第3章:蝕まれた世界 第8話:蠢く水底
闇の中から躍り出てきたのは、もはや人間の原型を半ば失った異形たちだった。
かつて水都の住人であったろうその身体は、青く濡れた真珠色の鱗に覆われ、眼球は白く濁りきっている。喉からはカチカチと乾いた骨を鳴らすような音が漏れ、溢れ出る青い粘液が石畳を濡らしていた。
「クソッ、都市の感染者たちか……!」
サムが前に飛び出し、大剣を横一文字に振るう。
先頭の異形の胸部を深く切り裂くが、手応えは妙に鈍い。傷口から流れ出たのは血ではなく、ねっとりとした青い液状の肉だった。異形は痛みに叫ぶこともなく、斬られた傷口を蠢く肉芽で塞ぎながら、狂ったように爪を立てて襲いかかってくる。
「再生してやがる……! 村の奴らと同じだ!」
「核を狙え! 青く光る脈管が集まってる場所だ!」
後方からツカが叫び、弓を引き絞る。
放たれた矢は空気を引き裂き、襲いかかる異形の喉元、青く強く明滅する肉塊の結節点を的確に撃ち抜いた。矢が突き刺さると同時に、異形はビクンと身体を痙攣させ、泥のように崩れ落ちて動きを止めた。
「よし……! ツカ、ナイスだ!」
アキとマキが息の合った連携で前線を押し戻す。
アキが短剣で異形の腕を薙ぎ払って隙を作り、マキが間髪入れずに二本目の短剣で露出した青い核を深く穿つ。激しい水音と絶叫が地下水路に不気味に響き渡る。
「サク、ボーッとするな! 次が来るぞ!」
サムの叫び声に、サクは弾かれたように正気に戻った。
右手の甲が、激しく疼いていた。
目の前の異形たちが撒き散らす青い体液と、周囲を奔流する不気味な蜜の匂い。それに呼応するように、サクの手袋の裏で「鱗」が急速に皮膚を侵食し、腕全体に冷たい痺れが駆け巡っていたのだ。
(僕の体が……あいつらの波長に引きずられている……?)
視界が一瞬、青く歪む。
脳裏に、あのカワの嘲笑う声が直接響くような錯覚が襲う。
『あは……サク。君の体も、すっかり僕の水になじんできたね』
「うるさい……くたばれ……!」
サクは歯が折れんばかりに噛み締め、思考を塗りつぶすようにナイフを強く握り直した。
目の前に迫る異形の喉元へ、死角から一直線に身を躍らせる。
サクの刃が、青い核を深々と切り裂いた。
飛び散る青い飛沫を浴びながら、サクの瞳に静かな殺意の火が青く明滅していた。




