第26話 あのモークタンがあらわれた 後編
※一部後半部分のパフォーマンスをこの話に追加しました。
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~モークタン視点~
「くだらんな。」
【臆病者】は俺に向かってそう答える。
くだらない?
何で?
俺は、間違った事は何一つ言っていない!
それなのに、どうしてそれが「くだらない。」になるんだ?
「じゃあ、どうすればいい? このまま恨みをぶつけずに、今まで通り殺されろと?」
「違うよ。お前がそれでいいんなら別に俺は止めないぞ? でもな、幾つかお前に忠告しておく。」
【臆病者】は右手の人差し指をピンと立てる。
恐らく俺を聞かせるための仕草の一種なのだろう。
「まず、お前は復讐するときに人間を殺すだろうな。流石に全員は無理だけどな。」
「ああ、俺達が人間によって味わった地獄を、人間共に舐めさせるつもりだ。」
「そこがくだらないんだよ。」
「???」
「まず、人間にモークタンが味わった地獄を受けるという地点で間違っている。」
「何処が間違っているのだ?」
「さっきも言ったけど、まずお前、人間に復讐して恨みは晴れるのか? 『そんなすぐに晴れるなどとは思ってもいない。だから、俺達が今まで受けてきた地獄を1000年分償ってもらう事に……。』とか言ったのは俺は忘れてないぞ?」
「ああ、確かにそう言った。」
「じゃあ、お前たちが人間から1000年受けてきた恨みを晴らせたとしよう。じゃあ地獄に落とされた人間はどんな気持ちになるんだ? お前たちと人間は殆ど同じ感情を持っている筈だろ?」
此処で俺はハッとする。
「くだらない。」って言ったのはそれが理由?
俺は頭に考えた事を口にぶつぶつと独り言を言うかのように言う。
「もしかして、人間は何時しか俺達に恨みを持って。そうしたら、今度は俺達がまたあの地獄へ引きずり落とされて……。」
「わかったか? 簡単に言うとこれ、【無限ループ】なんだよ。モークタンが人間に恨み晴らしても、逆に人間はモークタンに恨みをぶつけるだろ? そしたら今度はモークタンが人間に……ってなったら、それこそ本当の地獄だ。」
「だからお前は『くだらない。』とか言ったのか?」
「ああ、そうだ。でも、俺が言いたいことは薄々わかっただろう? 人間恨むんなら、少し視点を変えてみることだな。」
「視点?」
「こういう法律を作った奴より、モークタンが日常的に殺されているという、この当たり前の常識その物をぶっ壊したらどうだ? まずそこから恨んだらどうだ? 納得させる方が、後々争わずに済むだろ?」
俺は愕然とした。
よくよく考えたら確かにそうだよ!
何で今まで気づかなかった?
(待てよ、確か俺のおじいちゃんがそんな事言ってたな。「恨むのなら人間じゃなくてこの世界なんじゃ」とか言ってたけど、これはそう言うことを言ってたのか?)
俺はまたぺったんこになって考える。
ぺったんこになるのはただの癖だ。
何故かわからないけど、頭が妙に冴えてくる気がするだけだが。
でも、少し気になった事が出来た。
【臆病者】は、常識その物を疑うような人だ。
俺がどんなに挑発言動をしても、全く怒ることなく俺の話をまともに聞いている。
今までこんな人間はいなかった。
俺達モークタンを殺さなかった者は居なかった。
「こんなクソ雑魚の魔物に負けるかよ!」とかいってそうな顔で初心者は躊躇いもせずに次々と殺していった。
そして、時には俺達の話すら一切聞かずに剣を向けた人間も大半を占めた。
道中では、俺達と人間が見つかったら最悪だった。
追いかける側と逃げる側に別れた。
勿論、モークタンは逃げる側だ。
捕まれば街に連れて行かれて、初心者の経験値の一部にされる。
でも、コイツは……どうして俺を見てもなにも感じない?いや、何かしら感じてはいる。
だったら、何を感じている?
