第4章:虚空の残響 第28話:鍛造の咆哮
灰色の死骸と化して砕けた衛兵たちの鉄屑を踏み越え、五人は大通りの最奥に鎮座する巨大な鉱口へと辿り着いていた。
山肌をくり抜いたようなアーチ状の坑口は、かつて鉱石を削り出していた巨大な機械の歯車や肉厚な鋳鉄のフレームで補強されていた。だが、いまやその鉄骨全体が、黒ずんだ金属の腫瘍のような脈芽に喰い荒らされ、まるで不気味な巨大生物の「顎」のように暗がりを開いている。
ゴオン………………。
坑道の奥底から響く鐘の音は、地上で聞いていたものとは圧力が段違いだった。
地鳴りとなって足元の岩盤を震わせ、吐き気を催させるほどの高周波を伴って全神経を焼き打つ。空気に含まれる微細な鉄粉が、音波と不気味に同調し、暗闇の中でチラチラと怪しい輝きを撒き散らしていた。
「……ここから先は、逃げ場がないぞ」
サムが大剣の柄に布を巻き直し、血の混じった唾を石畳に吐き捨てた。その二の腕の皮膚にも、うっすらと灰色の金属光沢が差し始めていた。長時間の滞留と不協和音の曝露により、仲間たちの肉体にも着実に「停滞の侵食」が忍び寄っていた。
「……わかってる。引き返す気なんて最初からない」
ツカが肩の弓を固く握り直す。アキとマキの双子も、刃の欠けた短剣を構え直して無言で頷いた。
「行こう」
サクを先頭に、五人は漆黒の坑道へと踏み込んだ。
斜坑を下るにつれ、湿気は完全に消え去り、代わりに皮膚を焼き焦がすような過酷な「高熱」が五人を包み込み始めた。
坑道の壁面を構成する岩肌は、内部から赤黒く発光している。無数の黒い金属芽が脈管のように縦横無尽に走り、その深部で青と赤の濁ったマグマのような流体がドクドクと不気味な拍動を打っていた。
カン……カン……カン……。
最深部から届くのは、鐘の音だけではなかった。
何か巨大な鉄塊を力任せに叩き潰すような、無慈悲な「打撃音」。その音が響くたび、坑道全体の空気が押し潰され、サクの右腕の真珠色の鱗が狂ったように激痛を叩き出す。
「ぐっ……があぁっ……!」
「サク!」
サクは壁に手をついて激しく吐き戻した。だが、吐き出されたのは血だけではない。不気味な真珠色の微光を帯びた粘液が、赤茶けた土壌へ滴り落ち、チリチリと乾いた煙を上げた。
右肩から首筋、そして胸元へと侵食を広げる真珠の結晶。それが、坑道を満たす高熱と鋼の波長に対して猛烈な「拒絶反応」を引き起こしている。右目の視界は完全に真珠色の光膜に覆われ、周囲の景色が熱波と光の歪みによってぐにゃりと引き伸ばされていた。
(……だが……見えている……!)
サクは真珠色の右目を鋭く見開いた。
歪んだ視界の最奥。地下数千メートルに位置する巨大な大空洞の中央に、それは存在していた。
古代の鉱夫たちが神と崇め、やがて怪異の断片に乗っ取られた巨大な「鍛造炉」。
城塞ほどもある巨大な鉄の炉から、青黒い炎と溶融した鋼がドロドロと溢れ出している。そしてその炉の直上、天井から吊り下げられた太い鋼の鎖の束の中に、ひとつの「影」が蠢いていた。
それは、両腕が巨大な金床と一体化した、鋼の異形。
「……哀しきかな……停滞こそが……永遠……」
低く、地底の岩盤を擂り潰すような不快な音声が、空洞全体に直接響き渡った。
鍛造炉の異形が、巨大な金床の腕を頭上へ高く振り上げる。その手元に握られているのは、数千人もの人間の「執着」と「感情」を煮詰めて鋳造された、巨大な黒鉄の破城槌だった。
「我が打ち据えるは……絶望の巡礼者……。汝らの肉も……魂も……我の炉で鋼となれ……!!」
ドォォォォォンッ!!!!
金床が振り下ろされた瞬間、地下空洞全体を吹き飛ばすほどの凄まじい衝撃波と、白熱する鋼の針の雨が、サクたちへ向かって爆発的に掃射された。




