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砂糖菓子とラピスラズリ  作者: メモ帳
高等部1年
132/168

124. 9人の侯爵と2人の騎士 前編

 王立学園高等部にあるホワイトパレスの扉は年に一度、卒業式当日にしか開かれない。


 多くの学生がそのように思っているだろうが正確には違う。施設の修繕や清掃などメンテナンスの都合で月に一度は開かれていた。

 ただ生徒たちに向けて開かれるのは年に一度だけである。


 そんな話を知識として知っているテオバルトは、目の前に見えてきた白亜の建物についてそのまま説明した。

 するとロイスは「この国には宮廷がないから、その代理施設なんだね」と笑顔で言う。その言葉にうなずいて返しながらもテオバルトは建物を指差した。

 指し示した先には複数の馬車が停留している。


「ところであなたは、あそこに馬車がある理由を知っているのか?」

「うん、ローラン侯爵が侯爵全員を集めてくれたんだよ。そこらへんは君が昨夜帰ってきてくれていたら、その時に話していたんだけどね」

「本当に申し訳ない」


 昼食前にも指摘されたことを再び持ち出されたテオバルトは眉を寄せて謝罪する。だがその間にもふたりは白亜の建物に近づいていた。

 そうしてテオバルトは、正面に停留する馬車につけられた紋章を目にする。


「俺はこの中に入ることを許されるだろうか」

「当たり前だよ。君は今回の事件の担当騎士なんだから」


 報告書を読んだよと言われながら背中を叩かれたテオバルトは、自然と背筋が伸びる気がした。そんなテオバルトはホワイトパレス前にある5段の階段をあがりながら白い手袋をポケットから取り出して装着する。


 その様子を横目に眺めたロイスは嬉しそうに目を細めた。手袋を装着する彼の仕草は、まさしく彼自身の師である白の騎士そのものだったためだ。




 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇




 ホワイトパレス2階にある小会場にテーブルと椅子が並べば、国際的な場でも使われる会談の場に切り替わる。円卓のように並ぶテーブルの数は11あり、椅子も同じ数だけ置かれていた。

 既に集まっていた侯爵たちは、それぞれ序列の順に窓側から座っていく。

 だがその日はテーブルの数がいつもより2個多い。そして筆頭であるオーブリー侯ロドルフは窓側に座らなかった。

 窓側に並ぶふたつを空けた状態でオーブリー侯とデュフール侯トリスタンが反対側に座る。その上で序列3位のローラン侯シメオンがオーブリー侯爵に話しかけられながらその隣に座ったため、アンベール侯爵はデュフール侯の隣に向かった。


 アンベール侯爵は今回のこの急な会合について何も知らされていなかった。さらにここ数日は多忙を極めていて、侯爵たちの動きを把握していない。

 もちろんアンベール侯爵が多忙を極めた理由はひとつだ。

 知らぬ間に竜王国騎士などになっていた弟がなぜ死んでいないのかを、パレドリア帝国の裏社会を牛耳ると自称する役立たずを呼びつけ調べさせていた。あげく改め消せと命じたのに、無能共はいまだに弟を消せていない。


 だからこそアンベール侯爵は恐ろしかった。

 弟のアルマンは赤子の頃には祖父に似ているという理由で愛され、言葉を話すようになれば聡明さを褒められ認められている。さらに成長すれば物覚えや理解力を持ち上げられて、天才なのではと両親だけでなく祖父母たちをも喜ばせた。

 そんな、16の時に消したはずの弟が生きていたことも。そして大人になった弟がどんな姑息な手段で報復をしてくるのかがわからないことも。


「ローラン侯、マティアス君の容態はどうですか。もし芳しくないならうちの医療施設を使えますが」


 考え事をしていたアンベール侯爵の目の前で、序列8位のトリベール侯レジスが媚びるように声をかける。そんなことをしたところで、己の子にすら無関心なシメオンが喜ぶわけもないというのに。

