第3章:蝕まれた世界 第6話:試練と決意
「イサナ様の血を……引く者……?」
サクの喉から漏れた声は、かすかに震えていた。
暗い倉庫の中に立ち込める異臭と、水を貪る感染者たちの不気味な水音。その只中で突きつけられた過去の真実が、サクの脳裏を激しく揺さぶる。
「そうだ」
社家の末裔である男は真っ直ぐにサクの瞳を見据えガルバと名乗った。
「200年前、イサナ様は自らの血と命を奪う結界で怪異を神殿の底に繋ぎ止めた。だが、その際にご一族の幼子を一人、外界へと逃がしたのだ。……その途絶えたはずの血脈が、巡り巡って君へと引き継がれていた」
サクは言葉を失い、自分の両手を見つめた。
カヤを救いたい一心で駆け抜けていた。だが、自分たちが踏み入れた悪夢は、200年前から定められていた因果の果てだったのだ。
「そんなの……関係ない!」
静寂を破ったのはアキだった。アキはガルバの前に立ち塞がり、感情を爆発させる。
「サクは血筋のために戦ってるんじゃない! カヤを……カヤを奪われて、これ以上あいつの好きにさせないためにここに来たんだ! 昔の話なんてどうでもいい!」
「……いや、どうでもよくない」
低く、地を這うような声でサクが呟いた。
サクは右ての手袋をゆっくりと引き抜いた。薄暗い光の下、甲に浮かぶ微かな真珠色の輝きが、はっきりと露出する。
「サク……それ……!」
サムが目を見張り、息を呑んだ。
「神殿で……あいつを斬った時に浴びた。……僕の身体にも、もう侵食が始まっている」
ツカが口元を押さえ、絶句する。
「あいつは分かってたんだ。僕が血を引く者であることも、僕の手で母胎を壊させれば封印が完全に解けることも……全部、あいつの仕組んだ罠だったんだよ」
サクの瞳に、暗く冷ややかな炎が宿る。
血筋の宿命に悲嘆するためではない。自分たちの絶望すらもあざ笑い、手玉に取っていたカワという存在に対する、狂おしいほどの憎悪。
「ガルバ。地下水脈へ行く道を教えてくれ」
「サク、正気か!? そんな身体で……!」
サムが前に出ようとしたが、サクはそれを手で制した。
「逃げても、僕の身体の侵食は止まらない。……カヤを殺し、僕たちの心を踏みにじったあいつを、この手で終わらせる。それだけだ」
サクの決意に満ちた背中に、仲間たちは誰も言葉を返せなかった。
ガルバは静かに頷くと、腰の鍵束を取り出し、倉庫の最奥にある重い鉄扉へと歩み寄った。
「この先が、水都の地下に広がる大水路へと通じる路だ。……覚悟はいいな」
鉄扉が軋んだ音を立てて開き、底知れぬ闇と濃厚な蜜の香りが、5人の顔を撫でた。




