第2章:侵食の季節 第22話:生贄の天秤
「元通りにする……? あはは、滑稽だね」
少年の冷ややかな声が、ホールに満ちる青い脈動音を切り裂いた。
「この肉塊はね、すでに村中の人間
……そして君たちのあの大切な女の子と、脈を一つに繋ぎ合わせているんだ。
いわば、彼らの新しい『心臓』だよ」
少年は細くしなやかな指先で、青く明滅する肉塊の表面を優しくなぞった。
「ニンゲンの不完全な器官を捨てさせ、この母胎から溢れる水と栄養で命を繋ぎ止めている。
……わかるかい?
君たちが正義感に駆られてこの核を打ち砕けば、その瞬間に脈は途絶える。カヤも、村の人たちも、 一滴の水も吸えなくなって干からびて死ぬんだ」
「な……んだって……!?」
ツカの叫びがホールに空虚に響いた。矢を番える手が激しく震え、弓がカチカチと音を立てる。
「嘘だ……! そんなの……僕たちがここへ来た意味が……!」
アキの顔から血の気が失せ、膝から崩れ落ちそうになるのをサムが必死に支えた。サムの噛み締めた唇から血が滲み出る。
救うために、刃を執った。
カヤを、日常を取り戻すために、死線を越えてここまで来た。
だが、目の前の寄生体を破壊することは、即ち自分たちの手でカヤや村人たちの息の根を止めることを意味していた。
「さあ、どうするんだい?」
少年は心底愛おしそうに、絶望に歪む五人の表情をじっくりと見回した。その瞳には、彼らが最も好む「美しき論理の破綻」への恍惚が浮かんでいる。
「壊してごらんよ。カヤを救うために来たその手で、あの子の心臓を叩き潰してごらん。それとも、何もできずにあの子が完全にニンゲンじゃなくなるのを指をくわえて見ているかい?」
サクの思考が、完全に停止した。
胸の奥が焼き切れるような痛みに苛まれ、握りしめたナイフの柄が手の中で恐ろしいほど重く感じられた。
(僕たちは……どうすれば……)
深い闇の底で、少年が無邪気な残酷さをもって嘲笑っていた。




