第3章:蝕まれた世界 第3話:水都の城門
山道を抜け切ると、視界が一気に開けた。
目の前に広がるのは、白く巨大な外壁に囲まれた大都市「水都」の姿だった。
都市の中央には大河から引き込まれたいくつもの運河が巡らされ、陽の光を反射してキラキラと水面が輝いている。山奥の村で育った五人にとって、見たこともないほどの壮大な景色だった。
だが、その美しい水辺の光景も、今のサクたちの心を躍らせることはない。
「すごい人だな……。村の人間全部あわせても、この門の前に並んでる奴らより少ないんじゃないか」
サムが城門前に伸びる長蛇の列を見上げながら呟いた。
水都へ入るための検問所には、重厚な甲冑を纏った兵士たちが立ち並び、行商人の荷車や旅人の荷物を厳しく改めている。
活気に満ちた商人の呼び込みの声や馬のいななきが飛び交い、一見すると平和そのものの賑わいに見えた。
「検問が妙に厳重ね……。ただの大きな町ってだけじゃなさそう」
アキが列の先頭を見つめながら低く囁く。
兵士たちは旅人たちの身元を正すだけでなく、一人ひとりの腕や首筋を注視し、肌の異常を細かく確かめていた。
サクたちの番が近づくにつれ、列の脇で繰り広げられる異様なやり取りが耳に届いてくる。
「おい、待て! その首筋の乾燥はなんだ!?」
「ひ、皮膚の病気です! ただの乾肌で……!」
「問答無用だ! 『渇き病』の疑いがある者は隔離施設へ連れて行け!」
悲鳴を上げる行商人の男が、兵士たちによって強引に連行されていく。
周りの人々は関わり合いを恐れるようにサッと距離を取り、不穏な私語を交わし始めた。
「またかよ……最近、肌が乾いて水ばかり求める病気が増えてるらしいぞ」
「かかった奴は、夜中に川へ入っていって戻ってこないんだろ? 気味が悪い……」
人々の囁きを聞いたツカの顔から、一気に血の気が引いた。
「『渇き病』……? 肌が乾いて、水を求める……それって……」
「ああ。間違いない」
サクは手袋で覆われた自らの右手を静かに握りしめた。
皮膚が引きつり、微かに水を欲するような不気味な感覚。あの村で始まった悪夢と同じ兆候が、すでにこの大都市の深部まで侵入している。
「……あいつは、もうここに来てる」
サクの低く冷たい声が、賑やかな喧騒の中に虚しく吸い込まれていった。




