第11話 【うどん・そば 池崎処】
イグナル村長さんと別れた後、俺は悩んでいた。
え?
何に悩んでいたかって?
俺、まだ何も食べてないんだよ(朝は家で食べたけど、15時なのに干肉すら食べてないよ)!
「グゥゥゥゥッ!」
俺のお腹がうめき声を上げる。
今日は色々あったから、体が栄養を欲しがっているのだろう。
特に今日は凄く食べたい物なんてないし……。
そうだ!
出前店長さんに賠償を請求しないといけないんだった。
※第3話参照。チンピラ達から逃げている間、【臆病者】がよそ見をしてしまい、出前店長と衝突をしていまった。
確か、店の名前【池崎処】だったっけ?
此処が【行政区】だ。【池崎処】は【一般区】だったハズ。
あの【一般区】に行くのは嫌だが、背に腹は代えられない。
行くか。
俺は【一般区】へ向かった。
幼い頃からイグナル村長と【行政区】で色々な場所を教えてくれた(一部は流石に無理だった。政治に関係するのならしょうがない)。
此処では迷うことはなかった。
まるで答えがわかっているような速さで【行政区】を歩いていく(答えわかっている)。
【行政区】に冒険者はほとんどいない。
当たり前だ。
この【行政区】は、文字通りこの町の政治を行う建物を一つの区にまとめたものだ。
宿泊所もあるが、それはここの政治をしている人たちの睡眠所専用だ。
わざわざ【一般区】に戻って、しかも帰りを待つ人がいないのが嫌らしい。正直、気持ちはわかる。
独身の人達が愛用してるのだとか。
今俺の目の前には、この町最大の建物【四区統括公民会最高責任館 通称・公民館】が建っている。
去年出来たばかりの建物で、他の村々を圧倒する豪華な作りだ。
木造(レンガ有り)一階建て100メートル×100メートルの大型建築だ!
色とりどりのレンガがその建物に奥深い色を際立たせている。
木材がいっそう、静寂かつ素朴な風景を演出している。
双方の独特な特徴が素晴らしいハーモニーを奏でていた。
※実際に奏でているわけではありません。あくまで【臆病者】の妄想です|。
鉄は無くても、素晴らしい建物が出来るという例を現しているようだ!
……閑話休題(異世界人の表現ならば、俺の【黒歴史】だなぁ……。)。
まあ、この【行政区】でこの町は成り立っている。
どこぞのスパイに入られて、重要書類を取られたら大変なのだ。
そのためか、公民館の入り口周辺には、20人程の警察がいる。
厳重な警備だ。
俺は公民館の入り口出前で右へと曲がる。
そこから道なりで【一般区】へといけるのだ。
……。
……。
……。
よし、ここが【一般区】だ(30分掛かった)!
【一般区】には更に細かく分かれるのだ。
【学業エリア 通称・スクールエリア】
【商売エリア 通称・サービストリート】
【住居エリア 通称・ハウストリート】
名前で大体理解が出来ると思う。
【学業エリア】は異世界人の学業を専門とした【がっこう】【ようちえん】。
元々、冒険者になるための【冒険者育成学校】。
他、訓練が出来るグラウンド。
初心者が初めてモークタンを殺す【初心者教育所】。
このあたりには【がっこう】や【ようちえん】などが建てられている。
つまり、【学業エリア】と言うことである。
【住居エリア】は今言ったらかなり危険だ!
いじめっ子には二度と会いたくない……。
【商売エリア】の店で遅めの昼食をとってから一泊宿屋に止まり、翌朝出発する予定だ。
まさか、この町からでるだけなのにこんな羽目になるとは思わなかった。
チンピラはくるわ。
商店町で全力疾走で逃げるわ。
住宅街で迷うわ。
イグナル村長に出会うわ。
現在、【うでどけい】の短針長針では15時と30分を指している。
町からでるには、遅すぎる時間帯だ。
夜になると周りが見えなくなるだけでなく、敵も若干強くなる。
稀に若干所の話ではなくなる魔物もいるため、夜は駄目なのだ(俺はどっちでも良いけど、この町の出入り口を守る門番が駄目っていうから……)。
まあ、16時になると門が閉まる。
魔物から守るためとか確か言っていた。
まあ俺は昔、外壁よじ登って平然と夜の魔物と戦ってたけどな。
まあ、どっちみち泊まらないと駄目なのだ。
俺は早々に【学業エリア】を抜けた。
でっかいトラウマがあるしな。
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~【商業エリア】~
【商業エリア】は冒険者商店町と見た目上は余り変わらない。
ただ、何を売っているかは商店町と全く違うのだ。
冒険者商店町は名前の通りだ。
冒険に必要なアイテムや食料などを、冒険者に格安で提供してきた。
【商業エリア】はというと、この町に住む住民の為の生活用品がメインだ。
此処では洋服屋、魚屋、ちょっとした鍛冶屋など日常生活に必要な物を特化したエリアになっている。
また飲食店も豊富で、異世界人の考えた料理。【中華料理】や【洋食屋】もある。
異世界からの作物をこの世界でつくろうとした人がいたらしい。
ギリギリ栽培に成功した結果が、この世界の豊富な飲食店が物語っている。
その中で一軒変わった店舗がある。
数ある飲食店の中から、【商業エリア】の後ろの角にある。
それが【うどん・そば 池崎処】という店だった。
異世界人の中でも区別される【にほんじん】がこの町に一件だけ建てた飲食店だ。
流石に15時30分位に昼飯を食べる人は早々いない。
