第9話 村長と村 苦 前編
「村長。今から何個か質問します。少し重いですが聞いてくれませんか?」
俺は噛まないように必死に心を冷静にする。
「いや、止めてくれ」と言われも別にいい。
今までも何度かこういう質問をして来た。だが此処で、その「止めてくれ」が飛んできた。
誰にでも質問しては困るものはある。
「……わかった。大丈夫だ。」
承諾の返事が来た。
俺がもう当分此処に来ることはない。いや、来ることはないのかも知れない。
その事を理解したうえでの返事なのだろう。
もう戻れない所まで来てしまった。
言うしかない!
此処で質問して何かがわかる方が嬉しい。
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質問1「モークタンの存在理由は?」
「ありがとうございます。では、まず一つ目です。どうして初心者訓練用の魔物がモークタンなのでしょうか? 私はモークタンを殺せなかったのは、ビビったからではないとあなたは知っているハズです!」
俺はまず一つ目の質問をイグナル村長に言った。
返答は、
「まず、ハッキリ答えを言おう。なぜならモークタンが、初心者訓練用に一番適している弱さなんだ。だがな、余りにも都合が良すぎる。まるで、俺達に『強くなれ!』と言っている気がするんだ。俺は何かに操られてんじゃないかって国に報告したが、門前払いだ。」
「そんなに国は魔物が嫌いなんでしょうか?」
「正直、俺達は魔物のせいでこんなギュウギュウな生活を強いられている。人を勝手に殺すし、国が嫌がるのは当たり前の話だ。」
「でも、モークタンが人間を殺した事はありません!」
俺は強く主張する。
過去にモークタンによって殺された人間は0だ。
だが、イグナル村長は首を横に振った。
後ろから問いかけているため顔は伺えなかった。
「そこじゃないんだ。『モークタンは魔物、魔物は人間を襲う』。いろんな国は様々な魔物を一つにまとめている。どっかの魔物の個性がどれだけあろうと、結局魔物という種類にまとめられてしまうんだ!」
「……そうですか。」
俺は少しうずくまる。
結局、魔物の個性はないと言うことか。
しかし、大きな事がわかった。
やっぱりこの世界、何かがおかしい。
モークタンの存在理由はもしかして俺達が強くなるための誘導?
じゃあ、俺達は一体何と戦う?
考えてた所に、イグナル村長が言葉を発した。
「まあ、モークタンは可哀想だな。既に俺達人間のことを、恨んでるだろうな。」
「恨みで強くなるものですか?」
「いや、よせ。恨みだけでは強くなれん。お前みたいに10年努力するモークタンもいるかもしれない。感情がなさそうな様子を常にしているのだが、俺は少し気になるのだ。」
「何を、ですか?」
「モークタン、もしかしたら人間と同じ感情を持ってんじゃないかってな。」
確かにそんな事は何度もあった。
俺が初心者訓練用の初めての戦い(というか、一方的な虐殺)で、戦う時のモークタンの目には憎悪に似たものがそこにはあった。
ところが、俺が剣をモークタンに振ることが出来ずに、敗北してしまったときの目は疑問の目だった。
今でもあの時の目は印象深いものがある。
まるで、「どうして殺さなかったのか?」という言葉を放つような目。
「確かにそうな気がします。私、初めて魔物であるモークタンと戦ったときは、憎悪のようなものを感じました。今思えば凄まじい程の殺気だった気がします。でも、僕が情で倒せなかったときには不思議そうでした。さっきまでの殺意が全部消えてたんですよ。」
「そうだよ。だから俺は思ったんだ。もしかしてモークタンは力を代償にして、知恵を得たんじゃないかって。」
「!?。そっ……そんな事があるんですか。進化か何かの成長をしないと、魔物は知恵を使えないハズでは……。」
「わからん。ただ、これで色々可能性が出て来たんじゃねえか? 俺は此処まで考えたが、完璧な結論は出なかった。」
更に疑問が湧くが、イグナル村長からの考察はここまでのようだ。
「まあ、そこからはお前! 頑張ってこの世界の秘密を探ってこい。いい結果を期待してるぞ!」
まあ、そうなる。
少し希望が見えた気がしたのは、言うまでもない。
今回の旅の目的に加えてみることにしよう!
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俺達は少し重くて疑問が残る俺の質問を皮きりに、足が少し遅くなった。
「オッ! 此処まで来たら、後もう少しの辛抱だ。坊ちゃん、足の方は大丈夫か?」
「ハイ! 【試練の森】で10年ほど特訓した成果はなかなかのものだと、今思いました。」
10年あれやってこの量の成果かよ、と思ったが他にも色々、成長したものもあるからまあ良しとしよう。
「ハハハハハッ! なかなか面白いが、自虐ネタを余り多用するなよ。女の子にドン引きされるぞ! あと、冗談が通じない奴には厳禁だぞ。」
「わかってますよ! 村長さんだと全然冗談が通じるから言っただけです!」
「ハッハッハッハ! お前ってそんなに人をじっくり選んでたのか。」
なんか変態扱いされた気がするが、イグナル村長さんだと全然気にしなくなる。
たぶん違う理由で言ったのだろう(たぶん!だけど……)。
なんか段々、次の質問がしづらくなってきた。こんな楽しい雰囲気で、重苦しい話をする方がどうかしてる。
話題を移すことを考えたのだが、様子を見ることにした(とかいって、ずーっとこのままだったらどうしよう……)。
この状況を元に戻したのは、他でもないイグナル村長さんだった!
