第2章:侵食の季節 第21話:母胎のホール
神殿の最奥に開かれたホールは、ドーム状の開けた空間だった。
天井まで届く大木の根のような脈管が壁一面に生い茂り、そこを無数の青い水脈が、生き物の血流のように脈打ちながら奥へと吸い込まれていた。
その集積点... ホールの中心に、それは鎮座していた。
巨大な臓器と、真珠色の鱗、そして幾重にも重なった人間の肉体がぐちゃぐちゃに溶け合って固まったような、不気味な肉塊だった。
ゴボリ、ゴボリと、脈打つたびに部屋全体を揺らす重低音が響き、脳を直接殴りつけられるような、濃厚で吐き気を催す甘香が充満している。
「な……んだよ……これ……」
ツカの膝が笑い、弓を構える手が震えた。
不気味なソレには、完全に人型を失った村人たちの残骸が、根の一部となって同化していた。
「よくここまで辿り着いたね。褒めてあげるよ」
静かな声が、響く脈動音を突き抜けて五人の耳に届いた。
肉塊の真下、青い体液が溜まる池の真ん中に、少年が立っていた。
油分のテカリを帯びた浅い地黒の肌。羽織った白い蜘蛛糸のレースが、肉塊を覆う青い光を反射して怪しく煌めいている。
「あんな危険な糸の網をかいくぐり、僕の愛しいモノまで壊してしまうなんて。……本当に、君たちの必死さには感心する」
少年は親切な微笑みをたたえたまま、優雅な動作でサクたちへ向かって一歩踏み出した。
「カヤを……村の人たちを返せ!」
サクは頬から流れる血を拭うこともせず、ナイフを前に構えて叫んだ。
「返せ、ね。君は本当にその言葉が好きだね」
少年はくすくすと声を立てて笑うと、肉塊へ振り返り、その表面を撫でた。
その一瞬、愛おしそうな表情はまるで母に抱かれた子のようにも見えた。
ため息を吐くと、少年の瞳から瞬時に温もりが消え、底知れぬ暗闇が五人を射抜いた。
「でもね……君たちは大きな勘違いをしている。ここを壊せば、すべてが元通りになると思っているかい?」




