第2章:侵食の季節第19話:肉塊
サクが頬の粘液を指で拭った、次の瞬間だった。
頭上の暗闇から、湿った重い塊がどさりと石畳へ落下した。
青白く光る液体を撒き散らしながら落ちてきたのは、人間の胴体にいくつもの歪な関節が生えた、異様な形状の肉塊だった。
「しまっ!」
サムが前に出ようとした瞬間、その肉塊は落下の衝撃に耐えかねたように、ぐしゃりと音を立てて床へ崩れ落ちた。
骨が砕け、肉が裂け、爛れた皮膚と真珠色の鱗がドロドロとした体液とともに石畳へ撒き散らされる。ただの自滅のように思えた。
————————だが。
「……待て、様子がおかしい!」
アキが叫び、灯りを掲げる。
崩れ去った肉体の中央に脈打つ青い臓器のようなものだけが、潰れることなく不気味な光を放っていた。
すると、撒き散らされた体液と砕けた肉片が、まるで時間を巻き戻すかのように、臓器のような物に向かってズズ……と引き寄せられ始めた。
粘液が糸を吐き、骨が歪な音を立てて繋ぎ合わされていく。
一度崩壊したはずの肉塊は、わずか数秒のうちに、より強固で不気味な形態へと「再構成」されていった。
「嘘だろ……崩れたのに……戻ってやがる……!」
ツカが引きつった声を上げ、弓を引き絞る。
再構成された肉塊は、顔の判別もつかない頭部をゆっくりと持ち上げ、その基幹部分を青く明滅させながら、五人に向かって生々しい肉擦れ音を立てて這い寄ってきた。
「刃で切っても無駄かもしれない……! あの青く光る部分を叩くんだ!」
サクはナイフを順手に持ち直し、肉塊へと一歩踏み出した。




