第18話 半分成功、半分失敗
遅れてしまって申し訳ありません。
ガチャリ。
閉まっていた木製の両扉が開いた。
この世界では鍵を掛けないのが当たり前だ。と言うか鍵の普及率が低いだけだ。
金庫や重要施設ならまだしも、一般の家に鍵を掛ける必要はまずない。
(と言うことは俺が迷っていたときに、あの男の人が鍵をかけてたのはかなり珍しい部類なのか?)
※第7話参照。臆病者が迷ったと自覚した後、道を尋ねようと近くの他人の家に訪れた場面。
「ったく……って、なんだ? 俺達は宅配便とかいう物なんて頼んだことないぜ。」
黒ずくめの格好をした人がドアを開けたようだ。
ボスではないような気がする。
「はい。鉄の王国アイロンからのお届け物です!」
俺は覚えたばかりの単語を暗唱するかのようにそう答えた。
サン・グラースは後ろの背中の紋章でどこの国か理解したのだろう。
鉄の王国アイロンが、なぜサングラスを奪ったかはわかる。
だが、黒ずくめ達はその日のうちにこの町から出ないことに俺は驚いた。
おそらく下っ端だから、このサングラスがどれほど王国にとって大事なものかがわからない。
「おお! 鉄の王国アイロンからのお届け物!? 済まない。お仕事ご苦労様です。」
俺のイメージしてた黒ずくめとは違う感じがする。
鉄の王国への忠誠心が非常に高い証拠だ。
こんな部下を持つ、鉄の王国のトップがワガママなのは、残念という言葉でしかない。
「ありがとうございました!」
「ああ!」
俺は黒ずくめに一礼をする。
そして、黒ずくめの男はドアを閉めた、つもりだった。
俺は気付かれないように極小のストッパーをかけていた。
扉を強固に固められたら失敗だから、あえてそうした(別にする必要無かった気がするけど……)。
正直、俺にとって人を騙すのは気持ちのよいものではない。
快感だと感じる人も性格上ではいるだろうが、ごく一部だ。
特に俺の場合は、過去【臆病者】という理由で、いじめで他人に騙されたことがある。
裏切られたと同等の憎さを植え付けられたトラウマがあった。
(でも、これはしょうがない。俺はサングラスを取り返しに来たただけ)
「パーフェクト! 後はスリープするのをウエィトするだけです。」
※完璧です! 後は寝てくれるのを待つだけです。
あ。
また商売モードへ戻ったなこのオッサン。
正直、真面目モードの方がサン・グラースおじさんは良い気がする。
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黒ずくめの男は、宅配便とかいう物(箱)を仲間たちがいるリビングに運び込む。
縦20センチ、横40センチ、奥行き30センチの四角で薄茶色のプラスチックだ。
この世界での宅配便は、プラスチックの荷物で運搬している。
異世界では、【ダンボール】という特殊なものだ。
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~黒ずくめのボス視点~
???
一体この宅配便のブツはなんだ?
王国から何かくるとは一言も聞いてねぇぞ?
ちゃんと王国の使いの話は聞いたつもりだが……。
「おい、王国から何かが来るっていう話は使いから聞いたか?」
俺は気になったので、部下に確認する。
1人だけで考え込むなと王国から教えられたからだ。
「いや……。何も聞いていません。」
やっぱり聞いてないよな……。
じゃあ、これは何だ?
「もしかして、王国が急に俺達に送らなければいけない物とかか? それにしてはこの箱は少しデカイな。」
俺は考えた言葉をわざと口に出す。
すると、直ぐに俺の隣にいた部下が
「とにかく、開けて見ないとわからないと思います。王国からのお届け物なら見ないと、後で処罰されることもありますし……。」
「まあ、そうだな。それじゃあ、開けてみるとするか。」
俺はそういった後、箱を開けた。
……ん?
何だこの変な装置みたいな奴?
これ、王国の物では無い……。
ボフン!
うおっ!これは煙か?
何だこれ?