 現にアンベール侯爵が眺める先で、シメオンは嬉しそうな様子ひとつ見せない。


「問題ない。竜神殿から優秀な治癒師を通わせていると聞いている」

「竜神殿って……あー、娘から器物損壊と拉致の話は聞きました。息子のほうは、その治癒師は拉致してまで頼りたいほど優秀なのかってことを気にしてましたが」


 レジスの問いかけに、シメオンはわずかに考える仕草を見せる。


「君ならシルヴァン・モルレと言えばわかるか」

「竜王陛下の治癒師じゃないですか。それは拉致してでもとなりますね」

「彼は3年前にも陛下の命を受け息子の治癒をしてくれている。ディートハルト君はそれを覚えていて今回の拉致に及んだようだ。その際にはわざと竜神殿を破損させ、竜王国騎士団をも動かしている」

「我が家にも謎の封書が届きましたよ。モーリスと鍛えていたところだったので、何の誘いかと期待しましたが」


 新しいトレーニングの何かかと思ったと笑うレジスは、部屋に噂の主が現れたことで手を振った。

 序列5位のヴァセラン侯爵は竜王国騎士団に所属する竜騎士である。長身で体格に優れた男だが、頭の中まで筋肉でできているのかと言わんばかりの愚直さが目立った。

 むしろそんな頭の悪さだから騎士団長になれないのだろう。そう考えているアンベール侯爵は、シメオンに駆け寄る巨躯を冷めた目で眺める。


「シメオン! あの報告書はどうなっている」

「よく調べられた報告書だったよ」

「いや、そうじゃない。騎士団内で調べたら、報告書にあった事件はどの部署も把握していなかった。だというのにあの報告書は騎士団内で使われる用紙を使い、騎士団の封筒で送られている。こんな不可思議なことがあるか???」

「それは君が愚かで騎士団内を正しく把握できていないだけだよ。まぁ、今回に限ってはそこにわたしも含まれてしまうのだがね」

「シメオン、君はおれが愚かだとわかっているならわかりやすく話してくれ。この事件の被害者側として、君はこの報告書の主を知っているだろう」

「知っているよ。だがそれを君に教えてなんになる?」

「侯爵家を相手に怯むことなくここまで調べあげる人材は貴重だ。蒼の部隊で役に立って欲しい。あるいはおれの下で働いてくれたらと考えている」

「権威主義のはびこる無能共の下で働きたい天才がいるはずないだろう」

「だがおれが正しく評価すれば良いじゃないか」

「もうその時期は終わっている。彼は4年も王都下層の治安改善に尽くし、既にその構造を完成させたからな。今までそれを放置しておきながら、評価もなにもあるものか」

「王都下層は第二の管轄だろう? 平民なのか?」

「彼を見ればわかる」


 シメオンはそう言い放ち部屋の入り口を見た。つられるようにアンベール侯爵が目を向けると黒い騎士団服の男が現れる。

 腕に赤いマントをかけた男は帝国騎士なのだろう。


 だがそれよりも、その後を続くように現れた白金色にこそアンベール侯爵は意識を奪われる。自分が持ち得なかった祖父の色を平然と見せつける憎い弟。報告書を侯爵家にばらまくことで、ヴァセラン侯に認められようとする姑息な輩は当たり前のように窓側の空席に向かう。


「アルマン貴様! おれより上座に行くとはどういうつもりだ!」


 窓側の席の後ろに立った竜王国騎士は窓から入り込む風に白金の髪を揺らす。あげく騎士は、その淡い青色の瞳の温度を極寒まで引き下げたような視線を向けた。だがその問いかけを無視して帝国騎士を椅子に座らせ、本人はその後ろに控える。


「さて、まだ全員集まってないけど始めてしまおうか。マティアス・ローラン殺人未遂事件について」


 上座の椅子に座った帝国騎士は、整った顔に人好きそうな笑顔を見せる。

 そこですかさずアンベール侯爵が反論した。


「その報告書は偽りだ。わたしの息子とルヴランシュの息子が駆けつけた時にはあの惨状だったんだ!マティアス・ローランを傷つけたのは、わたしの息子を殺そうとした人間と同一人物だ!」


