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藍のレコード  作者: ぁずにゃん子


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第4章:虚空の残響 第29話:鋼鉄の錬成

白熱する鋼の針が、空間の全方位を埋め尽くして吹き荒れた。


空洞全体の空気が瞬時に蒸発し、皮膚を焼き焦がす熱波と衝撃波が壁面を打ち据える。巨大な石灰岩の梁が爆砕し、マグマのような溶融金属の飛沫が雨となって降り注いだ。


「サクっ!! 伏せろッ!!」


サムの叫びと同時に、大剣の広い刀身が前方を覆う。

サムは二の腕の皮下まで広がった灰色の金属化に抗い、全身の筋肉をはち切れんばかりに緊張させて強烈な一撃を受け止めた。


ガガガガガァァァンッ!!


直撃した鋼の針が打撃音を上げ、サムの大剣の表面に無数のくぼみを刻む。衝撃波の重圧により、サムの足元の岩盤が豪快に砕け、両膝が叩きつけられるように折れかけた。


「ぐ、あぁぁぁっ……!」


「サム!」


アキとマキが倒れかけるサムの左右に飛び込み、肩を支えて力任せに体勢を戻す。後方ではツカが崩れ落ちた岩の陰へ滑り込み、呼吸を整えながら必死に矢を構えていた。だが、熱風で弓の弦が乾き切り、射出の限界が刻一刻と近づいているのは明白だった。


炉の上に君臨する巨大な金床の異形「鍛造の主」は、無機質な灰色の眼光をサクたちへ向け、ゆっくりと両腕の巨鎚を持ち上げた。


「無駄だ……巡礼者よ。肉体は脆く……感情は移ろう……。我が炉の熱で煮詰められ……ただの冷たき鋼となれ……」


重厚な音声が地鳴りとなって響き、再び金床が振り下ろされようとする。


「ハァ……ハァ……っ……!」


サクは前屈みの体勢のまま、岩盤の上に膝をついていた。


激痛。水都のカワの時は「自分という存在が解け去る」恐怖だった。だが、この鍛造炉が放つ波長は「自らをただの無機質な石ころへと固化させる」暴力的な停滞。


右肩から胸元を覆う真珠色の鱗が、炉の高熱に炙られ、真っ赤に熱した鉄のように発光していた。

皮膚の裏側で、結晶が骨を削り、肉を焼き砕く。その激痛に、サクの意識は何度も白濁しかけていた。


(……ここで……固まるわけにはいかない……!)


脳裏に浮かぶのは、カヤの最後の瞬間。

青い羊水の中に沈みながらも、最期までサクたちを見つめていたあの瞳。

そして、自分の後ろで血を吐きながら大剣を構え続けるサムの姿。短剣の柄を握り締め、サクの背中を守るアキとマキの荒い息遣い。矢を射ち尽くしかけながらも目を見開くツカの視線。


(逃げない……抗うのをやめるんじゃない……!)


サクの中で、何かが弾けた。


今までサクは、右腕の侵食を「抑え込むべき不吉な呪い」として扱っていた。痛みに耐え、激痛を押し殺し、人間に留まるために真珠の力を拒絶し続けていた。


だが、拒絶するからこそ、この異質な鋼の波長と真っ向から衝突し、身体を内側から破壊しているのだとしたら?


(この鱗は……僕の一部だ。カワから引き千切り、僕の意志で奪い取った……僕の刃だッ!!)


サクは右胸の傷痕に左手を叩きつけ、真珠色の結晶へと全身の意志を注ぎ込んだ。


「あ……あぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」


サクの叫びとともに、右腕が爆発的な真珠色の極光を放った。


抑え込むのではない。右腕の侵食を、サク自らの「殺意」と「守るための意志」のエネルギーで能動的に巡らせ、強制的に制御・変質させたのだ。


肘から先を覆っていた硬質な鱗が、カチカチと不気味な音を立てて組み換わっていく。

真珠色の結晶は、サクの右拳を包み込むようにして、より精緻で、より鋭利な「異形の甲冑」へと変貌を遂げた。爪の先端は鋭く尖り、手甲の表面には高熱を跳ね返すための結晶の刃が多層状に形成されていく。


「な……に……!?」


金床の異形が、初めてその声に狂いを見せた。


炉の熱と鋼の波長を跳ね返し、右腕全体を「真珠の結晶刃」へと変貌させたサクが、ゆっくりと立ち上がったからだ。


サクの右目は完全な真珠色の異彩を放ち、左目の漆黒の瞳には静かな殺気が燃え盛っている。


「サム……ツカ……アキ……マキ……」


サクの掠れた声が、灼熱の熱風を突いて届く。


「道を開けてくれ。……あいつの核を、僕のこの腕で穿つ」


「……言われなくても、そのつもりだ!!」


サムが叫び、崩れた岩盤を蹴って前に跳躍した。

アキとマキが左右へ交差するように駆け出し、ツカが渾身の力で最後の矢を解き放つ。


サクは真珠色の刃となった右腕を固く握り締め、爆発的な脚力で白熱する鍛造炉の只中へと飛び込んだ。

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