第21話 バイキングあるある
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【商業区】【宿屋 冒険の癒し】
俺はサン・グラースと分かれた後、宿屋へ戻った。
ここの宿屋には泊まると、夕食と朝食がタダで付いてくる。
今は夕食だ。
それに、異世界人が考案した【バイキング形式】という方法を採用している。
【バイキング形式】と言うのは、異世界の一部でしか使われない言葉だ。
ざっくり言ってしまえば「自分で好きなだけ、料理を皿にとって食べる」である。
サービスと言う点で考えたら素晴らしいやり方だ。食べれば食べるほど確実にお得になってゆく。全てのクラスに【バイキング】がある宿屋はそうそうない。
※【ビュッフェ】と【バイキング】の違い
【ビュッフェ】は「自分で好きなだけ料理をとることが出来る。」または、「自分で料理を好きなだけとっても良いけど、その量の分の金額は支払わないといけない」のどちらの意味も取れる。
ちなみに、元々【バイキング】は異世界のスウェーデン料理の「スモーガスモード」というものを【にほん】が直接導入した。(名前がややこしいので、【バイキング】とした『諸説あり』。)
さらに、宿泊したクラスによってバイキングの豪華さも変わってくる。
ロー、ブルーは別格であるスペシャルスイートルームと言うところへ案内される。
ブルーレア、レア、ミディアムレアはスイートルームへ案内される。
一番下のミディアムは、至って普通の一般食堂ルームへ案内される。
俺はミディアムで宿屋を予約したので、一般食堂ルームだ。
そこに案内されると、大量のテーブルと椅子がある。
自由席とかそんな事を入る前に店員から言われたから多分そうなのだろう。
今のところ、かなり客がいる。
現在の【うでどけい】の短針長針は、19時05分だ。
夕食の時間は入室してから最長100分まで。つまり、100分間の間食べ放題と言うことになる。
制限時間は20時45分まで。
さあ、腹一杯食べよう!
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~19時05分、夕食開始!~
まず、料理を盛る皿を取りに行こう。
一番角の隅に皿が置いてある。
この皿なかなかデカイな。
取り敢えず皿は取った。
※バイキングあるある1.
子供用以外の皿は、大体大きい。
料理は一般ルームとは言え、多種多様の料理が並んでいる。
そこにはそれぞれの料理の詳細を記した木製のプレートが、料理の前に置かれている。
この町名物の【干し肉パン】。
この世界の一般料理。
異世界の【洋食】
【中華料理】
【ふらんす料理】
【いたりあ料理】
【にほんしょく】
【いんど料理】。
そして、食後のお楽しみのデザート(フルーツあり)8品。
全81品。
(一般ルームでも十二分過ぎない?)
俺は少し悩んだが、【干し肉パン】【いんどカレー】、【チーズピサ1枚】、【麻婆豆腐】、【ごはん一杯】にした。
(ちょっと多かった気がする。しかも俺、今思えば、昼飯食べたの16時ぐらいだったよね!?)
※バイキングあるある2.
何時もより多くとる。大体一回目に取りに行くときは、やたら多い。
※第11、12話参照
近くにあった席に着いた俺は「いただきます」という言葉を唱えた後、食べようとした。
ん?
仮面は付けていないのか?だって?
勿論付けてる。
こんな所で外したら一巻の終わり(追い出されるだけだけどな)だ。
じゃあどうする?
それはこうして、こうして、これを外して……出来た!
俺の仮面の口から勝手に穴があいた。
実はこれ、仮面を付けたままご飯を食べられるのだ!
それじゃあまずは【干し肉パン】から。
……うん。
普通。
普通のパンに塩が効いた干し肉を挟んだだけの料理。
美味しいと言う訳でもないし、不味いと言う訳でもない。
普通。
※バイキングあるある3.
全ての料理が完璧……と言うのがなかなかなく、普通の味もぼちぼちある。
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【インドカレー+ごはん】
……次はこれだな。【いんどカレー】。
【にほんしょく】の【ごはん】または【ナン】と一緒にどうぞってあったから、適当に【ごはん】を選んだのだが。
※バイキングあるある4.
