第1章:少年の季節 第4話:海への道と、水辺の異物
『灯火の祭り』から二日が過ぎた。
祭りでのほろ酔いの浮かれた空気は引き、五人は「大人」としての最初の大きな仕事を与えられていた。
海への採取旅——村から徒歩で往復八日かかる道のりを辿り、貴重な塩や美しい貝殻、干し魚を持ち帰る旅路だ。
「よし、荷物の仕分けはこれで完璧だな!」
村の境界にある川べりで、サムが大きな背負子の紐を力強く結び直した。
サク、サム、アキ、マキ、ツカの五人は、それぞれ干し肉や竹筒に入った水、塩を持ち帰るための空の革袋を背負っている。
「サク、途中でバテたらすぐに言えよ。荷物なら俺が半分持ってやるからな」
「大丈夫だよサム。僕だって、ちゃんと大人になったんだから」
サクは照れくさそうに笑いながら、自分の背負子を担ぎ直した。まだ少し体に重いが、胸の奥には大人として頼りにされている誇らしさがあった。
「浮かれるのはいいけれど、海までの山道は足場が悪いよ。特に、途中の『鳴り石の渓谷』は滑りやすいから気をつけて」
アキが地図代わりに描いた皮の図面を広げながら、冷静に注意を促す。
「へいへい、アキ先生。お固いこと言ってないで、さっさと出発しようぜ! 海に着いたら一番でかい貝を獲ってやるんだからな!」
ツカが待ちきれない様子で先頭を走り出す。マキがその後ろ姿を見ながら、「転んで川に落ちても誰も助けないからね」と口角を上げた。
澄んだ風と緑の匂いに包まれながら、五人は歩みを進めた。
道中、鳥のさえずりを真似して遊んだり、珍しい形の木の実を見つけてはしゃいだりする姿は、まだ少年の面影を残している。過酷な自然の中でも、仲間と笑い合いながら歩くこの時間が、サクにはたまらなく愛おしかった。
昼過ぎ、五人は最初の休憩地である『清流の河原』に到着した。
山から湧き出る澄み切った水が、丸い石の隙間をサラサラと音を立てて流れている。
「ふぅ……冷たくて気持ちいい!」
ツカが背負子を放り出し、川に顔を突っ込んで豪快に水を飲んだ。サムも「生き返るぜ」と顔を洗っている。
サクも竹筒に清水を汲もうと、少し上流の水際にしゃがみ込んだ。
川底まで透き通る美しい水面を見つめていた、その時だった。
(……ん?)
サクの目が、川底の砂利の間に引っかかっている「何か」を捉えた。
それは、周囲の泥や丸石とは明らかに異なる質感を持っていた。
小指の先ほどの大きさで、歪な円形をしている。磨かれたように滑らかで、水中で妖しく光を反射していた。
「なにか落ちてるのかな……」
サクが手を伸ばし、その物体を指先で拾い上げようとした瞬間。
「サク! なにしてるんだ、早く干し肉食おうぜ!」
後ろからサムの大声が響いた。
驚いたサクの手から、その滑らかな物体がすべり落ち、川の強い流れに乗ってあっという間に深みへと消えてしまった。
「あ……」
「どうした? なにか流れて行ったか?」
サムが近寄ってきてサクの顔を覗き込む。
「ううん……何でもない。綺麗に光る石が見えた気がしただけだよ」
「なんだ、びっくりさせるなよ。ほら、マキが木の実を分けてくれたぞ」
サムに肩を抱かれながら、サクは河原の輪へと戻った。
だが、さっき指先で触れた一瞬の感触が、脳裏から離れなかった。
冷たくて、硬くて、まるで人の手で作られたような、恐ろしく整った感触。
そして何より不気味だったのは——上流から流れてきたはずのその物体が、祭りの夜に闇へ消えたあの男が向かった「山」の方角から流れてきたということだった。
「……ねえ、アキ」
干し肉をかじりながら、サクはさりげなくアキに尋ねた。
「上流の山奥って、神殿の他に何かあったっけ?」
アキは干し肉を噛みちぎり、少し考えてから首を振った。
「ううん、神殿より先は断崖絶壁で、生き物が住める場所じゃないよ。長老たちも『あそこには大きな石があるだけで、立ち入ってはならない』と言っているだろ」
「そっか……そうだよね」
サクは自分を納得させるように頷き、温かい干し肉を口に運んだ。
頭上には抜けるような青空が広がり、仲間の笑い声が河原に響いている。
こんなにも優しく平和な世界で、不吉な想像をする自分がどうかしているのだと、サクは思考を打ち消した。
しかし、五人が再び海を目指して歩き出した河原のすく上流で——水底に沈んだ『滑らかな白い真珠のような粒』が、冷たい水流に揺られながら、静かに静止していた。




