もう望んだって手に入らないってこと
ウエディングプランナー。
それは、結婚式という特別な1日をより良いモノにするために企画し、アドバイスする仕事である。
よって、客として訪れる男女の多くは、既婚者となる。
◆ ◆ ◆
私が彼らの担当となったのは、ただ単に初めにご挨拶をしただけ、というなんとも簡単な理由だった。必ずしもはじめに対面したスタッフが担当になるとは限らない。日取りの関係で後に担当が変わったり、理由は様々だが、なんてことなく起こり得ることだ。だというのに、式当日まで彼らの担当になっているとは夢にも思わなかった。
「寺田様、ご準備はよろしいでしょうか」
張り付けた笑顔と明るい声が、辺りに響く。
外は雲ひとつない晴天で、この花嫁を祝っているかのようだ。
「寺田様?」
それだというのに。
重い溜息を無理矢理飲み込む。
意地とプライドが、いい具合に私を駆り立てていた。
「……聞こえてるわ」
扉の向こうから聞こえてきた声音は、不機嫌だということを隠しもしていなかった。顔を見ずとも、彼女の思いが伝わってきそうだ。それも原因が原因なだけに、厄介なのだ。
「中に入ってもよろしいでしょうか?」
中にはドレスとヘアメイク担当の外注スタッフが1人いるはずだが、その子からは随分前に準備完了と聞いている。それだというのに、中からは返事がない。溜息を吐き捨てる前に、目を閉じて、なんとか気持ちの折り合いをつける。
仕方ない。
彼女が不機嫌になるのも、仕方ないことだ。
「……貴女は、最初から気づいてたの?」
中からは聞こえてきた言葉に、頭を抱えたくなる。
いつかは聞かれるだろうとはわかっていたが、わざわざこんなタイミングで聞いてくるなんて。
「お名前を伺った際に」
――嘘だ。
本当は、視界に入った瞬間から彼が誰だかわかっていた。
それでも、取り繕って答えると彼女はまただんまりを決め込んだ。
また、体の奥から這い上がってきた重い溜息を、無理矢理飲み込む。
彼女の夫となる男、寺田 学は、つい最近まで私と付き合っていたと思っていた男なのだから、私も驚きだったんだ。
今こうして駄々をこねている間に、私が貴女の代わりにバージンロードを歩いたっていいんだ、と心のままに話してしまえば、彼女はなんと答えるのだろうか。この鉄壁を壊して、その位置を譲るまじと戦ってくるのだろうか。
そもそも、何故私を捨てて選んだ女の子を慰めて、結婚式に参加させようと齷齪しなくてはならないのだろう。
いつの間にか剥がれ落ちてしまった笑顔の仮面を見失っている間に、突然目の前の扉が開いた。
「本当は、貴女が。貴女が、あの人の隣に立って、バージンロードを歩く予定だったのよ。……きっと」
出てきたと思えば、彼女は涙でぐしゃぐしゃに汚した顔で、私を睨むでもなく、縋るような瞳でみつめてきた。
――ああ。
なんて、厄介なんだろう。
心の中では、様々な言葉が行き交っているのに、私はいつの間にか、にっこりと微笑んで彼女と対峙していた。
「いいえ。はっきり申し上げまして、寺田様はこちらに来られた際からずっと、真弓さん以外眼中にない、といったご様子です。他の女性の――もちろん、わたくしもですが、入る隙間は一切ございません。今日は、貴女が愛されていると、世界中に知らしめる好い機会です。……焦らすことも時としては重要かと思いますが、本日はそのお綺麗な姿を早くお見せすべきではないでしょうか」
彼女はぽかんと口を開けているだけで、特に何も言わず固まっていた。
「出すぎたことを申しまして、大変失礼致しました」
腰を折って、丁寧に謝罪すると彼女は小さな声で「そんな」とこぼした。
わかりきっていた。
あの人の幸せそうな笑顔を見た瞬間から、気づいていた。
ああ、この人はみつけたんだな、と。
「ご結婚、おめでとうございます」




