第4章:虚空の残響 第30話:穿たれる断章
白熱する熱風と、白銀の火花が空洞の闇を焦がしていた。
サクの跳躍と同時に、周囲の空間が灼熱の波長によって歪む。炉の上で金床の腕を持ち上げた「鍛造の主」は、真珠色の極光を纏って突進してくるサクを排除すべく、その巨大な破城槌を振り下ろそうとした。
「させ……るかぁぁぁッ!!」
空気を引き裂く咆哮とともに、サムが斜め前から跳躍した。
全身の血管を浮き立たせ、二の腕を覆う灰色の鋼化すら力任せに圧し折るような勢いで、大剣の総力を挙げた全開の横薙ぎを叩きつける。
ガガァァァンッ!!
強烈な金属打撃音が轟き、異形の左側の金床の腕がわずかに押し戻された。
その数ミリの隙間に、左右から弾丸のように影が躍り出る。
「アキ!」「マキ!」
双子は示し合わせたように、異形の膝裏を固定していた鋼の脈芽の密集地帯へ短剣を深く突き立てた。刃は折れ飛び、激しい火花が二人の顔を焼く。だが、その一瞬の衝撃が、巨大な鉄の脚部をわずかに揺らがせた。
「射ち抜けぇぇぇッ!」
後方で岩盤に背を預けたツカが、最後の一本の矢を解き放つ。
極限まで引き絞られた弦が弾け、飛翔した矢は熱風を切り裂いて、装甲の僅かな隙間へと鋭く突き刺さった。
矢の衝撃が、胸奥で脈打つ「第二の断片」の波長を激しく乱す。
「我が……停滞を……崩すか……微塵どもがぁぁぁっ!!」
異形が狂乱の叫びを上げ、胸の装甲を開いて高密度の溶融鋼を噴出させようとした。
だが、その胸元へ、すでにサクの身体が肉薄していた。
サクの右腕は、もはや人間のそれではなかった。
肘から先を覆う真珠色の鱗は、高熱を吸収して冷たく澄んだ蒼白色の結晶刃へと昇華し、爪の先からは空間そのものを削り取るような異彩の光芒が溢れ出ている。
(……僕たちは……ここで止まらない……!)
サクは激痛を、右肩の灼熱を、そしてカヤを奪われた絶望の全てを拳の結晶へと集約させた。
真珠色に染まった右目が、異形の胸奥で不気味に明滅する「停滞の核」を完璧に捉える。
「お前の『停滞』も……僕たちの命を縛る『レコード』も……ここで打ち砕くッ!!」
サクの咆哮とともに、異形化した右腕の結晶刃が、一閃の極光となって「鍛造の主」の胸元へ深々と突き立てられた!
ドズゥゥゥゥンッ……!!
重厚な穿ちの音が響く。
次の瞬間、サクの右腕から溢れ出した真珠色の光の奔流が、異形の胸奥で蠢いていた黒と赤の核へと暴力的になだれ込んだ。
「あ……が……あぁぁぁぁっ!?」
異形の口から、言葉にならない電子音のような悲鳴が上がった。
核に流し込まれたのは、サクの放つ強烈な「拒絶」と「生への情念」。
一切の変化を拒む鋼の停滞に対して、激しく脈打つ真珠色の不協和音が内部から叩き込まれたのだ。
異形の巨躯の表面に、クモの巣のような光の亀裂が走り始める。
赤黒く発光していた鍛造炉全体がグラグラと激しく振動し、天井を支えていた鋼の鎖がバチバチと音を立てて千切れ飛んでいった。
「サク!! 核が砕けるぞ! 離れろ!!」
サムの悲痛な叫びが、崩壊を始める空洞に響き渡った。
サクは真珠色の右腕を強引に引き抜き、崩れ落ちる巨躯の胸元から蹴り飛んで後方へと着地した。
異形は胸から膨大な真珠色と黒の体液を吹き散らし、高熱の鍛造炉の中へと音を立てて没していく。
ゴオン……ガガガガッ……!
最後の大鐘の音が地底で不気味に砕け散り、ついに「鋼嶺」を支配していた不調和の鳴動が完全に停止した。




