第3章:蝕まれた世界 第11話:狂信の応酬
「救いだと……? ふざけるな!」
サクの喉から、絞り出すような怒号が飛び跳ねた。
カヤから奪われた命、村を覆った惨劇、そして苦しむ感染者たちの姿。それらをすべて「救い」と宣う男の狂気に、サクの血が不快な熱を帯びて煮え滾る。
「カヤの……カヤの命を奪っておいて、何が救いだ!!」
「おや、あのお可哀想な少女のことかい?」
伝道者は慈愛すら感じさせる優しい笑みを浮かべ、ゆっくりと首を振った。
「彼女はあのお方とひとつになり、苦しみも絶望もない永遠の記憶の一部となったのだよ。それこそが至上の救済。君たちが身勝手なエゴで彼女の器を壊さなければ、今頃はあのお方の側で美しく咲き誇っていたというのに」
「黙れッ!!」
アキが叫び、短剣を握りしめて前へ飛び出そうとしたが、サムがその肩を力強く掴んで押し留めた。
「落ち着けアキ! コイツの煽りに乗るな!」
「でもサム、あいつ……!」
「分かってる! だが、こいつはただの狂信者だ。言葉を交わす価値もねえ!」
サムが大剣を構え、伝道者を鋭い目つきで射抜く。
伝道者はサムの殺気を受けても動じることなく、恍惚とした表情のまま両腕を大きく広げた。
「可哀想に……目覚めぬ哀れな羊たちよ。あのお方は言っていた。『彼らは自分の選択の正しさを証明するために、再び絶望の沼へ跳び込んでくる』とね」
伝道者が指をパチンと鳴らした。
その高音の合図とともに、円形遊水池の不気味な青い水面が激しく波打ち始める。
水底から這い上がってきたのは、先ほどまでの感染者とは明らかに異なる存在だった。
甲冑を纏った水都の騎士たちの残骸...。
その皮膚は鱗でびっしりと覆われ、手にした剣や槍には青い体液がドロドロと絡みついている。かつて街を守るはずだった精鋭たちが、教団の手によって凶悪な「異形の兵」へと変貌させられていたのだ。
「さあ、見せておくれ! 君たちがもがけばもがくほど、あのお方の紡ぐ戯曲はより一層の輝きを増すのだから!」
伝道者の高笑いが地下空洞に響き渡り、狂乱の刃が一斉にサクたちへ襲いかかった。