~と一緒にどうぞと言われたら、ついつい乗っちゃう。
辛さが1~5まであったんだけど、ついつい4を取っちゃったな~(正直、5を行きたかったけどね)。
※バイキング(というより、辛いもの)あるある5.
いきなり一番辛いものに挑戦する勇気が出てこない人は、2番目に辛いものを取り敢えず選ぶ。
俺は取り敢えず、【いんどカレー】をスプーン一口だけ食べた。
……辛っ!
「ゴホッ、ゴホッ!」
俺は辛さのあまり思わず咳をする。
だが、辛さを越えると、味わい深いものが体にしみわたってきた。
……俺はこういうの好きだな。
《インドカレーはこの世界の人々の基準を超えて、平均的に辛くなっています。しかし、何十種類の香辛料を入れているので、この店は想像以上に優秀な店です。なお、インドカレーの最大の魅力は、スパイシーさの中に言葉では言い表せないほどの濃厚な味が……。》
俺の髪の中にある極小のマイクロチップから、サングラスの声が聞こえる。
収納魔法の中に入っていても、極小チップのせいで、会話程度なら出来る(それはそれで凄いけど)。
「ウザイ」と言う人もいるかもしれないが、俺にとっては丁度よい話相手だ。
冒険でも独りぼっちだった俺には友達のような存在かもしれない。
次に【インドカレー】を食べた直後に、【はし】というものを使って【ごはん】を食べる。
……あれ?
辛いけど、滅茶苦茶美味いぞ?
何だろう。【ごはん】がかなりいい役をしている。
これは俺の作れるメニューに加えたいな。
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【チーズピサ】
次は【チーズピサ】だな。
本来はやや大きい円形の食べ物だが、流石にまるまる1枚はお腹を占めてしまうので、1枚単位の所で取り敢えずとってみた。
三角形に近い感じの形になっている。
黄色いつるつるしそうなものが生地の上に置かれていて、グツグツと鳴っている。
出来たばかりと言うことでついついとったのだが。
※バイキングあるある6.
丁度出来上がったものは大抵食べたくなる。
正直、この世界では黄色いどろどろした食べ物は余り好まない。
でも、なんか知らないけど、美味そうな気がする。
俺は三角形の先端を食べる。
柔らかい黄色のものと、それより少し硬いピザ生地が丁度良い食感を生み出している。
先端が無くなった三角形と口元を引き放すと、黄色いものがビヨーンと伸びる。
《こちらは【チーズ】です。原材料は牛乳。この世界にも、乳牛馬という動物から、牛乳を搾取出来ましたが、加工すると言う手段は有りませんでした。しかし、異世界が乳牛馬の牛乳を研究し、こうしてこの世界の一般料理に近い所まで持ち込めたと言うものは、努力の結晶と言う他ならぬものでありましょう。》
なるほど、この伸びる奴が【チーズ】であるのか。
加工するのはなかなか大変だったのだろう。
俺は口に入った【チーズ】とピザ生地をゆっくりと味わう。
……美味い。
【チーズ】のトロトロした濃厚な味と、それにちょうどよいパリパリとした生地。
正直、昼食の時間をもっと早くするべきだった……。
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さっきからヒソヒソ俺の話をしているのが聞こえる。
多分あれだろう。
チンピラ達とのドンパチ。
《御名答です。ちなみに話を詳しく聞こえるようにする位は出来ますがいかが致しますか?》
うーん、「今すぐチンピラを呼ぼうぜ」とかならマジで勘弁してほしいのだが。
俺、一応泥棒の疑いチンピラ達にかけられてんだからな。
※第3話参照。
少し聞いてみるか。
《了。極小チップ【ミニチャン】の機能使用。【ヘルヒアーモード】に切り替え。》
って何で極小チップの名前が【ミニチャン】とかいうかわいい奴なんだよ!
絶対あのオッサンだろ!名前つけた張本人。
《サブマスターであるサン・グラースは、そんな変態的な理由で名前を付けません。【ミニチャン】と言うネーミングセンス。私個人では素晴らしいアイデアをされていると存じますが……。》
このサングラス。
製作者だけは逆らえないんだな。
ある意味こんな趣味的な製作しているから、売れないのかもよ?
