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第15話『愛の無臭化作戦と最後のメッセージ

「アロマで匂いを誤魔化すのは……敗北だっ!!」

自室のベッドで号泣した後、茂はハッと目を開いた。

みどりさんから渡されたアロマディフューザーは、確かに素晴らしい香りだ。しかし、それは「臭い体臭を上から別の香りで覆い隠している」だけに過ぎない。根本的な解決にはなっていないのだ。

(誤魔化しちゃダメだ……! 僕が目指すべきは、香りでごまかすことじゃない……完全なる『無臭』だ……っ!!)

決意を新たにした茂は、すぐさま行動を開始した。

まずは、部屋に溜め込んだ「匂いの原因になりそうなもの」の排除である。長年着込んできた服や、汗が染み込んでいるかもしれない古着を片っ端からクローゼットから引っ張り出し、大きな透明のゴミ袋へと詰め込んでいく。

「僕の体臭が染みついた衣類たち……今までありがとう。でも、君たちとお別れしなければ、僕はみどりさんの隣に立つ資格がないんだ……」

ゴミ袋を結びながら、茂はポロポロと涙を流した。

さらに、茂の暴走は食生活にまで及んだ。

(肉や油っこいものは体臭をきつくする……! これからは体を内側から清めて、無臭の体質を手に入れるんだ……っ!)

その日の夕食。ダイニングテーブルには、みどりが作った美味しそうなハンバーグが並んでいた。しかし、茂は自分の分に一切手をつけず、自分で用意した「味付けなしのボイルキャベツ」と「生の冷や奴」だけを黙々と口へと運んだ。

「茂くん……? ハンバーグ、食べないの……?」

みどりは不安そうに茂の顔を覗き込んだ。

茂はどこか遠くを見るような、悟りを開いた穏やかな目で微笑んだ。

「ええ……僕にはもう、そういう油っこいものは必要ないんです。これからは、体を清めて生きていこうと思いまして……」

(これで体臭が消えてくれるなら、ハンバーグなんて……ハンバーグなんて……っ!!)

心の中で泣き叫びながら、茂は味のしない豆腐を噛みしめた。

さらに、茂は「もし自分が体臭を理由にみどりさんに捨てられた時のこと」を想像し、万が一に備えておこうと考えた。

「あの、みどりさん」

「な、なに……?」

「もし……もし僕がこの家からいなくなっても、花屋の帳簿の付け方はパソコンのデスクトップにまとめてありますからね。あと、僕の個人的な荷物は、今日全部まとめて捨てやすくしておきましたから……」

茂としては「体臭が消えずに愛想を尽かされたら、いつでも潔く出て行ける準備をしておきます」という、健気で不器用な決意表明のつもりだった。

しかし――みどりの受け止め方は、まったく違った。

(え……? いなくなる……? 荷物をまとめた……? 帳簿の場所……??)

みどりの顔から、スーッとすべての血の気が引いていった。

昼間、茂の部屋のドアが少し開いていた時に見えた、大量の衣類が入ったゴミ袋。

急に肉を絶ち、精進料理のようなものしか食べなくなった夫。

権利放棄のような、どこか吹っ切れた穏やかな笑顔で語られる身辺整理の言葉。

(茂くん……っ!? 脚本のストレスと、虫を食べちゃった(※注意:食べてません)ショックでメンタルが完全に崩壊して……人生の身辺整理を始めてるんじゃないでしょうね……っ!?)

「茂くん! ダメよ!!」

思わず立ち上がったみどりに、茂はパチパチと目を瞬かせた。

「えっ? み、みどりさん……?」

「ダメ……絶対にダメだからね! いなくなるなんて言わないで! 帳簿のことなんてどうでもいいの! 茂くんが……茂くんがここにいてくれなきゃ、嫌なんだから……っ!」

みどりは必死の形相で、茂の手を強く握りしめた。その瞳には、今にもこぼれ落ちそうな涙が浮かんでいる。

二人は固く手を握り合い、お互いにまったく別の感動で胸をいっぱいにしていた。

(僕がどんなに臭くなろうとも、みどりさんは僕を見捨てないでいてくれる……っ! これが、本物の愛……!!)

(私がしっかり寄り添えば、茂くんは絶対に思い留まってくれる……っ! これが、夫婦の絆……!!)

こうして、まったく噛み合っていない二人の想いは、奇跡的な大勘違いによって見事なまでにひとつへと昇華されたのだった。

「みどりさん、ありがとう……! 僕、頑張りますっ!」

「うん……っ! 一緒に乗り越えようね、茂くん……っ!」

涙ぐみながら微笑み合う二人を、あたたかな夕暮れの光が優しく包み込む。

茂の「体臭を完全に消すための過剰な精進生活」は、みどりの「夫の命を救うための決死の献身サポート」と見事なシナジーを生み出し、二人の夫婦仲は(見た目上は)かつてないほど円満に、そして平和に深まっていくのだった――。

【めでたし、めでたし(※注意:最終回じゃないよ)】

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