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第27話『攻防戦と奪還作戦』

「……ごちそうさでしたっ!!」

夕食を終えるやいなや、茂はガタッと勢いよく椅子を引いて立ち上がると、逃げるような猛スピードで食器をシンクへ下げ、三階の自室へと駆け上がっていった。

バタンッ! とドアを閉め、鍵をかける。

「翠さんっ……! 翠さん無事ですかっ!?」

茂はすぐさまケージへ駆け寄ったが、中には誰もいない。焦って部屋中を探し回る。

「翠さんっ!? どこですかっ!?」

本棚の下、デスクの裏、クッションの隙間――茂は滝のような汗を流しながら必死に部屋を探したが、翠さんの姿はどこにもなかった。

(そんな……まさか本当に……!? さっきの夕食の時にはすでに、みどりさんの手によってガレージへ連れ去られていたというのか……っ!)

実際には、急にドタバタと騒がしくなった茂の気配に驚いた翠さんが、本棚の最奥にある狭い隙間に完璧に身を潜めていただけなのだが、パニック状態の茂の目には「連れ去られて空になった部屋」にしか見えなかったのである。

膝から崩れ落ちる茂。

「くっ……まさかみどりさんが、そこまでの武闘派で冷酷な怪物だったなんて……っ!」

茂の脳内では、未だに愛する翠さんを素手で捕まえ、恍惚の表情でベロベロと舐め回し、バリバリとかじり取って口に入れるみどもの恐しい姿が無限ループしていた。

「しかも翠さんをガレージに監禁して『入るな』と威嚇してくるなんて……! 僕が昼間に変態動画を隠していたから(※第4話の誤解)、その腹いせに翠さんを害獣として処分するつもりなんだ……っ!」

茂は涙目になりながら、両拳をぎゅっと握りしめた。

「待っていてください翠さん……! どんなに恐ろしい怪物(みどりさん)が相手だろうと、僕が必ず命がけで救い出してみせます……っ!」

◇

一方その頃、一階のガレージ。

秘密の扉に鍵をかけたみどりは、愛猫の蓮くんを抱きかかえて深々とため息をついていた。

「はぁ〜……ヒヤヒヤしたわ……。私がフロスのこと聞いたら、茂くんが急に『廊下で緑の長くてしなやかなやつを見た』なんて言い出すから、ガレージに隠してある猫のおもちゃでも落ちてて、猫の存在がバレかけたのかと焦っちゃったじゃない……」

蓮くんの柔らかいお腹に顔をうずめながら、みどりは胸を撫でおろす。

「まあ、結局ただのフロスの話で噛み合ってたみたいだし、ガレージに近づくなとしっかり釘を刺しておいたから大丈夫ね! ……念のため、今夜はしっかり見張っとかなきゃ」

みどりは蓮くんに高級なキャットフードを与え、優しく撫でまわした。

「蓮くん、茂くんはちょっとむっつりスケベで頭が固いところがあるけど(※第4話の誤解)、根は悪い人じゃないのよ? でもこの一軒家で勝手に猫を飼ってるのがバレたら大騒ぎになるから、今夜は静かにしててね」

「ニャ〜ン(ご飯おいしい)」

◇

深夜2時。館内全体が静寂に包まれた頃。

三階から、忍び足で階段をゆっくりと降りてくる影があった。全身黒づくめのジャージに身を包み、頭には強力なヘッドライト、手には作業用の厚手革手袋という、完璧な重装備を固めた茂だ。

(みどりさんが熟睡している今こそが千載一遇のチャンス……! ガレージに囚われた翠さん、今助けますからね……ッ!)

息を殺し、足音を極限まで消しながら一階ガレージの前にたどり着いた茂は、緊張で震える手を伸ばしてドアノブに触れた。

(くっ、鍵がかかっている……! だが、長年DIYで鍛えた僕のドライバー捌きを舐めないでいただきたい……!)

ポケットから精密ドライバーを取り出し、カチカチと怪しい音を立てて鍵穴をこじ開けようと没頭する茂。

……その時。

「……夜中に何やってんの、茂くん?」

「ひゃあぁぁぁっ!?」

背後からぬっと現れたのは、パジャマ姿で腕を組み、冷たい視線を送るみどりだった。暗闇の中でメガネの奥の目が鋭く光っている。

「な、なぜ起きているんですかみどりさんっ!?」

「当たり前でしょ! あんたが足音殺してコソコソ階段降りてくるのが丸見えだったから見張ってたのよ! ……夕食の時に言ったわよね? 『絶対にガレージに入るな』って!」

みどりは鍵穴にドライバーを突き立てたまま固まっている茂の横へじりじりと詰め寄り、ガレージのドアノブを上から手でがっしりと押さえつけて通せんぼした。

(みどり視点:ガレージにいる蓮くん(猫)の存在を茂に見せるわけにはいかない!)

(茂視点:ガレージに捕らわれた翠さん(イグアナ)を食害されるわけにはいかない!)

「どいてくださいみどりさん! 中の『みどり』を返してくださいっ!」

「ダメよ! あれは私の大切な『緑』なんだから! 茂くんには絶対に渡さないわ!」

「大切なものなら……大切なものなら口に入れたり噛みちぎったりしないでくださいーーーッ!!」

「はぁ!? 毎日口に入れて使うのは当たり前でしょーがッ!!」

「やっぱり怪物だーーーッ!! 猟奇的すぎるーーーッ!!」

カチッ……カチャリ。

激しい押し問答の最中、茂が必死にこじ開けていたドライバーが奇跡的に噛み合い、ガレージの重い鍵が無情な音を立てて外れた。

「あっ……!!」

「ダメーーーーーーーッ!!!!」

【第27話・おわり】

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