俺は気になった。気になったが故の質問をした。
「どうして俺を捕まえようとしない?」
「確かに捕まえようとしないのはおかしい事だよな? モークタン1匹町へ連れて行ったら、銀貨1枚くれるしな。普通の冒険者なら、かなり美味しい案件だな。」
「ならどうして?」
「何でだろうな? 俺は今でも、『何で殺さなかったのか?』という疑問がのこるんだよな。」
【臆病者】は両手を腰にあて、視線を俺からそらしながら答えた。
何らかの事を隠している様子だった。
バレたらヤバイとかそんなものではなく、恥ずかしい理由だから答えたくないような気がする。
※【臆病者】がモークタンを殺さなかった理由は、過去話をじっくり読んでいた人にはわかります。
「ただ、捕まえようとしないと言うのは、理由がわかるな。」
「だったら何?」
「ちょっと人間の言葉がわかるモークタンに興味が持っただけだ。勿論、金目当てじゃないぞ。」
「???」
「つまり、俺は今からお前をペットとして飼ってみたくなってな。どうだ? ついでに、モークタンが殺される常識その物をぶっ壊せばいいんだ。俺も一応協力するぜ。まあ、無理に頼んではいないけどな。」
「……は?」
【臆病者】は俺に、ペットになるように頼んできた。
開いた口がふさがらない。
コイツ、一体なにを言っているんだ(2回目)?
「俺が人間の【臆病者】のペットになります! ……とか言うと思ってんのか? 頼むんなら人間は頭を地面につけて……」
「じゃあねー、バイバイ。またあったら御飯奢るよ。」
【臆病者】は俺に背中を向けて歩き出した。
……ってオイ!
ちょっと待てって!
俺は全力のアタックを【臆病者】にぶつける。モフッという感覚が俺にもなんとなく感じる。
流石にこれじゃあ、ダメージはほぼ無いな。
(そもそも、俺1人で何とかなる訳では無いしな。復讐はそこそこの戦力で行かないと行けないし……)
「何で俺が去ろうとしたかわかるか? お前は人間を憎みすぎている。どんな人間でも憎まれたら避けようとするのは当たり前の話だろ?」
正論過ぎて反論が出ない。
いっそのこと、ぺったんこの状態になって聞かなかったふりでもしておこうかな?
「ハッキリ言おう。俺はお前を強くしようと思う。人間を憎んでいる理由も、正直気持ちはわかる。まあ、人間がわかる訳無いけどな。でも今の所、お前が【特殊魔物】だとしてもそのステータスでは無理だ。」
「だから俺がお前の弟子的な立場になるために、ペット扱いされるのか?」
「人間から見たら、モークタンはペットを飼うのとほぼ同レベルだぞ? 『このモークタンは俺の弟子です。』なんていう方が恥ずかしい位だ。」
「それが、俺達の今の現状か……。」
「ああ。だが俺の判断次第ではペット扱いから全く外れるかもな。ペット扱いとは言っても、俺は鍛練以外に酷なことはしない。」
肝心の鍛錬は酷なのですねと心の中で突っ込んだ。
だが、悪い話では無いな。
本当だったらコッチはメリットしかない。
だが、コイツに背中を預けてよいのだろうか?
10年前に俺を救ったとはいえ、俺を騙しているのでは無いのだろうか?
「お前は今、強いのか?」
俺は念のためこう質問する。
「うーん、そうだな。じゃあ、1回俺と腕試し、してみるか? ステータスではお前がすぐ負けてしまうから、こうしよう。」
【臆病者】は何かをしたあと、【臆病者】のすぐ傍から突然出てきた黒い渦が出現した。
(なにあれ?どっからそれを出したの?)
黒い渦に右手を突っ込み、そこから2本のナイフを取り出し、それを俺に手渡す。
赤と黒という不気味極まりないカラーのナイフだ。
これ、相当硬い。
一度だけ鉄を触ったことがあるけど、それより硬い。
※出前店長さんから貰ったあのナイフです。
「ナイフの使い方はどっかで多分やっているだろう?」
「ああ。とりあえず、相手がナイフ使いが多かったしな。」
「いいか、コレはパフォーマンスだ。今からお前は俺に向かって全力でそのナイフを当てろ。俺は全部回避する。2本投げたら、そのナイフをまたお前に渡す。これで4本分だ。俺は勿論、お前の投げる邪魔は一切しない。どうだ?」
「わかった。それでいこう。」
「もう一回言っておくけど、あくまでこれはパフォーマンスだ。その後は自分でどちらを選ぶか決めろ。俺について行くもよし、去るもよしだ。」
「どうして、わざわざそんな面倒な事をさせる? お前が勝ったら、俺はお前に強制的について行くと言うのが当たり前の世界だ。何故そうしない?」
「俺は、誰しもが自由で生きたいと考えているのではないかと思う。旅の友ってものは、強制的について行くものでは無いからな。だって、旅の途中で死んでしまう可能性があるだろ? だから俺は最後に、自分で自由に決める権利をあげているのだ。別に嫌だと言っても、恨みも愚痴も言わない。逆に良いよって言われたら、大歓迎だな。」
「俺は、それに参加出来る権利はあるのか?」
「勿論。俺は魔物であっても、どんな人間でも拒まない。誰でも大歓迎だ! まあ、まずはパフォーマンスをモークタンに披露しよう!」
【臆病者】は両手を大きく広げて、にっこりと微笑んでいる。
(試しに、俺の考えたナイフの使い方で試してみようか……。)
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―臆病者視点―
「勿論。俺は魔物であっても、どんな人間でも拒まない。誰でも大歓迎だ! まあ、まずはパフォーマンスをモークタンに披露しよう!」
そんな事を言ったな。確か。
モークタンを気にとめる為に一生懸命言葉を考えて発言したが、少し言い過ぎた気がする。
《提案した自分が覚えていないのは少し滑稽ですね。》
皮肉を言っているのか、侮辱しているのか。
まあ、覚えていない俺が悪かっただけだ。
それにしても、取り敢えずナイフを4本分回避すればいいのだ。
回避したら、モークタンを仲間に入れることが出来るチャンスだ(チャンスなだけ。確定じゃない)。
《簡潔過ぎますが、概ね趣旨はあっています。》
……それで、モークタンは一体何をやっているのだろう?
