第10話 村長と村 苦 後編
疲れで寝込んでいた俺が起きてから、凡そ2時間。
もうすぐで収納魔法から取り出した【うでどけい】が指す15時になる。
「坊ちゃん。後もう少しだ。この坂を登ったら【行政区】だ!」
「私のためにわざわざありがとうございます。」
「ハハハッ! もしあのときに出会ってなかったら、俺は坊ちゃんを助けることは無かっただろうな。」
たまたまイグナル村長が居たから何とか此処を抜け出せたのである。
最悪、運が味方をしなかったら此処【住居区】で犬死にしていたのだろう……(本当にここの住宅街は、改善が要ると思う)。
「てか坊ちゃん。もう質問は終わったのか?」
イグナル村長は俺に質問がまだあるのかと問いてきた。
いけない、いけない!
まだあるんだった!
……でも、この質問はイグナル村長と俺の仲を裂いてしまう結果になるかもしれない。
「良いですか? 今度の質問はさっきよりも重いです……。」
「まあ、聞くだけにしといてやる。」
俺はあの件以来村長を尊敬した。
最悪、俺のイグナル村長さんのイメージが崩れ去る質問だと思う。
それでも俺は勇気を出す!
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質問3 「何かを隠していませんか?」
「イグナル村長、私と初めて出会った時は覚えていますよね?」
「ああ! 勿論だ! あん時実は、焦って声が出なかったんだ。皆は『何故ビックリしなかったんですか、村長さん?』とか言われたよ。けど、本当はマジでビックリして声が出なかっただけなんだ。」
ええ……。
全くビックリしてなかったのはそれが原因か。
表情を顔に出さずにいられるのは、かなり大変なのでは?
もしかすると、冒険者の癖が染み着いているのかもしれない。
冒険の途中、稀に山賊と戦う時がある。
案外山賊は頭の回転が早く、敵の得意な魔法を素早く相手と言葉を交わしただけで読み取る事が出来るため、厄介な相手だそうな。
山賊と言葉を交わす際、表情を読み取られないようにしないと、こちらの切り札がバレてしまう。
だから幼い頃は【じゃんけん】という勝負で表情を出さない訓練してたとか言っていたのを思い出した。
俺の顔が緑になってもビックリしなかったのは、冒険者の経験からか。
(普通そうだよな。深夜に緑色の顔をしている死にそうな奴に会ったら絶対皆ビックリするよな。)
「そうだったんですか! 私も、あの時村長さんが急に現れたから、ビックリして声が出せなかったんです!」
「ハハハハハ! そうか! どっちもビックリしたけど声が出なかったから他の住民にバレることも無かったわけだ。」
「もし、バレたらどうするつもりだったんですか?」
「申し訳ないが、村長の立場とみんなの意見で考えて……。」
村長さんはここで言葉を止めて考えている。
答えが出たのは直ぐだった。
「永久追放って形だろうな。子供だからその扱いだ。坊ちゃんが大人だったら最悪死罪もあり得た。」
足取りが段々重くなる。
あれ?
これってもしかして
……あっ。坂を登っているんだったっけ。
何かゾッとした。
町の住民の信頼は、俺には皆無だ。
声出さなくてよかった……。
あの時の自分を褒め称えたい。
「……それで、話がそれたな。何故その話題を俺に?」
イグナル村長が話を戻す。
こういう人物友達に絶対一人は欲しい。
「はい。……でその後、私は村長さんに注意されて、解散の後にこっそり村長さんについて行ったんですよ。」
「……。」
「そしたら、村長さん町のとある場所の建物の施錠を開け、中に入ってナンバーロックのかかった頑丈な扉を開けてましたね?」
「……。」
イグナル村長は沈黙した。
かなり喋る人だから沈黙なんて殆どしない。
沈黙するということは余り言いたくない話なのだろう。
「ズバリ、質問します。イグナル村長さん、あなた何か住民には言いたくない物がそこにあるハズです。あの頑丈な扉の先に何がありますか?」
「坊ちゃん、その質問の答えは無しだ。他に何かあったら、それは答えてやる。」
イグナル村長は質問の解答を拒否する。
こうなることは予想できた。
人は誰だって何かの秘密を他人にバラさないように生きている。
知らない他人ならまだしも、仲のよい友人に無理にえぐり出す必要は無い。
無理にえぐり出して、友達との関係を自らが壊していいのか?