「おっと……済まねぇ。まだ質問の途中だったな、何時でも大丈夫だ。問題は一人で抱えるもんじゃないと、母が良く言ったもんだ。」
やっぱり凄いや村長さんは。
これだから、町の人たちの評判が非常に高いのか。
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質問2「たまにみる黒紫色のオーラは何?」
俺は更に質問をイグナル村長に投げかける。
「ゴホン。ではイグナル村長さん。二つ目の質問です。私はたまに町の人たちから黒紫色のオーラを見ることがあるんですが、あのオーラのようなものは何だと思いますか?」
「やっぱりそうか? お前も見えるか? 俺も正直、見れるものは見れるんだがサッパリわからん。」
「えっ! やっぱりそうですよね! アンナおばさんに、『俺、とうとう幻覚まで見えてきたんです。』とか言ってしまったんですよアハハ……。」
俺も寒い冗談を言うようになったものだ。
異世界人たちの仕事の中に【げいにん】というものがある。
【げいにん】は常にお笑いの流行を掴み、人々を笑いの渦へ引き込ませるセンスが問われる。
場合によっては一攫千金を狙えて、どこでも引っ張りだこな状態になれば、仕事は数十年は安定するらしい。
俺は【げいにん】には向いてなさそうだ。
「アンナおばさんにはオーラはついていたのか?」
「いや、ついてたことは一度も……。」
「アンナおばさんには無い、と考えた方が良いか。ならあの出前店長は?」
「出前店長にもついてたことは一度もありません。」
俺も見た限り、オーラのありなしが有りそうだ。
だが少なくとも、今まで俺と親しくして来た3人(村長含む)は、オーラは無さそうだ。
何かの理由があって、こういう現象が見られるのだろう。
「少しつらい思いをさせてしまうと思うが、すまない。商店町で追われたチンピラ達と、あの悪ガキは?」
「チンピラ達は余り見ていません。しかし、私が見たものは黒紫色のオーラではなく別のオーラでした。」
「何色だった?」
「オレンジ色と言うか、何かの意志を持ったような気がするオーラでした。」
「オレンジ色!? 俺はそんなオーラは見たこともないぞ? 多分チンピラ達との間で何かが起こったのだろうな。」
イグナル村長ですら、あのいじめっ子を悪ガキという。しかし、俺の噂の方が影響力は強い。
だから、いじめっ子の悪いイメージは、一般的には全く浸透していないのだ。
どうせ俺がいじめっ子文句を言っても、俺が【臆病者】の立場だからと
確かに何かが起こった気がする。
最初にチンピラ達と会ったときは、殺意を剥き出しにして殺しにかかってきた。特にチンピラのボスは黒紫色のオーラが出そうになるくらいの殺意だった(見えなかったのは俺があのワザで逃げたからだろう)。
ところが、逃げてた時に遭遇したチンピラ達の部下やボスは、さっきとは別人では?と言うほど変わったのだ。
本気で殺そうとしてたのは余り変わらなかった。
だが、憎悪があるかという点では全く違っていた。
憎いと言うよりも、敵と言う認識をしていた気がする。
昔、チンピラ達がどこかの国で兵士として頑張っていて、敵に会ったときの戦闘はこんな戦いぶりだったのだろう。
チンピラ達との闘いはそんな感じがした。
特にボスは明らかに違っていた。
薬屋で俺と会ったときは「ぶっ殺す!」とか、「テメェ! まちやがれ!」とか恨み節を俺にガンガンぶつけていた。
だが最後のあの場所に来たときは、恨み節がかなりカタコト(と言うか、言いたくない台詞を渋々言ったような言い方)だった。
「ハネル」の言い方も少しおかしかった。
俺とのやりとりでチンピラ達に何かが起こったのは間違いではない。
俺は右手で顎を触る。
考えているときに癖でついつい触ってしまうのだ(そこに理由などさらさらない)。
そのタイミングでイグナル村長は、あのいじめっ子の事について俺に聞いてきた。
「じゃあ、あの悪ガキは?」
「ああ! 黒紫色のオーラは何時もバリバリ出てますね。」
「まあ、そうだろうな……。悪ガキにオーラがねぇと俺の仮説は的外れになる。」
「多分、僕もイグナル村長さんと同じ事考えてると思います。」
此処まで言われたら気がつく人も一部はいるだろう。
イグナル村長、出前店長、アンナおばさんには無い。
いじめっ子、チンピラ達、この町の大半の人達は黒紫色のオーラを纏っている。
だとすると結論は……。
「「何か悩み事を抱えてるか、そうでないか? もしくは、性格の善し悪し!?」」
俺とイグナル村長は一斉に言う。
被ったのはたまたまだ。
ざっと説明するとこうだ。
アンナおばさんは今まで見ていると前向きな性格だ。
新しい薬の開発や研究という、アンナおばさんにとっては素晴らしい仕事を続けた結果、国から薬師の称号を得た。
町の人からも評判が良いため、順風満帆な生活を送っているのだろう。
悩み事はあっても、そこまで酷いものではないと思う。
出前店長さんは頑張りやだけど気楽な性格をしていた。
悩みなんてまず無いだろう。
今の自分が【池崎処】を頑張って、実際に営業が出来ていることに誇りを感じている。
オーラを纏っている皆が贔屓にしているくらいだ。
美味しい【そば・うどん】を作り続ける仕事に酷く感動したとか言っていた。
イグナル村長は30代という異例の若さで、この村(町)の村長になった。
若い頃冒険者だった経験を生かし、冒険者の為の町を作ったことで町の人から【人気者】扱いだ。
今後の村の運営で悩むことはあっても、やる気と根性があるイグナル村長ならあっさり乗り越えられる。
じゃあ、俺は?
