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あなたのいない未来がずっと続いていく

 私の将来が真っ暗に染まったのは――いや、確実に摘み取られたのは、大学三回の冬の日だった。


「どういうこと?」


 目の前の人物に問いかけると、そいつは少し決まり悪そうに苦笑してから「うーん」と、こぼした。


「どう、と聞かれても。見た通り、かな」


 見た通りとは、いけしゃあしゃあと。


「彼氏がいきなりスカート履いてる以外、わかんないんだけど」

「だから、そういうことなんだ」


 ――どういうことなんだよ。


 清々しいほどの笑顔を見せた彼の名は磐田いわた。生物学上、“男”に分類される彼と付き合いだしてすでに3年が過ぎた、とある日の朝。

 突然のカミングアウトだった。

 その日彼が身に纏っていたコートにスカート、ブーツは私が欲しいといつか洩らしたものたちばかりで、私は衝撃のカミングアウトという名の重い右ストレートを食らった上で更にアッパーという2段攻撃を受けた。

 それほど衝撃的でKO負けだったのだ。



 ◇ ◇ ◇



 それからすぐにお付き合いを解消し、友達でもなければ彼氏でもなく、だからといって赤の他人でもない、という奇妙な間柄になった磐田だが、疎遠になるようなことも不思議となかった。なんだかややこしいな、と思う程度の煩わしさは有ったには有ったが、だからと言ってどうこうすることもなかった。


夏時かじさん」


 オープンテラスで、特別好きでも無いフレーバーティーをぼんやり飲んでいると、突然影が落ちたなと思った瞬間、名を呼ばれたので顔を上げた。が、見たこともない美少女が睨んでいるだけで、全くもってわけがわからない。顔を上げたことを後悔していると、美少女は眉をしかめて「夏時さん?」と再度名を呼んだ。もしかして、返事をしなくてはならないのだろうか。


「今、少しお時間よろしい?」


 美少女は、私の反応がないことに痺れを切らしたのか、不機嫌な声音で続けた。


「はぁ」


 ため息だったのだが、美少女は気の無い頷きと捉えたらしく、私の向かいに座り、店員を呼びつけて同じくフレーバーティーを頼んだ。


「夏時さん、よね?」


 こう何度も呼ばれることも滅多にあるまい、と思いながら「ええ、まぁ」と返事をすると美少女は「私は、山下です」と望んでもいないのに自己紹介をしてくれた。


「えっと、何か御用で?」

「磐田くんとはどういったご関係ですか?」


 高圧的にはなりきれないところをみると、まだ私より幾つか年下なんだろうな、と肌のキメを羨ましつつ思っていると反応が遅れてしまった。


「元恋人、現知人」


 そう言ってみたものの、やはり不思議な関係である。しっくりくる言葉が見当たらないので、磐田との関係を聞かれることはいつも無駄にモヤモヤする。


「最近、磐田くんに会いましたか?」

「会ってないと思うけど」


 知りもしない美少女と磐田の間に何かあったのだろうか。

 そんな思いが過ぎった瞬間に、あれ?と頭を傾げた。

 磐田は、あんな格好をしていたが、女の子が好きなんだろうか。

 そう言ったことを聞かずに別れたことを今更になって気がついた。

 そもそも別れた日のことをうまく思い出せない。


「磐田くん、すごく痩せてて。みてられないんだけど」


 ――だから、どうした。


 出てきそうになった冷たい言葉が体内に戻ったのは、この美少女の表情かおをみてしまったからだ。なんともいえない後味の悪さに視線を手元に落とした。

 この美少女は一体なにが言いたいんだろう。


「夏時さん、お願い」


 今顔を上げて美少女の顔をみると絶対に後悔することがわかっていたのに、つい顔を上げてしまった。案の定、すぐに後悔した。


「磐田くんとよりを戻して」


 美しい瞳から、これまた美しい涙がコポリと頬を伝う。その涙は地面に落ちるころには、真珠になっているんじゃないかと馬鹿げたことを本気で考えていた。


「えっと、ヤマシタサン?」


 美人をこんなテラスで泣かせているこの状況を考えると頭が痛い。私はなんて凶悪な女なんだ。


「悪いけど、そのお願いは私にされても困るんだけど」


 できれば、涙を拭いて、さっさとこの場から立ち去れ、と心の中で願うが、彼女は席を立つどころか涙さえ拭わずただ私をじっと見つめている。


「そもそも。別れた原因も私には、はっきり言ってよくわからない」


 そうなのだ。

 本当によく思い出せない。

 別れを切り出したのは、私だっただろうか。

 記憶をいいようにねつ造していそうでまったくもって己を信用できない。


「でも。一つだけ言えることは、」


 彼と付き合っていた3年間が頭の中でよみがえる。

 クソッタレ。


「付き合っていたころの彼は二度と戻ってこない」


 彼はもういないのだ。


「……話がこれだけなら私はもう行くけど?」


 ヤマシタサンの出る幕なんて一端もなければ、私と彼が交わることはもう二度とない。

 もうあの頃の彼はいないのだから。


 未来永劫。


あなたのいない未来がずっと続いていく

私にとっての磐田はあの頃の磐田だけ。

それ以外は、磐田であって磐田でない。


 ◆ ◆ ◆


ええ、もう夏時かじさん、病んでるんですかね。幸せんなってほしいです。ほんで美少女山下、誰やねん!

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