絶望と後悔
相馬の頭の中は、自らの過去の行いと阿部の言葉が何度も繰り返されていた。
23歳。自分が東京で、中身のない飲み会や合コンにうつつを抜かし、紬のことなど一瞬も思い出さずに馬鹿みたいに笑っていた。
自分がクズのような言い訳で殻に閉じこもり、しょうもないプライドを守るため、着信を無視していた裏で、あんなに優しかった紬は冷たいアスファルトの上で命を落としていた。
強烈な罪悪感と、己の愚かさへの激しい怒りが、相馬の胸を容赦なくかきむしった。
阿部が去った後、相馬はどうやって自宅に戻ったのか、まったく覚えていない。
紬の死という現実があまりにも重く、当時の自分が犯した過ちの大きさに茫然としていた。
情けない人生しか歩んでこなかった相馬には、到底受け止められるわけもなく、焦点のあわない目で、何もない空間を何時間も眺めていた。
不意に、懐かしい声が耳元で響いた。
「たまには帰ってくるの?」
ハッと周りを見渡すと、地元の駅のホームだった。声のした方に振り向くと、緩く結んだ長い黒髪を左の肩の前に出し、落ち着きなく自分の手で触っている。そこにはあの頃の紬がいた。
少し寂しそうな顔で、紬はもう一度尋ねてくる。
「また会えるよね?」
そうだ。これが紬との最後の会話だったんだ。
気が付くと薄暗い部屋の外は明るくなっていた。電気も点けず床に座り込んだまま、いつの間にか眠っていたのだった。
その日は、一人で家にいたくない一心で出社した。今は紬の死、そしてその死を知らずに今日までのうのうと生きてきた現実から、とにかく逃げたかった。考えたくない。ただ、時間が経てば忘れていく……そんな都合の良い忘却を求めていた。
だが、逃げ切れるはずもなかった。
いつもの狭い部屋に戻った途端、日中抑え込んでいた感情が恐ろしい勢いで膨れ上がり、気がつけば激しく頭を掻きむしっていた。
口から出るのは、醜い逆恨みの言葉だった。23歳のあの頃、鳴り止まなかった着信。あれが紬の事故の知らせだったと知った今でも、相馬の脳は無意識に自分を正当化しようと躍起になっていた。
「知らないのは当然だろ。あの頃、俺だって留年して必死だったんだ。自分を守るために着信拒否にしたんだ。大体、本当に大事な用なら、なんでメールとか他の方法で何度も送ってこなかったんだよ!
阿部だって、今の今まで教えてくれなかったくせに……!何で誰も教えてくれないんだよ!」
必死に理由を探し、他人に責任をなすりつけようとするたび、胸の奥がヘドロのような罪悪感で満たされていく。相馬は冷蔵庫から安い焼酎を取り出し、勢いよく口に含んだ。喉を焼くアルコールを限界まで流し込み、逃げるようにベッドへ倒れ込んだ。
激しい頭痛と自己嫌悪に溺れながら、相馬は泥のような意識の闇に落ちていった。
――ガヤガヤと、騒がしい声が聞こえる。
安っぽいグラスがぶつかり合う音。油の匂い。
気がつくと、相馬は見覚えのある居酒屋の席に座っていた。
目の前には、今よりも少しだけ若く、けれど自分と同じ「澱んだ目」をした、20代半ばの自分が、会社の愚痴を撒き散らしながら酒を煽っている。
(ああ、俺は……43歳になっても、あの頃から何一つ変わっていなかったんだ)
その過去の自分の姿は、あまりにも醜く、残酷な鏡となって相馬の魂を突き刺した。