《……あの【商売モード】は仕方ありませんね。初めてあのマスターの商売をみて、愕然としたことを思い出しました。》
……やっぱり衝撃的だったんだ。
人工知能の結晶である【AI】ですらも。
ところで、機能しているのか?その……【ヘルヒアーモード】とかいう奴。
《はい。話を聞きたい人を意識してみてください。自然と会話が聞こえます。》
どれどれ……。
俺は近くでヒソヒソ話をしていた若い冒険者の男女4人に意識を向ける。
(男1、女3か。男にとってはハーレムだな。)
「ねぇ、あの大量に食べ物取ったあの冒険者、もしかして朝の逃げてた人じゃない?」
俺に向かって目を向けているのがなんとなくわかる。
大体、人間誰でも視線を向けられているのがなんとなくわかるのだ。
「いや、アハハ。そんなわけ……そうかもな。」
「そう言えば、彼奴ヤクザからスリ扱いされて無かったっけ?」
ヤクザと言うよりも、チンピラな気がする。
この世界も、異世界にもヤクザと言うのはいる。
勢力は街か都市に多く、この世界ではかなり強い勢力だ(最も多い所では、20人に1人の割合でいるらしい)。
俺は小説を暇つぶしに呼んでいるが(あくまで小説での話だからイマイチわからない)、ヤクザと言うのは何らかの意義と言うか意地を立て通して生きている気がする。
仲間と言うのを他より最も大事にしている気がする。
(上下関係が社会の中で一番しっかりしている気がする。)
最も、それが道徳的であるかどうかはさて置いて。
逆にチンピラと言うのは、力の強さを見せたいが為の行動をする。
色々違いはある気はするが、多分こうではないかと俺が思っただけだ。
「ちょっと、仮に此処で呼んだら死人が出るんじゃない。」
うん。
多分死人の屍が出来る。
流石に此処では他の冒険者が巻き添えになるのは避けられない。
俺はギリギリ、回避で何とかなるのだが他の冒険者を守るのは絶対に無理だ。
(本来、チンピラはそんな大したこと無いんだけど、あのチンピラ達は元どっかの国の兵士だから格が違うんだよ……)
頼むからチンピラ達は呼ばないでほしい。
「やっぱり止めとくか。しかも、仮に俺達が呼んだとしても、『絶対嘘ついてる』とか言われたら、コッチが金とかせびられるしな。生憎、下手な騒ぎは御免だ。」
「うん。私も賛成。」
「じゃあ、見なかった事にしよっか。」
その後、話は別の話題に切り替わった。
ナイス!
なかなか素晴らしい御判断です。
この若い男性がハーレムを築けるのが少しわかる気がする。
調子に乗らず、女子をわざわざ危険な目に合わせない判断は素晴らしい他ない。
《確かに、あの人物の判断は正解でした。ハーレムを築けるだけの魅力はあると思います。》
じゃあ俺は?
《いろんな意味で規格外過ぎるので、多分女の方が追いつけません。それに、あなたは女をサポート出来ないのでしょう?そもそもあなたは、サブマスター以外冒険に誘っていませんしね。あと、【臆病者】と言う理由も無視出来ません。》
げ!
欠点多すぎだろ!
何らかの利点はあるの?
《人間と一部の魔物から見れば非常に優しい方でしょう。あと、常識にとらわれない考え方をしています。大体世の中はそういう人がよく成功しやすいと聞きます。》
そうか?
時代の波に飲まれそうな感じがするけど。
《確かにそうです。他の人からの信頼や協力があってこそ、そういう人は大きく成長します。ですが、そうでなければただの異端児にしか見えないのです。信頼と言うのは積むのは地獄のように難しく、崩れるのは赤子の手を捻るように簡単です。》
確かに信頼を勝ち取るのは大変だ。
しかも、ヘマを一回でもやらかしたら信頼は地に落ちる。
恐ろしいものである。
モークタンを殺さなかったのが理由で信頼は愕然と落ちた。
俺が町の人達に信頼されているのは今でもほとんど皆無だ。異端児扱いにされるのは当たり前かもしれない。
(やっぱり【臆病者】のマイナスイメージは大きいな。)
俺は他人のヒソヒソ話を聞くのをやめにして、食事に移った。
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【麻婆豆腐+ごはん】
一皿目の最後は独特の色と香りを出している麻婆豆腐だ。
比較的辛い料理だと料理プレートには書かれてあった。
赤黒色のスープのようなものに、所々白色の四角形の物体がある。
これ何なの?