その人が秘密をカミングアウトするまで、待ってやるのが一番ではないか?
(カッコイイ?こと言った気がするけど、すげー村長の秘密が気になるんだが)
※【臆病者】はただ、自分の言った事がカッコイイとイケメン面しただけです。
俺はイグナル村長の秘密を炙り出さなかった。
村長さんとは仲良くしたいからな。
「……ただ、坊ちゃんには少しだけ言おう。」
…………えっ?
ヨッシャーーー!!!キターーーーーッ!!!
俺は信頼されてるのか!
※この【臆病者】は村長さんが【臆病者】を信頼していると、思いっきり勘違いをしています。
村長さんは言葉を続ける。
「まず、頑丈な扉の奥にはひとつのアレがある。」
「アレとは何ですか?」
「異世界の転移門だ!!」
ああ、うん。そこまでは理解できる(もう少し反応をしてあげた方が良かった気がするが)。
異世界転移門は500年ほど前、どっかの偉い奴が唱えた魔法で、異世界とこの世界を繋げる門を複数生成する魔法だ。
凄まじい魔法だ。
常人がたどり着けない領域の遙か彼方にある伝説級の魔法。
転移扉が出現した数は100以上と確認されている。
唱えた年月と詠唱者の魔力によって数が上下するのではと魔法学者が様々な説を唱えている。
確か、【極位魔法 異世界転移門複数召喚】とかいう長すぎる名前だった気がする。
※あってます。
【極位魔法】って何だろう?
そんな魔法のジャンル、本に載ってたか?
「別に……異世界転移門何て本気で探せば普通にありますよ。まあ、数十年前に扉は全部閉まっちゃいましたけど。」
「まあ、他はそうだろうな。」
他はそう?
もしかして……。
俺はついつい質問をした。
「えっ? もしかして、異世界転移門が開いてるんですか。」
「ああ! 一昨日も見てみたが、間違い無く全開だったな。」
「全開だったんですか!? 中は見ました?」
「ズボンのチャック全開でしたか?」みたいな勢いで、俺はイグナル村長に質問する。
ズボンのチャックと異世界転移門を比べるのはダメだ。
(俺、ズボンのチャックだったら、絶対ダメな質問してるよね?これ?)
「ああ……。確かに中を見たよ…………。あれは……異世界人がこの世界に移住するわけだ……。」
沈黙が長くなった。
でも、異世界人が移住するわけが見るだけでわかるのがよくわからない。
何かの理由があって異世界が嫌いになったのかな?
……まあ、そのくらいにしておこう。
異世界人はビックリするような発明を沢山している。
俺達が予想するよりも想像以上にヤバい理由なのだろう。
「坊ちゃんに話せるのは此処までだ。だが坊ちゃんが何かこの世界でデカイ事をしたとか、誰よりも強くなったとか、それなら全てを話してやろう。」
「どうして全部話してくれないんですか?」
「坊ちゃんは確かに【プレイヤースキル】というものを既に習得している。他の冒険者から見ても素晴らしい。」
「だったらなぜ?」
「坊ちゃんには足りないものが幾つかある。それがわかったら、おそらく【臆病者】の名は完全消滅だな。」
「?????」
俺は『足りないもの』が何かサッパリだった。
俺には何が足りない?
