達をどうするつもりなのか?」という表情を浮かべている。
全くこの状況が理解できていないようだ。
信じたくなかった。
妹が予言したある一つの可能性。
どうしてモークタンが捕まったのか?
何故此処に連れ出されたのか?
5.初心者の為の経験値稼ぎ+余興+残虐
初心者用の経験値稼ぎだけならまだまだマシな方だった。
それならそれで密かに行っても恨みは静かに消え去っていたのだろう。
だが、モークタンを殺すために余興を楽しんでいるのが俺は心底憎い!
俺は必死に怒りを堪える。
(クソクソクソッ! 堪えろ! 堪えるんだ! 俺は弱い。怒りに任せてモークタンを助けにいったら、確実に俺は捕まる! 此処はどんな状況でも耐えないといけないんだ!)
俺は必死で自分に言い聞かせる。
妹の予言は的中していたのだ。
もっと周囲の人に警告をしておくべきだった!
俺はこの予言でモークタンの結末を推測する。
100%死ぬ運命しか残されていないが。
以前俺が妹から聞かされた闘技場の様子はこうだった。
「数匹のモークタンと数人の子供が闘技場の中心に立っている。
周りは高いガラスで取り囲んであり、更にそれを取り囲むのは全て人間。
大量の嘘に流され、その気になってしまった人々は、
『今日でやっとモークタンが殺せる』と狂気の笑みを盛大に浮かばせる。
その狂気に取り憑かれた人間達は、『殺せ殺せ』と雄叫びを上げる。
嗚呼、なにも知らない可哀想なモークタンたちよ。
逃げ場のない状況の中、子ども達に何百と剣で斬られ、刺され、そして苦痛の中で死んでいく事でしょう。
しかし、人間にも正義の心を持つ人物がいることを忘れずに。
決してこの人間達を恨んではいけないのです。
彼等もまた、モークタンと同じように被害者なのですから。」
(この予言通りならば、あの人間共も嘘に流されているな。取り敢えず、これも一言一句記憶はしておいたけど)
そんな事を真剣に考えている内に、先程まで大きかった声援は急に静かになった。
どうしたのだろう?
本当に応援みたいな時間だったのかもな。
「……では、続いては黒族であるモークタンの励ましをお願いします。応援時間は60秒、スタート。」
司会者は壇上の上で身振り手振りをしながら何かをつぶやく。
さっきの人間とは打って変わって、やる気のない態度になった。
「モークタン」という単語があったから、恐らくモークタン側の応援時間なのだろう。
「オイ! 黒族に人間と同じ応援時間をとらせんじゃねーよ! 短くしろっつってんだ!」
「「「短縮! 短縮!」」」
すると、人間共が何やらガヤガヤ司会者に向かって騒いでいる。
何が嫌なのか俺にはわからない。
闘技場内のモークタンは、まだ何が起きているかわからないようだ。
「失礼。人間側からモークタンの応援時間を削減する案が提案されました。では、モークタンは了承するのか聞いてみましょう。」
司会者は闘技場内にいた審判らしき人物に指令を下している。
「モークタン。黒族であるあなた方は応援時間の作戦に賛成ですか? 賛成ならこう返事しなさい。『ピギーーッ』と鳴けば返事したという事にしましょう。」
「「「ギャハハハハハハ! 人間の言葉がわからねぇモークタンに答えられんのか?」」」
審判はモークタンに何かしらの質問を投げかけた。それを聞いていた観客達は狂うように笑っている。
(そもそも、モークタンは人間の言語が分からないから返答出来ないのでは?)
