第30話 「魔法って何?」 前編
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―【臆病者】アイリス視点―
「……ハァハァ……よし、此処までこれば少しの間は大丈夫だろう。」
「……。」
「ん? どうしたモーク。何か具合が悪いのか?」
「……ん? ああ、ごめん。ちょっと考え事をしていた。」
(モークも1人で色々考えてるのか……嫌な思い出でもあったかな?)
「おい。おまえ、今何か変な事を考えてなかったか?」
「うーん。まあ強いていえば、モークも1人で考えるんだ~、……みたいな考えをしてたのはマジだよ。」
「それが変なことなんだよ! 俺を一人ぼっち扱いすんじゃねー!」
モークは俺の頭を自分の体を生かして、またぴょんぴょんと跳ねる。
……痛い。
しばらくして俺は逃げてきた方向を見る。
(どうやら冒険者は追ってきていないようだな。取り敢えず、しばらくは安全だな)
すると、モークが下を向いて話す。
俺の頭に乗っかっているから当然の仕草だ。
「それにしても、お前結構体力あるんだな。森に逃げる手もあったのに、わざわざ【カルッツイロ草原地帯】の奥へ逃げるなんて……。」
「森で範囲痺れ魔法唱えられたらそれこそヤバイからな。後ろから火の魔法飛ばしてくるよりはマシだよ。」
「???」
モークは不思議そうな表情をしている。それと同時に体をわざと横にずらす。
「なにそれ? 美味いの? 不味いの?」と考えていることだろう。
それにしても……あれ?
話が通じない?
まさか、この世界の人間では当たり前の魔法がモークには通じていないのか?
「魔法って何?」
あー、ヤッパリそうきたか。
魔物は魔法持っているケースは余り無いしな。
俺達人間が、かつて確認した魔物の種類は総勢で762。
その中で魔法(基本的な魔法しか使えない魔物も含めて)を使いこなせるものは100ほどしかいない。
大抵の人間をほぼ一撃で倒せる魔法を持つものは、70ほど(なかなか多い気がする。およそ10種類に1匹の割合で、ヤバイ魔法放ってくるのは流石にどうかと思うが)いる。
つまり、魔法の存在自体知らない魔物もいるということだ。
「逆に聞くけど、魔法という単語自体聞いたことはない?」
「うん。初耳だし。」
なる程。
一から魔法というものを教えないといけないわけか。
そしたら、アイツの出番かな?
(て言うか俺、モークと再会した頃辺りからずっとサングラス掛けてるよな?)
※第25話辺りからずっと掛けています。
《サングラスを掛けていること自体忘れてしまったマイマスター。何か御要望がありますか?》
ちょっと一言多いんじゃ無いですか?
……それより、モークに魔法を教えてくれ。
あと、これからはマスターじゃなくてアイリスと呼んでくれないかな?
逆にそっちの方が俺にとっては良いかな。
《了解しました。マスターからアイリスに変更します。あと、サングラスをモークに掛けてください。万が一逃げたら、至急捕らえるように。》
わかった。
その時は全力で捕らえる。
サン・グラースの約束は忘れた訳じゃ無い。
「モーク。サングラスがお前に魔法を教えるから、このサングラスを掛けてくれ。後、サングラスを奪おうなんて考え方はマジでやめた方がいいぞ?」
「盗まないって。それよりも、サングラスがしゃべる訳ないじゃん! アハハハハ!」
《今すぐシメて良いですか?》
モークの笑い声に鋭く反応したサングラスが、かなり過激な発言をする。
【AI】でも「シメる」という言葉使うの初めて聞いた気がするな。
ほどほどにしておけよ!
モーク死んで嫌なのは俺だからな。
メリットなんて無いし!
