第3章:蝕まれた世界 第12話:侵食する刃
水煙を上げて襲い来る、甲冑を纏いし異形の騎士たち。
「チッ……硬えな!」
サムが大剣を振り下ろし、先頭の騎士の兜ごと力任せに叩き割る。しかし、鈍い肉音とともに割れた甲冑の隙間から伸びてきたのは、青い脈管が複雑に絡み合った異形の手腕だった。そのままサムの肩口へ爪が振り下ろされる。
「サム、下がれ!」
横合いからアキとマキが滑り込み、左右から同時に短剣を突き刺す。甲冑の継ぎ目、青く発光する肉芽を的確に穿つと、騎士の巨体は崩れ落ち、青い泥となって水面へと溶けていった。
「数が多すぎる……! これじゃキリがないぞ!」
後方からツカが次々と矢を放ち、射撃で前線を援護するが、暗がりから湧き出す異形の影は衰える兆しを見せない。
その混乱の最中、サクの視線はただ一人壇上で高笑いを上げる伝道者だけを捉えていた。
「サク! 一人で行くな!」
サムの静止を聞く耳持たず、サクは水面を蹴った。
水飛沫が舞い散る中、襲いかかる騎士の槍を紙一重でかわし、その柄を足場にして高みの壇上へ跳躍する。
「あはは! 威勢がいいね、イサナ様の血を引く少年!」
伝道者が長袍の袖から、青い体液を纏った極細の仕込み針を無数に放つ。
サクは迷わず右手を前に突き出した。
キン、キン、と金属音が響く。
サクの右手の甲、手袋を突き破って肥大化した真珠色の鱗が、防具のように針を弾き返していた。
「なっ……何……!?」
伝道者の狂信的な笑みが一瞬引きつる。
「僕の体を……あいつの道具だと言ったな」
サクの瞳は、底知れぬ漆黒の中に冷酷な青い光を宿していた。
右腕に走る激痛も、喉を焼く不快な「渇き」も、いまやすべて伝道者への殺意へと変換されている。侵食の力を意図的に押さえ込まず、殺気とともに刃へと流し込む。
「僕の体も、僕の選択も……お前たちの思い通りになんてさせない!!」
サクが踏み込み、ナイフを斜め下から振り上げた。
真珠色の光沢を纏った刃が、伝道者の胸元を深く切り裂く。
「ぐ、あ……ッ!? バ、バカな……あのお方の侵食をねじ伏せるだと……!?」
胸から青い液体を撒き散らし、伝道者が膝をつく。
サクは感情の籠もらない冷たい眼差しで、倒れ込む伝道者を見下ろしていた。




