君が僕に言うあいしてるの冗談に
連日、天気予報士が猛暑だと喚いているだけあり、何もしていなくてもじんわりと汗が滲む。張り付いてくるカッターシャツの袖がイヤに気に障る。セミの鳴き声もうっとおしい。けど、この時期に食うアイスは格別に美味い。特に木の棒に薄水色のアイスバーなんて、口の中がさっぱりしてサイコーだ。暑さで溶けて手がベトベトになったら最っ悪だけどな。
「あっちぃーな、おい」
隣でジャリジャリアイスを食ってた大谷がこの暑さに悪態をつく。いつものことだ。
「どっか涼しいトコ行こうぜ」
もうアイスも食い終わったし、と続けたが返ってきた言葉は「涼しいトコったってなぁ」と気のない返事。
それもそのはず。
大谷はここから離れたくないだけだ。
校門をくぐり抜けると激坂と呼ばれる通学路が姿を現す。帰りは下り坂となるが、朝の登りは地獄へと続いているのでは、と思う程の道のりだ。この暑さだと余計に。そんな激坂の途中に、ぼろっちいベンチと駄菓子屋がポツンと立っている。そこで、学校帰りに夏はアイス、冬は肉まんを買って帰る生徒は、ほとんどだ。そして、このベンチの向かいには当校自慢のテニスコートが一望できる位置にある。そして、テニス部の舞姫こと白井 美羽のスコート姿が拝めるベストポジションでもあるというわけだ。
「あ、アタリだ」
大谷は食ってたアイスの棒をこちらに向けて言い放った。そこには確かに『アタリ』と書かれている。
「おお、俺はじめて見た」
「俺も。でも流石にもう食えねぇよな」
「ああ。舌がピリピリする」
「俺も」
そう言うと、ほんのり水色に染まった舌をベェーっと出して俺に見せてきた。
勘弁してくれ。
「きったねぇな!」
不自然にならない程度に、注意を払って視線を外した。
「お前だって一緒だろ。見せてみろよ」
そう言うと、俺の方へ詰め寄ってきた。せっかく0.5人分くらいのスペースを作っていたのに!
「ばっ! やめろよ!」
無邪気に俺の方へ手を伸ばすこの男に言ってやりたい。
「ちぇっ。つまんねぇの」
頑なに嫌がる俺に飽きたのか、定位置に戻った大谷を視界の端に捉え、息を整える。そんな俺の動揺に気づきもしない大谷は「あ」と声を出した。
「お前、こないだの数学のプリントできた?」
「あ、ああ。明日提出のやつだろ?」
「そうそう! 今持ってる?」
「ああ。ノートに挟んだまんまだと思う」
「みせて」
「はぁ? 見せるわけないだろ」
「タダで、とは言わない」
「んだよ」
「ジャジャーン! この、珍しいアイスの当たり棒と交換だ!」
「ばっかじゃねぇの。さっきいらねぇって言ったばっかだろ」
「な、いいだろ? アイス食ってる間に写し終えるからさ」
そう言うとまたこちらに詰め寄り、目の前で手を合わせ「な? 頼むよ」と言ってきた。
「わ、わかったから! ちけぇよ! 暑苦しいな!」
「さっすが、マコちん! アイシテル」
そう言うと戯けて投げキッスをする様に唇に手を当てた。
「きっしょくわりぃな!」
「もー、照れんなってー」
「照れてねぇし! ほら、さっさと写せよ」
大谷は「サンキュ」と言って先ほどまで咥えていたアイスの棒を「ん、」とこちらを見ずに渡してきた。
それを黙って受け取って店へ向かう。
熱いのは、この猛暑のせいだし、あいつのアイシテルなんて感謝の言葉と一緒だ。別に何もない。わかってる。“何か”がある、なんて選択肢すら浮かばないのが普通で、いや、別に俺も“何か”とかわかんねぇし。そう、なにもべつに。
「クソっ」
冗談で終わらせておけ。
何も感じていないと鈍感な振りをしろ。
やめろ。
考えるな。
「クソったれが」
クソ。
暑くてどこもかしこも地獄じゃねぇか。