それどころか、死ぬまでずっと悩みを抱えないといけないレベルだから。
サングラスを必死に慰めた後、俺はモークにサングラスを掛けさせる。
掛け方がイマイチわからなかったモークは、俺に助力を申し出たのだ。
初めて触る者に正しい使い方が、説明書無しで一発で出来るのはあまり多くない。
モークは、サングラスの緑色のガラスを触りたそうにしていた。
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一方その頃、冒険者達は……。
完全にノイローゼ状態になっていた。
かなりの魔力を費やしても、【臆病者】(アイリス)達を追いかけられなかったのだ。
「ハァハァ……。何だアイツ? どうしてあのペースでずっと走ってられるんだよ!」
「確かに速い。 今解析魔法で速さを見てみたんだけど……。」
「幾つだった?」
「100メートル、およそ12秒。」
「ハァ!? 12秒? 魔法なしでか?」
「うん。確かに魔力は微塵も感じられなかった。」
100メートル12秒というとぱっとしない数字だが、身軽で100メートルなどの短距離で勝負する場合だったらの話だ。
冒険者は様々な武器や防具などの装備をガッチリと着用している。
実際【臆病者】はが冒険者達から逃げた距離はおよそ2000メートル。
100メートル12秒を維持したままのペースでこの距離を走れるものは、この冒険者達の中には誰一人居なかった。
男女冒険者達がいろいろと【臆病者】の解析を進めていた。
カルッツイロ草原地帯は枯れ草が多く茂る場所。魔物も強くないため、初めての遠足にはちょうどいいと言われている。
皆が腰を下ろすのは仕方がないことだろう。
すると、後方からひとりの女性冒険者が凛とした様子でカルッツイロ草原を歩く。
「くっ……【黒十字団】!? しかも、団長ナークプル・カルナ!?」
冒険者達は慌てて彼女にお辞儀をする。
此処まですると言うことは、彼女は冒険者達の中でも超有名クラスである証拠だ。
超有名少数冒険者団体【黒十字団】。
部員数13人という圧倒的少なさ。
しかし、メンバー個人個人のステータスの高さが他の団体よりもダントツだ。
部員強さ平均B+クラス。
これほどのランクになると、大抵のドラゴンを1人で倒すことが出来る。
「はじめまして冒険者様方。私は【黒十字団】の団長、ナークプル・カルナ。ナークプルと呼んで頂ければ幸いです。以後お見知り置きを。」
彼女、ナークプルは冒険者達にお辞儀をする。
45度上半身を曲げたその姿は美しいものだった。
大抵の男なら見ただけで好意を抱くことだろう。
案の定、その美しい姿を見た男達は彼女に見とれている。……しばらくして「…………おっと、それは後回しにしておこう」と男たちの目がキッパリ覚めた後、その内の1人が彼女に質問をする。
「……ところでナークプルさん。あなた方はどうして此方に?」
「先日、どこかの無名冒険者が元帝国の屈強兵士10名ほどと戦闘、勝利したという噂を耳にしました。何か心当たりがありますか?」
「ああ、その人間の事だがさっき俺達が頑張って追いかけたんだが……。」
「逃がしたと?」
「いや、何というか……。まあ、彼が余りにも速くて俺達じゃ追いつけなかったんだ。何せ足が速くて速くて……。」
「……なる程。それで、彼はどちらに?」
「【カルッツイロ草原地帯】の奥ですから……あちらの方向です。」
冒険者の1人がナークプルに手を駆使してわかりやすく説明する。
「ありがとう。短い間でしたが、私は彼を追いかけますのであなた達は【イケザキ村】の村長に御報告お願いします。〈貴方に神の御加護と革命を!〉 ……それではご機嫌よう。」
ナークプルは冒険者達の少し前まで歩いた後、少し気合いを込める。
「【操士豪速】! 【限界突破】! 【オーバースピード】!」
彼女の周りから、凄まじい魔力が漂う。紫色、オレンジ色、黄色が折り混ざっている。
ランクA以上の強さにならないと不可能である魔法連続詠唱が、彼女のステータスを物語っている。
そして彼女は豪速球になるかのように走る。
数秒たったその時、彼女は既に見えなくなっていた。
同時に、凄まじい風が冒険者達を襲う。立ってられないほどの風だ。
突然勢い良く走ったらそうなるのは当然だ。
「ヤバイな、あの人間。これで女なのがスゲェ所だぜ。」
「多分、努力で勝ち取ったんだろうな。」
「じゃあ、あの【臆病者】の回避能力はどうやって手に入れたんだ? 偶然、スキルか何かで取ったのか?」
「さあ……。でも、そんなスキルや魔法があったら、とっくの昔に習得方法載せた本が飛ぶように売れてるハズだぜ? そもそもスキルか魔法なら、アイツの体がなんかの色で薄く光るだろう?」
「だよな……。」
冒険者達は【臆病者】の回避能力に心底納得がいかなかった。
理由は3つ。
1.昨日の朝方に見た、回避能力の高い相手の正体が【臆病者】だったということ。
2.回避するときになしかしらのスキルや魔法を使用していたら、普通青色や緑色系のオーラのようなものが見える。しかし、【臆病者】にはそれが見られなかったため、魔法やスキルは使用していない事になったということ。
3.どうやって【臆病者】はその回避能力を得たのかということ。
冒険者達はしばらくの間、頭を抱えていた。
【臆病者】の回避能力の答えを知っている人冒険者はここには居なかった。
本人と、極僅かの理解者だけがこの答えを解くことが出来る。
冒険者達が自分のせいで頭を抱えていることも、ヤバイ冒険者が向かっていることも【臆病者】は知らない。
そして、もっと更にヤバイ奴が見ている事も知らない。
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~モーク視点~
ゴメンゴメンゴメンって!
