第3章:蝕まれた世界 第4話:影の差す街
「次! 提示できる身分証か、渡航の許可証はあるか?」
無骨な皮鎧を纏った兵士が、サクたち五人を値踏みするような視線で見下ろした。
長旅で薄汚れた服と、背負った武器。典型的な山出しの流民に見えたのだろう。兵士の目は警戒と疑心に満ちていた。
「許可証はありません。山の村から出てきました」
サクが静かに答えると、兵士は露骨に眉をひそめ、五人の手首や首筋へと視線を滑らせた。
「袖を捲れ。首筋も見せろ」
ピリついた緊張感が走る。
サムとツカ、アキ、マキが指示通りに肌を晒す。兵士は念入りに皮膚の状態を改めたあと、最後にサクの前に立った。
「おい、お前だ。右革の手袋を外せ」
サクの心臓が不吉なリズムで跳ねた。
手袋の下には、あの斑点...光の加減で真珠色に明滅する、ごくごく小さな「鱗」の兆候がある。
(見られれば……『渇き病』として即座に隔離される……)
サムが腰の剣の柄にそっと手をかけ、ツカがゴクリと唾を呑み込む。
サクは息を殺し、左手を右手の手袋へと伸ばした。まさにその時だった。
「おい、そこの兵士! 手を止めろ!」
甲高い声とともに、列の横から小太りの男が慌ただしく駆け寄ってきた。豪奢な絹の服を着た、貿易商らしき男だった。
「何事だ、商業ギルドの副支配人殿」
「その者たちは私の仕入れた『山菜と薬草の運び屋』だ! 山道で魔物に襲われ、許可証を紛失したと連絡を受けておったのだよ。身元は私が保証する。ほら、通行税と手形だ!」
男が素早く金貨の詰まった袋を兵士の手元へ押し込む。
兵士はズシリと重い袋の感触を確かめると、鼻で笑ってサクたちから視線を外した。
「チッ……目障りだ、さっさと入れ。街の中で怪しい真似をしてみろ、即座に牢に叩き込むからな」
厳重な鉄の門扉が音を立てて開く。
九死に一生を得たサクたちは、促されるままに水都の中へと足を踏み入れた。
一歩足を踏み入れると、そこは石造りの壮麗な街並みだった。
中央を流れる大運河には美しい装飾の船が行き交い、人々が賑やかに往来している。しかし、その華やかさのすぐ裏側で、サクの鼻腔をかすかな「匂い」が突いた。
完熟した果実のような、濃厚で甘い異臭。
神殿の最奥で充満していた、あのカワの体液と同じ匂いだ。
「……助けてくれて感謝する。だが、なぜ僕たちを?」
サクが助けてくれた男に向き直ると、商人風の男は左右を気にするようにすばやく見回してから、不敵な笑みを浮かべた。
「感謝なら私ではなく、あの方に言いなさい。君たちが山を下りてくるのを、首を長くして待っておられたのだから」
男の言葉に、五人の背筋に凍りつくような悪寒が走った。




