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第5話『ガレージの秘密とコモドドラゴン』

数日後の昼下がり。

二人が働く店には、愛猫家のお客さんが来店していた。

「うちのネコちゃん、最近甘えん坊でねぇ。仕事から帰るとすぐ膝に乗ってくるのよ」

「わかります~! 本当に可愛いですよねぇ。うちの子も、いつも寝てるのに私がお仕事から帰ると――」

カウンター越しに客と楽しそうに猫談義に花を咲かせていたみどりは、ハッと息をのんだ。

背後から、棚の在庫を整理している茂の気配が急接近してきたのだ。

(や、やばい……っ! 私が秘密で猫を飼ってるのがバレる……っ!)

冷や汗が一気に吹き出し、みどりは咄嗟に裏返った声で叫んだ。

「――うちの子も、こも、コモドドラゴン!!って知ってます!?」

「へ……? コ、コモドドラゴン……?」

唐突すぎるワードに、お客さんも後ろで作業していた茂もピクッと動きを止めた。みどりは顔を真っ赤にしながら、不自然な大笑顔でマシンガントークを捲し立てる。

「はい! 先週テレビの動物番組でやってたんですけどね! コモドドラゴンって、体長三メートルもある世界最大のトカゲなんです! 毒は無いのに噛まれたら獲物は一発で死んじゃうんですよ! なんでかっていうと、口の中に大量のバクテリアがいるからなんです!! 恐ろしくないですか!? 噛みつかれて感染症を起こしてジワジワ弱っていくのを待つんですよ……あはは、やっぱり爬虫類って気味が悪くて恐ろしいですよねぇぇ!!」

「え、ええ……まぁ、トカゲとかはちょっと苦手かも……」

必死すぎるみどりの勢いに完全に引き気味のお客さん。みどりは「ですよねー!」と引きつった笑顔で頷きながら、(ふぅ……なんとか誤魔化せたわ……)と胸を撫で下ろした。

しかし、その背後で――

(やっぱり……爬虫類は気味が悪くて恐ろしい、ですか……)

ダンボール箱を抱えたまま、茂は心が折れる音を聞いていた。

「入浴」や「脱ぎたて」の暗号フォルダ(※実際は翠さんの写真)の変態疑惑はなんとか壁ドンで誤魔化せたものの、「みどりが重度の爬虫類嫌い」という絶望的な現実は何ひとつ変わっていない。

(テレビ越しのコモドドラゴンどころか、我が家の実在する翠(みどり)さんを見られたら……僕は一瞬で嫌われて、この家を追い出されてしまう……っ!)

ショックでどん底まで落ち込む茂の背中と、猫バレを回避して安堵するみどり。二人の決定的な勘違いの溝は、さらに深く深くなっていくのだった。

そしてその日の夜、リビングで大事件が発生した。

昼間のコモドドラゴンショックを引きずり、どんよりとしたオーラを纏って三階の書斎からリビングへと降りてきた茂。だが、その視界にとんでもない「恐怖」が飛び込んできた。

リビングのソファーの真ん中で、一匹の毛並みの良い猫(蓮くん)が、無防備に「へそ天」でスヤスヤと寝ていたのだ。

「……ッ!!???」

ガタガタガタッと全身の血の気が引き、茂は喉が引きちぎれんばかりの声で叫んだ。

「きゃぁぁぁぁぁぁぁーーーっっっ!!!???」

一階の花屋まで響き渡る、まるで悲鳴をあげる少女のような超高音の絶叫。

「な、なに!? 何事!!?」

異変を察知し、閉店作業を中断し慌てて階段を駆け上がってきたみどり。しかし、ソファーの上で無防備にへそ天をして眠る蓮くんの姿を目にした瞬間――

「きゃぁぁぁぁぁぁぁーーーっっっ!!!///(※可愛すぎる!!)」

あまりの愛らしさに、みどりも思わず同じトーンで絶叫した。

顔を見合わせ、大パニックに陥る二人。みどりは冷や汗をダラダラと流しながら、必死の演技で不自然に声を張り上げた。

「な、なになになんで猫がいるのよ!? やっだー! どこの野良猫かしらコレ!? ちょっと追い出さなきゃ!!」

「み、みどりさん危ないです……っ! 噛まれますよ……っ!」

「大丈夫だから!! ほら、しっしっ! 外に行きなさい!」

みどりは素早く蓮くんを抱き抱えると、そそくさとガレージへ駆け込んだ。

シャッターを締め切った暗がりの中、みどりは蓮くんをギューッと抱きしめ、そのフワフワのお腹に顔面からダイブした。

「ふはぁぁぁぁぁっ……!! 蓮くん、へそ天は反則でしょ……っ! 茂くんの前で可愛すぎて叫んじゃったじゃないのよバカ……っ!! でも急に起こされてポカーンとしてる顔も可愛いねぇぇ大好き……っ!!」

スーハースーハーと存分に「猫吸い」を堪能し、荒い息を吐きながら正気に戻ったみどりは、「もうっ!いつ逃げ出したの!ダメよ!」と軽く注意してから慌ててリビングへと引き返した。

数分後、戻ってきたみどりに、物陰から顔だけを覗かせた茂が震える声で問いかける。

「も、もう居ない……? もう出て大丈夫……? ほんと居ない……っ!?」

腰が引けたまま警戒を怠らない茂の様子に、みどりは(うわぁ……重度の猫嫌いじゃん……私の蓮くん絶対にバレちゃダメなやつだ……)と激しく落胆した。

……が、それと同時に。

(でも……さっきの『きゃーーーー!』って悲鳴といい、今の怯え方といい……なんなのあの生き物、可愛すぎてキュンキュンするんだけどバカ……っ///)

茂の情けないほどの怯えっぷりに、胸のときめきが止まらなくなるみどりであった。

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