 周りから加害者扱いされるオリヴィエ・アンベールだが、実は彼も被害者である。

 アンベール侯爵のその主張にロイスが笑った。


「さすが竜王国の人は面白いことを言うねぇ」


 面白いと笑うそれを嘲笑ととったアンベール侯爵は怒りにギリッと歯を噛み締めた。


「貴様、騎士ごときが侯爵であるわたしを笑ったか? 貴様は知らないだろうが我が国において侯爵家は頂点に等しい存在だぞ」

「わー、そうなんだ。ごめんね。僕、貴族として生まれたことがないからその辺りは知らないんだ。それよりあの報告書の通りなら、うちのディートハルト君が校舎を破壊したのは不可抗力だと思うんだけど竜王国の頂点らしい方々はどう思います?」


 帝国騎士のその言葉をどのように解釈するか。その一点で9つの侯爵は意見が別れただろう。そしてアンベール侯爵は、その1言で帝国騎士を平民と認識した。


「器物損壊なんてどうでも良い。そのディートハルトとやらが、未来の侯爵であるわたしの子を殺しかけたという重大事件のほうが大事だろう」

「飛び込んだ先で殺人未遂事件が発生していたなら、蹴ってでも犯行を止めるのは当然の処置だと思いますよ。むしろディートハルト君は、そうやってマティアス君の命を救ったことになりますよね。報告書によれば」

「そんなもの! どこの誰が書いたともしれない怪文書じゃないか!」


 アンベール侯爵はその報告書を読んでいない。なんなら多忙を極めていたため封筒から開けることすらしていなかった。それでも、他全員が読んでいるらしいそれを否定しなければ息子を被害者にできない。そう考えるまま、アンベール侯爵は立ったまま帝国騎士を見下ろしていた。


 だがそうして侯爵が睨みつけても、あきらかに年下だろう帝国騎士は少しも動じない。


「怪文書と言えば、王立学園内の掲示板に面白い物語が貼られていたんですよ。名前は書かれてなかったですけど、主人公が孤高の天才への初恋をこじらせてその弟を殺そうとしたとかいうものです。あー、違ったかな。殺そうとしたんじゃなく性欲を向けようとしたんだったかな? じゃあアレ、強姦未遂で殺人未遂だったのかなぁ。現場に息子がいたらしいルヴランシュ侯爵はどう思う?」


 この大きな円卓には隠れる場所もない。窓側に座る帝国騎士から真っ直ぐに目を向けられたルヴランシュ侯マクシムは反射的に首を横に振った。


「息子たちがそんな恐ろしいことをするはずがありません。我が子もアンベール侯のオリヴィエ君も普通科に所属する一般的な生徒です。訓練された騎士でもないのにどうして人を暴行などできましょうか」

「なるほど」


 マクシムの反論に帝国騎士はすんなり引き下がったかと思えば楽しげな顔をシメオンに向けた。


「たしかに平和ボケしたこの国で育った無能どもが殺人未遂って難しいかもしれないよね。ねぇ、シメオンはどう思う?」

「人を殺害、あるいは危害を加えることに能力など必要ないでしょう。無能か有能か、ではなく理性の有無です。その点でオリヴィエ・アンベールは幼い頃から己の加虐性を抑え込むこともできない。まあその辺りは、あの親も同列なので致し方ありません。すぐ下の弟を殺し、さらに下の弟は冤罪で追放して、己が息子もまともに育てられぬ。行動力はあれど知能も理性も死んだモノは獣のそれに等しい」