何で俺はオーラにかからなかった?
俺なんて、【臆病者】と呼ばれるまでは、ずーっと普通の生活を送っていた。
モークタン殺せなかったあの日以来、ずっと濃い辛酸を舐め続けてきた。
俺には、【勇者】とか言う才能(全ての魔法、スキル習得がかなり容易になる)なんてなかった。
あの特訓だって口では笑えても、実際は生き地獄だった。
悩み苦しんだ俺が、黒紫色のオーラにかかってすらない!?
もしくは、もうすでにかかっている?
と言うかそれ以外の人は僅かながら、オーラを纏っている(かつてのチンピラ達とあのいじめっ子は別格。出会ったら素人でもわかる)。
俺とイグナル村長が一斉に言った数秒後、俺はさらに落ち込んだ。
モークタンの件の次にこの疑問は難しいって……。
今回の旅の目的から更に、余計に難しい一つを加えたくない。
「オイ! どうした? 喜んでいいんだぞ! 答えが一致したことは、素晴らしいことだぜ?」
イグナル村長はそんな俺を、現実世界に戻そうと頑張っている。
別にイグナル村長が悪いという訳ではない。
じゃあ、もし俺がモークタンを殺していたらどうなったか?
多分、理性を無くしてしまっただろう。
モークタンを殺した罪悪感を消すために、もうどうでもよくなってしまっていた気がする。
そして、あのいじめっ子と一緒に町中を恐怖のどん底に落としていたのだろう。
驚くことに、いじめっ子の彼奴は【勇者】の才能をもっている。
性格がにじくれていても、【勇者】の才能をもっているから、勝手に人がついて来る。
何にせよ、今のままで正解だったと自覚している。
俺は《心》が弱い人間かもな。
……。
おっと、また自分の世界にのめり込んでしまった。
イグナル村長は俺を現実世界に戻そうとしていた。
「ああっ! ゴメンナサイ。ついつい独りで考え事をしていました。」
「おお! やっといつもの仮想世界から抜け出してきたか。ったく。余り自分で考え込み過ぎると、オーラに弱み漬け込まれるぞ!」
俺はたまに、現実世界から離れて考え込んでしまう癖を持っている(皆からみても、一目瞭然だろう)。
それを知っているのは4人だけだ(父さん、アンナおばさん、出前店長、イグナル村長)。
「ってか何なんだろうな? 俺たちの町だけに起こっている話なのかは、余りわからねぇんだ。」
「それ、僕が旅するついでに調べるんですか……。」
俺は嫌そうな顔をイグナル村長に向ける。
多分モークタンの件で精一杯だろう。
「ハハハハハ! 流石に坊ちゃんに全部任せんのはダメだな! (坊ちゃん死んじまうしな)。ソイツは俺に任せてくれ!」
何か言ったような気もする(まあ、もともと耳が良いから気づいたけど)。
まあ、とにかくイグナル村長さんがやってくださるようだ。
有り難い。
「ありがとうございます。」
「礼はいい。押し付けは良くないからな。それに、俺は具体的にどれを調べたらいい?」
「えーっと……。」
俺は少し考える。
具体的にか……。
「まず、オーラの元凶は何か。それと、オーラが人に入り込むときの変化。」
「何か他には?」
「オーラが入り込むにはどれ位の悩みや性格の悪さが必要か。」
「……よし。わかった! 坊ちゃん。モークタンの件はあんたに任せる。俺はあの黒紫色のオーラを調べるんだな。」
「はい! 頑張って死なないように調べてきます!」
交渉成立だ。
モークタンの件は俺。
黒紫色のオーラはイグナル村長が調べることになった。
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