第2章:侵食の季節 第24話:破滅の跳躍
「……黙れ」
低く、掠れた声だった。
サクの唇から垂れた血が、ナイフの刃を濡らしていく。
「君たちの絶望は、実に美しい——」
「黙れと言っているんだ、化け物……!」
サクは血走った瞳で少年を射抜いた。
カヤを救うために来た。だが、このまま指をくわえて立ち尽くせば、カヤも、村も、自分たちの心も、すべてこの少年の描く残酷な戯曲の道具として食い荒らされるだけだ。
「サク……!?」
サムが目を見張る。サクの全身から立ち上る暗い静かな炎に、押し寄せる異形たちすら一瞬気押されたように動きを止めた。
「カヤが……僕たちのために苦しみを耐えてるんだ。僕たちがここで思考を止めて、あいつの言いなりになることだけは……絶対に許さない!」
サクは前に踏み出し、襲い来る村人の残骸の腕をすれすれでかわすと、その背を蹴って跳躍した。
「なっ……!?」
少年の顔から笑みが消える。サクが狙ったのは、脈打つ母胎でも、這い寄る異形でもない。
母胎の眼前で高みの見物を決め込んでいた、少年そのものだった。
「僕を……直接殺せばすべてが終わるとでも思ったかい!?」
少年が腕を振るい、空気すら裁断する極細の白い蜘蛛糸を前方に展開する。触れればサクの身体は一瞬で細切れになる死の網。
「サク!!」
後ろからツカの叫びとともに、放たれた最後の矢が少年の足元へ突き刺さった。ほんのわずかに少年の体勢が崩れ、糸の網に一筋の「歪み」が生じる。
「うおおおあぁぁぁっ!」
サクはその歪みへ身を躍らせた。
頬が、肩が、見えぬ刃に切り裂かれ、鮮血が舞う。しかしサクは痛みを置き去りにし、刃を順手に握り直して少年の胸元へ飛び込んだ。
「きみは……どこまで僕を楽しませてくれるんだ……!」
少年は嘲笑と恍惚の混ざり合った表情でサクのナイフを受け止めようとするが、サクの突進の勢いは止まらない。
刃が少年の浅い地黒の肌を深く切り裂き、二人は青い体液の溜まる池へと激しくもつれ落ちた。
バシャアンと水柱が上がり、同時に背後の母胎が狂ったような悲鳴を上げて脈打ち始めた。




