どうしてこの愛しさは消えてくれないのだろう
就職を理由に僕は地元から離れ、無駄に人口密度の高いこの地へ住み着いた。今思えば、理由なんてどうでもよくて、兎に角地元から離れたかっただけなのかもしれない。
オフィスビルが聳え立つ都会の界隈。すっかり見慣れてしまった光景に今更になって感傷的になってしまった。
――あれからどれ程の月日が経ったのだろうか。
出発する合図に電車の甲高い音が辺りに響き渡る。そんな中、目の前に立つ彼女は大きな瞳に涙を堪えて僕をじっとみつめていた。
その意思の強い瞳が苦手だった。
僕ばかり君のこと考えていることが堪らなく不愉快だった。
僕なしじゃ生きていけない、と泣いて縋ってこない君が憎くてたまらなかった。
――それでも。
今日くらいは縋ってくれると信じていたのに。
彼女は何も言わなかった。
車掌の笛の音を聞いて我に返り苦笑した。
彼女を前にすると、本当に僕はいけないな。彼女の頭を左手で軽く撫でる。
きっとこれが最後になるだろう。
「じゃあ、行くわ」
平日の変な時間であるからか、出発時刻ぎりぎりまでホームで別れを惜しむ乗客はいない。
ポツリとこぼした僕の台詞が聞こえなかったのか、彼女はうつむいたまま僕を見ようともしない。彼女はわかっていないのだろうか。これが最後であることを。
「君は、僕なしで生きていけるんだね」
なんとも情けなく、狂気じみた台詞であったが、すんなりとこぼれ出たことに己が一番驚いた。が、例のごとく彼女に届くことはなかった。
車掌の笛の音が響き渡る。
別れの合図。
何度も何度もフラッシュバックするその光景に、毎度溜息を吐き捨てる。
もうどれほどの月日が経ったと思っているんだ。
彼女もいい大人になっているし、そもそも僕たちはあれから一度とだって連絡を交わしていない。本当にあれが最後だったんだ。
――なのに。
瞼の裏に焼き付いて離れないのはいつだって彼女のあの意志の強い瞳だった。
勘弁してくれ。
頼むから。
――せめて、夢の中には会いに来ないでくれないか。
いつまでたっても君を忘れられない。