ナイフを見たり、振り回したり。
《あれは恐らく、何かの奥義らしきもののシチュエーションをしているのだと思われます。シチュエーションと言うのは、簡単に言いますと、テストみたいなものです。》
なる程、言わば剣の振りやすさとかを試しているのか。
そろそろ来そうだな。
《それにしても、マスター自ら不利になるようなパフォーマンスですね。周りには背の低い枯れた草原地帯。木を有効利用して回避する手段がある森林地帯よりも、モークタンがマスターに狙いを絞りやすく、有利です。》
勿論わかっている。
でも、あえてそうしたのには理由がある。
モークタンに俺の本気の回避能力を見せるつもりだ。
あのモークタンは、10年前の俺を見ている。あの時の俺は、本当にタダの一般人だ。
だが俺はその後、わざわざやらなくてもよい10年の地獄の特訓をやり通した。
半人前だった俺を見ていたモークタンに、一人前になった俺の全力を見せたい。
正直に言える。
このパフォーマンスは、モークタンに今までの成果を披露する時間だと思っている。
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【カルッツイロ草原地帯】【パフォーマンス】
モークタンは2本のナイフを自分の真上へ放り投げた。
高さ2メートルほどの高さだ。
(放り投げる?一体どういう攻撃……まさか、大胆過ぎるぞ!)
俺が少しだけ危機を感じたその瞬間、モークタンはナイフと同じ高さへ飛び、自慢のモフモフした体を思いっきり高速で回転させる。
そして、バットでボールを打つようにナイフを俺にめがけて力強く弾いた。
モフモフ過ぎる体の余り、モークタンは1つ他とは決定的な違いがあった。
(でも、それは反対にモークタン自身を苦しめる事になったのは、皮肉だな)
モークタンは刃物が余り効かないのだ。
たとえ真上に投げたナイフを弾くときに、それが自分の方向に刃があったら激痛を味わうことだろう。
しかしモフモフ過ぎる体の為、ナイフが体に刺さっても衝撃を大幅に吸収してしまう。
刺さってもダメージが少ない。モークタンだからこそ出来る技。
自分の物理攻撃がダメなら、他の力を利用して相手を倒す。
そんなやり方だ。
飛ばされたナイフは俺にめがけてかなりの速度で飛んできた。
……ハッキリ言って、チンピラ達が投げてきたナイフより断然速い。
しかもナイフは、どちらも俺の体に当たるな。たった2本のナイフだけど、正直回避しずらい。
《私がマスターをサポートしましょうか?》
いや、しなくていい。
気持ちは非常にありがたいけど、実力で回避しないとモークタンは、人間を死んでも恨む。
さて、パフォーマンスといこう。
(さて、どうしようかな?ナイフが当たる場所は左胸と右手のどこか。左も右も非常に回避がしずらい。倒れて回避するのが一番安全だが、カッコ悪いな)
俺はいろいろ考えた結果、しゃがんだ。
そして、ナイフが俺の真上を通過する丁度良いタイミングで両方の持ち手を掴んだ。
勢いを思いっきり殺されたナイフは、掴まれた手を振り落とそうとするが、限界を迎えたのか勢いを落とした。
ナイフは、俺の両手に戻った。
「……えっ? 今お前何したの?」
「右左避けれなかったら、しゃがんで回避するのは当たり前だろ? ついでにナイフを掴もうと思って、掴んだ。それだけ。」
モークタンはビックリして茶色の体をふるわせいる。
(森で槍が飛んできた時によく使う、当たり前の回避方法なんだけどな。安全に飛んできた武器をキャッチしやすいから、そこそこいろんな場面で使ってたけど)
普通、飛んできた武器をキャッチだなんてそうそう出来ない。
それを平然とやる俺にビックリしているのだろう。
でも、これは頑張ったら以外と簡単なのだ。
「後1回だ。確かにお前のナイフの使い方は一流かもな。常識では考えられない技だぞ? 俺もビックリしたよ。ナイフの扱いに特化したほうがいいな。」
俺は両手にナイフを持って、モークタンに歩み寄った。
そして近くにナイフを置く。
「隙あり! 俺の勝ちだ!」
すると、モークタンは俺に不意打ちを仕掛けてきた!
