第3章:蝕まれた世界 第13話:水底の慟哭
倒れ込んだ伝道者の胸から、大量の青い体液が溢れ出し、石造りの壇上を染めていく。
「あ……あは……見事だ、サク……」
伝道者は息も絶え絶えになりながらも、口の端を吊り上げ、狂気に満ちた歪んだ笑みを消さなかった。
「だが……忘れるな……。あのお方が求めているのは、君の勝利でも……希望でもない……。君が抗い、深淵へ足を踏み入れるほど……その絶望は……より深く、美しく刻まれる……!」
伝道者の身体が急速に青い泥へと崩れ去り、漆黒の長袍だけが水面に力なく浮かび上がった。
同時に、周囲でサムたちと交戦していた異形の騎士たちも、糸が切れた人形のように次々と崩壊し、水脈の中へ溶けて消えていった。
「サク!」
サムたちが水飛沫を上げて壇上へと駆け登ってくる。
「大丈夫か、サク!?」
アキがサクの肩を抱きかかえるが、サクの身体は激しい吐気と痛熱で大きく震えていた。
右腕を覆う真珠色の鱗は、手首を超えて肘のあたりまで侵食を広げており、皮膚の裏側で青い脈管が気持ち悪く蠢いている。
「はぁ……はぁ……ッ」
サクは左手で右腕を力任せに締め上げ、溢れ出そうになる激痛を噛み殺した。
伝道者を撃ち破ったものの、胸の中に残るのは勝利の達成感などではない。カワのの手の平の上で踊らされているような、底なしの不気味さと疲弊だった。
「伝道者は倒した……。でも、地下水路の奥から……あの匂いがどんどん濃くなってる」
ツカが弓を構えたまま、水路の奥を指さす。
円形遊水池の最奥にある巨大な水門の隙間から、これまで以上の濃密な蜜の香りとともに、青く発光する濁流がゴボゴボと音を立てて溢れ出していた。
水都の命脈である地下水源の中枢。そこが今や、カワの仕掛けた新たな惨劇の舞台へと変貌を遂げようとしていた。




