食事1
「どういうことなの?
侍女を侯爵家に送り返すなんて…それに、突然この邸宅の家政を別の縁戚に任せる理由を聞かせて頂戴」
毎月決まった日以外には来ないブラッディ侯爵夫人とアリッサが急遽来訪するとのことで、至急用意された夕食は、流石レオンが手配しただけあって一流のものばかりだった。
エミリアも同席していることに侯爵夫人は戸惑いの色を一瞬浮かべたが、それよりも重大な要件を抱えていたので、そのまま追求されることなく食事がはじまっていた。
「ーーその件は、食事の後、別室でと考えていたのですが」
「楽しく食事どころでないのは、わかるでしょう?
何の説明も無く勝手なことをした説明を、速やかにして欲しいのです。
でなければ、貴方を残して亡くなった貴方の母に申し訳ないわ」
その言葉にぴくりと反応したカイルは、ナイフとフォークをそっとおいて、執事に目配せをした。
口元を拭いてから、使用人に食事を下げるよう伝える。
そして、含みを持った視線を侯爵夫人に向けた。
「…勝手に、ですか?
この邸宅は伯爵家所有の物であり、侯爵家の物とは違いますが」
「それは勿論わかっているけれど、この邸宅には家政を担える女主人も、使用人もいないし、貴方は後継者教育で忙しいからと、私が家政の管理をしてくれと伯爵様に頼まれているのですよ」
「それについては、父から了承を得ました。後日これまでのお礼と共に正式な書類が届くと思われます」
「伯爵様が、了承!?それが本当であれば、きちんとした理由があるのでしょうね?」
カイルはちらりと執事を一瞥すると、執事はお辞儀をして視線に答えた。食事が下げられたあと、速やかに机が磨かれた机の上に資料が並べられる。
「…これは?」
「エミリアの住んでいた離れの帳簿と、日頃の行動報告書です。
実態とのあまりに乖離が激しく、離れに住む使用人を総入れ替えいたしました。
残るは侍女長を任せられているマーサですが、多額の横領。並びに我が婚約者の殺人未遂が発覚したので地下牢に収容いたしました。
マーサは侯爵夫人の乳母をされていた方ということで、どの様な処分にするのか、話し合おうと思っておりました」
羅列された言葉に絶句して、口を開け閉めしている侯爵夫人は、心底驚きの表情を浮かべている。
「…さ、殺人未遂?横領?一体何のことですか…」
「オーガス」
執事の名を呼ぶと、書類を片隅にまとめられた後、再度食事が目の前に置かれる。
「…こ、これは?」
「どうぞ、食べてみてください」
侯爵夫人はカイルを訝しげに見つめ、促されるままに口を付けると、ゲホッゴホッとえずいた。
「カイル!なぜこの様な物を私に!?気でも触れたのですか?」
「それはこちらの台詞です。
それは、エミリアが、母亡き後に与えられ続けていた食材と同じ状態のもので作った料理です。食材で渡していたようですが、侯爵夫人の目にはあまると配慮してこの様に提供しました。
これを食し続ければ死に至るとわかりませんでしたか?」
「な、そ、マーサがこんなものを提供しているとは知らなかったわ!
私は、今は物資不足だから、本邸で余った食材を離れにと伝えていただけですわ。腐った物を出せなど、一言も言ったことありません!」
「ーーマーサは、傷んでいても構わないと指示されたと申していますが?」
「〝多少〟傷んでいても構わないと言ったのです!それをこんな…マーサには失望致しました」
近くに控えていた侍女に皿を下げるよう伝え、口直しの赤ワインを口に含んだ侯爵夫人は、大きくため息をつく。
「ーーそもそも。
どうして、俺の婚約者に与える食材が本邸の余り物なのですか?
その指示では、本邸に住む使用人以下の食生活をさせる様なものですよね?」
「それは…彼女は、婚約者と言っても、その…」
言い淀む侯爵夫人に、それまで黙って静観していたアリッサが口を挟む。
「お母様がした対応は、妥当な物よ!だって、エミリア様はもう名ばかりの婚約者じゃない。本来なら身一つで伯爵家から出されても仕方がないところを、こちらの親切心で置いてあげているのよ。
そんなの、伯爵家に仕える使用人以下の経費しか割り当てられないのは当然でしょ?」




