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二人の男

午後三時。中堅デベロッパー『大城開発』のオフィス。

営業課長の相馬篤史は、デスクで山積みの契約書をチェックしていた。部下からの人望も厚く、充実した忙しさの中にいた。


「相馬課長、東洋新聞社の神田様がお見えです。三時のアポイントの、新規タイアップ企画の件ですが」

「ああ、例の新聞広告の件ね。通して」


相馬はネクタイをきゅっと締め直し、笑顔を作って応接室へと向かった。

ドアを開けると、そこには仕立ての古いトレンチコートを椅子の背にかけ、几帳面な姿勢で座っている男がいた。何日も徹夜を重ねたかのように眼窩は落ち窪んでいるが、その奥にある瞳だけが、異常なほど鋭く光っている。


「初めまして。東洋新聞社、社会部の神田です」

「大城開発の相馬です。わざわざお越しいただきありがとうございます」


二人はビジネスマナー通りに名刺を交換し、ソファーに向かい合って座った。

相馬は差し出された名刺に目を落としながら、相手の放つ空気を慎重に推し量っていた。何日も徹夜を重ねたかのように眼窩は落ち窪んでいるが、その奥にある瞳だけが、冷徹な計算機のように静かに光っている。


「社会部、ですか? 今回のタイアップは広告局の方からのお話だと聞いていましたが……」


「ええ、名目はそうです。そうでもしなければ、営業課長であるあなたに、こうして一対一で会う時間は作っていただけないと思いましたので」


神田の声は、恐ろしいほど冷静で、そして低かった。相馬はわずかに眉をひそめたが、感情的に遮ることはせず、相手の言葉を待った。誠実に仕事に向き合ってきたからこそ、神田の異常な眼光の中に『狂気ではなく、本物の悲痛』を感じ取ってしまった。


「相馬さん、今から信じてもらえないと思いますが、私の話を最後まで聞いていただきたい。」

神田は、机の上に薄い資料の束を静かに置いた。

「突飛な結論から申し上げます。――この世界は、約20年前に、何者かの手によって過去が改変されています」


相馬は思わず、フッと小さく鼻で笑ってしまった。

「……神田さん。東洋新聞の社会部ともあろう方が、オカルトの取材ですか? 冗談なら、そろそろ業務に戻らせていただきたいのですが」


「冗談ではないんです...冗談ならどれほど救われたか」

神田は表情一つ変えない。そのあまりの真剣さに、相馬の笑いが喉の奥で止まる。


「当然、あなたを納得させるだけの根拠を、論理的かつ客観的な事実として揃えてきました。順を追って説明させてください」


神田は資料の1ページ目をめくった。そこには、ある新聞のデジタルアーカイブの印刷画面があった。


日付は2006年7月18日。地方紙の社会面の片隅に追いやられた、小さな、しかし一人の人間の命が消えたことを示す冷酷な記録。


「相馬さん。これからあなたに、二つの『事実』をお話しします」


神田は机の上に両手を組み、静かに身を乗り出した。

応接室の空気の温度が、一気に数度下がったかのような錯覚を相馬は覚えた。


「一つは、この世界が正しく刻んできた客観的な事実。そしてもう一つは、世界に拒絶されながらも、私の脳裏に狂気のようにこびりついている、消去されたはずの記憶の事実です」


神田の落ち窪んだ眼窩の奥で、鋭い光が相馬を真っ直ぐに射抜いた。

二人の男の、決して交わるはずのなかった運命が、静かに噛み合い始めようとしていた。


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