客が根付いているとはいえ、この時間帯は休憩している頃だろう。
俺は【商業エリア】の真ん中を堂々と歩く。
勿論、仮面を付けていないとめんどくさいので少し不気味だ。
(いちいちこの町は仮面付けないと駄目なのは嫌だなぁ。外にでたら外せんのに……)
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【商業エリア】【うどん・そば 池崎処】
俺はグチグチ頭の中で文句をいった後、とある店へと入店する。
10坪程の和風の建物だ。
狭いが、混雑時にはここら辺りに凄まじい行列が出来ている。
木で出来た風流ながら奥深さを感じさせる、建物の入り口の上には、【うどん・そば 池崎処】の看板が掲げてあった。
「へい! いらっしゃい! どこでも開いていますので、席は自由にお座りくだ……ってエエッ!?」
男は俺が入店したことに仰天した。
その男は、服と背中にそばとかかれた白色の文字の刺繍に、藍色をベースにした服を着ていて、頭に白い鉢巻きをしていた。
40代の立派なオッサンだった。
175センチの大柄な体型は、背が低い人にとっては脅えるだろう。
……この説明は前にしたと思うが。
※第3話参照 そばの人と衝突場面。
そう。
出前店長さんだ。
「かっ、仮面の兄さん!?」
覚えてくれたのは正直かなり嬉しいんですが、「兄さん」は少し恥ずかしいです。
「はい。あの時はすみませんでした。」
「もしかして、……アンナさんの隣の坊ちゃん?」
出前店長さんも、俺を皆と平等に接してくれた人だ。
出前店長さん―今田智和―はそこの店長をやっていた。
出前店長という愛称は、店長なのに出前を自ら行うという変わった人だからという。
ただ、うどん・そばの腕前は一流で、隣町のル・レンタンからお客が来るほどの根強い人気がある。
まあ、根強い人気の秘密は頑張りやさんだからだろう。
「はい、でも【臆病者】と呼ばれても構いません。流石に周りからガンガン言われたら、慣れます。」
俺は周りを慎重に確認した後仮面を外して、一番近い【かうんたー】という席の種類の端に座る。
そして、収納魔法を発動し仮面を中に入れた。
「……とりあえず、坊ちゃんお腹がすいてますやろ? 注文は何にしましょうか?」
「【海老の天ぷら蕎麦】1つお願いします。」
「ご注文ありがとう!」
今田さんは気を使ってくれた。
俺を【臆病者】と呼ぶのが嫌なのだろう。
【海老の天ぷらそば】は普通のかけぞばである【温そば】に、海老の天ぷらを豪快に乗せた料理である。
【温そば】よりも値が少々張るが、それでも安い。石貨6枚と小石版2枚は破格の値段だ。
今田さんは直ぐに料理に取りかかる。
「あの時はよそ見してすみませんでした。実は……チンピラ達から逃げてた時でして、チンピラとの距離が後どれ位なのだろうと、前もよく見ずに後ろを確認していました。」
「えっ? チンピラ達ならつい30分ぐらい前に10人ぐらいの団体で此処に来ましたぜ? まあ、普通に【温そば】とか【ざるうどん】とかを注文してましたぜ? 会計もキッチリしてました。」
危なっ!
30分前に来店!?
俺がもう少し早く此処に来たら、最悪バッタリあってたってことか。
ちょっと今田さんの言葉に救われた気がする。
チンピラ達が会計したのは意外だなぁ。
「まあ、ただ事やないと思てましたわ。あんな仰山賑わう商店町で全力疾走なんて、普通有り得ませんからね。」
「ごめんなさい。」
俺は座っだ状態で謝る。
頭を90度下げた。
俺は更に言葉を続ける。
「ざるそばの容器と迷惑料を弁償……。」
「ええ、かまへん。事情はわかった。坊ちゃんもチンピラ達から逃げるというどうしょうも無い事態に巻き込まれたのはわかった。せやから弁償なんぞええ。」
「でも、実際被害は出てます。」
「中身が無かったのが不幸中の幸いやなぁ。たまたま容器の回収やったし、あん時は帰る途中やったんや。中身があったら弁償してもらわんと困りますけど、これからこの様なミスはしないって約束するんやったら、弁償無しでかまいませんのや。」
今田さんは更に言葉を続ける。
この地点で救われた気がするが、弁償無しは流石に気まずいな。
「……それに大事なのは、《心》なんや。坊ちゃんはわざわざ謝罪するために此処まで来たんやろ? まあ、単純にそば食いたいってだけやったかも知れへんけどな。『謝罪しないといけない』っという気持ちと『反省している』っていう気持ちを持つ事が大事なんや。」
「でも、弁償する事が謝罪の意味では?」
「その方法も一つの謝罪のやり方やねん。けど、金もらうと謝罪やと言うことは、金貰ったらそれですむ話なんか? それは少しちゃうと思いませんやろか? 金もらってもこちらは笑えまへん。」
今田さんは、俺に何かを訴えかけるような言葉を言った。
賠償を貰っても傷は早々に拭えないものである。
「でも、この世の中は何らかの形で弁償せな飽きまへんのやわ。謝罪だけでは駄目だとか言う人もおんのは、そのためやな。」
「……。」
「《心》と言うのは、人によっては見えへん事もあるねん。それに、《心》がこもってない挨拶や謝罪をする人がおるからそんな世の中になったんちゃうかと俺は思とんのやわ。」
賠償とは何か。謝罪とは何か。
《心|》《・》のこもる謝罪は何か。
金を払っただけで済む話ではない。
異世界の方も、皆そう思っているのだろうか?