さっきのはほんの冗談。
流石にさ、サングラスがしゃべるなんて事自体見たこと無かったから……。
《問答無用! 成敗!》
ギャアアアアアアア!
ゴッ……ゴメンゴメン!
眩しすぎるって!
目を閉じてもどうして全く関係ないの?
さっきの発言は取り消す、取り消すからこの光を止めて!
ゴメンナサイってばアアァァァァ!
《……了解。次やったらまたそれを食らわせますよ?》
すると、さっきまでヤバかった眩しい攻撃が突然ストップした。
あれ?
何だか目がクラクラする。
あれ?
いつの間にか緑色の世界に飛んじゃった?
あれ?
何だか俺の近くに何匹かひよこが飛んで……。
《……そんな事はどうでも良いから、いい加減授業を始めますよ。アイリス様の御命令です。》
ハイ、ワカリマシタ。
《魔法とは、個人一人一人異なって作られた血や肉片そのものにある【魔素】と言う物質が、他の【魔素】と合体、合成する事によって【魔力】を精製します。その【魔力】を外に押し出したものが魔法と言うものです。》
ゴメン。
僕達魔物に複雑な話してもイマイチわからないからもっと簡潔に話して。
もっとわかりやすく、絵とかで書いてくれると、とても嬉しいよ。
(本当はツラツラ言葉で説明してくる教え方が大嫌いなだけなんだけど)
《……。本当にシメますよ?》
だからさ、ホントにゴメンナサイなんだよ?
でも、僕達魔物はそんなに頭が賢くないから、絵か何かで表現してくれるととても助かるなって!
(ホントに絵で書いてくれた方がわかりやすくて有り難いし)
《……。了解しました。…………魔法とは、人間や魔物の体内で精製される【魔力】が、体の外から放出された物の事を言います。》
ふーん。
それなら、僕達魔物全員、頑張れば魔法撃てるんじゃない?
《確かに可能です。しかし、何も魔法を覚えていない場合は非常に苦労します。生まれた時になしかしらの魔法を持っているのが普通です。あなたは魔法を何も習得していません。魔法を放つのに相当苦労するでしょう。》
解説と同時に、緑色のサングラスからは分かり易く絵が表示されている。
それじゃあ、人間が持っている【習得魔法本】みたいなのはヤッパリ駄目なの?
昔ある人が僕に勧めてきた本なんだ。魔法自体、意味がわからなかったから断ったけど。
《人間同士であれば簡単ですが、モークタンと人間では体の構成自体異なっています。やはり人間は人間、モークタンは魔物で習得しないと不可能です。例外もありますが。》
ヤッパリ。
何となくそんな気はしてたけど。
じゃあ、魔法には具体的にどんな種類があるの?
《魔法には赤、青、緑、黄、紫、黒、橙、特殊の計8種類に分けられています。》
絵が色々教えてくれている。
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赤→火や炎と言った燃える系統。
相手の体に火で燃やし尽くす事も出来る。
青→水や氷と言った冷やす系統。
相手の周りを凍らせて倒すという変わった戦い方も出来る。
緑→風や自然と言った自然豊かな系統。
特にこの緑の魔法は、回復や補助系統が多いという。
補助魔法は簡単に言えば味方の攻撃支援だ。
黄→光や聖なるものといった輝く系統。
錬金術という夢のような魔法があるかもしれないと噂されている魔法だ。
強力な雷の魔法も放つ事が出来る。
紫→毒や隠れ技などといった隠密系や弱体化サポート系統。
相手のステータス(凄く簡単に言えば、どれくらい強いかを数値化したもの)を減少させたり、毒や麻痺などの魔法も習得出来る。
黒→暗黒や絶望などといった魔王系統。
この魔法を一つでも習得してしまうと、魔法自体に呪われるらしい。
強いと言うのを密かに聞いたことがあるけど。やめておこう。
橙→希望や勇気などといった勇者系統。
最後の最後まで諦めない勇者らしい魔法がずらりと並ぶ。
極稀にこの魔法を生まれた時から殆ど習得している時があり、人はそれを【勇者】と呼ぶらしい。
特殊→絶大な威力を秘めた謎大き系統。
どんな魔法があるかわからないらしい。数千年たった現在でも、人間は必死に研究しているらしい。
ただ、凄まじい力を秘めている事は明らからしい。
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ざっとこんな感じだ。
何だか急に複雑になった気がする。
※不備(詳細は省略)修正 加筆あり