「シメオン!!!! 貴様、序列3位だからと言っていい事と悪いことがあるぞ!!」


 年下の分際でと吠えたアンベール侯爵の視界の中でシメオンが冷めた目で笑う。

 その瞬間、この大きな円卓の距離すら憎らしくなった。シメオンが手の届くところにいたなら殴っていたからだ。


「貴様だって神童と呼ばれた兄を消して侯爵位を手にしたくせに。そもそもわたしは弟を殺してなどいない。アルマンはあそこにいるからな!!」


 憎らしいし殺してやりたい弟を指差してアンベール侯爵は己の無実を主張した。そのため7人の侯爵たちの目が、窓側で控えるように立つ竜王国騎士へ向けられる。

 窓から差し込む陽を背にした白金色の髪を持つ騎士。


「アルマンはこの通り生きている!」

「俺はアルマン・アンベールではないが」


 背筋を伸ばし立つ弟は、しかしアンベール侯爵の主張を否定した。その瞬間にこの場で誰よりもアンベール侯爵自身が驚かされる。


「そんなばかな。嘘をつくな。その見た目で、その能力で、さらにわたしに楯突く様で、何がアルマンではないと言う」

「アルマン・アンベールは俺より髪の色が濃い。瞳の色も蒼褐色だ。さらに言えば剣術は不得意で魔力もさほど多くない。それでも兄を支えられたらと知識を蓄える努力をしていた。そういう人だ」


 外見の類似点を否定されたアンベール侯爵は一瞬息をつまらせた。

それが事実なら、自分が弟を消した理由がなくなる。それになにより、今回の事案でずっと目の前に立ちはだかり続けるこの竜王国騎士の正体がわからなくなる。


「そんなわけがない。そんなわけがないだろう! そもそもそれなら貴様はなんなんだ! アルマンじゃなかったら」

「わー、すごい。彼をアルマン・アンベールだと思い込んであそこまで刺客を送り込んでいたのに、そこが崩れてもヘコまないんだね。さて、オーブリー侯爵、筆頭なのに今まで放置しててごめんね?」


 再び口を開いた帝国騎士は、すぐ隣にいる筆頭侯爵へ馴れ馴れしく話しかけた。


「君含め他の侯爵たちは、報告書にあることしか知らないよね。ああ! ごめんね! ヴァセラン侯爵! 君が騎士団幹部なのに何も知らない無能だなんて言ってないよ! でも君の居場所が竜王国騎士団で良かったよね。君のような脳筋はたとえ侯爵でも、帝国騎士団では出世できないからね。まぁそんなことより報告書だよ。君たちは読んだと思うけど、よく書けているよね。でもマティアス・ローラン殺人未遂事件ってこの報告書通りなんだよ。まずそこから片付けよう」

「王城にも、報告書と同じ内容の書類が提出されています。しかしそれを証拠とすることはできません。報告書はあくまで報告するための書類です」


 ロイスが話を進めようとしたところ、オーブリー侯爵が言葉を向ける。

 筆頭侯爵であるロドルフ・オーブリーは冷徹な為政者と呼ばれるほど何事にも平等で中立だ。その性格に救われたアンベール侯爵は、窓を背にして立つ騎士をにらみながら着席した。


 そこでシメオンが立ち上がり、窓のカーテンを閉め始める。とたんに竜王国騎士もそれにならうように動いて反対側のカーテンを閉めた。

 その上でシメオンは、帝国騎士が座るその前に紫色の石を置く。


「この魔芒石は、目の前の光景を映像として保存できる代物です。そしてこれを見る前に知っていただきたいのだが、ここにある光景を私は生で見ている」


 シメオンはそう告げると石を突く。とたんに部屋の反対側の白壁に、3人の男子生徒が音や声も含め映し出された。


 そこにあるのは一方的な暴力だった。馬乗りになり殴り続けた後で首を絞めることもそうだが、「男を社会的に殺す」との発言もありえない。

 だがそのありえないことを、己の息子がしたのだと思うとアンベール侯爵の胸が詰まった。息子はそこまで追い込まれていたのだと思えたからだ。

 そしてそれはかつて弟の存在に追い詰められ、焦燥感に支配された己と似ている。


 だがその思考は、唐突に起きた轟音に書き消えた。映像の中で壁を破壊して飛び込んだ黒い甲冑は有無も言わずオリヴィエを蹴り飛ばす。

 あげく大剣を取り出すとオリヴィエに向けて振り下ろした。それは実際には当たっていなくとも殺害しようとしたのに他ならない。

 やがて映像が終わるとアンベール侯爵は義憤に顔をしかめていた。


「やはり息子は殺されかけていたじゃないか!」

「瀕死の重症を負い、8日経った今も会話ができないマティアス・ローランを差し置いてそれが言えるなんてすごい知能だ。まあでも、だいたい報告書の通りだよね。オーブリー侯爵?」


