これが最高のバッドエンド
俺の友人を一言で言い伝えるのならば、クズ野郎だ。
何が、と聞かれれば迷わず『女関係!』と答えられるほどダラしない。
友人が一歩外に足を踏み出せば、彼に言い寄る女がわんさかと集まり、それが次第に血祭りになるのだ。周りとしては非常に迷惑な存在だ。
できれば関わりたくない人種だ。だが、腐れ縁が続きいつの間にやらもう幼馴染と言えなくもないほどの付き合いになってしまっていた。
「アズマー、今日ひま?」
インターホンが鳴ったな、と思い液晶画面を覗き込めば、そこには関わりたくないはずの人間が立っていた。無駄に色気まで漂わせて。
「暇じゃない」
「入れてよー」
「いやだ。帰れ!」
「一生のお願い!」
「お前の一生は何回あるんだ。ついこないだ、」
「うるさいな、早く開けてよ。屁理屈ばかり捏ねてると隣人のお姉さんの部屋に突撃するよ?」
俺の言葉を遮るようにして言い放つ脅し文句は、スラスラと並べられ、それがパフォーマンスにとどまらないことを経験で知っていったので、諦めてロックを解除した。
なぜ隣が美人なお姉さんだと知っているんだ、という一言はなんとか飲み込んだ。
「ありがとー」
画面が消える直前に見せたあいつの満面の笑み――女なら甘い溜息をこぼさずには居られない蕩ける笑み――に、唾を吐きたくなる。
この悪魔め。
「おっ邪魔しまーす」
靴をあっちこっちに放り捨てながら言い放つ。仕方ないので俺が向きを整えてやろうとしゃがんだ拍子に、友人から居酒屋のあの独特の酒臭さが漂ってきた。
「おい、お前。まさか…」
「アズマ。それ以上言ったら、」
にやけそうになる口元を、靴に伸びかけていた手で隠す。靴の向きなんて揃えてる場合ではない。
すぐに立ち上がり、友人の顔をじっくり見つめると、やはり目が赤い上に少し腫れているようにみえる。
完璧だ。こいつがここまで自棄になる理由は、あの子しか考えられない。
「お前、ふられたのか?」
「ぶち殺す!」
ついに笑みがこぼれてしまった。
あの、天下のイケメン様が、目を真っ赤にして酒に溺れ、挙げ句の果てに男友達に縋るなんて!
これが笑わずには居られない。
「お、お前! ふられたのか!」
「アズマ、てめぇ。2回も言うなよ!」
そう言った声が心無しか震えてるように聞こえたので、これまた笑いが込み上げてきた。
「笑える」
「悪魔か」
玄関でひとしきり笑い終え、落ち着いたところでもう一度友人を観察してみた。
「お前ボロボロじゃねぇか」
「慰める気もないのかよ?」
俺のニヤケ顏に、怒るというより驚いている友人に、もしかしたら本当に慰められない理由がわかっていないのかもしれない。
「ねぇよ。女の敵である前にお前は男の敵でもあるからな。正直、ざまぁみろって感じだけど、一応友人のよしみで話くらいは聞いてやるけど?」
「なんでそうなるんだよ」
「いや、お前こそなんでそう思えるんだよ。逆にこっちが聞きてぇわ」
「お前の彼女と寝たのが気に食わないのはわかるけど、あれは俺に罪はない。あいつが勝手に」
「シネ」
「おいおい、怒るなよ。据え膳だろ?」
こういう男だよ。
顔がいいからって、なんだって言うだよ。クソが。
「それで? 相手は同じサークルの木下だろ?」
あの地味な、という言葉を友達のよしみでなんとか飲み込んでやった。
「ああ。お前には話してなかったけど、結局二ヶ月くらい前に告白したらOKもらえて」
ちょっと待て。
告白?
お前が?
「でも、OKもらう条件で、周りには付き合ってることは絶対に内緒って言われて」
条件付き?
しかも、皆には内緒?
「俺としては、皆に言いふらしたかったけど、ユリにそう言われたらもう頷くしかなくて…」
頷くしかない?
「でも、それからはうまくいってたんだ。デートする為に、誰にも会わないプランとか考えるのもなかなか新鮮だったし」
デート?
いつも適当に飯食ってホテル行くだけの男が?
「順調だったんだ」
順調!
そんな健全な言葉がお前の口から?
「…でも。昨日の夜、それが幻だったと気づかされた」
「な、なにがあったんだよ」
友人の落ち込みも去ることながら、展開があまりにも予想だにしなかったので、彼の傷心だとかよりもただただ続きが気になった。
「ユリ、俺の前の彼女の親友だったんだ。それで、俺と付き合ったのも…」
そこまで言うと友人は、その綺麗な二重瞼からポロポロと大粒の涙を流した。
その姿は儚く、今にも泡になって消えてしまいそうで、でもその幻想さがなんとも美しく――
あまりの滑稽さに笑いが止まらなくなった。
「お、おまえ! それは、自業自得じゃねぇーか!!」
本気になった女が復讐しにきたって?
それで? 漫画みたいにまんまとハマった間抜けなイケメンが? 俺の幼馴染かよ!
「最高だな!」
天誅だよ、ばーか!
「な、なんでだよ」
「お前、幸せになれるような恋愛ができるわけねぇだろうが」
「不幸1択なのか? 俺には」
鼻をズルズル言わせながら、縋るようにみつめる友人がなんだか可哀相になってきた。
あまりにも可哀相になったので、慰めてやるか、と思いこいつの為に慰める用の言葉を脳内から引っ張りだしてみると「お前の恋はもうエンディングロールが流れてんだよ。ドンマイ」というなんとも気障ったらしく、それでいて救いようのないトドメを刺してしまった。
友人は膝から崩れ落ちるとワンワンと大声をあげて泣いた。
これが世の中の為だ。
お前は不幸になれ。
何がイケメンだクソ野郎!
ざまぁ!