イグナル村長は更に言葉を続ける。
「少なくとも、戦闘能力というわけじゃない。何が足りないかを坊ちゃんに話しても、多分お前はイマイチわからんだろうな。それを、今回の旅で見つけてこい! 今まで坊ちゃんを散々貶しまくった、この村の奴らの天狗の鼻をへし折ってこい!」
「はい! わかりました! 全力であいつ等を見返してやります!」
俺は右手を上げて高々と、イグナル村長に宣言した。
こんなに大きな声で宣言とかしたのは初めてだ。
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「よーーし! 後少しで【行政区】だ! もう少しの辛抱だぞ。」
「何時もこれより酷い環境で、魔物とドンパチしているんで平気です。」
俺はまた自虐ネタを言う。
だが相手の捉え方が少し違ったのか、
※【臆病者】は自虐ネタのつもりでしたが、イグナル村長さんは「努力してきたが故の慣れ」だと捉えています。
「おお! 【プレイヤースキル】持ちはやっぱりすげぇな。正直俺は少しヘトヘトだぜ?」
確かに、最後になってこの急な坂道はしんどいだろう。
なんだかんだで俺達は一時間ぐらいをひたすら歩いてきた。
絶対わからないであろう、あの【行政区】行きの看板から坂がずっと続いている。
25分位ずっと坂を登っている感じを想像するとわかりやすいだろう。
常人にはしんどすぎる。
なかなかタフな村長さんですらしんどそうだ。
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3分後
「ハアハア……ここが【行政区】だ!」
イグナル村長は疲れているのに大声で俺に【行政区】だと説明する。
「ありがとうございました。」
「ああ! ハァッハア……ゴホン。すまん。俺は少しバテた。」
イグナル村長は流石に疲れたのか、近くにあった大きな石に座った。
両手をそれぞれの両膝にのせて頭を垂らし、ゼエゼエと荒い息をしている。
「無理しなくていいです。えっと……此処までわざわざ案内してくださり、ありがとうございました。」
「嗚呼、大丈夫だ。それより、町の外にでたら例のアレを頑張ってくれ。何時でも帰りを待っているからな。」
例のアレ。
いわなくてもわかる。
モークタンの存在理由は何か?
それと、
更に強くなること。
何か世界の歴史を揺るがすことをする事。
「俺、いつかでっかくなって帰ってきますよ。イグナル村長さんの抱えてることは俺に任せてください!」
「ハハハハハ! 俺達の村はもう一人でっかい人間が排出された気がするな!」
「「ハハハハハ!」」
俺とイグナル村長は笑った。
他人が見たら恐らくこうだろう。
虎柄を着たヤンキーと山鬼の仮面のボスが、何かを話している光景にしか見えない。
……そろそろお別れの時間かもしれない。
(異世界人が作った【ほたるのひかり】という音楽が流れる雰囲気だけど、決して流れないから!)
「イグナル村長さん、ホントにありがとうございました!」
「おお! また会おうぜ、坊ちゃん! でっかくなって帰ってこいよ!」
右と左に分岐があった。
イグナル村長さんは右。
俺は左だ。
俺は左に歩きながらイグナル村長に向かって手を振る。
イグナル村長も手を振っていた。
イグナル村長と別れた俺は歩みを進める。
そうだ!
出前店長さんに賠償しないといけないんだった。
危ない危ない。
忘れたら大事な一人の信用を完全に落とすとこだった……。
【行政区】はそこそこ広い。
【一般区】へ行くための距離は結構ある。
あの時、イグナル村長に【一般区】でお願いします!?とか言っておけば良かった……。
いじめっ子いるから躊躇ったのは俺だけど。
前に出前店長さんの店は、冒険者商店町に近いと説明したことがある。
※第3話参照。
実は【一般区】と冒険者商店町はかなり近いのだ。
冒険者にも飲食店を提供したいという理由で、意図的に設計された。
俺は【一般区】へ向かって、出前店長さんに賠償するために、【うどん・そば 池崎処】へ向かわないといけなくなった。
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