30/68
閑話:二百年の水底 第4話:受け継がれた血脈(閑話・完)
静寂が取り戻された神殿で、イサナは冷たくなった床に横たわっていた。
自らの血を捧げた代償に、その身体からは急速に生命が失われていく。
青く怪しく光っていた水脈は黒く乾き、異形と化した村人たちも、動かぬ石のように沈黙していた。彼らを救うことはできなかった。だが、怪異の広がりだけは、この神殿の奥底で食い止めることができた。
(けれど……いつか、この封印は破られる……)
イサナは途切れかける意識の中、震える手で黒鉄の宝剣の柄を握り締め、傍らにあった手記へ自らの血で言葉を刻み込んだ。
『水脈の奥に眠るモノは、人の心を喰らう毒なり。
もし後世、我が血を引く者がこの封印の解かれし場に立ちたくば……絶対にその甘き言葉に耳を貸すことなかれ。
絶望を呑み込み、刃を穿て——』
血の手記を神殿の床下に深く隠し終えた時、イサナの息は静かに絶えた。
その顔には、村を守り切れなかった無念と、二百年後の子孫へ望みを託す切痛な決意が残されていた。
……
二百年の歳月を経て、イサナが命を賭してカワを閉じ込めた「封印の檻」は、
皮肉にもその血を引く少年たちの手によって、完全に解き放たれてしまったのだった。