この勝負は何でもありルールだ。
不意打ちとて文句は言えない。
しかし、不意打ちを数千回食らってきた俺には、それもキッチリ視野に入れている。
俺はモークタンが襲いかかってきたナイフのバックを、両手で全力でつまんだ。
現在、ナイフは俺の腹の十センチ程の距離で止まっている。
(ん?待てよ、もう一本のナイフはどこだ?モークタンの手元には無い。となると、場所は……)
俺はある1つの仮説をたてた後、上を見る。
ヤッパリ、そうか。
このモークタン、口はかなり悪いがナイフの腕はピカイチなのかもしれない。
どこかわからなかったもう一本のナイフは、俺をめがけて落下していた。
つまり、モークタンが不意打ちをする直前にあらかじめナイフを真上に投げたのだろう。
(不意打ちが囮で、真上の奴が本命だったか。少しヘマをしたな)
「今頃気付いたか! 食らうがいい!」
モークタンはナイフを持ちながらそう言った。
大抵の人間は此処で倒れている所だろう。
「なる程、既にナイフの腕は上等だな。だが、相手が悪すぎたな。」
俺はモークタンに豪語した直後、右にそれる。
その後、わずかな間隔を開けた瞬間にバックを掴んでいた両手を離す。
ナイフは勢い良くおれの脇腹をギリギリそれながら、俺を通り抜ける。
驚いたモークタンは勢いを殺そうとするが、ナイフに力を重点的に入れていたためか、制御することは出来なかった。
モークタンは数メートルほど前に持って行かれて倒れる。
それと同時に、真上に投げていたナイフが、俺がいた所に落下した。
もしも本命に気付かずに不意打ちばかりに気を取られ、ナイフが当たっていたら、俺は本気でマズかっただろう。
「終わったな。パフォーマンスは終了だ。」
「まさかあの状況から両方回避出来るとは……俺の完敗だ。本気で考えさせてもらおう。」
「決まったら返事をくれ。嫌でも構わない。」
モークタンはぺったんこになったまま考え始めた。
その間俺は2本のナイフを回収し、収納魔法の中に入れた。
……。
……。
……。
……。
……。
10分ほどだろうか。
俺が本を取り出そうか真剣に悩み出した時、返事が返ってきた。
モークタンは俺に向かってゆっくりと体を進める。
そして、俺との距離数メートルになったとき、突然歩みを止めて頭を下げた。
「わかった。これよりモークタンは【臆病者】の旅仲間になろう。まだまだ未熟で弱い僕だが、お前の旅に連れて行ってくれ!」
「わかった。これよりモークタンを俺の旅仲間としよう。今後色んな魔物や人間と戦う事になるかもしれないがいいか?」
「魔物は一度放った言葉をそう易々と訂正はしない。僕はそれでも【臆病者】についていきたいと思う!」
「よーし! 決まりだ! 今日からお前は俺の仲間だ!」
モークタンは身をふるわせている。
色々思うことがあったのだろう。
口調が【僕】になった。多分言葉を選んだのだろう。
ちょっと嬉しい。
「……あとごめん。今お腹が空いているから、何か食べ物くれない?」
……前言撤回、コイツの口は悪かった。
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俺は【うでどけい】の針を見る。時計の短針長針は10時25分。
やたら時間が長く感じるのは俺だけなのだろうか?
俺はこの冒険で初めての仲間ができた。
魔物である。種族名はモークタン。
口は悪いけど、コイツはもしかしたら凄い魔物になりそうだ。
俺が精一杯強く指南してやろう!
※不備(詳細)修正 加筆あり