俺と今田さんはしばらく無言の状態でいた。
俺は木製の椅子に座りながら、サービスのお冷やを飲んで考え事をしている。
一方今田さんは海老に衣をまぶし、油で揚げている。
パキパキという音のみが店内に鳴り響く。それが余計に静けさを演出していた。
今田さんがあるタイミングで海老を油から取り出す。
俺と会話していたときに作っていた【温そば】に、揚げたての天ぷらを乗せる。
「へい! お待ちどうさん。【海老の天ぷらそば】や。」
俺の目の前にその【海老の天ぷらそば】が置かれた。
ここで今田さんが言葉を発する。
「まあ、賠償したかったらしても構いまへんで。ただ、次は絶対しないと約束してくれまへんやろか。後ろ見るときは、しっかり前を確認しないとアカンで!」
「はい! もう二度としません!」
俺は大きな声で高々と宣言する。
イグナル村長の時にも負けない大きな声で言った。
ついつい起立して右手を上げてしまった。
「ええ返事や! それで、あんたは幾ら持っとんねん。」
「銀貨4枚です。」
「うーん、だいたい【40000えん】か。言うて被害は容器だけやし……そや!」
今田さんは急いで別の部屋へと急ぐ。
厨房は【かうんたー】の直ぐにある。
店全体でいうところの真ん中あたりだな。
俺はその間に蕎麦を啜り、汁を飲む。
……うまい。
魚介類のあっさりとして深いだし汁が、体の中に染み渡っていく。
そばの香りと歯応えがある麺との相性は抜群だ。
油で揚げた海老の天ぷらが、その汁にちょっとしたアクセントを加えることによって全部飲みたくなる濃厚な味になっていた。
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異世界の料理の中でも【にほんしょく】は至難のグルメだった。
なにせこの世界に異世界人が使ってた【にほんしょく】になる素材が難しかったからだ。
例えば【にほんじん】が発明した【まぐろのすし】を作りたいとしよう。
まず米がいるのだが、これは比較的簡単だった。
他の国で米の栽培に成功した所があったから輸入で安価で入手出来る。
次にお酢。
これも簡単。
昔は無理だったが、生産が楽になった現在では入手に苦労はしない。
どこの国でも生産している。
一番ヤバイのはマグロ(モドキ)。
ハッキリ言おう。
マグロ取りに行く位なら冒険者で、ランクB+のドラゴン(稀にいる)を倒しにいった方が全然マシだ。
この世界の最果ての北(此処から数万キロ)の水深1000メートルにいる。
しかもそこの海周辺は、Aクラスの魔物が楽園を築いており、彼らの主食はマグロだ。
マグロを漁獲使用ものなら誰だってわかる。
阿鼻叫喚の地獄絵図だろう。
帝国の王がパーティーしたときにマグロの解体ショーしていたとかなんとか。
まあ、とにかく【にほんしょく】は他の国の料理に比べて材料の理由で難しい訳だ。
【うどん・そば 池崎処】は勿論【にほんしょく】。
なぜ実現が可能になったかというと単純明快。
材料があったからである。
うどん・そばの原材料が一番の問題だったが、同じではないかと疑うほど激似の原材料が見つかったのだとか。
つまり、この【うどん・そば】は奇跡的に全世界に展開したのだ(勿論他の【にほんしょく】も展開したが、どこかで躓いている)。
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(【温そば】も全然アリだけど、俺は海老入れるほうが好きだなぁ。海老の天ぷらが出す油が堪んないし。)
まだ、暖冬(そろそろ終わるけど)とは言え気温は10度ギリギリ。この寒さに暖かい料理はホッとする。
海老の天ぷらはどうだろう?
俺は一口天ぷらを頬張る。
※此処に書かれていた次回投稿予約を削除しました。
傍線の一部にミスがあったため削除しました。