《豆腐です。 豆腐は、大豆の搾り汁(豆乳)を凝固剤(にがり、その他)によって固めた加工食品である……と言うらしいです。》
少しだけ聞いたことがある。
今のところそこそこ都市近辺で栽培されてると言う話は聞いたことある。
「らしい」って、もしかして【AI】も初耳?
《はい。正直私もイマイチわからなかったので、他国の【ネットワーク】と言うものを利用して、私の記憶装置に書いておきました。》
へえ~。
そんな事も出来るんだ。
《甘くみてもらっては困ります。まだまだこれでも全力を出していません。》
全力を出すときってどんな感じになるの?
《何時かは使うと思いますが、今は使いません。使うとそこそこの反動を負います。例えば、会話機能不可能やステータス表示不能が当分続くとかです。》
ああ、それはかなり強烈だな。
また使うときが来たら、その時はよろしくお願いします。
《了解です。マイマスター。》
……それより、この豆腐とかいう奴の味が気になる。
俺は箸で豆腐を軽くつついてみた。
ぷるぷると震えている。
※バイキングあるある7.
かなりの種類の料理が並ぶため、稀に食べたこともない料理も、並ぶ可能性がある。特に、旅行を余りしない人や子供は特に多い。
豆腐は非常に柔らかいようだ。
俺はスプーンで【麻婆豆腐】というタレのかかった豆腐を持ち上げる。
豆腐がデカかったのか、少しスプーンが重い。
熱すぎるのでフーフーしながら一口で頬張る。
……美味い!
辛いけど美味い!
ナニコレ!
辛くてしっかり味のついているタレととろけてしっかりとした豆の味がほんわかとかおるそれは、初めて食べた俺にとっては一番美味しかった。
今度これを作ってあの嫌なトラウマから卒業しよう!
今度また味試しに食べてみるか。
※バイキングあるある8.
今まで食べたこともない料理を食べて美味しかったら、また食べたくなる。反対にまずかったら、当分の間食べたくなくなる。
そこで、はっと気づいた俺は急いで【ごはん】を口の中に入れ込む。
ん~。
味覚あるのって幸せだ。
【インドカレー】とは違った美味しさだ。
やっぱり都市で他の異世界の料理を見ておく必要がありそうだ。
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残り時間60分 腹8分目
(やっぱり昼飯が早がったのは痛いな。まさか【バイキング形式】を採用しているなんて思いもしなかった。)
結局、俺は明日の朝食で腹一杯食べる為に今日は此処で止めておくことにした。
正直もっと食べたい。
だが、これ以上は無理だった。
※バイキングあるある9.
最初と最後で食べる勢いのペースが全く違う。
※バイキングあるある10.
デザートを食べずに、メインだけ食べる客がいる。
19時45分 夕食終了。
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俺はそのまま食器をテーブルに置いて、一般食堂ルームを退出した。
この宿屋では勝手に店員が食器を片付けてくれる。
別にこのまま直接、食器洗い場所へ持ってっても良かったのだが、客が持って行くと帰って店員がサボっていたという認識で捉えられる。
まあ、有り難くサービスを受けるとしよう。
こうして、「沢山食べるぞ」と言う気持ちでテーブルについた俺だったが、一皿目かつデザート無しで終わるという余りにも【バイキング】では少し得をしない終わり方で夕食を終えた。
明日の朝食は本気で腹一杯食べてやる!
【バイキング】と【ビュッフェ】の違いをより詳しく知りたい方は、各自で調べてください。
ちなみにここであのハーレム冒険者の男がチンピラ達を呼んでしまったら、死者が出る最悪の事件になっていた……わけではありません(ここだけの話です)。