 中傷した帝国騎士は話の矛先をオーブリー侯爵へ向ける。そのためアンベール侯爵は反論できなくなった。


「……そうですな。そしてあの状況では、壁を破壊して飛び込む彼の判断の正当性も認めなければなりません」

「つまり、帝国騎士団側の損害賠償は無くなるね」


 良かったと微笑んだ帝国騎士は、オーブリー侯爵に礼を言う。


「中立な立ち位置での判断ありがとう。じゃあ帝国騎士団への損害賠償は無しという結末を持って次の話に進もう」

「マティアス・ローラン殺人未遂事件に関するオリヴィエ・アンベールの責任の所在ですか」

「そうだよ。あーーーー、でもオーブリー侯爵には本当に申し訳ないんだけど、これは念頭に入れてくれる?」

「何をですか」


 先程からオーブリー侯爵が会話の主導権を握られ続けているのは、帝国騎士の妙に距離の近い態度のせいだろう。相手は竜王国筆頭侯爵だというのに、この帝国騎士は礼儀作法など知らない様子で平然と話しかけている。


「マティアス・ローランはブレストン公爵家のセレンティーヌの大事な子だ。そしてブレストン公爵家は今でもグレイロード王家の嫡流。つまり今回の事件は、グレイロード帝国への宣戦布告なんだよね」

「それはあまりにも、事を大きくさせ過ぎていませんか」


 これは竜王国国内の、なんなら侯爵家同士の話だ。だというのに国際問題にしようとする帝国騎士の愚かさには、さすがのオーブリー侯爵も呆れた顔を見せていた。

 だが帝国騎士はそれすらもわからない様子で笑う。


「だって戦闘実習で十将軍まで出したのに、その仕打ちがこれじゃない? もう宣戦布告でしょ」

「戦闘実習でのことは……」

「そうそう、あれは宰相のピクニックだった。つまりグレイロード帝国騎士団の武力行為じゃない。まあでも宰相はああ言う人だから、10年前も今回もピクニックって言って人助けするんだよ。でも宰相はグレイロード帝国の王じゃないからね」


 宰相がどのように決めようと、それは王の意見ではない。その正論はオーブリー侯爵を黙らせた。

 だがアンベール侯爵にはわからない。竜王国における「王」は存在するだけの飾りでしかないから。

 そこで不意に、それまで沈黙していたデュフール侯爵が口を開いた。


「……竜王国における王が象徴であるように、グレイロード帝国だけでなくこの国でも広まる物語の主人公として語られたカイン様もまた象徴」


 心を読んだかのようなその言葉に、目を見開く。そんなアンベール侯爵の隣でトリスタン・デュフールはなぜか竜王国騎士を見やった。


「件の報告書を書いた君はどのように考える?」

「彼女の本質は青い鱗の竜。彼女が竜王国貴族を否定すればすべてが終わる。これは最初から選択肢のない話です」

「確かに。竜と人でどちらかという話はないな。では彼が出してくれた宣戦布告に乗るべきか。だが乗ったところで勝ち目はない。どうしたら良い」

「彼らが求めているのは『根まで枯らす』ことです。その加虐性を理性で抑え込めない者を法の下で親子共々罰する」

「ふざけるな!」


 竜王国騎士のその言葉にアンベール侯爵がテーブルを殴りつけた。


「侯爵家は竜王国貴族の頂点だぞ! 我々侯爵家は法の上にあるんだ」

「法律って、何のためにあるか知ってる?」


 アンベール侯爵は竜王国騎士に言っているのに、またしてもそれを帝国騎士が拾い上げる。それを苦々しく思うアンベール侯爵の目の前で、帝国騎士が笑った。


「法は民を守るためにある。治安も租税も何もかも法の下に行われている。貴族階級として権利を振りかざせるのも、贅を尽くせるのも法があるからだ。だがおまえはその外にいるという」


 堅苦しいことを笑顔で言い放った帝国騎士は、ポケットから腕輪のような物を取り出す。


「そういう輩を無法者って言うんだよね」


 部外者なら可愛いと評するだろう笑顔で告げた帝国騎士は、腕輪に指を滑らせた。





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