俺はそんな事を考えながら、色々別の方法でモークタンを助けるやり方を必死に考えていた。
すると質問を投げかけられたモークタンが、
「ピギーーッ! ピギーーッ!」
という言葉を出した。
人間側からすれば「ピギーーッ」と聞こえていることだろう。
本当はピギーーッという声ではなく、良く耳を澄ますと、
「「此処は何処なの? 此処は何処なの? ここから出して! ここから出して!」」
とモークタン言語でハッキリと聞こえる。正直聞く方も辛い。
そんな悲痛な叫び声をあげている事など人間はわかっていない。
モークタンの言語を人間が知っているはずがない。
「おーっと。ピギーーッ! ピギーーッ! という黒族の声が出ました! モークタン達は自分達が黒族であることを理解しているようですね。アッハハハ! 愉快愉快!」
「ヒャッハハハ! 人間の言葉がわかんねぇ糞モークタンは処分確定だな!」
人間はモークタンの叫びを知るはずもなく、大きな笑い声をあげる。
何について笑っているのかが俺には全く分からない。
ゲタゲタと笑う様子が、俺からみたら狂気でしかない。
どうしてコイツらは笑っているんだ?
「さあ! モークタンは自らの応援時間の削減に賛成のようです! 人間と争わずに無駄な手間を除いてくれた黒族に感謝致します! では、応援時間を60秒から20秒に削減致します。では、スタート!」
司会者は多分俺達に感謝している。かなり皮肉にとられたような気がする。
多分、さっきので応援時間になしかしらの変化が起きたのだろう。
それでも、モークタン達の支持者が多かったら、こんな理不尽過ぎる闘技場なんか実現しない。
と、言うことは……。
……。
……。
闘技場は静寂に包まれる。
散々馬鹿にしていた人間がモークタンを応援する訳がない。
観客達は暇そうに大あくびをするものや、知人と何やら雑談するザワザワという音をたてるだけだった。
モークタンは一体人間達に何をしたというのか?
「ちょーっとマッタァー!! モークタン達をいじめている人間達がいると聞いたが、まさかこんなに堂々と俺達の縄張りで開催するとはなかなかの度胸があるじゃないか!」
闘技場から突然入って来た人間が突然大きな言葉を発する。
その後ろには大きな旗と緑色の服一式をきた人達がぞろりと詰めかけていた。
(乱入か? それにしても、なんだあれ?)
俺はついつい二度見する。
緑色の服と長ズボンをきた30代の男がいた。
「【モークタン愛護団体】の総団長、ヤフコ・ナヤガレ! モークタンをいじめたその罪を一生背負い続けるんだな!」
俺は窓越しにハッキリと彼をみた。
確かその後は……。
……。
……。
……。
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【カルッツイロ草原地帯】
「……ハァハァ……よし、此処までこれば少しの間は大丈夫だろう。」
「……。」
「ん? どうしたモーク。何か具合が悪いのか?」
「……ん? ああ、ごめん。ちょっと考え事をしていた。」
俺はついつい昔の嫌な思い出をふと蘇らせてしまったようだ。
【臆病者】のアイリスは、モークも1人で色々考えてるのか……みたいに思っている顔をする。
「おい。おまえ、今何か変な事を考えてなかったか?」
「うーん。まあ強いていえば、モークも1人で考えるんだ~、……みたいな考えをしてたのはマジだよ。」
「それが変なことなんだよ! 俺を一人ぼっち扱いすんじゃねー!」
ちょっとキレた俺は、アイリスの頭を自分の体を生かして、またぴょんぴょんと跳ねる。
これはかなり痛いはずだ(多分)。
……俺はモークタンのことをわかってくれている人を懸命に探し続けた。
最悪のパターンにこの人と出会った。コイツが剣を俺に向けていたら、今頃こんな旅をしているのだろうか?
果たしてどんな旅をするのだろう?
(ヤフコ・ナヤガレ。多分お前のやり方、半分当たってて半分間違ってんじゃないかな?アイリスみたら何だかそう思えてきたよ)
俺はあの闘技場を再び思い帰そうとした。
……やっぱりまた別の日にしようか。
こんな重い思い出ばかり思いしても、ネガティブになるだけだしな。
兎に角、アイリスがどんな冒険するのか見ておくとしよう!
(いつかアイリスに、俺の話を言う機会が来るかも知れないな)
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※不備(詳細)修正 加筆あり