周りが見えない……。
いやな予感がしたので、とっさに息を止めたが部下はそうはいかなかった。
「うぅ……なんか、すっげぇ……ねフイ……。」
部下の1人はその言葉を残した直後、バタンと言う音を出して地面に倒れた。そして、
「Zzz……Zzz……Zzz……。」
生まれつきいびきが酷いというなかなかキツいハンデを背負った部下は大きないびきを部屋中に響かせる。
寝た。
これは恐らく睡眠薬入りの煙だな。
部下全員は寝ちまった。
即死じゃなくて良かった……。
とは言っても、宅配便とかいうあの野郎が犯人だが、誰だ?彼奴?
ん?ひょっとしてまさか、サングラスを狙っている?
だとしたら……。
もうすぐ此処に突入してサングラスを奪ってくるな。
じゃあ、このサングラスをあえて使ってやるか!
俺は常に持っている刃渡り40センチの短心刀(短刀と一緒)を右手に持って辺りを見回した。
息を止められるのは俺は頑張って1分少しだ。
なんか、周り全体が緑色に見えるな。
気持ち悪い。
このサングラス、ただのゴミだな。
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黒ずくめのボスが箱の蓋を開けてから数秒後、箱の中に入っていた装置から紫色の大量の煙が発生した。
部屋をいとも簡単に紫色の世界に染め上げた煙は、黒ずくめ達を飲み込んでいく。
ボスは必死に息を止める事に成功したが、息は2分少しが限界。
部下はもろに煙を吸い込んでしまい、薬の作用で全員が眠りに落ちた。
【臆病者】とサン・グラースの作戦。それは、王国の宅配業者と偽り、睡眠薬入りの煙の入った装置を王国からのお届け物と言って、家の中で全員を一気に眠らせようとする大胆過ぎる作戦だった。
実際に言うと、この作戦は半分成功で半分失敗だった。
まだ、ボスが眠りについていない事を【臆病者】とサン・グラースは知らない。
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―臆病者視点―
おお!
黒ずくめの人達が箱を開けたか。
作戦成功だ!
「オー! ミーのミッションがサクセスしたのは実にハッピーな気分でーす!」
※おお!私の作戦が成功したのはとても嬉しい気分です!
頼むから商売モードを抜けて真面目モードになってくれ……。
全く俺は意味を理解できないんだ。
何を言っているのだろう?これでも好奇心が比較的高い方だから気になるのだ。
「これで、後はミーのサングラスをゲット出来れば此処はシーユーです。」
※これで後は、私のサングラスを手に入れたら、此処を去りましょう。
まあ、サングラスを取ってこいと言うのはわかる。
(この人、本気でやろうと思えばマグロを調達出来そうな位凄い人なのに、あまり殺生を好まない人間何だよな。凄い辛い気がする。)
強くなっても色々困ることは山ほどあるんだな。
「ユー。睡眠薬がまだ残っているからbe careful!」
※あなた(【臆病者】)。睡眠薬がまだ残っているから気をつけて下さい。
ん?
今物凄い最後のしゃべり方が他の言葉に聞こえた気がするぞ?
「ソーリー。ビジネスの言葉なのについうっかり、異世界の【英語】になってしまいました。」
※ごめんなさい。仕事用(商売モード)の言葉を使おうとしたら、異世界の【英語】になってしまいました。
サン・グラースは軽く頭を下げる。
ごめんなさいと言っているのだろう。
……いやいや、こんな変な事に時間を取る訳にはいかない。
俺は思いっきり息を吸い込んだ後、扉を開けた。
俺は最低でも10分位なら息を止められる。あくまでも、これは戦闘している時であって、じっといているだけなら30分位だ。
【試練の森】に出てくる赤いキノコのような魔物が住み着いている。
大きさ1メートルとそこそこの大きさだ(普通のキノコと比べたら全然違うが)。
そのキノコは、俺の姿を見ただけで、半径20メートルに紫色の濃い毒霧と粘着性が非常に高い液体を俺の足元にかけてくる。
毒の耐性を得てからはさほど苦労はしなかったが、以前は厄介極まりない魔物だった。
粘着性の高い液体が俺の靴にべっとりとくっつくわ。
毒霧を吸い込んで口から血を吐血するわ。
液体がべっとりとついた靴だと他の魔物に追いつかれて苦戦を強いられるわ。
出会った頃は非常に脅威の魔物だった。
だが、その魔物とひたすら戦ったお陰で、俺は長時間呼吸を止めることが出来るようになった。
俺は扉をガタンとあけた後、リビングへと入る。
ん?
