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藍のレコード  作者: ぁずにゃん子


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第3章:蝕まれた世界 第14話:水脈の中枢

崩れ落ちた伝道者の残骸から立ち上る青い煙が、湿った地下の冷気に溶けていく。円形遊水池を包んでいた異様な静寂は長く続かず、最奥の水門の隙間から、まるで地鳴りのような重低音が響き渡り始めた。


「……来るぞ」


サムが荒い息を整えながら大剣を構え直す。その背後で、アキとマキが互いにアイコンタクトを交わし、いつでも援護に入れるよう短剣の柄を握り締めた。ツカは矢をつがえ、青く濁り始めた水門の暗がりを鋭い眼光で見据えている。


サクは左手で激しく疼く右腕を強く掴んだまま、壇上の端に立ち尽くしていた。肘まで達した真珠色の鱗は皮膚の表面で細かく明滅し、血管を伝うたびに冷たい痺れが脳髄まで突き刺さる。喉の奥は焦げ付いたように乾き、肉体の奥底から「もっと水を、もっと深い深淵を」と誘う甘美な囁きが聞こえるような錯覚に襲われた。


(……ここで止まるわけにはいかない。あいつが待っている……)


サクは歯が折れんばかりに奥歯を噛み締め、頭を支配しようとする侵食の波を自らの意志でねじ伏せた。瞳に燃える漆黒の殺意が青い輝きを押し返し、ゆっくりと前へ踏み出す。


「サク、お前……無理をするなよ」


サムの声音には隠しきれない動揺と仲間への気遣いが滲んでいたが、サクは振り返らずに首を横に振った。


「言ったはずだ。止まれば、カヤの死も、僕たちの選択もすべてが無駄になる。……行こう、中枢へ」


五人は崩れかけた壇上を下り、円形遊水池の最奥にそびえ立つ巨大な水門へと歩み寄った。

近づくにつれ、鼻腔を突く甘い蜜の香りは暴力的なまでに濃くなり、意識が朦朧とするほどの重圧となって五人の肩にのしかかる。それは単なる悪臭ではなく、カワの存在そのものが放つ「拒絶と誘惑の波長」だった。


サクが震える右手で水門の錆びついた鉄の把っ手を掴み、全体重をかけて押し開ける。


ギィィィ……と、地下水路全体を揺るがすような金属音とともに、重い水門が左右に割れた。


その向こうに広がっていたのは、人知の及ばない狂気の空間だった。


水都全体の地下水脈が一点に集まるその巨大な地下空洞の中央には、かつて神殿の奥底で見たものよりも遥かに巨大で、悍ましく脈打つ「肉の塊」が吊り下げられていた。無数の青い脈管が天井や壁面の石灰岩を突き破り、蜘蛛の巣のように張り巡らされている。そして、その肉塊の中央ドロドロとした青い羊水の中に、あの少年が浮かんでいた。


浅い地黒の肌。濡れた漆黒の髪。そして、すべての絶望を嘲笑うような、どこまでも無垢で美しい瞳。


「……やっと来たね、サク。待ち遠しかったよ」


少年――カワの音声は、耳元で囁かれているかのように五人の頭内に直接響いた。カワは水の中で優雅に身じろぎし、恍惚とした笑みを浮かべてサクを凝視する。


「君がその腕に宿した侵食の深さ、そしてその胸に渦巻く血塗られた憎悪……。今まで味わったどんなレコードよりも、最高の音が奏でられそうだ」


「……カワ……!!」


サクの喉から、理性を焼き切るような獣めいた叫びが漏れた。

すべての元凶であり、カヤを奪い、自分たちの人生を弄んだ少年を前にして、サクの全身の血が沸騰するように逆巻く。


「お前の思い通りになんて……絶対にさせてたまるか……!」


サクは侵食の痛みを忘れ去ったように跳躍し、真珠色の光を纏ったナイフを掲げて、青い肉塊の中央に浮かぶ少年めがけてまっ直線に突き進んだ。

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