誰かたっているぞ?
ビュン!
俺が黒い影を見つけたと同時に、黒い影は俺に向かってナイフか何かで襲いかかってきた。
危険を察知した俺はすぐさま回避する。
「マジか……もしかして煙吸わなかった?」
俺は声を出した。
長い特訓をした成果が此処に現れている。
俺は息をほとんど吐かずに言葉をしゃべることが出来る方法に巡り会った。
全然平気だ。
一般の冒険者ならここで寝てしまっているだろう。
それはそうとして、問題は黒い影が直立していて、しかも俺にナイフか何かで襲いかかったことだ。
俺は黒い影を見ると、それは黒ずくめだった。
しかも、服には少し金色の勇ましい模様が付いている。恐らく黒ずくめのボスだな。
「言葉は話せるか? 無理なら俺から話す。」
「ああ、あんたはあの時の客か?確か、内の部下があんたの付けてたサングラスを勝手に盗ったんだったな。」
ボスは少し小さな言葉で俺に話す。
出来るだけ息を使わないようにしているためだろう。
紫色の煙がさっきまで邪魔をしていたが、ハッキリと姿を確認できた。
177センチの若い男。
年は20そこそこ。俺とほぼ近い。
ガッチリした体系ではなく、ややスマートだ。
しっかりとした切れ目で俺を睨みつけてくる。
全身黒色のローブと金色の模様が特徴的だ。
お腹あたりに結び目がある。
右手には40センチのやや長い短刀。間違いなく、鉄で出来ている。
攻撃出来ないと言う縛り付きだから、若干長期戦になりそうだ。
とりあえず俺は、ボスに要求を言ってみることにした。
まあ、交渉決裂だろう。
「まず、俺の要求を言おう。さっき奪ったサングラスの返却。それだけだ。わざわざ殺す必要は無いからこのような手段をとらせていただいた、許せ。本当は全員眠らせてからサングラスを奪還するつもりだったのだが。まさかギリギリで息を止める人がいたのは少し計算外だ。」
俺は右手で頭をかく。
何で痒くも何ともないのに頭をかく癖がついたのだろう?
今でもわからない。
癖とはそういうものである。
俺は少し長々と言い過ぎたとばかりに軽く咳をする。
「ともかく、サングラスを素直に返してくれたら俺達はおとなしく帰る。ただ、嫌だと言うのなら、必死に息を止めるというなかなかの苦痛を受けるハメになるぞ?」
「お前はどうしてそこまで息を使って喋ることが出来るんだ?」
「俺は人に蔑まれた悔しさから特殊な特訓をした結果、此処までの領域にたどり着くことができた。恐らくお前は、俺の息が止まるのを待っていると思うが無駄だ。おまえの方がさぞかし苦しいのだろう?」
ボスは少し動揺する。
だが、ボスの顔をみる限り、明らかにしんどそうな表情をしている。
実際、この人もかなり凄い。
装置が発動してから凡そ100秒たっている。
それなのに、ボスは喋っているのだ。
喋るだけでもかなり苦しい筈なのに、まだガマンしている。
(ヤバイな……このままでは窒息死するぞ)
それ程、このボスは無理をしているのだ。
「いや! このサングラスは俺達の物だ! 他人が勝手に俺達のモンに手出しすんじゃねぇ!」
ボスは小さな声でそう言うと、俺にあるものを見せる。
それは、サングラスだった。
実際かけているのか……。
これは交渉決裂だな。
だったらボスが勝てる突破口は、
俺を殺すしか無いよな。
面倒くさい戦いになりそうだ。
今度の戦いは息の吸い込み禁止の戦闘だ!
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